侯爵も動いた。
この部屋だった。
ウィンスレット侯爵は、グルリと部屋を見渡すと口元を緩ませ
「…もう18年になるか…どうしても男の子が欲しくて、酒を止めるからお願いしますと神に祈ったな。」
18年前にこの部屋で、神に祈った事を思い出しクスリと笑うと、侯爵はもう一度見渡し、18年前の情けない自分を思い出しては、ロザリーと同じ青い瞳を細めてまた笑った。
だがその笑みは…いや、幸せそうに細めた青い瞳は、ロザリーが顔を両手で覆いながら、入っていった寝室を見つめると潤んでいった。
「幸せに…してやりたい。」
そう口した侯爵の耳に、先程のミランダの言葉が蘇った。
『叔父様の一行に、私たちが用意した曲者が襲うの。』
『なんと?!そんな…そんなことは出来ません!』
『もう~、だ・か・ら言っているでしょう。私たちが用意した曲者だと、だから剣も偽物。叔父様はその剣を見てすぐにわかるわ…これが本当に曲者じゃないことは…』
『で、ですが…』
『あのね、女性はカッコイイ男性に惹かれるものなの。ましてや、ロザリーはもともと叔父様のあの黒髪に、あの赤い瞳に、そして…あの剣に憧れていたんだもの。この計画でうまく行くわ!』
『でも…』
『はいはい、わかったわ。その曲者の中に、侯爵が入ればいいじゃない。侯爵を見たら、これが私の計画だってわかるから、これでいいでしょう?!叔父様が身を挺して…自分を守る姿に、ロザリーはググッと来るはず!間違いない。そこで叔父様が(ロザリー、お前を愛している。)とひとこと言えばすべてOK!』
確かに、私も…似たような手を使ったしな。
侯爵はそう心の中で呟き、愛する妻のマーガレットとの出会いを思い浮かべニンマリとした。
あの頃の私はマーガレットに夢中で、どうにか自分に興味を持って欲しくていろいろとやったな。
そのひとつがマーガレットが騎士服に憧れていると聞き、それも夏用の白い騎士服だと知って、例え雪が降る冬でも、夏用の騎士服を着ていたなぁ。いやいや…それだけじゃない。マーガレットの屋敷近くで、いつも剣の練習をしたし…それもひとりで…。
ヘラリと笑った侯爵だったが…ふと…思った。だが…ロザリーはどうなのだろうか?…と
う~ん、確かに殿下のあの容姿は、男の私でも惚れ惚れするのだから、ロザリーも惚れ惚れしているはずだ。
これは間違いない。
戦う姿も…確かに…あの剣捌きは美しく見事だ。ロザリーも殿下の剣の腕には、心酔しているはず。
これも間違いない。
そんなカッコイイ男に守れたら、女は心を捕らわれるはずだとミランダ姫は仰っておいでだった、事実私はマーガレットをその手を使って捕まえたのだが…自分を守る男の背中を見て、女はトキメク……ぁ…あ…う~ん?だがなんだか…今回は腑に落ちない。
もし、ロザリーのように剣や、弓が使える女性なら…どうなんだろう。
女だって好きな男を守りたいと思うんじゃないだろうか?
ましてやロザリーは強い。あの剣捌きは、殿下にも引けをとらないと私は思う。
そんな剣の腕を持つロザリーなら守られるより、守りたい。いや、一緒に戦いたいと思うのではないだろうか?
そのほうがトキメクのではないかなぁ…。
ミランダのその言葉に、最初はその通りと納得した侯爵だったが、(準備の為に動くわよ!)と駆け出したミランダの背中を見送りながら、胸の中になにかが引っかかるのを感じ、胸を何度か叩きながら
「なんだか…しっくり来ない。ロザリーはおそらく、自分が殿下の后としてお側にいれば、盾になって殿下を守るどころか、寧ろ火種の元になると思っているのだろう。そんなロザリーが、殿下に守られることで、その頑なな心が開くのだろうか?」
カタカタ・・
窓ガラスを叩く風の音に、現実に引き戻された侯爵は、
「守られることが…本当にロザリーの心が素直になるのだろうか…」
…と、先程から思っていた疑問を口にしたが、ふう~と息を吐くとロザリーの寝室の扉を見て、軽く頭を横に振り
「無骨な私には正直わからん。」
そう言いながら、一歩足を進めると、ロザリーの寝室の扉に手を置き、誓うように…そして願うように言った。
「今はミランダ姫の仰ることを信じてやる。殿下の幸せが…愛娘の幸せとなるのなら迷う事はない。私はやる。」




