侯爵はノリノリ?!
「侯爵、本当にやるんですか?」
ひとりの若い騎士の問いかけに、ウィンスレット侯爵は黙って頷き、盛大に溜め息をついた。
そんな侯爵に、また若い騎士は自分の服装に眼をやると情けなさそうに
「この服って…山賊ですかね。」
だがその問いに答えたのは、ルシアンを守る騎士のひとり、バートだった。
本来なら、ルシアンと共にローラン国に行く予定だったが、この奇策を遂行するメンバーとなったために、あとからルシアン一行に合流する予定になっていた。
「そうだ。山賊となってルシアン殿下を襲う芝居をするんだ。いいか、お前ら…ルシアン殿下をカッコ良く見せるために山賊になりきれ!ロザリー様との恋がうまく行くように…いいな!!」
熱い、いや熱苦しいバートの声に、水を差すように若い騎士は
「だいたい、剣を抜いた途端に、ルシアン殿下なら本物ではないと気づかれるのに…。まぁそれはいいんです、寧ろ気づいてもらったほうが、怪我をしなくていいから…。でもこの格好は…ちょっと…、取り合えず怪しげな服装をそろえたのでしょうが…俺なんか山賊と言うより、浮浪者って感じだし…こんな姿を恋人に見られたら、恥ずかしくて死にそうですよ。だって俺たちは一応…国ではエリートなんですよ。町の子供らも憧れる騎士なんですよ。」
さすがのバートも鼻を啜り、他の三人も気まずそうにヘラリと笑った。
シーンとした中、小さな声が
「…すまぬ。」
小さな声で謝罪したのは、片目を眼帯で覆った侯爵だった。
「わが娘を恐れ多くもルシアン殿下の后とするための奇策に、お前達を引き込んだことを後悔しておる。できるならこのようなことをしたくはなかった。誇り高き騎士であるお前たちのプライドを傷つけるような…このような事…腹が立つのは当然だ。だが私の娘の為に、その奇策を練られたのはミランダ姫なのだ…どうにも私にはお断りする事が出来ず…申し訳ない。」
神妙な顔の侯爵は…
ジュストコール(上着)、ジレ(ベスト)、白いシャツを着て、ボンタン(ブカッとしたズボン)、ブーツを履き、左手に黒の指無しグローブ、腰に橙色のサッシュベルト(飾り帯)を巻き、その上から黒皮のベルト。
剣は、上着の上から焦茶色の皮の剣帯で吊り上げ、頭には緑のバンダナを巻き、その上にツバ広の羽根付き帽子。
おまけに蛇の形のネックレス、右手に獅子の頭の紋様の指輪というアクセサリーまで身に着け……凝っていた。
寧ろノリノリ。
だが侯爵の口から出てくる言葉は、力がなく大きな体を小さくし、か細い声で
「本当に申し訳ない。」と言う姿には、凝った衣装とは対照的で…その姿にまずは若い騎士が笑った。
そしてバートが続いて笑い出すと…その場は5人の男達の笑い声に包まれ、侯爵だけが、ひとり唖然とした顔でいた。
若い騎士は慌てて
「す、すみません!その姿で謝られると…可笑しくなってしまい…」
そこまで言って、また笑い出した。
「この姿…私もそう思っていたのだが…わざわざミランダ姫が用意してくださったので、似合わないと思いつつ、着てみたのだが…やはり可笑しいか…。」
「いや、違います!」
腹を抱えて笑っていたバートだったが、そうはっきり言うと、一呼吸おいて
「あまりにもお似合いで…。」
「はぁ?」
「…えっとコスプレって言うのですか?もうノリノリ、コスプレ大好きと言う凝った姿なのに、仰っていることと、その姿が裏腹で…プッ…」
そう言って、口を押さえてまた笑い出した。
バートの言葉をキョトンとした顔で聞いていた侯爵だったが、その顔は徐々に赤くなり…
「…」
なにか呟くと、うな垂れてしまった…。
大きな笑いがまたその場に生まれ、和やかな風が吹いたが…その風に混じった音に、うな垂れていた侯爵がハッとして顔を上げた。
「…聞こえるか?」
5人の騎士達は誰もが頷いた。
「60ぐらいでしょうか?」
「おそらく、それぐらいだな。誰か!双眼鏡を!」
双眼鏡を覗いた侯爵の顔は青褪め…
「今からブラチフォード国に戻り、応援を頼む時間はないな。だが…我らには剣の一本もない。」
「なにを仰っておいでですか。相手から剣を奪えば良いこと。」
「バート!だが…」
「騎士ならば…相手を敬う気持ちを忘れてはならない。だから命と同様に大事な剣を奪うなど…邪道だと仰りたいお気持ちはわかります。だが…今の我らは…山賊。」
「山賊……。」
そう口にして、侯爵は笑うと
「そうだったな。我らは山賊。ならば…やるか!」
「「オオッ!!」」
みんなが雄たけびを上げ、その姿に侯爵は笑いながら、馬のたずなを引くと
「では皆の者…いや…野郎共!ひと暴れするぞ!!」そう言って、馬に鞭を入れた。
「やっぱり、ノリノリじゃないですか!!侯爵!」
そんな声を背中で聞いた侯爵は少し口元を緩めたが、視線の先に砂煙を上げ、ルシアン達に近づく集団に眼をやり
「ローラン国の中にはまだまだ愚かな者がいたわけか…ルシアン殿下おひとりでも、相手になるまいに…ましてや私の娘がいるのだ。」
そう言って、ニヤリと笑った。




