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幼なじみは噛みつき魔  作者: 山石コウ
二章
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閑話―振られ男たちの帰路―

「なあ慶吾。何が悪かったんだろうな」

「ん?」

「俺、すごく真剣だったんだ……」

「スミレちゃんのこと?」

「ん」

 慶吾の運転する車の後部座席に仰向けに寝転び、俺は天井を見つめていた。ときどき車が揺れてそのたびに頭がガクガク揺れるが、そんなこと少しも気にならなかった。

 というか、なにもかもどうでもいい。

 初めて守ってやりたいなと思った少女に逃げられた。それも、彼女を大事にしない男の元へと。いや、逃げられたのではなく、嫌われたくないがためにわざと逃がしてやった、が正解か。

 スミレの彼氏の立場もまあ分からないわけではない。仕事とプライベートを両天秤にかけさせる方が悪いとも言える。だが、あんなに泣きそうなスミレを突き放せる男が彼女と付き合う資格なんてない。

 考えれば考えるほど、俺の方がスミレを大切に出来るのに、という想いがあふれてくる。

「湊人、泣きそうなの?」

「泣いてない」

 まだ。とは言わなかった。そんな事を言えば、この男は面白いからかいの種を見つけたと思っていつまでもいつまでもしつこく絡んでくるだろう。

 慶吾は少し考える素振りを見せ、それから口を開いた。

「俺が思うに、湊人はだいぶ強引だったけど悪い所はなかったと思うよ」

「嘘だ。それならどうして俺が振られるんだよ」

「それは、スミレちゃんがお前よりも要君の方が好きだからに決まってるじゃないか」

 慶吾の言葉により一層心臓をえぐられた。

 分かっている。とどのつまり、そういうことだ。スミレは、自分の彼氏が好きなのだ。たぶん、俺と出会う前からずっとあの男と過ごしてきた時間があって、あの男はスミレの一部になっている。その証拠に、俺が何を言っても彼女たちの仲は揺るがなかったではないか。

 慶吾はのんびりと煙草に火を付けながら、ラジオのチャンネルを回す。少し懐かしいメロディーが流れてきた。

「それから、湊人の後ろに俺がいることも大きかったのかもねー」

「なに?」

「だって、お前がスミレちゃんと付き合っても、俺はお前を諦めたりしないよ? さっきも言っただろ、もし湊人とスミレちゃんが付き合うことになったら、俺は二人まとめて可愛がるって。スミレちゃんはそれを恐れてたんだと思うよ」

 俺はガバっと起き上がり、運転席の慶吾を睨む。

「お前のせいか!」

 慶吾は横目でチラリと俺を見て、すぐにまた前に視線を戻した。

「責任転嫁するなよ。一番の原因は、湊人が要君よりも魅力がなかっただけだろ」

「……それは、そうだけど」

 信号が赤になり、車が緩やかに止まる。

 慶吾がゆっくりとこっちを振り向いた。目が笑っていない。

「湊人には、俺がいるだろ。他に目を向けるなよ」

 そう言って、慶吾は吸っていた自分の煙草を俺の口に無理やりねじ込んだ。

「まあ、三人で恋人ってのもちょっと面白そうだったけどなー。右手に湊人、左手にスミレちゃんでハーレムの完成だ」

「それ本気だったのか……」

 考えてみれば、これが一番良い結果だったのかもしれない。スミレを俺たちの毒牙にかけるのは気の毒だ。

 俺は慶吾からもらった煙草を吸い込む。ガツンとした刺激でむせそうになった。

「重っ! ロングピースくそ重たい。メンソール系のやつないのかよ」

「俺はメンソールは吸わないの。文句言うなら返せよ」

 慶吾はぶつくさ言いながら車を発進させる。信号はもう青に変わっていた。

 俺は吸いなれない煙草の煙を肺に入れながら、窓の外を眺めた。そういえば、俺にとってこれが二度目の失恋か。

「苦いな」

「そういうもんだ。慣れるしかない」

 煙草の事なのか、それとも俺の心を読んだのか、慶吾が絶妙な返事を返す。

「そうだな。慣れるように、努力するよ」




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