96話
壁|ω・`)チラッ
「ちょっとのんびりし過ぎたし、最下層は様子見だけにするか~」
迷宮の大穴を垂直に落下していく中、落ちる前に見えた太陽の傾き加減で時間を推測した。
できればさっさと魔族を見つけて話をつけるなりして帰りたかったのだが……。
やってきたら痛い目にあうぞって言われたしな。
問答無用で襲い掛かってくるかもしれないが……消耗させて大人しくなったところで話をすればいいのかね?
っとなると捕らえるような魔法は……土魔法しか思いつかねぇ……。
昨日戦った麒麟の様に素早い魔物相手だと捕らえるのにも苦労させられる。
そう思うと土魔法では頼りなく思えた。
カナンカにがんばってもらえばいいかな~。
「あの魔族の男と戦うなら我がやってもよいか?」
「え? ああ、お願いしたいけど殺さないようにしてね? 事情も聞いてみたいしさ」
「心得た」
こういうときはちょっと頼りになるな。
「ランクイロは周りの敵をお願いね」
「が、がんばります!」
「で、どんな場所なのかはわからないんだよね?」
「噂でしか伝わっていないので真実かどうかは定かではない」
「ふむ」
組合で世間話しついでに聞いてみても、ここ数年、二十三階層や最下層の二十四階層に降りたものはいないのだという。
伯爵の魔族討伐の際にもそこまでは降りていないし、単純にたどり着くだけでも大変なのである。
大型の魔物も増えてくるので倒した時の素材で荷物も一杯になる。
最初から最下層を目指しているのであれば敵も無視できるが、帰りも大変なのだ。
狩人同士の大規模な人数での攻略ではすべての敵を無視して降りることは難しいし、二十一階層で出会った狩人達ですらも、その階層の主との戦いでかなり苦戦していた。
二十二階層は遮蔽物なんもないしな~。
タンボンとか一つのミスが全滅につながるような敵だし、麒麟がな……落とし穴を準備できる余裕があるのかどうか。
事前に掘ってても遭遇できなかったら意味ないし、落とし穴に誘導するのも命がけだよなあれは……。
でっかい核のないスライムもどこから現れたかわからんしマジヤベェよ。
考えている間に暗闇の底に着いたようだ。
「ここが最下層か? 今までとは違って薄暗いな」
「なんだか不気味ですね」
「でも魔力がすっごく濃いよ!」
「遠くが暗くてよく見えません」
「神経、心、勘、魔力を研ぎ澄ませて周りの様子を感じ取るのじゃ。魔族のおぬしならここがどういう場所なのか理解するはずじゃ」
「無理ですよ~」
突然そんなことを言われても、と泣き言を言うランクイロ。
「明かりをつける」
パトリームがデンの上からカンテラで明かりを灯してくれた。
何かの物語では、ここで迂闊に明かりをつけるとこちらの位置がばれて、その人が殺されるとかいうのがあった気がする。
「大丈夫、ランドルフが守ってくれる」
「お、おぅ」
素直な返しにちょっと戸惑いを見せてしまった。
「だめですね。足元だけなら良いかもしれませんが、遠くはでは光が届いてません。光が吸収されている感じがします」
「どれどれ」
無駄話をしつつも敵を警戒して、あえて魔法で明かりを灯さなかったランドルフだが、仕方なしにと自分が明かりを灯すことにした。
「これは……光が拡散してるな。霧じゃない……なんだこれ?」
「瘴気じゃな。久しぶりに触れてみるが中々に心地良いではないか」
カナンカが結界から出てその瘴気を体に浴びる。
空間魔法で周りを索敵しても敵は居なさそうなので、害もなさそうなので物は試しにとランドルフもその瘴気とやらを浴びてみることにした。
「ちょっと肌寒く感じるけど、今ならでっかい魔法をぶっ放して暴れたい気分になるな」
「そうですか? 私はちょっと気分が悪くなった気がします」
「寒いけどあたしは飛び回りたい気分になるよ!」
「体がいつもより軽くなった気がします」
「少し気持ち悪い……」
「ヴォッフ!」
感想もばらばらで、いつも大人しくしているデンも元気が沸いてきたようである。
「魔力の澱みが溜まりすぎると瘴気になるのじゃ。あふれ出た滓のようなものじゃな。アプスとパトリームは肌から吸収しすぎるとあまりよくないかも知れぬ」
体の容量以上の魔力が体に入り込んで異常をきたす可能性があるとカナンカが説明してくれた。
「魔力の圧縮が不十分」
「そうとも言えるな」
ランドルフの異常な魔力量の原因だと考えられる魔力圧縮方法を普段から真似して行っているのだが、割と平気そうなランドルフを見てパトリームは少し不服そうである。
「体質とも言えるじゃろうから気にしなくてもよいぞ」
「むぅ」
それでもやはり納得がいっていないようだ。
また今度、魔力圧縮を詳しく教えてとパトリームとアプスに言われていた。
二人の体にはあまりよくなさそうなので再び結界を張った。
何事も程々が一番ってことだな。
「我は結界の外に出て歩くぞ。ランクイロも来るのじゃ、瘴気について色々と教えてやろうぞ」
「は、はい!」
二人は結界の外に出て、後方でブツブツと二人で話し合っている。
俺も後で教えてもらおう。
「しかし地面は硬い岩なのか? ずいぶんと滑らかな表面だけど」
「どこか人工物のような雰囲気がありますね」
真上を向くとわずかに星の明かりのような小さな点が見える。
恐らく地上の明かりだろう。
その明かりを目印に辺りを散策することにした。
「敵かな?」
そうランドルフが呟くと、全員がすぐに戦闘態勢に入った。
シューっと空気が抜けるような大きな音が聞こえると……。
ガキーン!
結界に衝撃が走った。
どうやら横から襲われたようだ。
「おお~、ゴーレムじゃん」
下半身は足がなくスカート状になっていて地面をすべるように飛んでいる。
上半身の人型の部分が攻撃してきたようだ。
「ホバークラフトか~、その発想はなかったな。この濃密な魔力を吸収して飛んでいるのか? でもスカートはゴムじゃないし何だこれ?」
吞気に感想を呟いて、その形状を観察している。
チェルベさんがこれを見たら喜ぶんじゃないかな?
「ボーっと見てないで行かぬかランクイロ」
「っ!」
他の皆も見たこともないような形状に驚いていたがカナンカに活を入れられ正気に戻る。
ゴーレムはランクイロの攻撃を避けることはせず、浮いた状態で衝撃を和らげるように受け止め、た。
「硬いです!」
「まぁ、ずっと硬い敵ばっかりだったし今さらじゃない?」
「「!?」」
「わっ! 首が回った!」
360℃首が回転したことに驚く面々。
そして顔の分、人なら口がある場所がパカリと開き、ノズルのようなものが出てきた。
ボォォー!
「うわっ、あっつ!」
火炎放射だ。
ランクイロは慌てて転がり体についた火を消す。
今度はゴーレムのお腹の部分が開き、破裂音がしたかと思うと丸い玉が発射された。
「なにっ、それっ!」
ゴッ!
転がっているランクイロが慌てて避けると、玉が地面にぶつかって鈍い音がした。
バウンドした玉はそのまま地面を転がっている。
プシュー!
気の抜けるような音が聞こえると、ゴーレムが浮くのを止めて着地し、動きを停止した。
「ん? 終わったの?」
「いえ、僕は何もしてませんが……」
恐る恐る様子を見ながらランクイロはゴーレムに近づく。
するとゴーレムが甲高い嫌な音を立て始めた。
キュィ―――!
「まずいっ! 離れろ!」
「っ!」
ランドルフの言葉に咄嗟に距離を取ったその時―――。
ドガァ――ン!
「ぐふっ!」
「「「ランクイロ!」」」
ゴーレムが自爆してランクイロが吹き飛んだ。
ランドルフ達は結界の中にいたので衝撃はまったくなかったのだが、全員が心配そうにランクイロの名前を叫んだ。
カナンカが真っ先にランクイロの近くに駆けつける。
「破片が厄介じゃな。すぐに体を再生しようとするな。ランドルフや!」
ランドルフがランクイロの体を調べ、自爆したゴーレムの破片を取り除いて治療した。
「もう大丈夫だと思うが、違和感はない? あったらもう一度摘出しないと命取りになるかもしれない」
と、話していると別のものが近くで爆発した。
ドガァ――ン!
「「「!?」」」
全員が驚いたものの、ランドルフの結界によって衝撃が来ることはなかった。
地面に穴が開き、辺りには石ころや破片が飛び散っている。
「ゴーレムが発射した玉が今頃爆発したのか。時間差こぇー……」
「すっかり気が緩んでました。旦那様の結界がなければまた何人か負傷してたかもしれません」
「あたしなんて真っ先にやられる自信があるよ」
「……ビックリした」
想像して身震いをさせるアマレット。
ここに来てようやく緊張感を持ったようだ。
「とにかく大丈夫か?」
「はい、動きに問題はないかと」
ぴょんぴょん跳ね回って動きを確かめる。
その様子を見てカナンカもホッと息をついて安心したようだ。
「あの爆発の仕方は我でも少し気を揉むところがある。昔ひどい目にあったことがあるのじゃ」
何があったのか聞いてみたい気もするが、今は周りを警戒して静かに黙る。
黙々とゴーレムの破片を回収し、袋に詰め込んだ。
回収した破片を手にとってランドルフは観察していた。
小型の大砲みたいだが割れた筒の内部に文字みたいな物がある。
魔力で玉を作って発射までやったのか? 玉も爆発したから玉の内部にも仕掛けがありそうだな。
どういう魔法陣を書けばそんなことができるのだろうか?
ホバークラフトの原理はなんとなくしか知らないし、そもそもこいつらの出現はどこから……。
疑問は尽きないがこの様子だと他の敵もゴーレム系だと予想し、どんなギミックが仕掛けてあるのかと油断せずに進むことにした。
「ランドルフや」
「ん?」
「おぬしの魔法でこの階層の地形はわからぬのか? 瘴気を利用して遠くまで見てみたがここも広いみたいじゃぞ」
「ふむ。やってみるか」
今のところ遮蔽物には当たってないからな。
二十二階層みたいに平原だったら薄暗いから難易度はさらに跳ね上がるしな。
「……」
皆に静かにしてもらい、集中して空間把握を試みる。
「ん~、どうやら降りた場所は円形の建物の中だったみたいだな。その外には建物があるけど……どれも朽ちてるような……街がすっぽり埋まってるって感じだね」
巨大なコロシアムの中に居るといった感じだろうか。
その外には壊れてはいるが四角いビルのようなものが立ち並んでいると感じた。
「地下都市ってことですか?」
「かもしれない。昔はここに誰かが住んでいたのかも? もっと詳しく知りたいけどこれ以上範囲を広げたら頭が痛くなりそうだし止めとくよ」
「地下都市……」
パトリームが何か考えながら呟く。
だが思い当たることはなかったようだ。
「しかし、それはそれで厄介じゃな。まぁ、結界があるから大丈夫とはいえ、この人形が物陰から突然現れるかも知れぬ。人形どもの気配はちとわかりにくくてのぉ~」
動いていれば察知もできるが、周りの建物と同じようにジッとされていては建造物と間違って判断を誤りそうである。
それはランドルフも同様であった。
「形状がはっきりとわかるほど集中すれば察知できるけど……ずっとは俺の神経が持たないよ」
「旦那様のお体のほうを優先してご自愛ください」
「うむ。アプスの言うとおりじゃ。おぬしが倒れれば誰が我らを地上へと帰すのじゃ?」
気を利かせたのかカナンカが冗談気味に話を振ってきた。
お前一人でも皆を乗せて地上に帰れるだろうに……まったく。
気遣いはうれしいが大丈夫だと言って探索を続けることにする。
「辺りを探ったときに何体か動いているゴーレムっぽい反応があった。外には巨大な四本足の獣っぽい反応もあったよ」
「また麒麟ですかね?」
「そこまではちょっとわからなかった」
「次は爆発される前に倒して見せます」
「どうするのじゃ? 硬くて大して効いてはおらぬようじゃったが」
「えーと……、そうだ! 関節部分を狙います!」
「うむ、やってみるがよいぞ」
「はい!」
元気だな。トラウマにならなくて良かったよ。
「普段カナンカ様にボコボコにされていますからね。あの程度の痛みではまだ大丈夫です」
「そんなに痛いのか~」
「痛いってもんじゃないです。あれは後まで引きずる痛みが襲ってきて何度か気絶したこともありました」
「「「……」」」
全員がジッーとカナンカのほうを見つめる。
「我はちゃんと加減しておる。本気ならいくら再生能力がすさまじかろうが死んでおるぞ」
「いや、そうかもしれないけどさ。そういうことじゃなくてね?」
「痛いのが嫌なのであれば動きを見切って避けるのじゃ!」
「あ、はい」
「納得しないでくださいよ!」
相当にスパルタなようだ。
「愛の鞭じゃ!」
だそうである。
しかし、その後もゴーレムと何度か戦ったが、相手は二三度攻撃を仕掛けてくるとすぐに自爆するので、自爆する前に倒すのは中々大変そうである。
というか、ゴーレムしかやって来ないな。
「っと、やっぱこれだけ煩かったら来るよね」
ランドルフの探知に引っかかった高速で接近する反応を捕らえた。
「クックック、ようやくか。我の出番じゃの」
「様子見だけだったけど本番になっちゃったな~」
アプスもランクイロも気を引き締めている。
アマレットはデンの毛に隠れてしまった。
パトリームはいつもどおり、デンの上でどこを見ているのかわからない目をして暇そうにしている。
やがて、コウモリの様な翼を持った男がやってきた。
ルーセットである。
「先ほどから大きな音がするので様子を見に着てみれば……やはり貴様達だったか」
「あ、どうも僕です」
少し苛立ち気味のルーセットに対して、気のない言葉で返事をするランドルフであった。
お時間いただきましてありがとうございます。




