77話
迷宮の事件を究明するらしいです。
ランドルフにカナンカ、アプス、パトリーム、アマレット、ランクイロにデンを伴って島を出発する。
少し島の守りに不安を感じるが、仲間を信じて王命に従い迷宮都市へと向かうことにする。
だがその前に王城へ立ち寄った。
王の執務室で皆を連れて話をしている。
王様に近衛騎士団長と宰相、そして宮廷魔法士第一席のフラロッスがいた。
新しく連れてきた、ガチガチに緊張したランクイロの挨拶もすませ、仕事の内容を詳しく聞き出す。
「それで、誰か街まで案内してくれる人はいるんですか?」
「リントゥス伯爵にはお前が行くことについて手紙を出してある。上役はパトリームでいいだろう」
「え? ……まともに役目を果たせるとは思えませんが……」
「あくまで建前だ。お前が全部好きにやればいい」
「はぁ……」
「ほっほっほ」
フラロッスの陽気な笑いが聞こえる。
怪訝な顔をするランドルフだが、お前なら大丈夫だと言われたので渋々頷くことにした。
パトリームは仮にも宮廷魔法次第二席なので、身分だけは偉いのだ。
王様が伯爵に派遣する面子としては十分だろう。
俺でいいのだろうか。上手く出来るのかなぁ~……不安だ。
「それで案内してくれる人物だが護衛もかねて近衛を二人付けよう」
「え!? 王の護りを二人もですか?」
「うむ。二人ともビラント出身だからな。役に立つだろう」
地元出身者なら土地鑑もあるだろうしありがたいな。近衛なら実力も申し分ない。
王の後ろに控えている近衛騎士団長のクレイブルに軽く頭を下げておく。
「もうすぐ来ると思う。後で紹介しよう。それで準備は済ませたのか? ここで揃えるのか現地で揃えるのか」
ちらりと後ろに控えているアプスを見て、アプスに答えさせた。
「三日分の食料と生活用品は持ってきましたが、他は現地にて調達しようと考えております」
デンに荷物をぶら下げてそれなりの量を持って来てある。
そのことについて宰相のラルゴが情報をくれた。
「現地では迷宮の深くに潜らなければ大丈夫だと情報が入ってきております。それにより街の活気は落ち着きを取り戻しつつありますが、混乱していた時期のまま品薄状態のものが多いとのことですので、ある程度はここで揃えられたほうがいいものもあるでしょう」
「ではそのようにいたします」
返事をしてアプスが一歩下がった。
でも買うものって何よ。
カナンカに乗ってさっさと飛んでいくつもりだから必要ない気もするが。
「とりあえずワインじゃな!」
お前は黙れ。
いつもどおりのカナンカの発言にみんな苦笑する。
アマレットも乗っかって「あたしも蜂蜜!」と言い出しそうだったので一睨みしておく。
「なんで僕はここにいるんだろう……。絶対に場違いだよ」
少し緊張もほぐれたのが、小さく愚痴をこぼすランクイロ。
「パトリームや、しっかりとランドルフ君に協力するんじゃぞ。間違っても足を引っ張ることのないように。特に伯爵に会ったときには―――」
「うるさいジジイ。全部ランドルフに任せるから大丈夫」
フラロッスがクドクドと心配そうに、説教気味に話をしてきたので言葉をさえぎる。
俺に全部任せるって……上役とはいったい……。
「ほっほっほ。ランドルフ君、頼みましたぞ」
「はい……」
胃が痛くなってきた。
そんな話をしていると、呼んでいた近衛の二人がやってきたようだ。
部屋に入ってきた二人を見る。
猫の獣人の男性と、人の男性だ。
二人とも体格はがっちりとしているが、鈍重ということはなく動作は早そうである。
「近衛騎士ジャカード。王の御呼びにより参上いたしました」
「同じくジオラス。参上いたしました」
キビキビとした動作で敬礼をして挨拶をする二人。
「うむ。紹介しよう。ジャカードとジオラスだ。先ほども言ったがビラントの出身だ。二人とも、こちらはプレイリー子爵と守護竜であるカナンカ様だ」
ジャカードが猫の獣人。ジオラスが人族だ。
「「初めまして子爵様、守護竜様。よろしくお願いします」」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
「クックック。よい面構えじゃな」
キリッとした顔に、息の合った無駄のない動作にタジタジになるランドルフ。
美白の龍人であるカナンカを守護竜と言われても、まったく動じることのない二人にカナンカは感心する。
パトリームの事は知っているの様なので挨拶はなかった。
これが近衛騎士……。なんて頼もしいんだ。
「二人とも。プレイリー子爵に同行し、その任務の補佐、及び一行の護衛の任に着く事を命じる」
「「はっ! 謹んで任務に当たらせていただく所存です!」」
「といっても護衛のほうはあまりいらないかもしれないがな」
ランドルフたちを見渡しながらそんなことを言う王様。
「とんでもないです。とても頼もしそうなお二人に護っていただけるならこちらもやりやすいです」
慌てて取り繕うランドルフ。
「「ありがとうございます! 精一杯努めさせていただきます!」」
頼りになるけどなんか堅苦しそうだな……。
「ではランドルフ。出発するときには声を掛けてくれ」
「はい」
解散して部屋を出て行く。
本来ならば、ちゃんと謁見の間で貴族達にお披露目をしての出発になるのだが、パトリームが嫌がり、カナンカが面倒臭がったのでなくなってしまった。
王様としても他の貴族にアピールしたかったことであろう。
城内に貰ったいつもの部屋に、ランクイロのためにもう一部屋追加してもらった。
ランクイロはどうも落ち着かないようだ。
護衛の二人を含め、ランドルフの部屋で今後の話をする。
「あの~。お二人とも短いとはいえしばらくご一緒するので、気楽に接していただけるとありがたいです」
「子爵様と守護竜様に気安い真似はできません。丁寧なお言葉もいりません。どうぞ呼び捨てになさってください」
「お二人の品位を落とされてしまいます」
やっぱりお堅いな~。
「いや、でもね? 大きく兵を動かせないから少数精鋭で行くって話じゃないですか。ですので柔軟な対応をしていただけるとありがたいのですが」
「我は品位などと気にはせぬぞ。もし我を侮る輩がおれば焼き尽くすだけの事じゃ」
それならばランドルフは何度焼き尽くされていることか。
「よろしいですか?」
「うん、お願い」
二人はお互いの顔をちらりと見て頷いた。
「いや~、そう言ってもらえるとこっちも助かりますよ」
「そうそう。ずっと堅苦しい言葉使ってると肩が凝りますからねぇ~」
突然フランクになった二人にランクイロは驚く。
「クックック。それでよい。そのほうがこちらとしてもやりやすいしの~。なぁ、ランドルフ」
「ええ、お二人ともよろしくお願いします」
「あたしはアマレットだよ! よろしくね!」
「「よろしくお願いします、小さな妖精さん」」
元気に挨拶をするアマレットだが、ランクイロは戸惑っている。
「アプスと申します。ランドルフ様の侍女をしております」
礼儀正しく一礼をするアプス。
ラセットとウィステリアがいないので、カナンカの世話もすることになっているのだが、その説明はない。
「戸惑っているこやつがランクイロじゃ。こう見えて中々使えるやつじゃぞ」
ランクイロをじっくりと見定めて、何か納得したような顔をした。
「これは本当に陛下がおっしゃられていた通り、護衛はいらないかもしれないな」
「ああ、ただ地元の人間というだけで連れてこられたようなもんだ」
ずっと突っ立ったまま何もしゃべらないパトリームを含めた一行を見てそう評価する。
「私のこともランドルフでいいです。あと外にデンという大きな雷狼がいるので後で紹介しますね」
ますます護衛はいらないなと思う二人であった。
ドラゴンの姿に戻ったカナンカの背に乗って移動することを話す。
二人は背中に乗せてもらえることに興奮した様子だったが、しっかりと道案内をして欲しいというと頼もしい返事をしてくれた。
二人には狩人の格好をしてきてもらって、荷物も多くなくていいと伝える。
王様からは支度金ももらっているし、宰相はああ言っていたがほとんど用意するものもないので、現地で物資を手に入れることにする。
デンにも一杯荷物持ってもらってるしな。
もし遭難しても一週間は大丈夫だろう。
現地の事について詳しく二人から話を聞いた。
ビラントの街は山脈の麓にある町で、葡萄を作るのに適した気候だという。
そこから歩いて二時間ほどの場所に巨大な穴が開いており、それが迷宮なのだという。
穴の外周をらせん状にゆっくり降りていくと横穴に通じており、その横穴に魔物が出没する。
横穴を下りながら戻るようにまた大穴の外周に出てまた降りていくのだそうだ。
蟻の巣のような構造だという。
イメージはジオフロントっぽい感じなのかな?
穴の底までは23の横穴を通らなければたどり着かない。
横穴の事を階層として考えると24階層あるようだ。
ベテランのもので上層の一階層は半日も経たずに抜けるそうだが、下層になってくると敵も強くなり、抜けるのに時間がかかるという。
だがその分素材もおいしいものばかりなので、みんな下層を目指す。
「魔力の澱みが底のほうに溜まる。だから下層には強敵が多い」
黙っていたパトリームが教えてくれた。
「街の治安はどうです?」
「荒くれ者が多いですし、ワインを作っている街なのか酔っ払いが多いので、たちの悪い者もいます。ですが基本的には活気があってにぎやかでいい街ですよ」
ふむ。テンプレに期待できそうだな。楽しみだぜ。
何年か前のランドルフならそんな荒事はごめんだと言っていただろう。
「混乱により荒れたこともありましたが、リントゥス伯爵がうまく抑えたようです」
「ふむ。それで今回の任務の強力な魔物の事は何か知りませんか?」
「パトリーム様が先ほどおっしゃられたように、下層には強敵な魔物は多いです。さらにその中でも稀に今回のような敵も現れます。ですが高度な知性を持った魔物が現れたというのは聞いたことがありませんし、そういったものは狩人が連合を組んだり、領主軍が出張ってすぐに討伐してしまいますからね」
ジオラスがそういったが、ランドルフは高度な知性を持った魔物を知っている。
ちらりとカナンカのほうを向いた。
「なんじゃ?」
「高度な知性を持った魔物って言われたから」
確かにカナンカみたいなのが現れたら一領主軍では相手にならないだろう。
「ふむ。確かに我は高貴で高度な知性を持っておるどころではない存在ではあるな」
「こんなのがいっぱいいたら世の中のお酒はすぐになくなってしまうな」
「どういうことじゃ!」
カナンカの事は無視して話を続ける。
「魔族を見かけたって情報もあるらしいし何か関係してるのかなぁ~」
「その辺りは現地で調べてみないとわかりません」
「今は大人しいんだよね?」
「そのようです」
ふむ。あんまり前より増えた情報はないか。
「お二人の準備は?」
「一日駆けずり回れば整うかと」
「ですね」
「では二日後に出発ということにしましょう」
「わかりました」
「パトリームもそれでいい?」
無言で頷く。
「じゃあアプス、陛下にそう伝言を頼む」
「かしこまりました」
一礼して部屋を出て行った。
「よしランクイロや、この城の兵士と試合をするのじゃ」
「えー!」
「変身はするなよ?」
「そ、それは無理ですって!」
カナンカの突然のスパルタ教育にうろたえるランクイロ。
「我々も参加したいのですが準備がございますので、惜しいですが失礼いたします」
ジャカード、ジオラスの二人も部屋を出て行った。
「二日後には出発しないといけないんだから、怪我したり疲れを残したりするなよ?」
「ランドルフ様! 止めてくださいよ!」
肯定的なランドルフに助けてくれと泣き言を言う。
だがそれも虚しく広場へと引きずられて行った。
パトリームとランドルフとアマレットが部屋に残った。
「さて、俺は武器でも磨くかな」
槍杖を取り出して磨いていく。
久しぶりに使うので後で感触も確かめないとな。
それをじっと見つめるパトリーム。
見られてやり難いので頼みごとをする。
「今度の迷宮の情報や、魔物の情報を本かなにかで調べておいてよ。きっと役に立つから現地で教えてくれたら助かるな」
ランドルフの言葉を聞いて眠そうな顔が明るくなった。
「わかった。ランドルフの役に立つ」
そう言って部屋を出て行った。
チョロイな。
残されたアマレットは暇そうにしていたのでランドルフに一声かけた。
「あたしデンのところに行くね」
「だめ。部屋で大人しくしてろ」
「え~。じっとしてても暇だよ~」
「うろちょろして悪いやつにでも捕まったらどうする」
「お城にそんな悪い人いないでしょ」
「いや、そうでもない」
ランドルフはヌケーマ伯爵の事を思い出したくはないが思い出した。
あいつがもし現れたらアマレットは小さいから籠に入れて持ち去るかもしれない。
「え~。暇だよ~!」
「うるさいな~。じゃあアプスが戻ってきたら一緒に行って来い。広場にいるんだし、帰りはカナンカと一緒に帰って来い。それでいいだろ」
「やったー!」
まるで遠足気分だなこいつは……。
その後。
戻ってきたアプスに連れられてデンの頭の上に座る。
座りながらランクイロの戦いを観戦し、楽しんでいた。
ランドルフの元に戻ってきたアプスは早速お茶を淹れて、自らも一緒に武器の手入れをし始めた。
各々が任務に向けてその日一日を過ごしたのであった。
お読みいただきましてありがとうございます。




