91話
痛々しい表現があります、ご注意ください(; ・`д・´)
翌朝、伯爵に大事な話があると言って時間を取ってもらった。
「信じられませんが、事実なのでしょう。もし市場に大量に流せるのであればありがたいのですが、問題はその後です……」
一時的に相場が戻ったとしても、根本を解決しないとまた値段が釣り上がってしまう。
それでは無用な混乱を引き起こすだけである。
定期的に供給が満たされるから安定するのだ。
つまり、結局は魔族をどうにかして、正常な状態にも戻さなければならないということだ。
「また伯爵が魔族討伐を考えていると噂を流してみるのもよいのでは?」
そうすれば次は討伐されて物が市場に溢れるなら、今は無理をして高い値段で買わなくてもいいと思う人が現れると思うんだが……。
「有効な手だとは思いますが、失敗したときが大変ですな」
失敗すれば商人達は疑心暗鬼になり、情報が錯綜し、財布の紐が硬くなるのだという。
さらに素材を売る人も減るかもと言われてしまった。
一発かけてみるって人もいるだろうが……、普通はそうなのかもしれないな~。
「お恥かしながら、前回は討伐に失敗して、皆さんにこうして足を運んでいただいている次第で……、日和見をしている者たちは、次も失敗すると思っているかもしれません。また売買では、足元を見られて買い叩かれたり、その逆もあるかもしれません。いずれにせよ余計に混乱する可能性があるのです」
「でもそれは失敗すればですよね?」
「確信を持って魔族を討伐するなり、話をつけて出て行ってもらうなりしていただけるのであれば、賛同しますが……」
「……」
まだ魔族に遭遇していないので自信を持ってできるとは言えない……。
話が通じるのかもわからない、倒せるのかも……。
倒す云々は行けそうな気もしなくは無いが……昨日はちょっと浮かれすぎていたしな。
変なミスをしでかして、何か大事をやらかしてしまうかもしれない。
伯爵はまだ魔族に会っていないというのは様子からして察していたのだろう。
であれば考えなしに噂を流しても返って悪化させると判断したようだ。
「わかりました。とにかく手に入れた素材は売りに出してもよろしいので?」
「それはかまいません。その狩人達が返ってくるまでにどんどん流していただいてもよいでしょう」
「でもその間に魔族のほうも何とかしないとってことですかね」
「望めるのであれば、といったところですかな。相場が元の水準に戻ってきたところで魔族が居なくなったと広めることができればすんなり行くのですが……」
「とにかく魔族の事は王命ですので何とかするとして、現在魔族を見かけたという二十階層から順に降りていって様子を探っているところです。それで魔族がいなければよし、いれば対話による退去、もしくは討伐といった方向でよろしいでしょうか?」
「ええ、その辺りは初日にお話した通りで結構です」
「もし退去させるときは混乱を招いたことに対する処罰などは……」
「そうさせたいところではありますが、難しいのであれば結構です。隣国の怪しい動向にも注視せねばなりませんので、とにかく早く解決して欲しいのです」
ふむ。伯爵の意思は変わってないと……。
まぁ、このまま下に降りていれば、居るのであれば遭遇するだろうさ。
「今しばらくお時間をいただいて申し訳なく」
「いえいえ、なんの。私の想像していたよりも進展が早いくらいですからな。私の考えでは、早くて今頃始めて下層に着いたくらいだと思っていたくらいでして」
「できる限り早く済ませたいと思っています」
「頼りにしていますが、ご無理はなさらぬように。守護竜様が居るのですからその辺りの心配はしていませんが、何があるかわかりませんからな」
「お気遣い、痛み入ります」
これ以上長々と話していて仕事に差し支えられても困るので、話を終えて場を辞した。
現状報告だけだったが、順調に進んでいると理解してもらえたようでよかった。
午前中はさっさと素材を売って昼からすぐにでも潜るか。
皆を集めて話をし、すぐに売りに組合へ向かった。
「これはこれは! 皆様、また下層の素材を売りに着てくださったので? ありがとうございます!」
どうやらアプスと近衛の二人は顔を覚えられていたようだ。
今回はデンに荷物を持ってやってきたので一気に売りに出した。
すると、量が多いので明日清算して支払いをしたいといわれた。
仕方が無いと思い了承する。
それからあれこれと話をしては待たされ、それの繰り返しで気が付けばお昼になっていた。
もう用は無いとばかりに最後に一言言ってから帰ることにした。
「また明日も売りにきます」
「「「!!?」」」
ガタッと椅子から立ち上がる音がいくつも聞こえた。
そして話し声も……。
「外のでっかい狼、この前大穴に飛び降りたのを見たぞ」
「俺も見た。返ってこれたんだな」
「この短期間でまた……何か方法があるようだな」
「じゃあ明日も下層の素材が売りに出されるってことか!? こうしちゃいられん!」
人々がざわつく中、ニヤリとした顔を隠しながら外へ出た。
屋台をはしごして各々好きな食べ物を購入する。
匂いにつられて買い込んでいるが、昼からは運動するので食べ過ぎないようにと注意しておく。
乗合馬車には乗らず、歩いて街の外へ出て迷宮の方へと歩いていく。
「旦那様」
「ああ、これくらいなら俺でもわかるよ」
アプスが懐のナイフに手を添えて警戒する。
相手は隠れもせず、堂々とランドルフ達の後ろをつけていた。
「何か御用でも? それとも御用になりにきたとか?」
「貴様ら、ちょっと下層までいけるからって調子に乗るなよ?」
「どうせその狼がいなけりゃ何もできないんだろうが」
俺の言葉は無視かい……。
でもわかりやすくていいね~、最初からやる気満々じゃん。
やっとテンプレさんが仕事してくれたよ。
チンピラのように喚き散らす狩人達。
三十人はいるだろうか。
どうやらデンを相手にしても勝てる自信があるようだ。
「で、何の用か聞いてるんだけど」
「粋がるなよ、ちょっとばかり下層の素材を流されすぎると困るってだけの話だ」
そう言って武器を構え始めた狩人達。
「ふむ、思いのほか釣れたな」
「何を言ってやがる」
チンピラのような話し方だが動きは意外といいな。
陣形のようなものも立てているし、狙いはデンか。
デンを仕留めれば後は何とでもなると思っているのだろう。
大きな鞄もぶら下げているし、素早く動くことはできないと考えているのか。
「どれ、我が相手してやろう」
だがそこへ、うれしそうな顔をしてカナンカが前へ躍り出た。
「相手は女だといっても容赦はしねぇ! 行くぞ!」
対人なのだが魔物と戦うかのように一対多で確実に相手を仕留める動きをしてきた。
相手を囲み盾を構えて槍を持った前衛が中距離からチクチクと攻撃してくる。
そうして足止めをして注意をひきつけている間に囲いがコの字に開いて弓や魔法が飛んできた。
タイミングもばっちり、いい連携だな。
「懐かしいの~。昔はこうやって何人もの人間が挑んできたものじゃ」
昔って……そのときはドラゴンの姿だろ。龍人の姿とは全然違うじゃないの。
ヒラヒラと攻撃をかわし、ワルツでも踊るように回転しながら間合いを詰める。
ドンッ!
「ぐはっ!」
鈍い音がしてカナンカの放った回し蹴りが男が構えている盾に当たったのだが、相手は衝撃を受け止めきれず吹き飛んでいった。
ぽっかりと前線に穴が開いたので、その開いた穴から相手の中にもぐりこみ、後衛を次々と昏倒させていった。
「すごい、まるで相手が吸い込まれるかのように動きに合わせて倒していってます」
「どう動くか次の相手の行動を読んでいるんだな。だからそっと手を添えるようにしただけで相手が倒れる」
くっそー、あいつ俺の柔道の技からそこまで読み取りやがったか。
まじで天才だわ。
相手が驚いて距離を取ろうとしたところを、さらに一歩奥に近づいて抱きつくように首筋に手を曲げて添える。
そして相手が下がる力と、こちらが手を引く力が合わさってガクリと首に衝撃がはしる。
すると、くねくねと糸が切れた人形のようにその場に崩れ去って意識を失った。
向かってくる相手に対しては、カナンカがそっと突き出した拳に、相手が自分から激突していっているように見える。
「意味がわからん」
「敵はわざと倒されに行っているのか?」
「まるで演劇でも見ているようだ」
勝手に敵が倒れていってるように見えるため、不思議に思えて仕方が無いようだ。
「でも子爵様よりはまだ現実的だな」
「伝説の守護竜様が人間のような攻撃をして、人間なはずの子爵様が人間離れな魔法を放つってか」
「いえ、カナンカ様の動きも人間離れしていますけど……」
近衛二人の会話にランクイロが言葉を挟む。
すっかり二人も毒されてしまったようだ。
そんな話をしているうちにあっさりと倒し終わってしまった。
「つまらんな。昨日の男のようなやつはおらなんだか」
倒れた相手を一瞥した後、こちらへ戻ってくると、早速ランクイロに質問攻めにされてしまった。
代表格の男を起こして尋問する。
「誰の差し金だ?」
「……」
だんまりなのでアプスがナイフを首筋に突きつけた。
「……ぐっ!」
太ももとふくらはぎにナイフを刺し、ふくらはぎのナイフから抜き取る。
「アプスもそれ好きだねぇ~」
「脅すのには効果的かと思いまして。では今回は変えましょうか」
血がどくどくと流れ始める。
「話すまで永遠に痛い思いをさせる事になる。さっさと話したほうがいい、こっちには治療できる魔法使いがいるんだ」
「!?」
言葉の意味を理解したのか、男の表情が険しくなる。
「次は足の指だ」
足の親指にナイフを刺した。
「ぐっ……ぁ~、っ……」
かなり痛いはずだが痛みに耐えている。
他の指にも刺したがじっとこらえている。
時間がかかりそうなのであまり使いたくなかった手段をとることにした。
男の耳元でボソリとつぶやく。
「実は俺ってさ、貴族なんだよね」
家紋の入った指輪を見せ付ける。
男は今まで流していた汗とは別の汗を流し始めた。
「ついでに言うとあそこで眠たそうにボーっとしているフード被ったのがいるでしょ。あの人、宮廷魔法士」
そこまで話すとついに観念して、家族だけは勘弁してくださいと涙ながらに許しを乞うている。
落ち着いて話をさせるために治療して、話してくれるなら刑は軽くすると言いくるめた。
「で、誰?」
「サランモ商会のペントサです。そいつに倉庫を借りて素材を溜め込んでいます。もっと値段が上がってから売ると言っていました」
「誰?」
別の意味で同じことを言ってしまった。
大体の言いたいことはわかるが、まだ少しおどおどしていて、断片的なことを言って内容がわかりにくい。
「この辺りではそれなりに名の知れた商会だ、です。ゲチェクトさんと手を組んで素材を買い取っている……ます」
「ふ~ん、そのゲチェクトって人から買い取った素材の値段が下がったら赤字になるって事かね~。ずいぶんと高値で買い取ったのかな?」
買い取り値段より売値の相場が下がれば当然赤字だ。
だが値段が上がっている現状では、貯めれば貯めるだけ得をする。
「ゲチェクトって誰?」
「下層で狩りをしている連中をまとめたすごい人だ。この迷宮では上位の狩人だ、です」
「昨日あった大きな剣を持った筋肉ムキムキな人の事かな?」
「大剣を持っていてそんな体系なら恐らくそうだろう」
「あの人か~。んで、二人の指示でやったのかな?」
「ペントサの禿野郎の指示だけだ。ゲチェクトさんは関係ねぇ!」
独断専行ってことか。そいつにも話を聞いてみないとな。
貴族を襲わせたってことで重罪に処せるしな。
「まあこれで半分は事件が解決したって事かね~」
「知らぬ存ぜぬを通されるとは思いますが、まぁ、残りは魔族ですね」
結局そこなんだよね。
そのベントサって奴を懲らしめるためにも相場を元に戻すのが効果的か。
「とにかくこいつらを衛兵に突き出して伯爵に報告します。子爵様はこのまま狩りをして素材を流していただければと」
「あいよ~」
ジオラスとジャカードは、迷宮では足手まといだと言って、この狩人達の移送と事のあらましを報告し、伯爵に協力するほうへ回るそうだ。
ランドルフは了承して、迷宮で暴れて魔族をあぶりだすついでに素材を流しまくる。
その為に後は二人に任せて降りることにした。
「んで、おい、起きろパトリーム」
「もう無理、疲労と筋肉痛で歩けない」
「またかよ!」
前回は数日開いたが、今回は連日で潜ることになる。
昨日せっせと動き回って素材を回収していた反動が来たようだ。
またデンの上でゆっくりしてもらうことになった。
「素材が落ちても拾って回るなよ?」
「……わかった」
「今返事までに間があったが……まぁいい。それで二十二階層の敵は何がいるの?」
本を取り出し、ペラペラとページをめくりだす。
「数は少ないけど麒麟がいる」
「キリン? 首の長い?」
「?」
どうやら違ったようだ。
キリンが何の事か分からないらしい。
「他にもいるけど一番危険なのが麒麟だと書いてある」
鹿のような姿だが、大きな角が二本生えており、髭も生えていて背中は鱗に覆われて硬く、首元と尻尾と足首にはもこもこの毛が生えている。
そして雷を落としてくるのだとか。
「ふ~ん。雷ってなんかデンに似てるね」
「うぉふ?」
まったく興味なさそうにしていたので話を聞いていなかったのか、突然目を向けられたので何だとばかりに小さく吼えた。
「もしかして魔族が現れてうるさいって言う原因はそいつのせいじゃない?」
「かも」
雷をどかどか落とされたらそりゃうるさいよね。
ってことは魔族と遭遇するかもしれないのか。
ちょっと気を引き締めないと。
皆にもそう伝えて気を引き締めてもらう。
強敵かと楽しみにしているカナンカに少し困った顔をするランクイロ。
アプスはランドルフを信頼しているので落ち着いている。
他は興味なさそうだ。
いつも通りだな。
よし、行くか!
姿を隠し、迷宮の前までやってきてそのまま大穴へと飛び降りた。
目指すは二十二階層である。
お時間いただきましてありがとうございます。




