76話 閑話 カナンカのある日のお話
カナンカの朝起きる時間はこの屋敷の中で一番遅い。
アプスがお茶をもてなして、ランドルフがその味を堪能している頃に目を覚ます。
「んがっ。……朝か。……お茶の良い香りがするの~」
ドラゴンとして生活していたときでは考えられないほど規則正しい生活である。
酔っ払ったまま布団に入っていたとしても規則正しいのである。
元の姿のときは何十年、何百年。いや、千年か?
わすれてしも~たが、それくらい寝るのが普通じゃった。
することもないしの~。
人々が彼女に戦いを挑んできていた頃はまだ楽しみがあったのだが、パタリとそれも止みんでしまった。
それからはぐっすり寝ている時間が楽しい時間だった。
二人に挨拶をするとアプスがお茶を注いでくれた。
二日酔いにはなっていないが、眠気と酔いがすっきりと吹き飛ぶ爽やかな味わいだ。
「うむ。良い仕事をするの~」
「ありがとうございます」
我のために淹れてくれる朝の一杯がたまらん。
またこの一杯を味わうために酔っ払いたくなってしまったではないか。
言い訳でもするようなことを考える。
実際にはアプスはカナンカのために淹れているわけではない。
勘違いをしているカナンカ。
哀れである。
ランドルフが着替えて食堂に向かったが、カナンカは眠気と酔いを醒ますように、お茶をゆっくりじっくりと味わう。
「ふぅ~。昨日も飲みすぎてしもうたわい。ベネディッタが忙しいからと付き合ってくれんから、ついウィステリアに愚痴をこぼしてしもうた」
飲ませすぎたかもしれんから、後で謝っておくか。
コンコンコンッ
ノックする音が聞こえた。お付のメイドがやってきたようだ。
「失礼します。おはようございますカナンカ様」
「うむ。おはよう」
やってきたのはすっかりお付のメイドになってしまったラセットである。
アプスと同じダークエルフだ。
ラセットにもう一杯飲むかと聞かれたので飲むと答えてお茶を注いでもらう。
「ウィステリアはどうしておる?」
「二日酔いで朝からうなされております」
「むっ、やはりか」
「ランドルフ様から散々言われておりますが、もう少し控えていただけるとありがたいのですが」
「無理じゃな!」
力いっぱい否定して、すっかり目が覚めたようだ。
「はぁ……」
毎回聞いて、いつもの返事なのだが、思わずため息を吐いてしまうラセット。
本人を前にして失礼なのだが、それくらいは許される仲である。
ランドルフからは散々言われているのになかなか控えてくれない。
控えてくれないのでまたランドルフからお願いされる。板ばさみである。
ランドルフ本人も、もちろんカナンカには言っている。
飲むなと言っているわけではない。量を減らせといっているのだ。
しかしお酒という禁断の果実をこのドラゴン与えてしまった時点でダメだったようだ。
「それではお食事に参りましょうか」
「うむ」
飲み終えて一息つくと声をかけらた。
アプスが用意したお茶を片付けるラセット。
カナンカの後ろを歩き、食堂へ案内すると、食器を洗うために厨房へと入っていった。
ランドルフは食事を食べ終えるところだった。ほぼ入れ替わりに近い状態だ。
席に座ると、新人メイドとはいえなくなった三人の一人、シャキュピが食事を出してくれた。
「今日は豪華じゃな」
「今朝はブルグロットさんが作ってくださいました。お庭で良い作物が収穫できたようでして」
「庭で育ててるあれか」
「はい」
カナンカは以前ブルグロットが育てていた花壇を荒らしてしまったことを思い出していた。
あれはちょっと調子に乗ってしまったのがの~。
こんなに素晴らしいものを作ってくれるならもう少し大切にしてやればよかった。
ほんの少しだけ味付けされた、スティック状のキュウリをかじる。
「美味い!」
「それはそれは。ブルグロットさんも喜ぶでしょう」
シャキシャキしていてなんと瑞々しいことか!
ほとんど調理していないにも関わらずこの美味さ。素材そのものの美味さじゃな!
さぞかし苦労して育てたのじゃろう。
益々反省するばかりじゃな。
その後もうまいうまいといいながら料理を平らげていく。
元の姿で眠っていた頃にはこんなことは味わえなんだ。
人間が持っていたものを食べたことはあるが干した肉ばっかりじゃったからの~。
挑んできた相手が逃げたときに残していった荷物の中に、干し肉があった。
しょっぱくて食べたときに思わず吐き出してしもうたが、そのまま口に含んで時間がたてばそれなりの味じゃった。
それと似たような物なのに味は比べ物にならんほどのうまさじゃ。
干し肉は干し肉で良さがあり、そもそも保存を目的としたものなので比べるのが間違っているのだが……。
カナンカは味をかみ締めながらしみじみと感じる。
ランドルフの誘いに乗ってよかった。
ずっと寝て過ごすばかりの我に様々な楽しみを提供してくれる。
今では寝るのがもったいないと感じるぐらいじゃ。
本当にランドルフには本当に感謝じゃな。
例の一件以来、心に陰りが見えるからな。お礼に色々な所で我が気をもんでやろう。
朝食を食べ終わり、厨房で食事を取っているブルグロットに直接美味かったと伝えてやる。
それを聞いたブルグロットはとても嬉しそうな笑顔であった。
後片付けを手伝い、自分も食事を取るというのでラセットと分かれる。
ウィステリアの寝ている部屋に向かい、飲ませすぎたことに対して謝罪する。
「そのように軽々しく頭を下げてもらっても困ります! こちらこそ簡単に酔いつぶれてしまい、ちゃんとお付き合いすることが出来ず申し訳ありません!」
ドラゴンであっても悪いと思ったなら頭を下げる。
人間ごときに気を使うなど、元の姿で過ごしていた頃には考えられないことだ。
じゃが一緒に暮らすと決めたのだ。
うまい酒を一緒に飲んでくれる人のためならそんなことは些細なことじゃ。
喜んで下げよう。
ドラゴンの考え方を変えてしまうお酒。
恐るべし。
「良いのじゃ。つい愚痴をこぼしてしもうた。反省はしているのじゃが、飲むと勢いがな……。二日酔いはひどいのか?」
「アプスが薬を持ってきてくれましたので、頭痛はしませんが少しお腹の調子が……。ですがすぐにでも治るでしょう」
「ふむ。流石はダークエルフの作った薬じゃな。簡単に快癒してしまうとは」
快癒と言ったが、まだ少し辛そうである。
「無理はせぬように。今日一日休んでいてもよい」
「そういうわけには参りません。このお屋敷、そしてカナンカ様のお世話をするのが私どものお役目でございます」
「嬉しく思うぞ。じゃが今はもう少し休むがよい」
「はい。不甲斐ないお姿をさらしてしまい申し訳ありません」
「よい。よいのじゃ」
本当にすまなさそうにしているウィステリアを見ると、逆にこちらが居た堪れなくなってしまう。
いつもやりすぎてしまうからの。
散々ランドルフにも言われているのじゃが……。
最初に人の姿で城で会ったときから、カナンカはドラゴンなので、人とは違うから加減をするようにと、ずっと言われ続けている。
物を壊すな、もの珍しさにうろちょろするな。
人の社会での生活はストレスは溜まるが、それ以上に楽しいことがたくさんあった。
楽しむためにルールを守り、やりすぎないようにする。
じゃがそれは何も力に関することだけではなかったのじゃな。
今回酔い潰してしまったウィステリアとあって痛感する。
今までも何度かこういうことはあったが、薬を飲んで治すほどではなかった。
内臓の仕組みについても人とは耐性が全然違った。
人は脆い。じゃから生き延びるために工夫をする。それゆえに油断ができない。
人との戦いの中で目を狙われて危ない場面があった。
それ以来油断することの無いように努めてきたが、何年も眠っているとその考えも風化する。
ランドルフと会った瞬間その感覚を思い出した。
この魔力量。そして質……。子供の状態でこれほどとは……。
臆したわけではない。だがお互いに本気で戦えば決着は一瞬で着くだろう。
どちらが死ぬかはわからない。
このまま退屈な時間を過ごすならそれもありかと思った。
だがランドルフはそんなことすら感じている様子がなかった。
それがただただ純粋に面白かった。ドラゴンであるのにまったくこちらの事に興味が無い。
それどころか心底迷惑で邪魔そうに扱ってくる。
そんな態度をする相手は初めてだった。
初めてこれほど興味を持った相手。
しかしやりすぎたときのあの呆れ顔はやめて欲しいのじゃ。
そんな顔をされると……。
……されると?
カナンカは気づいてしまった。
寂しい……と。
今まで何年も孤独で怠惰に生きてきた自分が寂しいという感情を持つ。
あの顔を見ると突き放されているようで嫌だと思う。
それは寂しい。
あぁ、我はそれほどまでに今が楽しいのじゃな。
逆説的に考えて出た結論に、納得し、ニヤリと笑みを浮かべる。
「カナンカ様? 考え込んでおられる様ですが大丈夫ですか?」
ウィステリアが心配そうな声を掛けてくれた。
「大丈夫じゃ。それよりも本当にすまんかった。また懲りずに一緒に飲んでくれると嬉しい」
カナンカは言ってから少し後悔した。
嫌だと言われたらどうしよう。
そう思ってしまった。
「はい。もちろんです。でももう少し控えてくださると……ランドルフ様からも散々言われてますので……」
だがそんなことは無かった。
守護竜だから遠慮されている? いや、そういう顔ではない。
守護竜だからとは関係なく接してくれているのだ。
それもまた嬉しくなった。
「考えておこう」
「ちゃんと考えてくださいよ~。帳簿を見たランドルフ様に具体的な数字を出されるんですから困ってるんです」
弱くて脆い人間達。
そんなもの達の輪の中に入っている自分は愚かだろうか。
いいや、そんなことを考える事が愚かなのだ。
自分は今楽しい時間を過ごせている。それでよいのだ。
「クックック。あやつはいつもクドクドうるさいの~」
「はぁ……やっぱり言ってもダメですか」
せめてこの時間が長く続くように、壊さないように大切にしよう。
「失礼な。考えるといっておろうに」
「はいはい、わかりました」
そう思うと少しはお酒を控えるのも悪くないと思える。不思議だ。
「つれない返事じゃな。まぁよい、邪魔したな」
「はい。少しだけ休ませてもらいますね」
パタリと扉を閉めて廊下を歩く。
じゃからと言って我が今さら孤独に怯えてるわけではないぞ!
ふん! 後でランクイロと戦いでこのもやもやを晴らそうではないか!
自分に問いかけ、言い訳するように心の中で叫ぶ。
ランクイロが可哀想である。
しかし、そう思っていたのにも関わらず、すぐにワインを飲み始める。
完全にアルコール中毒者である。
食事を終えたラセットを捕まえ、ワインを飲みながらリバーシをする。
「食後のワインじゃ」
「ごめんなさいランドルフ様。朝からお酒なんて……カナンカ様のお誘いは断れません……」
「いつもの事じゃろうが。ほれ、おぬしの番じゃ」
ラセットが駒を置いて相手の駒をめくる。
ランドルフの教えもあり、お付のメイド二人とはいい勝負をするようになってきた。
相手にお酒を飲ませれば勝率も上がる。
それを知ってかラセットにワインを注ぐ。
それでいいのだろうか。
「カナンカ様も最初の頃よりは中々にお強くなりました」
「当然である。我は学習できるのじゃ」
お酒のほうは学習できていないようだが……。
しかし盤面が埋まっていくにつれてカナンカが不利な状況になる。
「むぅ。どうやっても我の負けか……」
「何とか勝てました……。お腹たぷたぷです……」
一手打つたびにカナンカが考え込むので、待ってる間に酒を飲めとグラスに注ぐ。
口をつけたくらいでは「全然飲んでおらぬでは無いか」と言われてしまうので仕方なく飲み干していた。
「これ以上は無理なので仕事に戻ります。うぷっ、仕事になるのかな~」
ラセットは困った様子のまま、申し訳なさそうに部屋を出て行った。
ぐぬぬ~。もうちょっとで勝てたのに何故あそこで我はあんな手を打ったのか!
酔いが回っているために思考が鈍るといつもランドルフが言っている。
それはわかってはいるが酒を飲みながら勝ちたいようだ。
なんとも贅沢なことである。
一人で黙々と駒を配置し、勝つための練習を始めた。
だが気が付けばワインに手が伸びてしまい、酔いが回る。
カナンカの勝率が上がるのはまだまだ遠いことになりそうだ。
これではいかん。午後からは訓練をする予定じゃったな。この辺で酒は我慢するか。
気分転換に潮風に当たりに外へ出たカナンカであった。
昼食に舌鼓を打っていたが、ランドルフにラセットの事でまた注意されたのでシュンとなる。
あまり多くは語らないが、ランドルフはドラゴンはそういうものだと思っているのだ。
人の世に溶け込もうとしている姿勢は認めている。
しかし、わがままに育って人々から疎まれないようにと心配しているのだ。
「窮屈なのはわかっているけど、皆カナンカのように丈夫じゃないから」
「うむ……」
「さっ、食事の続きだ」
その後は他愛もない話をして食事を楽しんだ。
午後からはランクイロの修行にアプス達が加わることになっている。
ランクイロの修行と言っても、やってきたことは言い方は悪いが、ランクイロをサンドバックにすることである。
だがそれにより、本来の気質もあってか、力に振り回されることもなく負けない意志を身に着けていた。
「「「「本日もよろしくお願いします」」」
ランクイロ、アプス、ウィステリアの三人が相手だ。
「うむ。今日はアプス達もいるのでな、どんなことをしでかしてくれるのか楽しみである」
そう言って元の姿に戻る。
ランクイロたちが一歩下がった気がした。
だがそれも一瞬の事。すぐさま攻撃を仕掛けてきた。
ふむ。ウィステリアがおらぬ。ランクイロの陰に隠れたか。
正面から突っ込んでくるランクイロに対して何もせずに様子をみる。
どうし掛けてくるのか見定めて自分の経験にするのだ。
自分は頑丈な体を持っているので、そのアドバンテージを大いに活かしてできることである。
「まともに当たったはずなのに。流石カナンカ様です!」
鼻に当たってこそばゆく、くしゃみが出そうになるのを抑える。
ランクイロの背中から上空に飛び上がる影が見えた。
『飛んだのは間違いじゃな』
火でも噴いて驚かせてやるか。
むっ? 喉の調子が……。
大きく口を開けたはいいが、どうやって火を噴けばいいのか一瞬忘れてしまっていた。
しかしすぐに加減して火を噴くことができた。
人間で言えば久しぶりにカラオケで歌を歌うといったところだろうか。
その炎も当たったものの、手応えがいまひとつだった。
『本気で飛んでおらなんだか。囮……アプスか』
気づいた頃には既に近くまで来ている気配がしたので、苦し紛れに払うように手を振るう。
だがこれまた手応えがなく、角をもたれた感触がした。
背中に乗られてしまったか。
人ならばその時点でほぼ負けじゃな。
ナイフで攻撃されているのだがまったく気が付いていない。
『そこまでじゃ』
訓練を終えて人の姿に戻り、それぞれの評価を口にする。
アプスの顔は浮かなかったが、ウィステリアは二日酔いを薬で治した後であるし、仕事もあるので二人とも屋敷へ戻った。
残された悔しそうな顔のランクイロの相手にする。
速さは申し分ない。
肉体は人間よりは頑丈だが脆い。
それを補ってすさまじい回復力があるのじゃが、我のようにそのことに過信しないようにしてやらねば。
頑丈なカナンカも、頑丈さに胡坐をかいてはいけないとランドルフに言われている。
そのおかげで相手の攻撃を見切って紙一重でかわし、攻撃に合わせてカウンターを決めることが出来るようになった。
だがランクイロはその辺りをまだよく分かっていない。
手詰まりになるとゾンビアタック万歳戦法になってしまう。
「肩を前に出すでない! その振りの大きい一撃は止めを刺すときだけじゃ! 髪の毛一本分横にずれてかわすのじゃ!」
ランドルフに教えられ、自分で感じたことを織り交ぜながら指導する。
「今日はここまでじゃ」
「ありがとうございました」
激しい運動をしたが、お互いに息は上がっていない。
「ランドルフにもう一度基礎を教えてもらったほうがよいかもしれぬのぉ~」
だがランドルフは二人ともスピードが速すぎるためについていけない。
それに、基礎と言っても漫画で得た知識も混ざっているので正しいとはいえない部分がある。
「そういえばゆっくりと動いて訓練する方法があると言っておられましたが」
「あ~、あれは我が辛気臭いのは嫌じゃと言った事があってな……」
中国武術にある推手という組み手だ。
これを嫌がる辺り、カナンカがリバーシで勝てない原因がわかりそうなものである。
「まぁ、肌に合う合わないがあるじゃろうし、一度聞いてやってみるのもありじゃな」
「はい、楽しみです」
気が付けば夕暮れ時となり、その場で服を着たまま魔法で滝のような水をだして汗を流した。
その後温風を出して体を乾かす。ランクイロにもしてやった。
屋敷に戻って夕食を食べた後、またもラセットを呼び出して朝のリベンジを試みる。
「むっ? おぬし、全然酔っておらぬな」
「気が付きましたか。事前に薬を飲んで対策を練っていたのです」
「なぬ! 酒がもったいないではないか! 酔いを楽しまんでどうするのじゃ」
「……それだとまともにリバーシの勝負ができないじゃないですか」
やれやれといった感じで返事を返すラセット。
「ぐぬぬ。じゃが今回は我の勝ちのようじゃな」
「それはどうでしょうか」
ラセットが駒を置くと、盤の端っこをめくられてしまった。
「角を取っておったのに。これでは意味が無いではないか!」
局面は終盤。
角以外の端っこはすべてラセットの色で塗り固められてしまったので、もはや返すことができない。
「なるほど、そのための布石だったのじゃな! してやられた!」
誘われたことに今気が付いたようだ。
「我の負けじゃ。じゃがもう一勝負と行こうか」
グラスに残っているワインを一気に飲み干すと、駒を回収する。
空いたグラスにラセットがワインを注いでくれた。
そのグラスを見たカナンカが何かを思い出した。
「ふむ……これで最後にするかの」
「え?」
珍しいものを見たといった顔だ。
「これはランドルフが我に贈ってくれた杯なのじゃ」
「存じておりますが、それが何か?」
「昼に注意されたことを思い出してな」
「なるほど」
また飲みすぎてはランドルフに怒られると思ったようだ。
既に十分飲んでいるのだが……。
「では最後も勝たせてもらいます」
「そうはさせぬぞ」
結局試合はいい勝負のまま、僅差でラセットの勝ちであった。
「また負けた! もうよい! 我は寝るのじゃ!」
負けてしまったが気分は悪くない。いい勝負であった。
ワインを飲み干して部屋を出て行く。
その足取りはフラフラとしておぼつかない。
ラセットは肩を支えてランドルフの部屋まで送ったのであった。
ランドルフの部屋の前までやってきて、扉を勢いよく開けた。
ラセットはカナンカをランドルフに渡して、一礼すると戻っていった。
ベッドの前まで支えながら歩いているときに、酔った勢いに任せて普段の楽しい生活に対し、感謝の言葉を述べたかった。
だがその瞬間。ランドルフは事もあろうに、小さく魔法を使ってカナンカを放り投げたのである。
そのことに対して文句の一つでも言いたかったが、柔らかい高級布団の魔力には逆らえず、酔いも加勢して眠気に負けてしまった。
我は今、一人で過ごしていた時に眠りに付くのとは違って、幸せな気分で寝ることができる。
本当にランドルフには感謝じゃ~。
投げ捨てられたことも忘れて、とてもいい顔で眠ったカナンカであった。
お読みいただきましてありがとうございます。




