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94話

遅れた上にいつもより少し短いよん_(:3」 ∠)_


 二十二階層の入り口から出た所で、迷宮の大穴に浮いている男に声をかけられた。

 息を呑む音が聞こえる。


 「ここのところはこの辺りまで現れる狩人達は居なかったのだが……、お前達もここからさらに下を目指すのか?」

 「いえ、もう夜なってるでしょうし、残業は十分にしたので帰ります」


 ランドルフがそう答えると、カナンカは少しつまらなさそうにする。

 もう一騒ぎあると期待していたようだ。


 「……答えになっていないな。私は下の階層を目指すのかと聞いている」

 「答える義理もないので。失礼な人とお話しする気はなれませんし、お腹も空いたので早く帰りたいんですけど」


 コウモリの様な翼を動かして宙に浮き、ランドルフ達を見下ろしている。

 見下した態度をする相手とはまともに話はしたくない。

 そう思い適当にはぐらかす。


 「……下の階層には来るな。もし来るのであればお前達には痛い目にあってもらわねばならん」

 「ずいぶんと物騒ですね。まっ、どうでもいいのでさっさと帰りたいのでそこを退いていただけませんか」

 「……」

 「……」


 魔族の男はランドルフ達をじっと見つめて観察しているようだ。


 「男に見られる趣味はないんですけど~」

 「階段を上っていけばいいだけだろう。私は道を開けているつもりなのだが」

 「……ふぅ、やれやれ。皆、少しだけ上ろう」


 力ずくで排除……と物騒な考えも一瞬頭をよぎったが、今日は十分に狩りをしたし、夜になっているのでとにかくさっさと帰りたいと譲歩することにした。


 説明するのもメンドー。僕ちゃん疲れちゃったよ。


 階段を上るランドルフ達から一切目を離さない魔族の男。

 やがて適当な高さまで上ったところでランドルフ達が空中に浮いたのを見て目を見開く。


 「なに!?」


 驚く声を無視してあっという間にランドルフ達は居なくなってしまった。


 「……」


 居なくなった方向をじっと見つめる悪魔族の男。

 やがて男はそのまま地下へと降りて行った。











 ランドルフが麒麟を綺麗な状態で持ち帰ったことに、伯爵のお屋敷ではまたも驚かれてしまった。

 初めて見た麒麟に、使用人たちは珍しい物見たさで結構の人数が集まってきた。

 伯爵までやってきて声を出して驚いていた。


 「まるで今仕留めたばかりの様なずいぶんと暖かい死体ですね」

 「ついさっき仕留めたばかりです」

 「……」


 伯爵の言葉を聞いて、せめて血抜きだけでもしなければと思ったのだが4tトラックほどの大きさである。

 血抜き作業だけでも大変だ。


 しまったな。先にやってから持って帰るべきだった……。

 ほんと俺ってば間抜けだな~。


 仕方ないので屋敷から少し離れた人気のない場所に穴を掘り、死体を中に浮かせて血を抜いた。

 屋敷まで戻ってきて土魔法で死体を囲み、簡単な魔法陣を書いて冷やして保存する。


 冷暗所で大事に保管しましょうってね。


 食事の席で伯爵が麒麟の解体はこちらでやろうと申し出をしてくれた。

 確かにあれほどの大きさならば時間がかかるだろう。

 そうしている間にもっと多く狩りをして欲しいと考えているようだ。

 それくらいは協力させてくれと言ってきたのでお願いすることにした。

 魔族の事についても話す。


 「ついに遭遇しましたか!」

 「ええ、疲れていたので戦いは避けて引き返してきました」

 「なんの、ご無事でよかった」


 心の底から安堵している様子をみて、本当にいい人だと改めて思うランドルフ。

 短く言葉を交わしただけだが、下の階層に来るなと言われたこと、その様子から確かに何かを守っている雰囲気があったと伝えた。


 「その守っているものがどうにかならない限り、出て行ってくれそうにないかもしれませんな」

 「また明日接触してきます。素材も流さないといけませんので、集団で狩りをしていた人達が居なくなった階層で少し狩りをして一気に最下層まで行こうかと思っています」


 もう下層からは居なくなってる頃だろうしね……たぶん。


 「それよりも何とか商会はどうなっています?」

 「サランモ商会ですな。近衛のお二人から話を聞きました。早速問い詰めてみましたが、そんな連中は知らぬ存ぜぬとシラを切っている次第です。ですので監視をして今は証拠を集めている途中です。近いうちに動きがあるでしょう」

 「ふむ……」

 「気に入らぬとおっしゃるのであれば、すぐにでもしょっ引くことは可能ですが……」


 少し言いよどんだリントゥス伯爵。


 「それだと伯爵に都合の悪いことが発生するのでは?」

 「ええ……まぁ……」


 それなりに大きな商会がごっそりと抜け落ちる。

 ただでさえ市場の混乱が収まってきた所なのだ。

 さらにランドルフが下層の素材を流しているし、活気も出てくるだろう。

 そんなときにサランモ商会がなくなれば、横のつながりのある商人達はまた混乱してしまうかもしれない。


 いきなり取引先が無くなったら困るのは確かだが……その辺は伯爵の手腕だな~。


 「その辺りの事は伯爵にお任せします。と言ってもここは私の領地ではありませんので何もできませんがね」

 「しかし知らなかったとはいえ貴族に手を出したのです。我々が舐められるようなことがあれば統治に支障をきたすことも出てくるでしょう」

 「まぁ……うまく利用してください」

 「ありがとうございます。任務とは別に個人的に貸しができてしまいましたな~」


 ふっふっふ、事件解決にプラスして俺個人に貸しを作らせる……ベネディッタさんに話したら褒めてくれるかな?


 すぐにでも手打ちにしていいところを伯爵に裁量を任せたのだ。

 他人任せにしたと言えなくも無いが、伯爵の事情を鑑みたとも言える。

 伯爵はランドルフの添えた一言で後者と捉えた様だ。


 「では我はうまいワインを所望するぞ。それで貸しはなくしてやろうではないか」

 「あたしこの蜂蜜が欲しい~!」


 空気の読めない二人が雰囲気をぶち壊してくれた。


 「そうですな。守護竜様にもご迷惑をおかけしました。それくらいはすぐにでも用意させていただきましょう。おい、私の秘蔵のワインを持ってきてくれ」

 「かしこまりました」


 一声掛けるとメイドが一礼して部屋を去り、しばらくして一本のワインを持ってきた。

 アマレットにも追加で蜂蜜がテーブルの上に置かれる。


 「もちろんこれとは別にお土産としてもご用意させていただこうかと思っております」

 「「ホント」か!?」

 「お前ら……」


 呆れて何も言えん。

 こういう時ばっかりちゃっかりしやがって……。


 「これはランドルフ殿の貸しとはまた別ですのでご安心を」

 「いえ、そんなつもりで見ていたわけでは……」


 気を使われてしまった……。


 ホクホク顔のカナンカとアマレットに対してやれやれと呆れ顔をするランドルフ。

 アプスとランクイロは御上の話には口を挟むようなことはしない。

 パトリームは大人しく何も言わずにモグモグとご飯を食べている。

 その手の話にまったく興味が無いようだ。

 だが後日、珍しい素材を貰ったのか目を輝かせて伯爵にお礼を言っている姿を見かけたランドルフであった。

 食事を終えて明日に備えて布団に入る。


 あの魔族はずっと俺の事を見てたな~。

 この面子の中で異様なのはカナンカだと思うんだが……後デンか。


 他にはまったく見向きもしなかった事を疑問に思うが、また明日会えばわかるとゆっくり眠ることにした。














 「ただいま戻りましたお嬢様」

 「お帰りルーセット」


 悪魔族の男、ルーセットが上層から戻ってきた。

 岩の上に敷かれた毛皮に寝ていた女性が体を起こして男を出迎えた。

 黒いワンピースを着た女性だが、心なしか顔が青白く見える。


 「安静にしていてください。お体の調子はいかがですか?」

 「まだ本調子には程遠いわ。今しばらくここに留まっている事にします」

 「畏まりました」


 ルーセットに介抱されて、お嬢様と呼ばれた女性は気だるげに再び寝込む。


 「あなたには苦労をかけることになるけど……」

 「お嬢様のためならこのくらいは苦労の内には入りません」

 「そう、ありがとう」

 「もったいなきお言葉」


 深く腰を曲げて一礼するルーセット。


 「この大陸は大気中の魔力が少ないのよね」

 「はい。この場所はともかく、我々の住む場所に比べて三割ほど少ないです」

 「三割でこの体たらく、不甲斐なさを痛感するわね」

 「……」


 三割も魔力がないと体調に異変をきたしても仕方がないものであるが、この女性はそうは思わなかったらしい。


 「私が屋敷から出なければ……」

 「……お嬢様も多感なお年頃、外の世界を見たくなったとしてもそれは当然の事です」

 「無理に慰めてくれなくてもいいのよ?」

 「無理になどと……。とにかくお嬢様が無事で居てくれたことが何よりでございます」

 「あなたに助けられたときは無事ではなかったけれどね」

 「……」


 つい皮肉めいたことを言ってしまったことに、女性は少しばつが悪くなった。


 「ごめんなさい。私が原因なのにこんなことを言ってしまって……」

 「いえ、私がもう少し早く駆けつけていればあのようなことには」

 「それは違うわ! ……止めましょう、こんな話は」


 このまま話しても堂々巡りだと黙り込むことにした。


 「さっ、お嬢様、少しお休みください」

 「ええ、わかったわ。早く体調を元通りにしてこんな場所からさっさと抜け出しましょう。早く屋敷に帰りたいわ」


 女性は目を瞑り、しばらくしてスヤスヤと寝息をたて始めた。


 「……」


 眠った女性を看ながらルーセットは考え込む。


 先ほどあったあの子供……まったく魔力を感じなかった。

 あの浮いて飛び去ったのは恐らく魔法だろう。

 あんな魔法は見たこともないが……魔力を感じないのに魔法が使える……しかもかなり魔力の消費が多そうな魔法だった。

 でかい獲物を持ち上げていたように見えたが、あれも同じ魔法だろう。

 不気味だな……。

 だがお嬢様にあの子供を差し出せば、直ぐにでも体調も回復するだろう……。

 あの会話の内容からしてまたやって来る可能性はある。

 その時どうにか捕らえることができないだろうか。


 ルーセットの質問に対して言葉を濁した、というよりも明言を避けたといった印象だった。

 下層に行かないなら行かないとはっきり言うのが正解だったのであろう。

 そこから判断したようである。

 ちなみにカナンカは完全に魔力を隠すことはできていないが、そこそこ魔力の多い一般人と言えるレベルまでには抑え込むことができる。

 パトリームも同様だ。


 相手に警戒して完全に魔力を消していたことがアダとなり、逆に目を付けられてしまったランドルフ。

 ルーセットは決意を固めた目をして空を仰ぐのであった。

お読みくださいましてありがとうございます。

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