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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
107/214

にっこり笑ったつもりなんだけど…。

「キャロルさん!」


「だ、大丈夫です。」


「…よかった…。」


馬車は横倒しになり、散乱した荷物の中に埋もれるように私とキャロルさんはいた、だが荷物と言ってもクッションなどの、柔らかいものばかりだったので、突然投げ出された体には、かえって散乱した荷物の状況は良かったようだ。


そして何より、立ち上がれるほどの高さと、この広さだ。確かに横倒しになった馬車の足元は不安定だが…この広い空間は有難い。


さすが…ステージコーチと呼ばれる、大型の馬車。


キャロルさんと私だけしか乗らないのに、このステージコーチに乗るように言われたときには、唖然としてしまったが、この馬車のおかげで助かったようなものだ。


だが…馬車が横倒しになれば、必然と出入り口は…上になる。

それが、L-540 x W-200 x H-340(cm)の10人乗りの馬車だ。

この馬車の横幅を考えると、出入口は今や、200cmの高さの天井となっている。


唯一、そこが問題だけど…そんなことを思いつつ、天井を見上げる私の耳に


「…どうなってしまうの?」

と、不安そうなキャロルさんの声が聞こえた。



いつもの格好なら、この位の高さぐらいなんてことはないのだけれど…


溜め息をつきつつ、ドレスを軽く持ち上げ

「重いんだよね。ドレスって…でもさすがに下着姿で外に出る勇気は…う~ん、でもそんな事言ってられないか。」


呟くように言ったつもりだったが、キャロルさんにはしっかり聞こえたのだろう。


「ぁ、上がれるんですか?この高さを?」


あぁ…ドキドキする。

なんて言ったらいいんだろう。

(いや、騎士なんで、これぐらい朝飯前ですよ!あははは。)


…なんて言えないし…。


「えっ…と、はい。でもドレスなので厳しいですが。」


私の返答に、キャロルさんは驚いたように私を見た。


は、外した!

取り合えず笑って見せながら、


「ち、ち、父が体育会系ですから、おまけに体が弱いから、鍛えるつもりだったのかなぁ?」


はぁ…療養するような娘がいくら体育会系の父親でも…こんなことやらせないよね。




ガタ…



思っていたより、早いお着き?

キャロルさん、ごめんなさい!


先に言っておきます。

このドタバタで忘れください!



私はそっと、キャロルさんを自分の後ろに隠したと同時に



ガタガタ…ガタン!



大きな音と共に、天井となった扉から、薄笑いを浮かべた男が覗きこんできた。

背中でキャロルさんの小さな悲鳴が聞こえ、その声が男にも聞こえたのだろう。


大きな声で笑い出すと


「…どっちだ?どっちがルシアン王子の女だ?」と嘲る様に言った。


いいタイミングで現れた敵に、ほんの少し、ほんとに、ほんの少し…感謝をしたいなぁなんて思ったけれど、今ので、ムカッとした。


ルシアン王子のオンナ…言い方を考えてよ。

なんか気分が悪い…ムカムカ!


どうせ女を盾にして、ルシアン殿下に手出しできないようにするつもりなんだ…ムカムカムカッ!



俺、悪役ですって顔で、そのセリフは似合っているけど…残念!

短剣を振り回す、その手の小ささが…。

覗き込むその顔の小ささが…。


体の大きさを想像させる。


惜しい、実に惜しい。声と顔の作りだけなら、一丁前の悪役なんだけどね。


小さいというのは、今ひとつ迫力にかけるのよね。

大柄の方が如何にもって感じなんだけどなぁ。

.

.


小さい…か、小さい…。

.

.

あっ!あぁっ!使えるかも!



私の顔に笑みが浮かんだ。

だが、どうやらその兵士には…。


「なんだ!そのバカにした笑いは!」


「…飛んで火にいる夏の虫。」


「はぁ?なんだよ!」


男の切れた声に、私はにっこり笑うと、飛び上がりその男の首にしがみつき

「その服!貰い受ける!」


そう叫び、中へと引きずり込み、頭から落ちてきた男の手をヒールの踵で踏みつけ、短剣を取り、驚いたように私を見上げた兵士の喉元に足を置き

「さぁ!そのズボン脱いでもらいましょうか?」


「…えっ?」


喉元に置いた足に少し力を入れ


「脱げ…って言ってるの!」


寝転んだ姿で、慌てて脱ぎ出した兵士に

「うんうん、ズボンの大きさはこれくらいなら…じゃぁ、上もいこうか!さぁ、さっさと脱ぐ!」


にっこり笑ったつもりだったけど、その男にも…そしてキャロルさんにも…ニヤリと見えたらしい。

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