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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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プロローグ

【恋には秘密が必要】


などと仰る方がいらっしゃいますが、その秘密に振り回される男女もいるわけで…。ましてや、その秘密を作ったのが本人の意思ではなく、他の人の思惑だったら…。


ほら、ここにも赤い糸を縺れさせようとしている御仁が…。




ウィンスレット侯爵は、隣の部屋を気にしながら、神に祈っていた。

日頃から信心深いのなら、その姿は違和感がないのだが、日曜日のミサも、前日に深酒をしたあくる朝は、なんやらかんやらと理由をつけ、ベットからなかなか抜け出せない御仁が…もうそれは、必死に。


「今度こそ!今度こそ!男でありますように!」


まぁ6人続けて女が生まれ、もう諦めかけて折の懐妊、ましてやこの国ブラチフォードでは、爵位を継げるのは男子のみだったから、このままだと爵位は眼中無人な弟ライアン伯爵の息子へと、侯爵家は継がれることになってしまうからだ。



「お願いします。男子でなければ、あの忌ま忌ましい弟…ライアンの息子エイブが次のウィンスレット侯爵になってしまいます。どうか、どうか…もう、酒など飲みません。」


でもお酒ぐらいで、神様はどう思われたのか。


オギャ、オギャァ~


「マーガレット!!!」

と妻の名前を叫びながら叩いた扉の向こうから聞こえたのは


「……お嬢様でございます。」と、か細い侍女の声


やはり、神様はお酒ぐらいでは、その願いを叶えてはくれないようで、恨めしげに天上を見上げた、ウィンスレット侯爵だったが、頭を横に振りながら小さな声で


「いかん!いかん!子供は宝だ。」


両頬をパンパンと叩くと、産室の扉に手をかけようとした途端、侍女が笑みを浮かべて飛び出して来た。


侍女はキッと睨らんできたが、ぶつかりそうになった相手がウィンスレット侯爵だと、気が付くと慌てて頭を下げて、引きつった声で、「お、おめでとうございます。」と言って逃げるように走り去っていった。


その後姿に、ウィンスレット侯爵はまた頭を横に振ると

「あの者、笑みを浮かべておったな。ライアンの手の者か…。」


大きな溜め息をつき弱々しい笑みを浮かべ、ベットに横たわり、生まれたばかりの我が子を抱く妻に近づきながら、ぼそぼそと独り言のように

「…男子が生まれたということにして…取り合えず、この場を凌ぐというのは…どうだろうか?」


”子供は宝”と気持ちを切り替えたはずのウィンスレット侯爵だったが、先程の侍女のことがあったせいで、思わず浮かんだアイディアを口にしたが…軽く頭を振り

「だめだよなぁ。今、ライアンの手の者が飛び出して行ったしなぁ…。」


「だ、旦那様…?!」


夫の脈略のない言葉に妻は眉を顰め、もう一度

「旦那様。」


ウィンスレット侯爵は、自分が妻と生まれたばかりの娘の前に立っている事にようやく気が付き、ヘラリと笑みを浮かべたが、だがやはり男の子が欲しいと言う気持ちが溢れて、今度は妻の腕に抱かれ、安らかに眠る子の金色の髪を撫でながら…思わず


「男になって見ないか?」


「いい加減になさいませ。」


「でもなぁ…マーガレット。侯爵家をあの、あのライアンのバカ息子エイブが継ぐ事になるんだぞ。あぁ…もうこの由緒あるウィンスレット侯爵家もここまでだ。百数十年つづいた武門の誉れ高きウィンスレット侯爵家も、ブクブク太って、剣どころか、馬にだって乗れるかどうかあやしいエイブが侯爵になるんだぞ。もう、終わりだ。」


「旦那様!わかりました。そこまで仰るのでしたら、愛人の方を…」と言って涙ぐんだ妻に、慌ててウィンスレット侯爵は妻の頬にキスをすると


「す、すまない、マーガレット。出産を終えたばかりのお前に、私はなんてことを…ほんとうにすまない。確かに公爵家は大事だが、その為に私は、お前を泣かす事などは絶対できん。」


「旦那様…。」


ウィンスレット侯爵、あなたは良い男である。

妻を愛し、子供らを愛し、そして侯爵家を愛する良い男なのだ、だが、考えが些か…短慮。

いわゆる【短慮軽率】な御仁だから、後先考えずに行動するところが…あ、あれ?…ちょっと…ウィンスレット侯爵、あなたは今何を考えました?


(もう女の子が生まれたことは、ライアンに伝わっているはず、ならば…双子だったというのはどうだろう。女の子が生まれた後、男の子が生まれたと言うことに、そして少し小さく生まれたので、田舎で育てると言って…うんうん良い考えだ!)


やっぱり…



18歳になったら、騎士団に入隊しなければならないと言うのに…

そこまで考えは及ばなかったんですか?ウィンスレット侯爵。


さてさて、ウィンスレット侯爵の短慮から、生まれたばかりの赤ちゃんロザリー嬢は、その後一人二役を演じるトンでもない人生を歩む事になったわけで…


さてさて、複雑になってしまった赤い糸をどうやって、戻すことになるのやら。


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