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81話


 村を出てからカナンカの背に乗り、半日と経たずにビラントの街へと到着した。

 街の手前で下りて歩いて街の入り口へと向かう。

 検査などは行っている様子はないが詰め所があり、不審人物がいないか何人かの兵士が目を光らせている。

 基本的には出入り自由で開放されているようなのだが、詰め所で一言声をかけて入ることにした。


 「プレイリー子爵家のものです。リントゥス伯爵にお取次ぎと、街へ入る許可をいただけますでしょうか」


 アプスがリーダーと思われる人物に貴族の証を見せて声をかけた。

 デンがいるのでそのまま入るのもまずい。

 首輪はつけてはいるが、後で問題があっても困るので一応許可をもらうことにする。

 貴族とわかると、すぐにでも許可が下り、伯爵には馬を出して知らせに行ってくれた。


 「申し訳ないのですが、狭い場所ですが詰め所で返答が来るまでお待ちいただけないでしょうか」


 そう言われたので大人しく待つことにする。

 兵士達は中に入ってきたパトリームを見て、正確にはパトリームの持つ杖が宮廷魔法士のものだとわかったのかざわついている。

 リーダーと思われる人物が声をかけてきた。


 「もしや子爵様方は迷宮の魔物を退治しにこられたので?」


 内容を言うか否か。


 隠していることではないが否だな。


 「ここで話す事ではありませんので」

 「そ、そうですな。失礼したしました」


 無言になるも、やたらチラチラとこちらを見てくる。


 さっきからなんだよ。何か珍しいものでもあるのかね?

 まぁ、白い龍人は珍しいらしいが……デンの事も珍しいのか。

 ダメじゃん……。

 おっ、手配書がある。あ~、あのガブストンとか言う奴の手配書が貼ってあるな。


 ランドルたちも待っている間暇なので詰め所の中をぐるりと見渡す。


 「ね~、ランド、ふぎゅ!」


 アマレットが鞄の中から突然声を掛けてきたので、押さえ込んで黙らせる。

 鞄に向かってまだ出てくるなと小さく声をかけた。

 その対応が不満だったのか、鞄の中で暴れている。

 兵士達には不審な目で見られてしまった。


 《まだ危ないからじっとしてろ!》


 声を出さないように念話を飛ばす。

 ポコッと小さく鞄が膨らんでそれっきり大人しくなった。

 やがて兵士の一人が全員にお茶を振舞ったが誰も飲もうとしない。

 重苦しい空気のまま時間が過ぎ、やがて知らせに来てくれた兵士がお会いになると言ったので、会いに行く。

 馬車を手配してくれたようだ。












 「むっ、うっ。屋敷にある馬車、より全然、乗り心地、が悪い、の~」

 「普通はこんなもんだよ」


 ガタガタとゆれる馬車にカナンカが不満を漏らす。

 ランドルフは自分だけこっそりとお尻を魔法で浮かしているので平気だ。

 道もしっかりと整備されているわけではないので余計に揺れがひどい。

 王都ほどではないが、人の往来が多いため踏み荒れているようだ。

 通行人は馬車の後ろを付いて歩く護衛二人を乗せたデンに驚いている。

 しばらくして伯爵の屋敷に着いたようだ。

 案内され中へと通されると、金髪に飛び出た前髪にカールを巻いた中年太りの男性が出迎えてくれた。


 「陛下からの知らせで事情は聞いております。ようこそおいでくださいました。モーズレイ・リントゥスと申します」


 身分は伯爵のほうが上なのだが、国王が派遣した人物ということなのか丁寧な対応である。


 「初めましてリントゥス伯爵。私はプレイリー子爵家当主兼宮廷魔法士第八席のランドルフ・プレイリーと申します。続いてこちらは守護竜であるカナンカ様。そして宮廷魔法士第二席のパトリーム殿です」

 「おぉ! 守護竜様に宮廷魔法士殿にお越しいただけるとは!」


 守護竜と聞いて目を輝かせる伯爵。

 丁寧にお辞儀をして挨拶をしている。

 どうやら応援を派遣するとだけ聞いていたようで、誰が来るかまでは知らなかったようだ。


 俺も宮廷魔法士なんだけど……。

 カナンカの事もそのまますんなり受け入れてるし、やはり俺は見た目も子供で身分も下だからそんなもんか。


 パトリームに対しては丁寧に挨拶をするものの、ランドルフに対しては当たり障りなく普通の挨拶だ。

 当然かと思いつつ気にしないことにした。

 それぞれ部屋に案内されて荷物を置き、護衛の二人とランクイロ、アマレットを部屋に残して、アプスとパトリーム、カナンカとランドルフは伯爵に詳しい話を聞くことにする。

 アマレットは先ほどの事にプンスカ怒っていたが、ジオラスがこの街には葡萄の味がする蜂蜜があると言うと機嫌が直り、「貰ってきて!」と元気よく答えていたのでメイドさんに手に入れてもらうようにお願いすることにした。

 メイドさんに案内されて伯爵のいる部屋に入り、アプスは後ろに控え、三人がソファーに腰掛ける。

 お茶を出された。軽く口につけて味見する。


 ふ~む。甘い葡萄の香りがするお茶だな。珍しい。

 帰りに買って帰るか。


 一息ついたところで話を始めた。


 「どうも下層で敵をたくさん狩ると出てくるようでしてな。私の兵も送り込んだのですが半分が負傷して戻ってきました。ですが不思議なことに死者は出ませんでした」

 「おかしな話ですね……」

 「はい。何かを守って近づかないようにしていると私どもは考えておりますが、調べるために人を送っても、狩りをしたわけでもないのにまた襲われるのでまったく調べようがないのです」

 「ふむ……。それも気になるところなのですが、街の状態も教えていただけませんか? 知らせは着ているかもしれませんが、我々がこの街に向かう途中で賊を見かけました。話を聞いてみると迷宮で狩りをしていた狩人のようで―――」


 関連があるかもしれないと伯爵に事情を説明した。


 「そのようなことが! 村を、領民を助けてくださったことに感謝いたしますぞ!」


 座ったまま手を差し出され、握手してうれしそうにお礼を言われた。

 どうやらまだ知らせは届いていないようだ。


 「いえ、こちらも内政干渉かと思いましたが勝手にやってしまいすみません」

 「お気になさいますな。むしろ助かりました。それにしても魔物がそれほどいるとは。その村に対しても何か対応をしなければなりませんな」


 そう言いながらもどこかうれしそうである。

 その様子をみてランドルフは推測を言ってみた。


 「それほど狩人たちは貧窮していますか」

 「……お恥かしながら、溢れた彼らに対し何も対策できていないというのが現状です。ですがこれを気に領内の魔物を退治してもらって、彼らの生活と領民の生活を守ってくれる機会ができました」


 兵士達も派遣、巡回しているが、すべての場所にまで目が行くわけではないので助かったという。


 「元々何かしら斡旋はしていたのですが、この街の周辺だけでしたからな~。少し足を伸ばせば獲物がいるとわかれば彼らも安心するでしょう」

 「だといいのですが、賊に成り下がった彼らの事が気になりますね。彼らを追い出すような犯罪者組織でもいるのでしょうか?」

 「いえ、そのようなものが出ないように目は光らせているつもりなのですが……もしかしたら下層で狩りをしている者達が何かしているのかもしれませんな」

 「ふむ。思い当たることがあるようで」

 「実は最近―――」


 下層で狩ができないとなると、手に入らない素材の値段は当然高騰する。

 迷宮独自の素材もあるのでさら高くなる。

 例に洩れず、現在それらの素材はかなりの価格で取引されているという。


 「それを独占しているかもということですか」

 「ええ、下層に人が行かないように制限しているのかもしれません。時間が経てばたつほど値段が上がるわけですからな。今まで狩った素材をどこかに保存して蓄えているやも」


 そして機を見て一気に放出する……か。

 よくあることだな。


 下層の素材を手に入れれば、値段も上がって今まで以上に一角千金にもなってくるので一当てしに潜る人も珍しくないだろう。

 だがそういう人たちに対し、チームを組んでばれないように妨害しているのかもしれない。


 「封鎖はしないのですか?」

 「狩りすぎなければ現れることはないですし、そもそも下層に行くにはそれなりに腕がないとダメですから」


 いける人は限られているって事か。


 「今日は旅の疲れもあるでしょうし、話はここまでにしてゆっくり休んでいただき、また明日お話しましょう」


 ずいぶんと話し込んでいたのか窓の外は夕暮れ時になっていた。

 夕食をご馳走になる。ずいぶんと豪華だ。


 「この地方の特産品をふんだんに使った料理です」

 「むっ、このパンは葡萄が入っておるのか!」


 ステーキのソースにも少し酸味があっておいしいワインが使われているようだ。

 魚の料理にも出てきた。他にも濃厚なとろけたチーズがかかったものや、デザートにも葡萄の入ったヨーグルトなどが出てきた。

 もちろんワインもある。


 「くぅ~! この香りと酸味のよいワインは何じゃ!」

 「80年ほど寝かせておいた特別なワインでございます」

 「よい! これはよいぞっ!」


 ヴィンテージワインって一本どれ位するんだろ……。怖くて値段聞けないな~。

 それよりもカナンカが味を占めたら……。

 あ、でもこのジュースはすっきりとしておいしい。


 普段は口にすることない豪華な食事に、うまいうまいと言いながらランクイロと護衛二人も同席して食べていた。

 普段控えているアプスも一緒になって食べている。


 「本当に葡萄の味がする!」


 アマレットもここの蜂蜜が気に入ったようだ。


 「それにしてもランドルフ殿は珍しいお供を連れていらっしゃる」

 「妖精に大きな雷狼ですか?」

 「それだけでなく守護竜様ともご一緒に住まわれているとか」

 「ええ、まぁ」


 伯爵はうらやましいと言い、こちらも負けていないと自分の自慢話をし始める。


 う~ん。普通なら聞いてても面白くない自慢話のはずなのだが、何故か聞き入ってしまうな。


 聞いたこともない魔物の素材や、浮遊する鉱物に珍しい植物など、本当に珍しいものを紹介されるので話にのめりこんでしまう。

 パトリームも珍しい植物については説明してくれて、どれほどのものかを力説していた。

 話は盛り上がり、楽しい夕食となった。






 部屋に戻ると、皆と話をする。


 「私達のどちらか一人は明日から宿を取ってそこで寝泊りします」

 「え?」

 「情報収集も兼ねての事ですので、護衛はできませんが皆さんなら大丈夫でしょうしね」


 ジャカードがアプスのほうをちらりと見た。

 アプスも視線に答えて頷く。


 「それは助かります。ありがとうございます」

 「これも任務の内です。護衛も任務の範囲ですが、先の戦闘で無用だと判断しました」

 「陛下も要らないかもとおっしゃられていたのでお咎めはないでしょう」

 「いえいえ、何かあっても私がそう言ったと言っておきますので、今は情報のほうが大事ですし、そっちを優先してください」

 「ご理解いただきありがとうございます」


 う~む。頼りになるな~。

 狩人の格好をしてもらってるから、俺の考えを読んだのかもしれないが、自分から言ってくれるとは助かる。

 村の時といい、できた部下って感じだな。


 元々はそのつもりで連れてきたのだから当然なのだが、王様から預かっている騎士なので遠慮する部分はあった。

 元は平民とはいえ彼らは実力で近衛になり、騎士爵をもらい貴族になったのだ。

 今さら下っ端の仕事などと、とプライドもあったかもしれないと考えることもあった。


 「どちらか一人は同行させて道案内などを勤めますので」

 「ええ、頼りにさせてもらいます」


 この辺りは内容の再確認といったところか。


 その後、部屋割りで少し揉め事はあったものの、事件解決に向けてゆっくりと眠る一行であった。

お読みいただきましてありがとうございます。

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