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84話

次回は早いかもと言ったが……結局いつもどおりだったorz


 四階層を歩いていく一行。

 だが10分ほど歩いても魔物が現れない。

 そう一般人は思うかもしれないが、実はさっきからずっといた。


 「うわ……。壁や天井に蝙蝠がびっしり……気持ち悪い」


 光を向けると赤い目をした蝙蝠たちがうじゃうじゃと蠢いている。


 「あれらは基本無害。おいしいところも無い」

 「そんな感じで情報をどんどん教えてくれ。頼りにしてるよパトリーム博士」

 「……」


 下を向き、顔をフードで隠して黙っているが、どうやら照れているようだ。


 魔力を探ったり気配を感じたりすると数が多すぎて気持ち悪いな。

 こいつらは警戒の対象外にしておくか?

 いや、言った側からすぐに油断はダメだ。


 慣れるしかないと思い、進んでいく。

 所々滑って転倒しそうになるが、アプスが支えてくれた。


 「流石ダークエルフ。悪路でも問題なしだね」

 「そうでもありません。これでも歩きにくいと感じています」

 「我は大丈夫じゃ! ランクイロもこの程度で転ぶようなことがあれば鍛えなおしてやる!」

 「はいー! がんばります!」


 誰もお前の事なんて聞いてねぇし。ランクイロかわいそうだ。


 護衛二人は何度か潜ったことがあるために慣れていそうだ。

 デンもしっかりと地面を掴むように歩いて問題なさそうである。

 パトリームはたまに天井から伸びている岩のツララを避けるのに苦労しているようだ。


 デンはでっかいからな~。アマレットが声を掛けているからいいが、注意してもらわないと。


 雑談をしていると、前から明かりが見えて鈍い音が聞こえる。

 誰かが戦闘しているようだ。

 念のためにアマレットはデンの首の辺りに隠れ、ランクイロは変身状態を解いた。


 「はぁ!」

 「ギョワ!」


 人間の男性が剣を振るい、ヒマシオオトカゲを倒したところだった。

 その後ろで四人ほど控えている人たちに会釈だけして通り過ぎる。

 デンを見て驚いているようだ。

 ヒソヒソと話し声が聞こえたが無視して先に進んだ。


 「そりゃ他の人もいるよね」

 「でもこっち見てぼそぼそしゃべられるのは気分が悪いですね」

 「彼らがいたから敵がいなかったのかも」


 すれ違った感想を話しながら進むとこちらもヒマシオオトカゲと遭遇した。

 どうやら魔力を探ると六匹いるようだ。

 光を当てると上半身を起こし、どこを見ているのかわからない目をキョロキョロさせていた。


 「ランクイロ、行けい!」

 「は、はい!」


 カナンカの声に押されてランクイロが先制攻撃をしかけようとした。

 すると、ヒマシオオトカゲはビクッと警戒する反応を見せて、体をプルプルと振るわせ始めた。


 「うわっ! 油が!」


 ヒマシオオトカゲから油が飛び散り、辺りをびちゃびちゃと濡らす。

 一旦距離を取って油を回避する。


 「「「ギョワ!」」」 


 トカゲ達は騒がしくセコセコと油の上を動いている。


 あれが目に入ったら嫌だな。しかも距離取っちゃったし、あの辺り一体油だらけですべるのは確定だな


 ランクイロがどうしたものかと考えていると、トカゲの一匹が長い舌を伸ばして鞭の様に攻撃してきた。


 「えっ? あっと!」


 突然の不意打ちに近い攻撃に驚いて回避するも、足場が悪く転倒しそうになるのを何とかこらえる。

 その隙にほかのトカゲ達が体当たりをしてきた。

 ランクイロは体当たりをもろに受けてしまったが、まったくダメージを受けた様子は無い。

 何とか踏ん張り、近づいてきたのが好都合とばかりに爪で引き裂いた。


 「うえ~。油で体がベトベトです……」


 別の事でダメージを負ったようだ。

 それだけでなく油臭さもべっとりと付いてしまったようだ。


 「名誉の戦死だな」

 「死んでません!」


 可燃性の高い油を出せるなら、トカゲに火をつけたら爆発するんじゃないのかね?

 ガソリンが入ったポリタンクみたいにさ。


 「それはない。彼らにとっては人のいうところの汗と同じようなもの。体の中に油が詰まっているわけではない」


 パトリーム博士の説明助かるわ。


 「つまり魔物の汗を体中に浴びたわけじゃな。しばらく近寄るでないぞ」

 「ひどいです!」


 心なしか全員が少しランクイロとの距離を離した。

 そのことにショックを受けているが、油まみれなので致し方ないと諦めたようだ。


 水で洗い流そうにも油だからな。仕方ないね。


 以降、ヒマシオオトカゲが現れた場合はすべてランクイロが処分することとなった。

 ゴブリンもいるようだがまったく見かけない。

 アプスが巨大なゴキブリやムカデに向かってナイフを投げてすぐに処分していた。


 刺さったナイフを引き抜いたときに出る謎の液体は……。

 そのナイフちゃんと洗ってね……。


 大きな蝙蝠はこちらが攻撃しない限りは襲ってこないようだ。

 しばらく歩いて緩やかなカーブで下っていく。


 「後どれくらいだろ?」

 「四階層はこの調子のまま歩いていけば、後二時間ほどで抜けると思います」


 ジオラスが答えてくれた。


 「確か途中に水の流れる場所があって、そこは安全地帯で休憩地点になっているはずだったかと」


 記憶と地図を頼りに確認しているようだ。


 それにしてもゲームみたいにほいほい敵と遭遇するわけじゃないんだな~。

 少し退屈かも。


 そう言っている間に休憩地点に着いたようだ。

 壁から水が流れており、光もだいぶ強く照らされていて兵士の人が辺りを監視していた。

 魔物達はここにはやってこないようで、他の狩人達も何組か休憩している。

 ランドルフ達がやってくると、やはりまず目に入るでかい雷狼に驚いている。


 「休憩する?」

 「私はいいです」

 「「我々も特には」」

 「……」

 「いらぬ!」

 「……はい」


 ランクイロは油まみれなのをどうにかしたかったようだが、人も多いので水浴びすることを諦め、さっさと抜けることを選択したようだ。


 「お? 昨日のお坊ちゃまじゃねぇか?」 「なるほど。魔物使いだったのか」 「でも今日は武器を持ってるな」


 昨日、組合で会った狩人達が声をかけてきた。


 「昨日はどうも。縮こまってるのはやめたんです?」


 先制パンチを放つランドルフ。


 「よせ、俺達は挑発するつもりも言い争うつもりもねぇよ」

 「おっきな雷狼がいるから怖気づいたんですか?」

 「あ~、そういうことでいいから。話しかけんな」

 「話しかけてきたのはそっちでしょ」

 「それはすまんな。俺たちゃ下から上がってきたところで疲れてんだ」


 あれから一日中潜っていたのか。

 それにしても挑発に乗ってこないなんてつまらんな~。テンプレさん仕事してくれよ。


 「おもしろくないな~」

 「まっ、そのうち相手してやっから。今日のところは勘弁してくれや」


 少しランドルフが不貞腐れていると、奥のほうから声が聞こえてきた。


 「助けて~!」


 音が反響してわかりにくいが、声のする方向に暗視の魔法と遠見の魔法で確認する。

 しかし道がカーブしているので先が途切れて見えない。

 魔力を感知することにした。


 「げっ!」

 「クックック。これは面倒な」


 ランドルフとカナンカは何が起きているのか察知したが、他のもの達はわかっていない。

 やがてカーブを曲がってうっすらと光が見えると、複数の足音にその場にいた全員が身構えた。


 「一人こっちに向かって逃げてきていますが、魔物を何体か引き連れています」


 いわゆるトレインというやつだ。


 「何だって! 基本的な規則を守れない馬鹿がいやがったか! ついてねぇぜ!」


 狩人の一人が悪態をつく。


 「こういう場合ってどうするんです?」

 「あ? 何を吞気な。この階層では魔法よりはどちらかといえば近接攻撃のほうが優遇される。トカゲどもに気づかれる前にさっさとやるべきなんだが、今回は無理だ。逃げるのが賢明だな。引っ張ってきた馬鹿は生き残っても牢屋行きだ!」


 律儀に説明してくれた。

 一般人は魔法を放つのに時間がかかる。

 辺りは真っ暗なので敵の位置がわからず、明かりを向けるとこちらの存在がばれるので不意打ちもできない。

 そんなことをしている間にさっさと近づいて油を撒き散らす前に倒すのである。


 牢屋行きがどの程度の罰則かしらんけど、ぬるくない?

 人が死ぬかもしれないってのにその程度で済むなんて。

 まぁいい、さっさと倒すか。


 逃げてくる人がやってくる方向に向かって立ちふさがる。

 ランクイロが前に出て倒そうとしていたが、ランドルフが一声かけた。

 狩人達も何組かいるし兵士もいるので、他の全員ここで迎え撃つように決めたようだ。


 「助けてください!」

 「ふざけんなクソ野郎! 迷惑なんだよ!」 「お前が生贄になってくたばれ馬鹿野郎!」 「この先、道が油まみれじゃねぇか!」

 「すみませ~ん!」


 やってきた人は人ごみの中に入ると、息を切らして膝を着いて倒れこんだ。


 マジ迷惑。この先降りるのが億劫だわ。

 ってかよく走ってこれたな。滑らなかったのか?


 やがて遅れてトカゲの群れが襲ってきた。

 ランドルフは槍杖をクルリと一回転させ、横なぎに払う。

 すると、トカゲたちの胴体が真っ二つに分かれてしまった。


 「「「………え?」」」 「「「………は?」」」


 一瞬でトカゲの群れが全滅した事に狩人と兵士達は目パチパチとさせ、起こった出来事を疑っている。


 ゴブリンの時とは違って威力も制限できたし、遮蔽物も横穴も無いから楽だったな。


 「も、もしかして坊主がやったのか?」

 「そう見えたならそうでしょうね」

 「トカゲの皮と舌と水かきは売れる」


 パトリームがぼそりとつぶやく。


 「皮は……ダメですね、油も無理そうです。舌と水かきだけでも回収しますか?」

 「いや、いい。先に行こう」


 アプスがトカゲの状態を精査して教えてくれるが、どうせ売ってもたいしたお金にならないだろうと諦める。

 数も多いので回収に時間をとられるより先に進むことを優先した。


 「お、おぃ。いらねぇならもらってもいいのか?」

 「皆さんで分けてください」

 「って、そうじゃねぇだろ! 何だ今のは! 一体何をした!」

 「言うわけ無いでしょ?」


 狩人達が喚いているが少し凄んで言葉を返すと、相手はそれ以上は言葉を飲み込んで何も言わなくなった。

 誰もが気を取られている隙を狙って、逃げてきた男がその場からこっそりと離れようとしていた。

 だが察知したアプスがナイフを飛ばし、全員の視線をそちらへ釘付けにする。


 「てめぇ! 逃げようとしやがったな!」 「落とし前つけろや!」 「狩人舐めてんのかこの野郎!」 「反省する欠片もねぇ奴だ!」


 男は引き釣り戻され、狩人達に囲まれてボコボコに殴られていた。

 兵士達はそれを止める事はせず、ただ傍観している。

 命の危険があったのだ、報いを受けさせるといったところか。


 法的処罰の前に即刻体罰とは中々に……。

 まっ、でも当然か。


 「気にせず先に行きましょう」

 「流石は旦那様です」

 「ランドルフ様はすごいですね。近接戦では勝てると思っていましたが、魔法を使われたら何もできずに負けそうです」


 ランドルフの株が上がっている。


 「ふん! 我もあれくらい練習すればそのうちできるようになるわい!」


 いつものよく分からない対抗心を燃やすカナンカ。

 カナンカは空間魔法を使うことはできないようだ。


 「流石は宮廷魔法士ですね」

 「一瞬で片付けるとは……陛下に報告だな」

 「……いい」


 何がいいのかわからない。


 騒がしい休憩地点を後にして慎重に歩く。

 トカゲ達が走ってきた後には油がまかれおり、ゆっくり進まなければ滑ってこけそうである。

 そこでランドルフは歩くのをやめて宙に浮くことにした。

 休憩地点の明かりが見えなくなり、進んでいるのがランドルフたちだけになると、ジオラスが声をかけてきた。


 「さっきの逃げてきた男。どう思われます?」

 「ん? 怪しいって事?」


 迷宮内では極稀にああいうことはあるようだ。

 だがジオラスはそれもランドルフ達を追い返すための仕掛けだと考えている。


 確かにありえなくは無いが、まだ結論は出せないな。たまたまだったのかもしれないし。


 そう返すと、頭の隅っこにでも覚えておいて警戒してくださいと言われた。


 大体いつ俺達が来たってのをその独占したい奴に連絡するんだよ。

 対応が早すぎるし、きっと偶然だって。


 そう思うのだが、忠告を心に留めておいて先に進む。

 何組か狩人と遭遇するも、何事もなく横を通過する。

 相変わらず昆虫類はアプスがナイフを投げ、トカゲはランクイロが対処する。


 「んー! デンの毛がふわふわで温かいし、辺りも真っ暗だから寝ちゃってたよ」


 伸びをしてアマレットが起きたようだ。


 道理で道中静かだと思った。


 早速蜂蜜をアプスにねだる。

 やがて外の明かりが見えてきた。

 外へ出ると大穴と下へ続く階段があり、階段の踊り場ではここでも商売をしている人がいた。


 「ん~。厄介な部分はあるが結構楽勝だったな」

 「熟練者や下層を目指すものは敵を無視してさっさと進みますからね」

 「我もランクイロの動きを見ていただけで何もせんかったから退屈じゃな」

 「皆さんの強さだと下層に行かない限りは退屈かもしれません」


 ジャカードとジオラスは苦笑しながら説明している。


 「そっかー。じゃあ下層に行きますか」

 「はい? 様子見じゃなかったんですか?」


 全員が上層で狩りをして、迷宮がどういうものか理解するために潜っている、という認識であった。


 「様子見だよ?」

 「えっと……どういうことでしょう?」

 「え? なになに? 何するの?」


 アマレットは寝起きのためか若干テンションが高い。

 アプスはランドルフが何を言いたいのかわからないようだ。

 護衛の二人も頭の上に疑問符が出ている。


 「ふむふむ。それは確かにそのほうが楽じゃな」


 カナンカはわかったようだ。


 「何をするんでしょうか?」

 「……?」


 ランクイロもパトリームもわかっていない。


 大体さ、大穴が空いていて、穴の底が最下層ならやることは一つじゃね?

 わざわざダンジョンに穴が空いていると思えば簡単じゃないか。

 さっきのトレインが万が一、意図的なものなら、この先も妨害があるだろうし、それを気にすることもなくなるしね。


 「ってことでこの穴を飛び降りますか?」

 「「「は?」」」

 「クックック」

 「「「えー!!?」」」


 一行の驚く声に、商売人たちや狩人達も一斉にこちらを向いた。

いつの間にか10000ユニーク超えてました。

読んでいただいている皆様。いつもありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

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