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95話

たまには連日の更新をしてみる。


 組合に入ると、いつものように手もみしながらいい笑顔で職員がやってくる。

 綺麗な別室に案内され、お茶とお菓子を用意された。

 もはやVIP待遇のような扱いである。

 タンボンとマンジュシャゲ、おまけで手に入れたヤムーバを卸し、後日麒麟の素材を卸すというと土下座しそうな勢いでお辞儀され礼を言われた。


 あ~、しまった。こういうのってあんまり言わないほうがいいのかな?

 インサイダー取引的な?

 卸すのは確定事項だからこっちは危なくないんだけど……。


 短い期間だが、今までの実績があるので相手も信じているようだ。

 法的な罰則などはないが言ってしまったものは仕方がないので、ここだけの話にしておくようにして言いふらさないようにお願いした。

 話もほどほどに昨日卸した分のお金を受け取って部屋から出ると、狩人達からの様々な視線が突き刺さる。

 羨望や嫉妬など複雑な感情が交じり合っている。

 中にはパーティーに入れてくれと言い出すものまで出てきたが、職員にはメンバーを増やすつもりはないなどと世間話をしていたのでシャットアウトしてくれた。

 今の調子で素材を流して欲しいのか、余計な神経を使わせないように配慮してくれている。

 組合を去るときにもその職員が深いお辞儀をして見送ってくれた。









 「それで今日はどうするのじゃ?」

 「二十、二十一階層のどちらかで昼まで狩りをして、一旦戻ってきて最下層に行こうかなと」

 「ふむ」

 「お昼の間にできるだけ魔物を狩るということですね」

 「そうだね、タイムアタックだ」

 「たいむあたっく?」

 「時間内にどれだけ敵を多く狩れるか競うって感じかな」

 「それは面白そうじゃ! ランドルフには負けぬぞ!」


 カナンカはふんふんと鼻息を荒げるように息巻いている。


 「この前みたいに余計な木を切っちゃダメだからね!」

 「わかってるよ」


 前回の事を覚えていたのか、アマレットに釘を刺されてしまった。


 「二十階層あたりなら僕もまだ少しは活躍できる……かな?」

 「私も少しなら……たぶん……」


 アプスとランクイロは自信なさ気である。


 アプスは厳しいかもだがランクイロはいけるっしょ。

 もうちょっと自信もってもいいと思うんだけどねぇ~。


 「私は素材を拾うだけ」

 「そして疲労(・・)も溜まると」

 「……?」


 ランドルフは親父ギャグを言ったつもりだがパトリームには通じなかったようだ。


 「……それよりも足は大丈夫なのか?」

 「まだ痛い……でも頑張る」

 「薬を使って治してもいいけど、そういうのはできるだけ自然治癒に任せたほうがいいからな~」


 そもそも頭脳派の魔法使いなのに、何故下っ端のやるような肉体労働を買って出るのか。


 「頑張るのはいいけど、慌てなくても素材は逃げたりしないよ?」

 「いい、やる」


 敵を倒すほうに回るという考えはないようだ。

 頭をポンポンと優しく叩いて応援しておく。

 しっかりと杖を握り締めてやる気十分といった感じだ。

 どちらに行くのか決めた結果、二十一階層に決定した。


 「今度は一つ目鬼と戦ってみたいの~」

 「一つ目巨人は僕でも何とか倒せたのでカナンカ様ならきっと余裕ですよ」

 「それはつまらんな。ランクイロ、おぬしが相手をせい」

 「しまった……」


 余計なことを言ってしまったとランクイロは後悔した。

 二十一階層に到着し、早速狩りを始める。


 「クックック、獲物がわんさかとおる」

 「前に会った狩人達は居ないようだね~。あれから結構魔物も沸いてるみたいだし、どういう条件でポップするのやらさっぱりだ」


 やってくる人が居ないためか、辺りの気配を探ってみるとそれなりの数の敵が居るようだ。

 早速アプスがふよふよと飛んでいる毒蛾蝶にナイフを投げ、木に縫い付ける。

 すぐさまパトリームが結界を抜けて、子供が道路に飛び出すがごとく走って燐粉を回収しに向かった。


 「おい! だから危ないって言ってるだろうが!」


 縄張りにでも入ったのだろう、鋏角蜂が数匹パトリームに襲い掛かってきた。


 「言わんこっちゃない……」


 すぐにアプスが援護する。

 鋏角蜂に向かって投げたナイフが腹部に綺麗に刺さり、ポトリと落ちた。

 残った蜂もランドルフが仕留めた。


 「周りの安全が確保されるまでうろちょろすんなし」

 「……ごめんなさい」


 ちゃんと反省しているようなので頭をポンポンしておく。


 ぐぬぬ~、何故旦那様はそんな変態ハイエルフに優しくするのですか!

 私にも優しくしてください!


 と、やり取りを見て心の内で叫んでいたアプスだが、パトリームが側までやってきてお礼を言ってきた。


 「助かった、礼を言う」


 ぺこりとお辞儀して、言うだけ言うとすぐにデンの背中へよじ登っていった。


 ……ま、まぁ、今回は特別に許してあげてもいい?


 複雑な心境になってしまったようだ。


 その後も万年妖樹や森の暗殺者と呼ばれるカマキリを倒していく。


 「こいつと戦うのは初めてじゃな」


 地面が盛り上がり、螺旋土竜が現れた。

 現れる予兆もあるし、気配も察知していたので誰も驚かない。

 カナンカはあえてドリル状の鼻に向かって拳を放った。

 圧力や地中の固い岩などを砕くドリルが折れ曲がる。

 螺旋土竜は痛みに耐え切れず気絶したようだ。


 「チクリとしたがそこまで固くはないな」

 「それ絶対嘘だ~」

 「お前の基準は当てにならん」


 ランクイロとランドルフにダメ出しをくらう。

 止めを刺して素材を剥ぎ取った。


 「今回は地面に結界は張らぬのか?」

 「素材を流すのが目的だしね~、危険もあるけど螺旋土竜が現れる瞬間がわかるなら大丈夫じゃない?」

 「確かに、次はランクイロが倒してみせよ」

 「うぇ~!」


 やってみせ、言って聞かせ、させてみせとは言うが、カナンカの場合当てはまらない部分が多々あるよな……。

 ランクイロも大変だ。


 普通はドリルに向かってパンチを放つものはいないだろう。

 その後の発言も一般人には理解できない感覚だ。

 それ以降螺旋土竜は現れず、代わりに鋏角蜂の女王と思しき巨大な蜂が現れた。


 「ね~、でっかい蜂がいるよ?」

 「さっきの蜂の奴か?」


 ギチギチと音を鳴らす強靭な顎に、大きく鋭い針がこちらを狙っている。

 周りにも女王を守るかのように鋏角蜂の群れが居た。


 「女王についてはわかっていないことも多いが、女王がいるなら蜂の巣が近くにあるはず。蜂蜜が取れるかもしれない」

 「はちみつ! ランドルフッ! 絶対取ってきて!」


 パトリームの説明に、今まで暇そうにデンの頭の上で足をプラプラとさせながら戦いぶりを見ていたアマレットが反応した。


 「へぃへぃ、わかったよ」

 「早く早く!」


 呆れるランドルフの周りをそれこそ蜂のようにブンブンと飛び回りアピールする。


 「蜂の巣自体が魔力を練って作られたものらしい。魔力を蓄えてそこから新たに魔物が生み出されるとか」

 「蜂の子とかいるの? 食べたらうまいって聞くけど」

 「え゛? 食べるんですか?」

 「図鑑にはそのようなことは書かれていない」


 大敵を前にして緊張感がまったくない。

 そんな話をしている間にカナンカが手刀を突き刺してあっさりと倒してしまった。


 「なんじゃ、たいしたことはなかったの~。やはりあの麒麟が特別じゃったということか」

 「俺が言うのもなんだが、お前も大概おかしいって自覚しろよ」


 カナンカの攻撃を幾度もかわした麒麟を褒める言い方をする。

 残党がまだ残っているので一匹一匹しとめていった。

 何匹か逃げていくのでその後を追う。

 万年妖樹やカマキリが邪魔をしてくるが、カナンカが露払いをしてくれた。


 「でけ~、こんなの見たことないな」


 木々を何本か利用した大きな蜂の巣があった。

 まるで秘密基地の小屋を木の上に作ったような大きさだ。

 デンと同じくらいのだろうか。


 「ランドルフ、この蜂の巣はこのまま持って帰ろう」

 「わかった。じゃあ荷物もあるし巣もでっかいから、ちょっと早いけど午前中の狩りはこれで終わるか」

 「また一つ目鬼とは戦えなんだか。残念じゃな」

 「ほっ……」

 「はちみつ! はちみつ!」


 残っている鋏角蜂を殲滅して蜂の巣の中を覗いてみる。

 蜂の子と思しき魔物は居ないようだ。

 だがとろりとしたオレンジ色の蜜がたっぷりと詰まっていた。

 すぐさま手ですくい上げて口に含んだアマレットが目を見開いて叫んだ。


 「あま~~~い! おいし~!」

 「どれどれ……味が濃いな、ちょっと甘すぎる気もするが香りがいいな~」


 舌触りがちょっとアレだが、味はまさにロイヤルゼリーってか。


 「本当ですね。かなりの高級品ではないでしょうか」

 「でもろ過したほうがいいんじゃないかね?」


 見た目は綺麗で不純物もそこまで入ってはなさそうだが……蜂の毒とか入ってたらまずいしな。


 「ろかって何?」

 「ゴミなどの余計なものを布などを通して取り除いて綺麗な状態にするってことだよ」

 「ふ~ん。あたしは別にこのままでいいけど、いつもそのまま食べてたし」


 綺麗にはなるが栄養などがいくつか失われるって聞いたことがあるな~。

 プロ……プロなんだっけ?


 「魔力を多分に含んでいるはず。売れば相当な高値になると思われる」

 「えー! ちょうだい! あたしがもらう!」


 そう言い出すのは皆わかっていたので、アマレットが食べることについては誰も文句は言わなかった。


 「蜂蜜酒……か」

 「栄養剤……」


 と、思ったのだがそうでもなかったようだ。

 ためらうような声がどこからか聞こえてきた気がした。


 「わ~ぃ! みんなありがと~!」

 「とりあえずこのまま持って帰って樽に移そう」


 ダンジョンを出て屋敷へと戻ることにした。

 アマレットは帰っている最中も、まるで自身が蜂にでもなったかのように蜂の巣の中に入り、蜂蜜をペロペロと食べていた。

 屋敷へと着くころには全身が蜂蜜にまみれてベトベトである。


 「もうちょっと考えろよ。洗い流したらそれこそもったいないだろ?」

 「ごめんごめん、おいしくってついはしゃいじゃったよ」


 その体のままデンの頭の上に着地しようとしたのだが、流石にベトベトの状態は許容することはできなかったのか、アマレットを避けて逃げ回っている。

 布を渡して体を拭かせてやった。

 何度目かの驚いている屋敷の人に空いている樽を用意してもらい、蜂蜜を掬う。

 巣穴一つにジョッキ一杯分くらいの蜂蜜が取れた。


 「巣は大きいですがあまり量は取れませんでしたね」

 「まぁ、そんなもんだろ。それでもアマレットにしたら十分な量なんじゃないか?」


 樽にたまった蜂蜜を見てその周りでくるくると踊りを踊っている。

 それほどまでにうれしかったようだ。


 「ほほぉ~。これは見事な蜂の巣ですな~。ランドルフ殿には本当に驚かされるばかりです」


 伯爵までやってきてしまった。

 そのまま昼食をご馳走になった。

 伯爵とお互いに情報交換をしたが、現状は変わらず予定の確認だけになった。


 「もう無理、おなかいっぱ~い」


 昼から荷物を売りに行く間、パトリームと一緒にカナンカとアマレットは休んでもらうことにした。

 アプスとランクイロを連れて組合へ向かう。


 「今日はずいぶんとお早いですな……これは! 裏口の方へどうぞ」


 大きな蜂の巣を見て察した職員が案内してくれた。


 「まさか極々稀にしか手に入らない鋏角蜂の巣を手に入れてくださるとは!」


 チラチラとこちらの様子を見てくる。


 「もちろん卸しますよ。ただ……蜂蜜のほうは売るつもりはありませんがね」

 「いえいえ、蜂の巣だけでも十分でございます!」


 魔力を多く含んだ蜂の巣で作った蜜蝋は王族に献上するほどのものだという。


 ってことは王族に献上するほどの蜂蜜をあいつは食ってるってことなのか?

 やっぱり今からでも止めさせるべきか……?


 と、思ったりもしたが、さすがにそれは可哀相なのでやることはない。

 午前中に卸した物の精算が済んだので、お金を受け取って組合を後にした。


 合計金額がすごいことになってしまったな~。

 この街のお金がごっそりなくなるってことはないのか?

 まぁ、物が売れればお金は入ってくるんだろうけど……。

 このお金は領内で消費しないとダメだな。

 そうでないとこれだけのお金が消えることになるのと一緒だ。

 他の領で使っても、巡り巡って戻ってくるかもしれないけど時間がかかるし、寄り道するお金もあるだろうからな~。

 ここで使ったほうが手っ取り早い。

 まっ、それは帰る時でいいか。


 屋敷に戻ってくると休憩していた三人を呼び出して迷宮の最下層へ向けて出発した。











 ルーセットはいつものように、お嬢様と呼ばれる女性が休んでいる周りの敵を掃除する。

 最下層である二十四階層の安全地帯で静養中なので、できる限り騒がしくないように、不安にさせないようにしているのだ。


 「……」


 ルーセットは昨日あった子供の事を考えていた。


 あの移動速度ならまた今日もやってくるかもしれない。

 大きな狼は厄介だが何故あの狼が荷物持ちを?

 ……狼が最大戦力ではないとすると……あの不気味な子供が主力なのか?

 だとしたら面倒だな。


 欲しいと思っている獲物が一番強いとなると捕らえるのは苦労するだろう。


 奴らは近いうちに必ず現れるはずだ。

 大きな狼や荷物、人員を浮かべて移動できる魔法の持ち主だ。

 魔力は感じられなかったがきっとうまく隠しているに違いない。

 そしてその魔力の量は多いはず……。

 気を配って見逃さないようにしなければ……。


 そう考えて女性の元に戻るルーセットであった。

お読みくださいましてありがとうございます。

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