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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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王子様の心とロザリーの心。

何度も侯爵家を訪ねたが、黙って平伏すロザリーに、俺はかける言葉は見つからず、ロザリーとは…あれから進展がないまま、今日を迎えてしまった。




そっと後ろを見ると、淡いピンクのドレスを着たロザリーに、こんなときなのに…胸が大きな音をたてる。


ロザリー…

お前はどうして…そう頑ななんだ。



だが…必ず、あの閉ざした心を開かせる。

ローラン国へ行こうと思ったのは、お前がいるからなんだ。お前となら一緒に、戦えると思ったからなんだ。


お前を手放すつもりはない。


俺はお前と一緒に生きて行きたいんだ。






「叔父様?!」


ミランダの笑いを含んだ声に、俺は無理に笑顔を作って振り返った。


「見てた?」


「なにをだ?」


「えへへ…いいの、いいの。」


からかうようなミランダの視線に目を逸らすと、今度はこの国の重要人物が並んでいるのが目に入り、俺は溜め息をついた。


どうして、こんなに大げさなんだ。

ローラン国へ出立の日…と言っても、半月程でまた戻ってくるのに、俺やロザリー他、20名足らずの前に、この国の重要人物の父上、兄上夫婦、そして…ウィンスレット侯爵夫妻他、やはり20名ほどが見送りに来てくれている。



はぁ~これじゃぁ、どちらがローラン国に行くのかわからないな。





「幸運を祈っている。」


そう言って、父上はクスクスと笑われた。


「…父上?」




「まぁ…あせらずに頑張ってこい。」


そう言って、兄上はニヤリと笑われ、俺の肩を叩かれた。




「叔父様!えっと、あのね。絶対うまく行くから!」


そう言って、ミランダは興奮気味に叫んだ。




そして…感激屋の侯爵はなぜだが俯き、できれば話しかけないでくださいと、体全体で言っている。



はぁ~これでは、なにか企んでいます。と言っているようなものだ。

おそらく俺とロザリーの事だろうな。ミランダが自分に仕える侍女のキャロルも、連れて行けと言って来た時から、何やら不穏な動きを感じていたが…。


おそらく、俺とロザリーの縺れた糸を解こうとしてくれているのだろう。


縺れた糸か…縺れたのなら解く事も可能なはず、だが時間に限りがあるから、それまでに俺とロザリーの縺れた糸は…本当に解けるのだろうかと、不安に駆られるときがある。



しっかりしろ!


一度は、ロザリーと俺の心の糸は繋がったんだ、間違いなく繋がったんだ。だから…



だから…焦るな。




俺は見送る人達へと笑顔を向けた。


焦るな!と心に言い聞かせ、また笑顔を作った。


「では、ローラン国に行ってまいります。」


明るく言ったつもりだった。だが…俺の声は…少し震えていた。









あぁ…馬だったら風を感じ、自然の醍醐味を肌で感じられるのになぁ…。


あぁ…馬車はつまらない。



流れてゆく美しい景色を目に映しながら、そんなことを考えていると、キャロルさんの溜め息交じりの声が、聞こえてきた。


「結婚って、家と家の繋がりも重要だと、わかってはいるんですが。ひとり片付いたら、次の娘に縁談を持ってくるのは…参ります。親って勝手ですよね。」


と言って、慌てて口を両手で押さえ


「も、申し訳ありません。ロザリー様はもうミランダ様の侍女ではなくて…あ、ああの…ルシアン様のご婚約者なのに…気安く…ミランダ様からお聞きしていたのに私ったら…」



顔がひきつりそうだった。


ミランダ姫から、キャロルさんは言われたそうだ。

『ロザリーは叔父様と結婚するの。でもね、まだ秘密なの。だから、ロザリーの身の回りの世話をする侍女を選べなくて、困っているのよ。キャロル、お願いできないかしら。』




なぜ?キャロルさんが一緒?と思っていたが…やっぱり、そういうことか…見張りだ。

キャロルさんには自覚はないだろうが、私が逃げ出さないように、ミランダ姫に派遣されたんだ。


ミランダ姫~~。


とにかくなにか言わなくては…

「ぁ、ぁ、まだ、婚約ってわけではないんです。あはは…」


慌てて言った言葉は、中途半端ないい訳。


そう思ったら、笑ったはずの顔が歪んだ。

わかっている……それだけじゃない。私の行動も中途半端だ。


ローラン王になられるのなら、私は寧ろ邪魔。でも政情不安定なローラン国に、危険が待ち受けているであろうローラン国に、おひとりで行かせたくなかった。婚約者と紹介されることは予想できていたけれど…もしルシアン王子に、なにかあったらと思うと…ついて行きたかった。


だけど、その先はどうしたらいいのか、まだわからない。


だからルシアン王子が私を婚約者だと、ローラン国の貴族達に紹介されたら……否定はできない。

否定をすれば…ルシアン王子は笑いものだ。

女に振り回される王に、国をまとめられるのか…と、声高に叫ぶ輩が出てくるはず。


あいまいな私の行動は、ルシアン王子を惑わせている。わかっている、わかっているんだけど…


俯く私の心の内を知らず、キャロルさんは


「実は、私のすぐ上の姉が結婚したんです。」


「えっ?」


「それで、次はお前の番だと言われて、少しナーバスになっているんでしょうね。」


そう言って、頬を膨らませたキャロルさんだったけれど、その顔が苦笑に変わり

「伯爵家の娘ですから、家のために婚姻をすることもしょうがないとは思っているんです、でも一度でいいから…恋をしたい。誰かに求められ、そして私もその人を求めるような恋をしてみたい…なんて思っているからでしょうか、なかなか親が勧める結婚に頷けなくて…でもいつかはどこかに嫁ぐんでしょうね。」


キャロルさんはそう言って、薄く笑っていた。


恋をしたら…一度でいいから恋をしたら…その人を忘れて誰かに…嫁ぐ。



そんなに簡単に忘れられる?

そんなに簡単に他の人に、心やこの体を委ねことができるの?


そんなに簡単に…簡単に…できる?


で…できない。私は…できない、できそうもない。


でも、だからと言って、私のせいで好きな人が苦労することがわかっていて…側にいることは…


「…キャロルさん、私は…」


私の震える声に、キャロルさんは

「ロザリー様はすごく…ルシアン殿下がお好きなんですね。」


「キャ、キャ、キャロルさん!!!」


「もう、真っ赤になっちゃって~」


「わ、私は!」


「好きだからルシアン殿下の重荷になりたくない。そう思っていらっしゃるから、どうしたらいいのかわからない。だから、悩む…って感じですか?!」


「…ぁ…あ…えっ?わ…わかるの?」


「わかりますよ、それぐらい。だって私も年頃の女ですから」


「どうしたら!どうしたらいいんでしょうか?!ルシアン殿下がローラン国の王になるのなら、この国の女性と結婚するほうが良いに決まっている…それはわかっているのに…」


誰にも言えずにいた不安が爆発したように、言葉が溢れていった。そんな私をキャロルさんは微笑むと


「ルシアン殿下もローラン国の女性と結婚して、その女性の家の力を利用したほうが、国をまとめるのには一番だとわかっていらっしゃるはずです、それでもロザリー様を妻にと望まれるのなら、いいんじゃないんですか?」


「えっ?」


「だって、ルシアン殿下はそんなことをしなくても、ローラン国を掌握できると思っていらっしゃるんですもの。」


「で、でも…」


「ウィンスレット侯爵家は、侯爵様はもちろん、シリル様、そしてロザリー様は剣の使い手。寧ろ政情不安定なローラン国に於いて、ルシアン殿下をお助けできると思うのですが。」



ぁ…そういう考えもあるんだ。



「今の世は、女も強くなくては…結婚がすべてではないわ!!あぁ、私も剣術を習いたかったな。ストレスも発散できたかも…」


ブツブツ言い出したキャロルさんに、私の心の中で出来ていた、まるで底なし沼のような思いが、だんだんと透き通って底が見えてきたように感じた。


まだ深いけど、底があることがわかるだけ…いいかな。

もしかして、ミランダ姫がキャロルさんを私につけてくださったのは…こうなることを考えていらしたのだろうか?


頭の中で、ミランダ姫のしてやったり顔が浮かび…思わず


クスッ


私の口元が緩んだ。



「ああ~!!!」


「な、な、なんですか?!!」


突然叫んだキャロルさんに、びっくりして釣られて叫んだ私は、キャロルさんの顔がジワジワと赤くなってゆくのに、唖然としてしまった。


「…髪の色は違っても、あのクスリと口元を緩ませる、あの抑えたような微笑は…ロザリー様と…ぁ…ぁ…シリル様は似ていらっしゃって…ぁ…ドキドキしてしまいました。」


ぁ…そうか、キャロルさんはそこまではしらないんだ。


「え~っと、あのですね。」

と、口を開いたキャロルさんだったが…なぜだか、より顔を赤くし俯かれてしまった。


え~っと、まさかと思いますが、キャロルさんは…あの…シリルがお好き…なのかなぁ?

ゴクンと息を呑み、どうしていいものかと、私も俯いたときだ。



聞こえる。


50、いや60だ。


マズイ…来る。



キャロルさんの腕を引っ張り、腕の中に囲った瞬間、馬車が横転した。


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