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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
108/214

キャロルさんは親指を立てた。

下着姿の男は、体も声も震わせながら

「な、なんだよ。お前は…」


「ルシアン王子のオ・ン・ナ。」


そう言ってにっこりと笑いながら、私は男の手を縛り上げていたピンクのリボンに、渾身の力を込めた。



小さく悲鳴を上げ男は

「なんで貴族のお嬢さんが、こんなに強ぇんだよ~。」


「あんたが弱すぎなの。だいたいこの腕の細さ…剣士の腕じゃないわよ。もっと鍛錬しなさい!」


私の怒鳴り声に被るように、キャロルさんの笑い声が聞こえてきた。

「キャロルさん?」


「もう、すっかり吹っ切れたようですね。」


「…すっかり…ってほどじゃないですが。」


「いいんじゃないんですか?結婚ってそんなものだと思います。不安と幸せが入り乱れるのは…。ロザリー様は、きっとよく言うマリッジブルーですよ。」


私は微笑むと、キャロルさんもにっこりと笑った。





『ルシアン殿下もローラン国の女性と結婚して、その女性の家の力を利用したほうが、国をまとめるのには一番だとわかっていらっしゃるはずです、それでもロザリー様を妻にと望まれるのなら、いいんじゃないんですか?』



『だって、ルシアン殿下はそんなことをしなくても、ローラン国を掌握できると思っていらっしゃるんですもの。』



『ウィンスレット侯爵家は、侯爵様はもちろん、シリル様、そしてロザリー様は剣の使い手。寧ろ政情不安定なローラン国に於いて、ルシアン殿下をお助けできると思うのですが。』





キャロルさんが言った言葉が浮かんだ。



ルシアン王子を諦めきれないのなら…

この恋が忘れられないのなら…


あの方について行きたい。


なにより…ダンスや歌に造形が深い女性より、共に剣を握り困難な道を、一緒に切り開く事ができる私を…求めてくださっている。



にっこり笑いながら、私を見ていたキャロルさんだったが、突然抱えていたバックの中身を下に出すと、空っぽになったバックを縛っている男の頭に被せ


「ロザリー様。準備は整いました。着替えのお手伝いを致します。」と親指を立てた。






ミランダ姫。

姫が信じていらっしゃる侍女のキャロルさんは、素敵な方ですね。

だから…許してくださいますよね。私が…ロザリーとシリルが同一人物だと話す事を…。




私は栗色の鬘を留めていたピンへと手をやった。

目の前でキョトンとするキャロルさんの顔を見ながら、ゆっくりとピンを取り、鬘を取ると、キャロルさんが小さく「えっ?」と言う声が聞こえた。


鬘を外したことで、金色の髪が顔に掛かり、キャロルさんの表情は見えない。

ふぅ~と息を吐き


「…キャロルさん…私は…」


沈黙が怖かった。


「ご…ごめ「まぁ~!!!!」」


私の(ごめんなさい)という言葉は…キャロルさんの声に掻き消され、呆然とする私に


「ロザリー様は、シリル様と同じ金色の髪でいらしたんですね。栗色の髪もとてもお似合いでしたが、個人的にはやはり綺麗な青い瞳には、金色の髪のほうが良いのになぁと思っていたんです。」


「あ、あ、あの…」


覚悟が…

ドキドキした胸が…萎んでゆく。


私が言葉を発する事もできないくらい、喋り出したキャロルさんだったが、なぜだか視線だけは、頭にバックを被せ、縛り上げている男にあった。


「シリル様と間違えないようにですか?栗色の鬘をつけていらしたのは?なるほど!」


そう一気に言って、にっこり笑って


「取り合えず、着替えましょう。時間がありませんわ。」




ミランダ姫。

キャロルさんは…有能な侍女ですね。


わかられたはずだ。ロザリーとシリルは同一人物だと、だが、ローラン国の者がいるので、それ以上は…言ってはいけないと瞬時に判断されて、私の言葉を遮られた。



私はまだまだだ。感情に左右されて、周りを見ていない。

でも、このまま、何も無かったようにはしたくない。


口にできないのなら…頭を下げた。


「ロザリー様?!」


「……ありがとうございます。」


キャロルさんは困ったように俯き、しばらく黙っていたが、頭を上げるとにっこり笑いながら、また親指を立てられた。






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