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80話

本日二話目 2/2


 通行人だろうか。

 街道にオークの集団がいるのを見て逃げている人がいる。

 だがオークたちはそんな人々に見向きもせずに村を目指す。


 「う~む。空から見るとそこまで数が多いようには見えない……」


 100匹あまりの豚の顔をした太ったボディービルダーのような体系のオークの集団。

 暑苦しさ満点である。


 「んじゃ、真ん中に一撃かますから、混乱したところを制圧してください」

 「「「わかりました」」」 「うむ」 「はい!」


 いい返事をもらったので早速仕掛ける。

 上空から岩の槍を適当に降らしてやった。


 「プギッ!」 「プギャ!」 「ブヒッ!」


 何匹か屠ったところにカナンカが一番槍とばかりに飛び込んだ。

 握りこぶしを突き出したまま地面に突撃する。


 ドウゥゥゥン!


 鈍く響くような音が鳴り、地面には小さなクレーターができてしまった。

 巻き込まれたオークたちは体がばらばらになったり、あるいは消滅してしまったようだ。

 数も半分ほど減ったのではないだろうか。


 「すっご……」


 アマレットが思わず声を漏らした。


 おまえは隕石か何か……。まさにドラゴンインパクト……。


 カナンカは新たな技を習得した。


 「ははっ、何だあれ。俺達が行く必要がまったくないな」

 「た、確かに……。でもこれも仕事だ。楽でいいじゃないか」


 護衛の二人は呆れた様子だが、すぐに持ち直して群れの中に飛び込んだ。


 「ランクイロも行かないの?」

 「え……行かないとダメですか?」

 「カナンカに怒られるんじゃない?」

 「うぅ……。はい」


 呆気にとられていたランクイロも仕方なく飛び込んだ。

 落下している最中に器用に人狼の姿に変身する。

 着地と同時に自慢の爪を振り回し、オークを切り裂き、卸していく。


 「さて、俺は上から援護するだけの簡単なお仕事っと」


 空中でデンに跨ったまま降りずに空から援護することにした。

 アプスも降りずに観戦である。

 敵をランクイロのほうに向かうように、岩の槍を落として誘導する。

 援護とはいったい。


 「おぉ~。ランドルフってば器用だね~。ランクイロかわいそう~」

 「旦那様……」


 可哀想と言いながらもどこか面白そうに笑うアマレット。

 アプスは少し非難めいたように言葉を漏らす。

 だがランクイロの丈夫さは知っているので大きくは言わない。

 護衛の二人は一匹に対して二人でかかり、確実にしとめていく。


 う~む。近衛の実力は堅実な動きから来るのかな。


 動きにひねりはないが、お互いをカバーしあい、なおかつ円を描くように動いてカナンカやランクイロのところに魔物行きにくくしている。

 ランドルフがランクイロのところに魔物を誘導していることには気づいているようだが……。


 「つまらぬ。つまらぬではないか。おいオークども! かかってこぬか!」


 最初の一撃が印象的過ぎたのか、カナンカに臆したオーク達はランクイロのほうにばかり向かっていった。


 俺が誘導する必要もなかったな。


 一匹もカナンカに向かってこないので、翼を広げて飛び上がりランドルフの元に戻ってきた。

 デンに跨って愚痴をこぼす。


 「せっかく暴れられると思ったのにの~」

 「いや~、最初の一撃は十分に暴れたといえるんじゃないの?」

 「何を言うのじゃ。たった一撃しか放っておらんのじゃぞ? おぬしの言う『すとれす』とやらが溜まって仕方ないわい」

 「左様ですか」


 ゆっくりと朝の一杯を、いや、二杯目を楽しめなかったのかご機嫌斜めである。


 「でもすごかったよ! ドカーンってなって地面に穴が開いたの!」

 「む? そ、そうかの?」

 「うん! どか~ん!」

 「ちょろい……」


 アマレットの言葉に機嫌を良くしたようだ。

 小さく声を漏らしたアプス。

 アマレットはパンチを突き出し「どかーん」と言いながら素振りをする。

 よほどドラゴンインパクトをお気に召したらしい。

 カナンカの鼻の穴が大きく開いている。


 「でもさ、カナンカがこっちに戻ってきたからより一層ランクイロのほうに敵が行ってるんだけど……」


 睨みを利かせる存在がいなくなったために、遠慮なく飛び掛っている。

 護衛の二人の堅実な守りと攻めはやりにくいのか、ほぼすべてがランクイロのほうに向かっているようだ。


 「ちっ、これじゃ護衛としては失格だな!」

 「いや、これは子爵様が悪いってことにしよう」

 「それだ!」


 話しながらずいぶんと余裕があるようだ。

 ランドルフが誘導していたのは知っているので、責任を押し付けたようだ。

 余裕があるなら援護をしてやれとランドルフは思っていたが、彼らの言い訳としてランドルフの意図を汲んだと言いたそうである。

 自分達の命を守ることを優先することにした。


 「くっ! いくらなんでも数が多い!」


 敵の数は減ったものの、ランクイロの周りには30匹ほどのオークがいる。

 誰もランクイロに援護しないと理解すると囲んで一人ずつ前に出て相手になった。


 「旦那様」


 様子がおかしいことにアプスが気づいた。


 「う~ん。ランクイロの体力の消費が狙いだね~。でも人狼の姿なら体力もすぐ回復しちゃうんだけど……。問題はその作戦を指示したやつがいるってことだね」

 「確かに……。あそこか」


 ランドルフの言葉を聞いてアプスとカナンカが辺りの気配を深く探った。

 オークの中にオークキングが紛れていたのだ。

 見た目や気配を普通のオークに似せていたため気づかなかった。


 「大将を悟られないように対策が練られているとは、なかなかに賢いな」


 ランドルフもその存在に気づいた。

 アプスも探ってはいるがまだ見つけられていない。


 「うむ。じゃがランクイロは気づくのじゃろうか」

 「二人ともさっきからランクイロに対してひどいんですけど! 教えてあげなよ!」


 アマレットの言い分はもっともだが……。


 「お前も可哀想だとか言いながら笑ってたじゃん」

 「え、っと、それはその……」


 だんだん声がしぼんでいった。


 「これも修行の内じゃ!」


 千尋の谷に突き落とす獅子……はなく、龍。


 「ランクイロ君。我々が援護するよ」


 残りの数も20を切った頃、ジオラスとジャカードが助けに来てくれた。


 「ってか何でオーク達は逃げないんだろうね?」

 「よほど恨みを買っていたのかも知れません」

 「まじで何したんだよ……」


 やがて残りも10匹ほどになると、とうとうオークキング自らが前に出た。


 「むっ、こいつは……」

 「ちっ、なるほどな、うまく隠れて居やがったってことか」

 「え? どういうことですか」


 護衛の二人は理解したが、ランクイロはわかっていないようだ。


 「ランクイロ君。こいつはオークの王様だ。身体能力は普通のオークの三倍はあるといわれていて、知能も高い」

 「え!?」


 見た目が普通のオークとほぼ変わらないので素直に驚いている。


 「う~む。今度そちらのほうも鍛えねばならぬな」

 「迷宮に入るからね~。覚えたら重宝するよ」


 修行のメニューに新たな一ページが加えられた。


 「お?」


 そんなことを言っているのもつかの間、ランクイロがあっさりとオークキングの胸を手刀で貫いてしまった。


 「あれ? 三倍……?」


 三倍と言われて気合を入れなおし、オークキングに様子見で少し強めに一撃を加えたのだが倒してしまった。


 「やるね、ランクイロ君」

 「伸びのあるいい一撃だった」


 腕が伸びるように手刀を突き出し、ゴムが戻るかのように腕を戻した一撃である。

 あっさりと王が倒されたのを見て残っていたオーク達は散り散りに逃げ出した。


 「逃がしちゃダメだ! 通行人に被害が出る!」


 そういいながら岩の槍を飛ばして屠っていく。

 アプスも空からナイフを投げている。

 ランドルフの声を聞いたランクイロはすぐに追いかけて背中から攻撃していった。


 「ふぅ……全滅できたようだな」


 辺りの気配を探り、オークや他の魔物の反応がないとわかると着地して三人を出迎えた。


 「お疲れ様です」

 「なんの。よい運動ができました」

 「これほど楽に戦闘できたのはランクイロ君のおかげです」


 敵の注意をすべて持っていったため、かすり傷一つ付いていない二人。

 返り血で真っ赤になったランクイロの腕を水の魔法を出して洗い流してやる。


 「オークの王がいることにもっと早く気づかなければならぬぞ。おぬしは頑丈だが、味方が不意打ちをもらっていたかも知れぬ」

 「はい……」


 少ししょぼくれるランクイロ。


 「じゃが、あの数をよく一人で捌いた。成長したの」

 「ぁ……はい!」


 暗かった顔が一気に明るくなり、力強く返事をした。


 「でも敵を誘導してましたよね」

 「守護竜様は途中で見捨てて戻りましたし」

 「え!?」


 ランクイロがちらりとこちらを見た。

 慌てて目をそらすランドルフとカナンカ。


 「あ~ぁ、余計なこと言っちゃだめじゃん二人とも~。せっかく修行だとかいってオークの王がいたの黙ってたのに~」


 アマレットの言葉にチラチラとしたこちらを見ていた目がジトっとした目に変わった。

 知っていたのなら教えてもよかったのではと言いたげである。


 「我にはなんのことかわからぬなー」

 「いやー、空から見ていたから気が付かなかったよー」


 二人とも棒読みである。


 チッ、アマレットめ! 余計な事いいやがって!


 「ま、まぁ。とにかく一旦村に帰ろう」

 「死体はどうしますか?」

 「もったいないけど放置だ。集めて焼くのにも時間がかかる。それにここは森に近いしね」

 「魔物がよってきませんか」

 「援軍を頼んでいるはずだから彼らに任せよう。オークの肉もお駄賃代わりに彼らにあげればいいさ」

 「わかりました」









 帰ってくると、土でできた分厚い壁に厳重に封鎖されて見張りが立っている村が見えた。

 上空から進入する。


 「村長。ただいまです。無事に退治し終えました」


 村の中央で忙しくしている村長に突然声をかけたのでビクッとなった。


 「おお! 子爵様でしたか。ご無事で何よりです」


 事の顛末を話した。


 「わかりました。村のものとやってきた人で後始末をさせてもらいます」


 オークの肉をそのまま差し上げるというとホクホク顔になった。


 「プレイリー子爵様!」


 クローイが声をかけてきた。


 「ランドルフでいいですよ」

 「あ、えっと……。いえ、子爵様で」

 「あら残念」

 「それでですね……ごめんなさい!」


 勢いよく頭を下げたクローイ。

 どういうことか聞くと、囮になったことが原因だといい始めた。

 クローイが囮になってオークの一匹を落とし穴にはめた。

 そこに狩人の二人がぼこぼこにして絶命させる。

 それを見た仲間のオークたちが怒り、仲間の死体を持ち逃げする三人を追いかけたが、あらかじめ逃走用に仕掛けていた罠に次々と引っかかってしまったオーク達はさらにムキになって追い掛け回す。

 だが結局は逃げられてしまい、どっちの方向に行ったかを王に伝えたのではないかと思われる。


 「仲間を寄ってたかってリンチしたら怒るわな……」

 「きっと尊厳を傷つけられたのじゃろう」

 「でもオークの王を倒せたのはよかった。きっとどこかに巣があったんだろう。村長」

 「ええ、そちらのほうもやらせていただきます」


 オークの王の肉や素材ともなればかなりのお金になる。


 「ですがクローイ。後でお説教だ!」


 村長のホクホク顔が鬼の顔になった。


 「申し訳ありませんでした!」


 狩人二人にも厳重注意をすると言ってご立腹である。

 村長への報告はそれくらいにして宿に戻った。

 ジオラスとジャカードの二人も一緒に来てもらった。


 部屋に入るとパトリームが戻っていた。


 「パトリームが村を守る壁を作ったの」


 無言のまま頷く。


 「土の魔法苦手とか言ってなかったっけ?」

 「がんばった」

 「さすがです。中々頑丈そうないい壁でした」


 パトリームは少し照れているようだ。

 先に戻っていたアプスが早速全員にお茶を用意してくれた。


 「いい香りです」

 「とてもあの凛々しい顔をした方が出すお茶とは思えない上品な……」


 なにか? とばかりにジャカードのほうを睨むアプス。


 「おぃ!」

 「あっ、すみません。悪気はないんです」


 居心地が悪くなったのか黙ってお茶を味わう事になってしまった。

 口は災いの元である。


 「あたし朝ごはんまだなんだよね~。蜂蜜ちょうだ~い」


 アプスから蜂蜜を小さなつぼに入れて渡され、それをペロペロと舐め始めた。

 皆が一息ついてほっこりしている。

 予定外の事が起こったことで疲れもあり、村の様子も気になるので一日延長して滞在することにした。

 そんな話をしていると、村長がやってきて夜は宴を開いてくれるという。

 せっかくなのでご相伴に預かることにした。

 カナンカはご馳走ということで期待している。


 まぁ、主にお酒がたらふく飲めるって所にだろうがな。


 夜になり、宴の席で真ん中に立って紹介された。

 若い女性がやってきてぶどうジュースを注いでくれる。

 アプスが少し不機嫌そうだ。

 デンも村の中に入ってゆっくりしている。子供にわちゃわちゃと触られて困っている。

 アマレットも子供に追いかけられて逃げ回っているが、その顔は楽しそうである。

 ランクイロと護衛の二人は一緒に戦った仲なのか、仲良く話に興じている。

 パトリームは静かに控えたいところではあるが、男性からよく声を掛けられてタジタジ状態だ。

 壁を作ってくれたことに対するお礼を言われていた。

 カナンカは宿屋のおばちゃんに絡んで料理やお酒の話などで盛り上がっているようだ。


 「プレイリー子爵様」

 「なんでしょう。謝罪ならもう十分聞きましたよ」


 クローイが声をかけてきた。


 「いえ、ありがとうございました。怪我の功名……と言うんでしょうか。村がこれほど活気付くなんて……」

 「魔物がいるとなれば狩人はやってくるでしょう」


 街に援軍に頼んでやってきた狩人達が、それほど魔物がいるならばと定期的にやってきてくれることを約束してくれた。

 ビラントの街が狩人にとってきな臭い状態なのでありがたい話だそうだ。


 クローイを襲っていた賊たちもここで狩りをすればよかったのに……。

 今さら言っても詮無き事か。


 「そうですね。お父さんも野菜が売れる。街にわざわざ売りに行かなくていいって言ってました」


 それから付きっ切りで晩酌されて世間話をする。

 村長やクローイの父親もやってきてしきりに感謝された。


 楽しい一時も過ぎ、翌朝。

 村の全員が見送りに着てくれた。


 「子爵様。この村を救ってくれたこと、狩人がやってくることになったことに感謝しますぞ」

 「今後はあなた方の努力次第です。よりよい村にしてください」

 「もちろんです」


 村長とがっちりと握手をした。


 「子爵様。私、やってきた狩人達に子爵様の事を語っていきますね!」

 「え?」


 クローイの言っている言葉が何のことかわからないランドルフ。


 「大きな狼に小さな妖精を連れた子爵様。たった5人で100を超えるオークを全滅したのはすばらしいことです! 昨日の夜、語ってくれたじゃありませんか!」

 「え、いや、それくらいは凄腕の狩人ならできるんじゃないんですかね?」

 「かもしれませんが、中々できることじゃありません!」

 「はぁ……。まぁ、誇張せずにほどほどになら?」

 「わかりました!」


 手を握られてぶんぶんと上下させてくる。


 「「……」」


 それを見ていたアプスとパトリームはどこか不機嫌そうである。


 「それでは皆さんお元気で」

 「「「ありがとうございました!」」」


 街の外まで出てしばらく歩き、村が見えなくなった頃にカナンカの背に乗りこんだ。

 ランドルフの武勇伝(?)がまた一つ増えたのであった。

お読みいただきましてありがとうございます。

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