86話
不定期更新で申し訳ない。_(:3」 ∠)_
十九階層の出口から出て、階段の広い場所にテントを張って遅い昼食をとる。
この階層には他には人がいないようだ。
「問題点として、まず盾役がいないよね。普通はいるものなんでしょ?」
ジオラスとジャカードのほうを向いて質問する。
「ええ。敵の注意をひきつけ、身を盾にして仲間を守り、時間を稼ぐ前衛がいるのが普通です」
「その間の魔法使いが詠唱し、弓で遊撃する人の援護などを行いますね」
どれ、私が一肌脱ぎますかね、っつってな。
できればランクイロとアプスに戦って欲しかったけど、この雰囲気だと無理そうだしな。
「じゃあ俺が前に出るよ」
「「「え?」」」 「いけません!」 「!?」
それぞれの反応を見せるが話を続ける。
「とりあえず俺が全員を守れるように前に出て結界張るから。カナンカ遊撃頼むわ」
「任せるがよい。やっと暴れられそうじゃな。クックック」
不敵な笑顔を見せるカナンカは、葡萄パンを口に頬張ると立ち上がって準備運動をし始めた。
「旦那様が前に出る必要はありません!」
「じゃあ真ん中で結界張ってるよ」
「そういうことではありません! 旦那様の手を煩わせるなんて……それでは私が頑張ってきたことは一体……」
お、重たい……。そこまで考えられると少し重たいぞ……。
「もっと気楽にすればいいじゃん。出来る人が出来ることをやればいいんじゃね。身の回りの世話とかは助かってるしさ。俺も久々に本気で狩りが出来そうだしね」
「でも危険です!」
「危険は無い。はっきり言って俺の結界はカナンカの攻撃でもビクともしないね」
ピクリとランドルフの発言に反応したカナンカは少し物申した気である。
しかし、実際に試したことがあり、まったく刃が立たなかった。
そもそも俺の結界は文字通り次元が違うしな。
だが悪く言えば慢心、油断。良く言えば自負や自信といったところかね。
まぁ、後者だが。
「……くっ」
「今回は様子見だって最初から言ってるんだし、雰囲気を味わえばいいよ。それも経験だし」
自分よりかなり年上の人に経験を語るとか……。
アプスもダークエルフ内ではリーダー的存在なんだしそれくらいはわかっていそうだが……。
ここまで何もできなかったことはアプスも経験したことがない。
山で狩りはしてはいたが、ゴブリンの王といい、これほど強い敵と戦ったことは無いに等しい。
掟だ何だと山にこもって世界の広さを知らなかった。
「情けない話ですが我々もここでは何も出来そうにありません」
「最初から護衛の役割としてはダメでしたがね」
「お二方もいい経験が出来るってことで」
「既に色々と経験させていただいてますが……」
二人も少し落ち込んでいる様子だが、どこか割り切っている感じもある。
「ってかさ~? まんねんようじゅ? だっけ? あれ、あたしが何とかしようか?」
「なぬ? 何とかできるのか?」
「植物なら抑え込むくらいなら何とかできるよ?」
「まじか。お前以外と優秀だな~」
「へっへ~ん。もっと褒めたっていいんだよ!」
ドヤ顔うぜぇ……。
でも精霊の事といい、地味だけど優秀だなこいつ。
「妖精族は普段から植物と密接に関係している。満月の夜に妖精たちが踊るのは、植物達を育てるためだと聞いたことがある」
「そういう意味もあるよ」
パトリーム博士が関係性を教えてくれた。
「も」ってなんだよ。まあ今はいい。
「ってことで飯食べて少しゆっくりしたら日が落ちる頃まで行きますか」
「「はい……」」 「うむ!」 「は~ぃ!」 「……」 「「わかりました」」
う~む。二名ほどテンション低いな~。
食後のお茶もいただき、ほっと一息ついたので再び突入する。
ドーム状に結界を張って完全防御状態である。
ただし地面は不可!
「ってことでさ、地中から攻撃してくる敵はいないんだよね?」
「いない……はず」
警戒はしておくが、いるなら負担は増える。だが宙に浮けばいいだけだし大丈夫だろ。
林道と言っていいような場所を歩いていく。
アマレットがランドルフの肩の上で唸りだし、困った顔をしていた。
「ん~、ごめんランドルフ。やっぱり抑えるの無理みたい。お願いしてみたけど話が通じないの」
「おい! 今さら言うなよ!」
頼もしいと思ったのに、俺の気持ちを返せ!
その時、結界にバシッと衝撃を受けた。
「ごめんってば! でも相手がどこにいるのかはわかるよ!」
「ちゃんと攻撃してきたところを見ていれば我にもわかるわ! そこじゃ!」
そう言ってアマレットが居場所を言う前にカナンカが敵に向かって突進した。
体ごと弾丸のごとく放ち、構えた拳は万年妖樹に突き刺さって、相手は成す術も無く胴体が破裂し、折れてしまった。
それは縮地法や箭疾歩を超えた何かになってしまっていた。
「たわいないな」
「ランドルフ、回収! 回収して!」
珍しくパトリームが興奮してせがんでくる。
ランドルフが声をかけ、カナンカが枝や葉っぱを抱えて戻ってくる時にまた別の敵に攻撃されていた。
「むっ、気が抜けぬな!」
荷物も抱えながら攻撃を避けるのは難しかったため、ランドルフの方へ素材を放り投げて敵へと向かっていった。
デンから飛び降りたパトリームは、すぐさま投げ捨てられた素材を回収する。
「おぃ! 危ないって!」
「おぉ~! これはいい魔力。葉っぱは軟膏の材料に使える。枝は硬く魔力も通しやすいから武器の素材にも使える」
「ほほぉ~」
興奮しっぱなしのパトリームは強敵を前にしても平常運転だ。
デンの両脇にぶら下げられている大きな鞄に、束ねた枝や葉っぱを押し込んでいた。
「ランドルフ、あっちにもいるよ!」
「どれ?」
「あそこ!」
アマレットが指し示す方向を見てもただの木にしか見えない。
とりあえず木に向かって穴を開けておいた。
すると、ただの木だと思っていたのは本当に万年妖樹だったらしく、穴を開けられて死ぬとシワシワに枯れてしまった。
「お前すげぇな。名誉挽回だ」
「どうよどうよ~!」
「その調子で教えてくれ」
「は~ぃ!」
その後も、カナンカは前を歩いて同じように攻撃を仕掛けられたら反撃し、ランドルフはアマレットに教えられた木に向かって穴を開けていった。
安全になるとすぐさまパトリームが走って素材を回収する。
「ってか足……筋肉痛だったんじゃ……」
まったくもって現金なハイエルフ様である。
最強の盾と矛により、休む暇は少ないが危なげなく順調に進んでいった。
「まったくついていけない……」
「子爵様なんて、あの槍? 杖? あれをアマレット殿が言った方向に向けてるだけだぞ。何故それだけで敵に穴が開くんだ?」
「守護竜様は攻撃された後、消えたと思ったらいつの間にか敵をなぎ倒してるし……」
「「何なんだこの人たちは」」
二人は本日何度目かの理解できない事が起こって呆然としている。
「カナンカ様すごい……」
「くっ!」
次々に敵を倒すカナンカに目をきらきらさせるランクイロに対して、ただじっと見守ることしかできないアプスは悔しそうである。
「ふぅ……。大体どれが万年妖樹とやらかわかってきたぞ。ランクイロ、アプス、目を凝らしてみてみるがよい。枝の位置が普通の木とは違って少し不自然なのがそうじゃ」
カナンカのアドバイスを聞いたアプスは注意してよく観察するとなんとなくだがわかった。
「行きます!」
一声かけて万年妖樹と思われる木に向かって駆け出す。
どうやら当たりだったのか、近づくと鞭の様に振るわれた枝による攻撃が襲ってきた。
頬をかすめたが、ギリギリ何とかかわす。
射程距離に入りナイフを投げて突き刺し、近づいて枝も刈り取る。
「もらった!」
止めを刺そうとした時、地面が盛り上がって根っこと思われる部分がアプスの足に絡みついた。
「ぐぁ!」
締め付けが強く、足がちぎれそうになる。
それを見ていたランドルフは、縦に空間を切り裂き、根っこを切断した。
「助かりました!」
サムズアップで返答し、ランドルフはまたひたすら穴を開ける作業に戻った。
援護をもらったアプスは、ジャンプして木の胴体にナイフを突き刺す。
だがダメージはあまり与えられていないようだ。
何度も切り裂き、突き刺し、枝を刈り取って胴体に傷をつけていく。
すると妖樹はフルフルと震えだし、枝や葉っぱ同士が擦れてカサカサと音が鳴った。
「これは!」
どうやら仲間を呼んだらしい。
根っこをうねうねと動かしてアプスの方へと何体かやってきた。
しかもカサカサと鳴らした音はそれだけでなく、なんと魔法発動させ石つぶて放ってきた。
「っ!」
これは堪らないとばかりに距離を取ったアプス。
「くっ! 何か手は無いのか!」
「アプスさん! 加勢します!」
流石に敵の数が増えて不利になったので加勢に来た。
「ランクイロ君。私が魔法を使います。敵の注意を引き付けて」
「わかりました」
ランクイロが前に出て、アプスの攻撃で弱っていた妖樹に爪を突き立て何とか倒した。
「硬い!」
しかし、他にも敵はいるのでまずは厄介な枝を切り落としていく。
その間にアプスがランドルフ考案の特殊なナイフに持ち替え、集中するために詠唱を開始し魔力をこねる。
旦那様に教えてもらったやり方はまだ無理だが今までよりは!
ランドルフ理論により発生までの速さと威力が上がっていた。
元の姿に戻ったカナンカが火を噴いたときの事をイメージして魔法を発動させた!
「さがれ!」
掛け声と共にバックステップで攻撃を回避しつつ後退し、アプスの後ろへと戻ってきた。
「はっ!」
気合を込めて火炎放射を放った。
「おぃ……森の中で火を使うなよ」
ランドルフはそう言うが、アプス達は必死なのでそんなことを気にしている余裕は無い。
妖樹達は炎に包まれ、表面が焦げ付いて黒ずんでいるがまだ倒せていない。
「なら僕が!」
ランクイロが再び飛び出し、カナンカの技を真似て黒ずんでボロボロと崩れている体に拳で殴って止めを刺した。
何とか倒し終え、結界の中へと戻ってきた二人。
「私の腕では力が無いので、倒すのに時間がかかりすぎてダメのようです」
「弱った相手なら止めをさせますが、枝が邪魔で懐に入り込めないですね」
「じゃあ二人で組んで敵を倒してみなよ。アプスがナイフ投げでけん制している間にランクイロが懐に入ればいいんじゃね? それなら仲間を呼ばれる前に倒せるっしょ」
二人ならいけると手応えを感じていたので、次は自分達がと闘志が芽生えているようだ。
だが、やってやろうと前に出たとき、騒がしく敵を倒していたためかワイバーンにこちらを発見され、音もなく突如としてすごい勢いで空から急襲された。
しかしランドルフの結界に阻まれて自ら壁に激突した形になった。
脳震盪を起こしたのか地面に落下して動かない。
「と、とりあえず止めを刺しましょう」
アプスが首筋にナイフを突き立て止めを刺した。
他のワイバーンたちも、こちらを発見するとすぐに突進してきて見えない壁に激突していった。
万年妖樹は手ごわいのにワイバーンはチョロすぎるな。
何もしなくても勝手に地面に落ちていくし……。
妖樹を相手にしたかったのだが、次々に落ちてくるワイバーンに止めを刺す事に時間を取られてしまった。
そうしている間に周りに敵はいなくなったようである。
「ふぅ……、ひとまずおつかれぃ」
「ふっふ~ん。あたし役に立ったでしょ!」
「そうだな」
もっと褒めろとばかりに鼻が伸びてふんぞり返っている妖精は、その鼻をランドルフに軽く小突かれた。
「……」
黙っているが鞄から溢れている万年妖樹の素材を見て、ハイエルフの目が輝いている。
「ほとんど何もできませんでした……」
「いや~、久々に暴れられて気分がよいの~。何か新技を会得した気分じゃ!」
「その技、僕にも教えてください!」
意気消沈気味のアプスに対し、カナンカの動きを見て自分にも取り入れようと向上心溢れる若者がはしゃいでいた。
「出鱈目だ……」
「陛下に報告する時にどう言えばいいのか……」
かつてジュレップが悩んでいた悩みが近衛の二人に襲い掛かった。
「まだほとんど進んでないけど荷物一杯になっちゃったね」
デンがぶら下げている二つの大きな鞄はパンパンに膨らんでいる。
「当然ですよ。普通あんなに敵がいたら逃げるものです。短い時間にこれほど倒してしまうお二人がおかしいのです」
「ベネディッタさんの真似はいいぞ」
「うっ……」
先読みしてアマレットをけん制する。
「ここにあんまり狩人はいないみたいだし溜まってたのかもね」
「そうかもしれません。あまり溢れてしまうと階層を移動してしまいますからね」
「じゃあちょうどよかったか。でも本当はもっと滞在する予定だったのになぁ~。せっかく拾った素材を捨てて移動するなんてもったいないし」
捨てると言ったとたんにパトリームに睨まれてしまった。
しかしギガンテスを見かけなかったな。まっ、いっか。
「一旦帰ろっか」
「そのほうがいいかもしれませんがどうやって帰るんですか? もうすぐ外は日が暮れそうですが」
「え? 来たときと同じように帰ればいいんじゃね?」
「「?」」
どういうことかわかっていない様子である。
「ひゃっほ~!」
大穴の壁沿いに空中に浮かんでものすごい速さで急上昇する。
「み、耳が詰まる」
「あ~、それ唾飲めば治る人が多いよ」
「……本当だ。不思議ですね」
「違う、そこじゃない。こんなに早く上に昇れるなんておかしい!」
どうやら二人は行きしなと同じようにゆっくりと昇降するものだと思っていたらしい。
これほどのスピードは想定外だったようだ。
「うわ……、もう地上に出るよ……」
などと言っている間に地上に出てしまった。
空高くつきぬけ、地平線に見えた夕日が沈んで夜になろうとしている。
「とりあえず伯爵の屋敷に帰ろうか。素材を売るのはまた後日ってことで」
その時、パトリームに袖を引っ張られた。
「万年妖樹の葉っぱ欲しい」
「って言ってますけど皆さんいいですか?」
「私は何もしていませんので守護竜様と子爵様がお決めになってよろしいのでは?」
ジオラスの言葉に他の全員が頷いた。
「我は別に要らぬぞ」
「じゃああげる」
「タダは悪い。買い取る」
「いらないよ。その代わり軟膏が作れるんでしょ? できたらそれを少し分けてよ」
「わかった」
伯爵に挨拶をして、急に帰ってきたにもかかわらず夕食を用意してくれた。
鞄一杯の荷物を保管してもらい、食事の席であれこれと話をして盛り上がった。
話の大半を信じてもらえなかったようだが……。
ともかく迷宮の様子見(?)を無事に終えた一行は少し成長し、本来の目的を忘れて堪能したのであった。
お読みいただきましてありがとうございます。




