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9話


~パンターナ辺境伯の館~



 「なに!?島を発見しただと!?」


 船の話が終わり、次の報告を聞いてそう叫ぶのは、館の主であるアクラナス・パンターナ辺境伯。

 髪の毛の薄い中年太りのお腹が目立つ男である。


 「はい、かなり大きい島のようです。こちらが島の地図です」


 報告に来た兵士が答える。


 「よし、すぐに兵士を送り込んで押さえるんだ!!」

 「お待ちください」


 突飛な発言に家令の男がすぐに止めにはいる。


 「何を待つ必要がある!!グズグズしてるとスプモーニ商会の奴らに先を越されるぞっ!!」

 「まずは詳しく話を聞いてからです。それに我々はそのスプモーニ商会に無理を言って兵士達を同行させたのです。話し合いもせずに勝手に押さえるなどと、これ以上余計な軋轢を生むと今後の関係に支障が出るやも知れません。まずは連絡を取り、話し合うことが必要かと。国王陛下への報告もです」

 「新型船には私も出資したんだから気を使う必要はないっ!!国王陛下への報告は島の安全を確保してからでも遅くはないだろう!!」


 それを聞いて家令はいつもの事ではあるのだが内心あきれた。仮にも辺境伯なので、ある程度の裁量は任されているのは確かだ。


 「その出資も新しい船の技術を手に入れるために無理やりねじ込んだのです。心の内はいい顔をしていないでしょう。下手をすれば取引がいくつかなくなるかもしれませんぞっ!!」


 もともとスプモーニ商会が主導で建造していて、完成間近だったのを、技術を手に入れるために技術者と資金を無理やりこじ付けで出資して、共同開発という形にしたのである。


 家令に言われて悔しそうな顔を浮かべる辺境伯。しかし彼にも一応考えがあった。


 「ぐぬぬ……、商人なんぞの顔色を窺わねばいかんとは……。だが島に軍を配置できれば海戦になったとき挟み撃ちにして有利にことを運べるだろう。海賊などの拠点になってしまっても困る!最近南側はきな臭いと聞くぞ」


 当然その程度の考えは家令も持っていた。兵士に尋ねる。


 「島までの距離もかなりあるのですよ?それより住民はいたのですか?」

 「はっ、一人子供が住んでるだけだそうです」


 辺境伯の言葉を遮って話を続ける。 


 「子供が一人?他国のものではないのですね?」

 「どうも原住民かと思われます。一人でずっと住んでいるとか」

 「やはり他国に気づかれる前にさっさと押さえてしまえ!!子供一人の事などどうでもいい!!」


 子供が一人でずっと島に住んでいる?家令は疑問に思った。


 「し、しかし、船員達が話していたのを聞いてますと、どうも凄腕の魔法使いだとかで……」

 「な、なんだと?本当なのか!?」


 辺境伯は興奮しながらも落胆気味に問いただす。


 「はい。直接見たわけではありませんが魔法を使うのは確かなようです。あと雷狼を飼いならしておりました。それはこの目で確認しております」


 子供とはいえ魔法使いがいるとなると無理やり押さえるのは困難だ。凄腕ならなおさら。有名で凶悪と云われる魔法使いは、知っているだけで五人いるが、一人で戦況を一気に変えてしまうと聞く。実際に見たわけではないが砦ひとつ簡単に吹き飛ばしてしまうとか。


 「雷狼までかっ!?」

 「これは無理に押さえるのは厳しいかと」


 幸か不幸かその子供のおかげで辺境伯の暴走は押さえられそうだと内心ほっとする。


 「わかっている!!船長を呼び出せっ!!スプモーニにも話をせねばならん」

 「国王陛下への報告も忘れずにお願いします」

 「言われんでもわかっている!!」


 一礼して兵士とともに部屋を去り、家令は何度目かのため息を心の中ではいた。

 廊下を一緒に歩いてる兵士に子供の事について尋ねてみる。


 「子供の事についてほかに船員の話は聞けなかったのですか?」

 「え、えぇ。新兵が船員とやらかしてしまったので、その……必要なこと以外話ができなくて……すみません……」

 「その報告は受けていますし、気にしていません。何か少しでも情報が欲しかったのですが……。好きな食べ物とかでもいいので」

 「そう…ですね…、一人で住んでいたためか、やたらと外の事を聞いて回っていました」


 ほう……。だとすると懐柔してこちらに付くように仕向けるべきか。興味があるなら餌で釣れば簡単だろう。凄腕の魔法使いなら尚更引き入れたいところだ。


 「なるほど。わかりました、助かりました」

 「いえ、それでは失礼いたします」


 そういって兵士は去っていった。


 これは本当に商会との競争になりますね。ですがこちらは無茶を通しすぎたので強く出れない。島を見つけた船に兵士を同行できたのはよかったですが……。話し合いで有利に進めないといけませんね。権限はこちらにあるわけですし。





 翌日に知らせが届いたて船長とスプモーニは、予定を調整して会うこととなった。辺境伯に呼び出さた館に向かい、話をまとめていった。


 まず、試運転を終えて『船の所有権は商会が保有する。しかし戦時下などの緊急の折には接収することとする』とした。

 スプモーニとしては別にこの船を売りたかった。魔法使いと技術部と話をしてすり合わせていくと、相性や熟練した魔力調節技術と理解がいることがわかった。


 実験段階で雇った魔法使いは十分に実力を発揮できていた。ミスリルの魔力伝導効果で魔力を増幅し、少ない消費で効率よく運用できていたのだ。

 しかし、調節や相性によって、無駄に魔力を吸い取られていくこともわかった。


 商会が欲しいのは安定した出力を維持できる高性能な船なので、失敗作とも言える船だと判断していた。すでに失敗を踏まえて新しく作っている船は、マストに刻まれた魔法陣を改善して素材の配合を調節しており、今のところ試作は順調だという。

 今回の内容ではその失敗した船を戦時下で貸し出すということなのであまり懐は痛まない。


 次に、『島の所有権はランドルフにあることを認める』これは辺境伯が渋ったが、詳しい調査もまだであるし、国王に相談しなければならいないことなのでいったん保留。ひとまず海軍を駐屯させて他国が介入できないようにすること。

 船長がランドルフの意思を尊重し、損のないように配慮して伝えていた。それを家令がまとめて辺境伯は国王に伝令をとばした。


 『ランドルフを連れてくるのはまず商会が先であること』これを聞いた辺境伯は怒った。「ここを治めているのは私だ!!先に会いに来るのが筋だろう!!」

 しかし商会に借りがあるのも事実なので、これでひとつ消えてくれるならと渋々呑み込んだ。それに後からでも色々条件を付ければこちらに付いてくれるだろうという思惑もあったし、他にもやりようがあると思ったからだ。


 だがスプモーニとしても、ランドルフの魔法の腕前が辺境伯に気づかれていると感じ、苛立ちを隠しながらも、この機会にどうやって辺境伯より先に取り込むか頭をめぐらせていた。ここで約束はしたが、もしかしたら事故を装った妨害があるかもしれない。辺境伯は半分飾りで、うまくその周りが操って領をまとめているからだ。


 協議は進み、商会側はランドルフの具体的な実力を隠しながらまだ貸しはあるぞとほのめかし、釘を指す形で利益を得るために、話を有利に進めようとする。それを辺境伯側はのらりくらりとかわし、しかし実権はこちらにあると強い態度で話しを詰めていった。





~レスタイト王国の首都セルリア~


 人口約30万人が住むレスタイト王国最大の街である。街の西には大きな山脈が見え、街の外の東には穀倉地帯がある、涼しい乾いた風が吹く街。その街の北側に、大きな池に囲まれ、橋を渡って緑の先を進むと大きな城がある。国王の住むセルリア城だ。


 王の私室にて、レスタイト王は宰相のラルゴと話をしていた。


 「新たに発見された島があるそうだ。発見したのはパンターナ辺境伯(・・・・・・・・)。『船の試験運用中に見つけた』だそうだ。読んでみろ、どう思う?」


 王は送られてきた手紙を渡して意見を聞くことにした。


 「ふ~む……。調査はこれからだと書いてあります。間に合わないかもしれませんが辺境伯に遣いを出されるべきでしょう。それよりも子供のほうが問題ですな」

 「雷狼を従えた凄腕の魔法使い……か。恐らく辺境伯は植民地にでも、と考えていたんじゃないか?雨量が多いなら小麦の栽培には適さない。だが押さえないわけにはいかない」

 「この子供……ランドルフが島の所有権を主張しています。当然ではありましょうが……一人で島の運営は意味を成さないでしょう。生きていくだけで大変だとおもいますなぁ。王国に属するのはかまわない…と。その代わり移民を募る許可を求めておりますがいかがいたします?」

 「子供なんだろ?まずは凄腕とやらを見せてもらいたいな。島を守れるのかどうか……、凄腕ならば無能ではなかろう?」


 言ってはみるが、正直島の事は興味がない。魔法使いの腕のほうが大事だ。こちらに取り込めれば国の戦力があがる。名を売って他国への牽制にもなる。本当に優秀なら島に代官を置いて、手元に居させるか……。


 「領地を治めさせるなら爵位も授けないとなりませぬ。辺境伯を寄り親とし男爵位を授けては?」

 「いきなり男爵か。魔法使えるならそれもありか。文官を派遣して島の運用を任せて様子を見よう。本格的に移民を募るのはそれからだな」

 「読んでみる限り旨みのない島のように思えます。距離も高速船で一週間ほどとか」


 レスタイト王は「それがあるんだよな~」と困った様子だ。距離も遠いし小麦が育たない土地。他に旨みもない。だけど遊ばせておくことはできない。他国に取られたりすれば海域が狭くなる。目の上のこぶになりかねない。王国の所有物にするのは決定事項だ。


 「結局あたりまえの事ばかり決まってしまったな。とにかく島の調査結果と、まずは一度会ってからにしよう」


 こうしてランドルフは、スプモーニ、辺境伯、国王と色々な人物に会わないといけなくなってしまったのである。

お読みいただきましてありがとうございます。

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