ミランダと侯爵とそして…
「ふっふふ…」
不気味とも言える笑い声は…ミランダ。
「あ…ぁ…あ・は・は」
笑いを無理強いをされた事が一目瞭然なのは…ウィンスレット侯爵。
「ねぇ、侯爵。もう少し自然にできないの?」
「…笑いたい気分ではないので…無理です。」
「えっ?!!どうして!計画は順調なのに…」
ムスッとしたミランダに、侯爵は苦笑しながら
「確かに、殿下一行を襲う曲者は揃いましたが…。」と言って、溜め息を吐くと
「姫が集められた者は…剣を握ったこともない。いや、それどころか…馬にも乗れない。いくらなんでも…これではルシアン殿下の一行にも追いつけません。いったいどうやって集めた者なのですか?」
ミランダは手に大事そうに持っていた物を侯爵に差し出しながら
「だって、表立ってルシアン王子を襲う者を求む。とは言えないじゃない。だから…」
差し出された紙を見て、侯爵はなんとも言えない顔をした。
*****
来たれ!若人達よ!
あの歴戦の勇士ウィンスレット侯爵が教える騎士への道!
模擬戦闘にて、その腕を披露するウィンスレット侯爵と一緒に、剣を握ってみないか!
*****
「…なんですか…これは…」
「宣伝ポスター。」
頭を抱えた侯爵にミランダは…
「やっぱり馬には乗れなくてはダメか…う~ん、こうなったらお爺様に頼むしかないわ。」
「えっ?!へ、陛下に!!」
「だって、それが一番手っ取りばやいもの。」
「し…しかし…」
「大丈夫!だって私より人の心の色が見える方なんだもの。いちいち説明しなくても私や侯爵に二心はないとわかるわ。」
「ですが…私の娘のために…」
「それなら、お爺様にとっては、息子のために一肌脱いでもらうわ。」
頭を抱えるどころか、座り込んだ侯爵の手をひっぱると…ミランダは笑った。
「この私に任せなさい!」
ブラチフォード王にロザリーを息子と偽っていたことを告白し、死を覚悟してブラチフォード王の前に、跪いてからわずか数日だと言うのに、引きずられるように連れてこられたとはいえ、トンでもない計画の一端を担ぐことに、さすがにウィンスレト侯爵の大きな体も、小さく見えるほどうな垂れていた。
もちろん芝居なのだが、ルシアン王子を襲うから、その襲う者達を紹介して欲しいなどど…有り得ない話を願うのだ。侯爵が小さくなるのは当たり前の話。
ミランダはそんな侯爵の手を引っ張り、そしてブラチフォード王にキッパリ言った。
「叔父様を襲いたいの。だからなるべく人相の悪い者を紹介してくださらない。」
「ひ、ひ、姫~!!」
一瞬驚いた顔のブラチフォード王だったが、ゆっくりとその顔に笑みを浮かべ
「ロザリーとルシアンの為か?良かろう。」
ミランダは満面の笑顔で
「お爺様とのお話は早くて助かるわ。」
ブラチフォード王は大きな声で笑うと
「だが、5人だ。」
「えっ?」
「このたびのローラン国訪問は、ルシアンを押すジョーダン伯爵らとの会談ために行くのだ、だから少人数での訪問にしておる、それはあまり大げさにすると、他の貴族らを刺激するからだ。だが、ルシアン以外の王を望むものにとっては、少人数であろうが、なんであろうが、面白くはないだろうな。そうなると…バカなことを考えるものが出てくる。」
そう言って、ブラチフォード王は侯爵を見た。
「もちろん、邪まな心を持つ者を選びはしないが、万が一その者達が裏切ったとしても5人なら、一度に襲ってきても、ルシアンなら大丈夫だと私は思ったのだが、どうだろう…侯爵。」
ウィンスレット侯爵の背筋が伸びた。
…上に立つ方は違う。
ルシアン殿下は大事なお方、ましてや揺れに揺れているローラン国へ、王になるべく乗り込もうとされているのだ、いかなる場合でも、その御身の安全を考えねばならないのに…私としたことが…
「陛下…大事な事に気が付かず、申し訳ありません。」
ブラチフォード王はクスリと笑うと
「侯爵がその曲者の頭になるのだろう?まぁ…それなら安心だがな。」
「陛下…。」
ブラチフォード王の言葉は…侯爵には万が一など有り得ない。信じていると言ったのだ。侯爵の胸が熱く震えた。
「私は…18年の間、ロザリーを男だと偽ってきたのに…私は…」
涙もろい侯爵が鼻を啜りながら、熱く震える胸に手をおき、あらためブラチフォード王に騎士の誓いを口にしようとしたが、ミランダのテンションの高い声に掻き消されてしまった。
「やった~!これで準備は整ったわ。あとは…ドレスよ!ロザリーのドレス!あっ!!お爺様、ありがとう!」
そう叫んで、部屋を飛び出していったミランダに、侯爵は呆然としていたが…ブラチフォード王は大きな声で笑いながら侯爵に
「似ているであろう?」
「はぁ?あの…陛下?」
先程の騎士の誓いを言えず、中途半端な状況に戸惑っている侯爵に、ブラチフォード王は微笑むと、懐かしむようにポツリと
「色が…同じなのだ。」
「えっ?」
侯爵の間の抜けた声に、また大きな声で笑うと
「いや、なんでもない。」
ブラチフォード王は、走って行くミランダの後姿に、優しい笑みを浮かべていた。




