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8話


 船長たちが帰ってから俺はゴブリンの村に行くこともすっかりと忘れて、ひたすらインフラ整備をしていた。


 人がっくる~♪人がくっる~♪エルフはくるかな~?獣人は犬っ子でお願いします!!猫でも可!!タハッー!!


 結局決めたとき以外に名前を誰にも呼んでもらってない男、ランドルフは浮かれていた。

 人が増えるということはいいことばかりではない。それ相応のトラブルがあることも忘れて浮かれていた。


 「さぁ~って、人が来るまでに色々整えるのだ!!まずは道だよなっ!!せっかくだし北の海岸まで川沿いに道を作ろう!!行くぞっ、デン!!」

 「うぉふ!!」



 砦を北に進むと湿地帯があり、沼がある。その北東に休火山があり、湿地の横を山から流れてきた水が川になっていて、その水が湿地に流れ込んでいるのと山沿いに南へ続く川と分かれている。

 何もない草原のど真ん中に道を作るよりは、その川沿いに道を作り北へと向かっていくと楽だと考えた。

 モルタルはないが、アスファルトをイメージして水はけの良い道を作り、広さも日本の大通りを連想する道を作ってゆく。歩道も溝も作る。

 島の北の海岸と南東の砦にある海岸をつなぐ主要道路とするつもりだ。


 そういえば、アスファルトみたいな固い道って馬にとってどうなんだろう?蹄鉄ってあるのかな?きてから考えればいいか。

 この島は年中暖かいが雨季になると水が結構溜まるんだよな~。草原には雷が結構落ちるし……。溝はもう少し深く作るか。街を作るなら下水道などで水を逃がす道も作らないとな。

 先にそっちを作るべきだったか?いや、この道は街とは関係ない道になる予定だしいいか。

 川の氾濫もあるかもしれないから堤防も造っておこう。確か山なりにして水圧に耐える形がいいんだったっけ?


 作業は思ったよりも難航した。土を固めて道を作るだけだと思っていたのに、いざ作ってみると考えることが色々とでてきたのだ。

 飛びながらサクサクできると考えていたランドルフは、人が通るところなので手を抜くわけにも行かず。造っては壊し、造っては壊した。


 それから数日。ようやく沼地まで道を伸ばすことができた。沼地なので地面はぬかるんで沈み込む。なので湿地を大きく迂回して地面の硬いところを整地して作ることにした。その途中であるものと遭遇した。


 「おぉ~、第一スライム発見!!絶対あれスライムだよなっ!!森では見かけなかったがこっちにいたのか~!!」


 しかしいたのはスライムだけではなかった。


 「やっべッ!!何あれ!?でっかいカエルだな~。デンと同じぐらいか?デンッ!!ちょっと横に立って並んでくれ!!」


 無茶である。襲われること必死なのでデンも嫌がっている。そもそも、沼地は魔力の澱みも多いが、土地の養分も豊富である。そこには様々な生き物がいた。


 「でかいミミズ気持ち悪いっ!!ヒルだっ!!トンボまでっ!みんなでっかいなっ!!」


 テンションが上昇中のランドルフに対して、デンは下がりまくりである。彼は綺麗好きなのだ。泥だらけになるのは好まない。


 その後も道路を作ることやスライムのことも忘れて走り回った。鳥に襲われ、沼から触手が伸びた貝に襲われ、でかい鋏を持った蟹までいた。さすがのデンもくたくたである。

 結局その日はそれで一日がつぶれてしまい、仲良くお風呂で泥を洗い流した。



 湿地を迂回する道路は危険なのでさらに大きく離れて作ることにしたランドルフは、念のために高さを高くして足場を固めた上に道を作ることにした。人が入りにくくするために壁も設置した。


 「これで人が迷い込むことはまぁないだろう。あそこの魔物はみんな黒い保護色で見分けがつきにくいからな~。それにしてもスライムがいるなら下水や汚物処理もやってくれるかな?定番ならいけるはずなんだけど……。捕獲して試してみよう」


 今までトイレはわざわざ海まで行き、小屋を建てて流したいたが、スライムが処理してくれるならわざわざ移動しなくてもいい。


 早速捕獲して、地面に大きな穴を作り固めた。そこにスライムを入れてみたが、逃げるようなそぶりはない。

 スライムが逃げ出せない高めの位置に排水溝を作り、ため池を作って海まで繋げて様子をみた。

 結果的に臭いもなく、綺麗な水がため池に溜まっていた。デンにも匂いをかいでもらい安全な水か確かめてもらった。

 汚水を吸収したスライムの大きさもほとんど変わらず、よく観察しておかないとわからないほどだったので、成功だろう。

 もし爆発的に増えてしまうようならば考えなければいけないところであったが、これならため池のほうにも放置してみようと考えた。


 道は北の海岸沿いまで繋げたので、小屋をいくつか作ったところで放置し、今度は砦の周りを整地することにした。今までは小高い丘の上に砦を作っていたが、それをしっかりとした土台を作って固め、西の森の湖から来る川と北からの川の合流地点にあるので、しっかりとした堤防を作り氾濫が起こらないようにした。


 「今までは一人で丘の上に住んでたからいいけど、これから人が増えるならしっかりしないとね」


 さらに城下町のようなものを作るために下地を作る。大陸の文化がわからず、どんな家が主流なのかわからないが、こっちで勝手に思いついた家を作ることにする。

 まずは街の規模を決め、区画を決め、地面を丸裸にした後、地下水路を作る。

 それを下水処理場につなげていった。浄水場を作りスライムを配置し上水道に繋げた。


 水圧を保って蛇口をひねれば水が出てくる様にしたかったが仕組みがわからないので、上水道に各家庭で使える手動ポンプを繋げて設置することにした。

 井戸でも良かったのでは?と思ったが気にしないことにした。


 たぶんこっちのほうが幾分かは便利だろうし……。


 その後どこに配管があるかわかるように地面から煙突がはえるようにして、埋め立てて整地した。


 北の道と西の川沿い、東の埠頭、そして南の砦に続く大きな十字の道の広場を作り、その中心には森から持ってきた苗木が育った木がある。街の出入り口もそれに伴い東西南北に作った。

 商業や工業地区も決めてはいるが、どれだけ人が来るかもわからないし職業によって必要な広さも違うと思うので放置だ。

 街の北西に住宅地区を作り、土魔法で作ったコンクリートのように硬い簡単な長屋を作っていく。

 どれだけ人が来るかはわからないが、そのうちオーダーメイドの家を作りたい人も出てくるだろうし、土地は余らせておく。


 最後に大きな壁で街を囲って完成だ。巨人が襲ってきても大丈夫なぐらい高くしてみたが、陰りがひどいのでやめることにした。

 意味があるのかわからないが、「殺しの間」のようなものを北の入り口に作っていつ攻めてこられても大丈夫なように厳重にし、壁の上もスムーズに移動できて物資を運べる広さだ。

 他にも壁の回りも溝を作って固めて水を引き、堀を作る。

 砦からは街の様子が見えるが、だいぶスカスカな町並みだが今はこれでいいだろう。


 ひとまずこれにて完成!!おやすみ!!




 一方その頃、別の場所では……。



 コンコンコンッ


 「入れ」


 ブクブクと泡立ったようなもじゃもじゃの天然パーマの髪型に、似合わない髭を蓄えた身なりのいい小太りな中年が答える。この男は名前をスプモーニという。スプモーニ商会の会長である


 ガチャ


 「失礼するぜ」


 入ってきたのは帽子はかぶっていないが、背の高い日に焼けたガタイのいい中年男、ザンテだ。


 「ノックを覚えたのはいいが、相変わらず本当に失礼な物言いだな」

 「すまねぇな、早速話をしたいんだが」

 「まあ掛けてくれ。ある程度話は聞いているがまずは船の調子を聞こうか。問題ないとは聞いているが」


 ノックの音が聞こえ、メイドが紅茶を持ってきてテーブルに並べる。


 「ご苦労」


 メイドは静かに一礼して出て行った。


 「船は動かしやすい、乗り心地も快適だ。舵を急に回しても安定して答えてくれる旋回速度がある。硬さも短刀魚の群れに襲われてもびくともしなかったぜ、荷も多く運べるしな。問題があるとすれば魔法使いだな。速度は出てるがとばせる時間が短い、一時間もとばせやしねぇし、しつこい魔物に襲われたら逃げ切れるかわかんねぇ。ミスリルで魔力の通りはいいんじゃなかったのか?」


 新型船は無事に荷物を届けることを重視しているので、魔力の塊を直接とばしてぶつける魔力砲も積んではいるが迎撃よりも逃げ切るための頑丈さと速さが大事だ。


 「ふむ、もしかしたら通りが良すぎたのかもしれないな。魔力を吸い取られてしまって無駄に消費し、すぐにばててしまうことも考えられる。もしそうならちょうどいい按排を探らないとな。技術部に伝えておこう」

 「一応伝えてはおいたぜ」

 「そうか」


 魔法使いの話も聞かないといけないな。成果は出せているが燃費が悪いなら一からやり作り直さないといけないかもしれない。頭が痛いな。もうひとつの頭痛の種も聞かないと。


 「もうひとつのほうも聞こう」

 「もうひとつってーと、どっちだ?島のことか?ボウズのことか?」

 「島のほうだ」

 

 島に資源があって儲けになるのかならないのか、先にそっちが重要だ。子供一人のことなんぞどうでもいい。うまみがあるなら投資費用をどれくらい捻出するか……。

 くそっ、あの無能な辺境伯が絡んでこなければ独り占めにできたかもしれないのにっ!!なぜこういうときに限って首を突っ込んでくるのだっ、忌々しい!!


 「結構でかい島でな、ボウズと一緒にみて回ったんだが、これが簡単な島の地図だ」

 

 そういってザンテは懐から地図を出す。


 「……、ほとんど山と森と草原ではないか。山の資源は確認できたのか?」

 「いや、一週間ほどしか滞在してないからな、確認はできてない。だが、森のほうにはボウズの話だと凶悪な魔物がいるそうだ。山岳部に翼竜らしいものをみたといっている」

 「それだけか?確かに翼竜の素材はほしいところではあるが、それだけだとすれば儲けにはなりそうにないな」


 それだけなら投資しても損するだけだ。それこそ辺境伯にくれてやればいい。向こうから協力を要請してくれれば、開拓費用は全部あちらもちだ。必要な物資を買ってもらえればこっちは儲けられる。そっちのほうがいいだろう。


 「特産品などはないのか?気候はどうなんだ?作物は育ちやすいのか?」

 「珍しいものは何もないな。気候は年中暖かいそうだ。雨季になるとこの草原は水浸しになるといっていた。作物を育てるにしても手を加えないとだめだろう」


 なんだそれは、作物も育てられないんじゃ植民地にしてもまったくだめじゃないか。住み着く必要性を感じられない。だが一応学者を送って山を調べさせるか。鉱山でも発見できればいいが……。


 「一応学者を送って調査させよう。そもそもそんなところに島なんてあったのが不思議だ。海の向こうは何もなかったのではないのかね?はぁ……」


 思わずため息をついてしまった。他国への貿易拠点になるかも怪しい。


 「そうだな、あらかた行き尽してしまったと思ってはいたんだが……」


 船で世界を一周できるようになって、ほとんどの海は見て回ったはずのこの時代。そんなことがあるのだろうか?事実あったのだからそう思うしかない。


 「学者を連れてまたいってくれ。万が一旨みがあったとき、食い込むのための口実にもなる。地質調査できるやつがいいか。新型は出せんが一つ前の船でも十分いけるだろう?」

 「大丈夫だ、わかった。それで準備をしておこう」

 「それで?原住民の子供がなんだったか?一人で住んでいるとか?本当なのか?」


 子供が無人島に一人で住んでいるなどと普通は信じられるものではない。


 「そいつが不思議なボウズでな、魔法を使う。しかもただの魔法使いじゃねぇ。実際俺はあいつが空を飛んでいたのをみた」

 「空を飛ぶ……だと?どんな感じだ?」


 できないわけじゃない、浮遊する魔法はある。だが飛ぶとなると制御が難しいと聞く。知識と実力を具えた熟練者でないと無理だと聞いたことがある。何より魔力を維持できない。それを子供が?


 「散歩でもするかのようにすいすい飛んでたぜ、あの若さで信じられねぇ。もっと信じられねぇのが、岸壁を一瞬で切り取って簡単な埠頭をあっさりと造って見せたことだ」

 「……は?岸壁を切り取る?どういうことだ?」

 「岸壁を短刀で切るかのようにサックリ綺麗に切り取ったかと思ったらな、切り取った岩を浮かせてまた綺麗に四角に切りとって海に沈めたんだ。それを何事もなく当たり前のようにやっていやがった。目がおかしくなったと思っちまったぜ」


 ザンテは「ははっ」っと軽い笑みを浮かべながら冗談のように話す。


 「……もしそれが本当なら島よりもその子供のほうを優先しないといけない」


 この男はこんなつまらない嘘はつかない。だとすれば実際にそうなのだろう。

 そんなことができるなら島の開拓なんて簡単に終わってしまうし、魔物討伐だって楽にできるだろう。

 子供を呼びつけて優秀な魔法使いとして紹介したほうが旨いかもしれない。そして島を接収して献上すればさらに儲けが?いっそう島に工場でも作って生産させるか?子供ならうまく飼いならせるはずだっ!だがっ……!!


 「その子供の事は辺境伯の耳には?」

 「兵士どもは魔法を使っているその場面を見てはいない。調査して回ったときもあいつらは山狩りをさせていたからな、魔法を使っているところは見てはいないはずだ」


 よしっ!!それはいいことだ!!


 「船員共に口止めはしているのか?それとその少年を連れてくることは可能か?こっちの手駒としたい」

 「あ~……。連れてくるのはおそらく可能だと思う、外の事に興味津々だったからな。船員には特にきつく口止めはしていないが、言いふらすこともないだろう。兵士共とは厄介の種だったからな。もし話をしても信じられないだろう。だが、あのボウズは常識はないが頭は鋭いと思うぞ?騙したりするのはやめておいたほうがいい。無理やり連れてくるのはお勧めできない」

 「口止めは懸念があるが大丈夫とみてよさそうか。子供は懐柔するようにして、無理やりにはつれてこなくていい、抵抗されたらひとたまりもないのだろう?」

 「ちげぇねぇ、でっかい岩でも降らされたら船ごと沈んでさよならだな」


 そういって紅茶を飲み干すザンテ。


 「頼んだぞ、必要なものは言ってくれれば用意する」


 なんとしてでも子供を連れてこさせないと。それほど優秀ならこき使ってぼろ儲けができそうだな。



 

お読みいただきましてありがとうございます。

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