75話 閑話 アプスのある日の話
何故か長くなってしまいました……。
お時間があるときにでもどうぞ。
アプスの朝は早い。
朝日が地平線から顔を出した頃に目が覚める。
ランドルフが起きる前に目を覚まし、ランドルフのためにお茶お用意するところから始まる。
カナンカにもお茶を出すがついでである。
今日も早くに目が覚めたようだ。
「んっ……。おはようございます旦那様」
ランドルフはまだ寝ているので小さな声で挨拶をする。
毎日の事だが、また抱きしめながら眠っていたようだ。
ランドルフには散々止めろと言われているのだが、いつの間にかそうなってしまっている。
そうならないようにしようとは思うが、抱きしめていたいのも事実。ジレンマである。
そんなことを考えていると、また無意識のうちに強く抱きしめてしまい、起こして怒られてしまうのでやめておく。
「さて、準備しなきゃ」
名残惜しいが、ランドルフのおでこに軽くキスをしてベッドから出る。
頬をくっつけながらすりすりしたいですが、朝の一杯は重要なお仕事ですし我慢しましょう。
反対側で寝ているカナンカは体半分を布団から出して、寝相悪くしている。
そんなことは放っておいて、早くお茶の準備だ。
魔法ではなく、ポンプからくみ上げた水を鍋に入れ、魔道具で火をつけて茶器をお湯で温めておく。
茶葉には里で育てた薬草を混ぜ、香りももちろんだがすっきりと目覚めを良くさせるものにしてある。
湯を沸かしている間に、朝食の準備をしているブルグロットを少し手伝って寝所に戻る。
沸騰したお湯が自然に適温まで冷めるのを待っている間に顔を洗い着替える。
そしてランドルフの顔をじっと見つめていると、顔色が変わりそろそろ目覚めるようだ。
そのタイミングで暖めておいた茶器に茶葉を入れてお湯を注ぐ。
フタをして放置し、少しの間蒸らすのだ。
はぁ……寝顔も可愛らしいですが、目覚めた直後の顔もまたいいですね~。
「ん~……ふ、ふぁ~~……。ん……おはよう」
あくびをしたときのあのお顔。この一瞬が今日も一日このお方をお守りしようと頑張れる瞬間ですね。
微笑ましい顔をランドルフに向けて返事を返す。
「おはようございます。お目覚めのお茶がご用意できていますよ」
「いい香りだね。いつもありがとう」
「もったいないお言葉です」
お茶の香りを嗅いで、ごくりと一口飲む。
ほっと一息ついた顔を見て満足していると確信する。
今日もうまく淹れられたようですね。
あの「俺はお茶の味をわかっている」と言うような背伸びした姿がまた可愛らしい……。
うっとりとした顔でランドルフを見ていると、コップが空いたのでお代わりを注ぐ。
「んがっ。……朝か。……お茶の良い香りがするの~」
カナンカも目を覚ましたようだ。
二番茶だが淹れてコップに注ぐ。
「うむ。良い仕事をするの~」
「ありがとうございます」
カナンカがお茶をたしなんでいる間にランドルフに身支度を手伝う。
顔を洗い終えるとさりげなくタオルを手渡す。
そして着替えを手伝い、カナンカを置いて食堂まで後ろを付いて歩く。
今日の朝食はブルグロットの力作のようだ。
ずいぶんと朝から豪華である。
この屋敷には料理人がいない。
むしろブルグロットが雇うのを控えめに拒んでいた。
何でも自分で作ったものを召し上がってもらうのがうれしいらしい。
わかりますその気持ち! 本来なら全部私が作って差し上げたいところですが、朝のお茶を用意することを優先してしまう未熟な私をお許しください。
ランドルフの寝起きの世話をしたいがために、正確にはその顔を見たいがためなのだが、侍女とは本来そういうものである。
一人であれもこれもやろうとするアプスがおかしいのである。
ランドルフが朝食を食べ終える頃に、カナンカとカナンカ付きのメイドの片割れのラセットを伴って食堂へとやってきた。
ということはウィステリアがワイン係だったということか。
今頃二日酔いになっているかも知れない……。
薬を出しておくか。
カナンカに付き合わされて飲まされる役割である。
最近はベネディッタの付き合いが悪いので特にひどい。
朝食が終わり、ランドルフが部屋でゆっくりしている間にベッドメイキングを行う。
カナンカが飲んでいたお茶はラセットが片付けてくれたようだ。
シーツをくるみ、新しいシーツを被せてシワの無いように整える。
ランドルフの服は汚れることが無いので洗濯する事は無い。
それは少し寂しいですし、楽しみがなくな……いえ、お世話できないのは寂しいですね。
くるんだシーツを洗濯部屋に持っていって部屋に戻ると、ランドルフが仕事に取り掛かろうと隣の仕事部屋に移動するところだった。
「今日のご予定はいつもどおりでしょうか?」
「そうだね。午後からはここ最近ちゃんとかまってやれなかったから、デンと散歩か組み手でもしようかな」
「わかりました」
ランドルフは机に向かって仕事を始めた。
アプスは居間や寝室の掃除を始める。
余計なものが落ちていて旦那様に怪我でもあれば、旦那様の言うところの「せっぷく」なるものをして詫びねないといけない。
真剣に丁寧に、でも手は早く効率も考えててきぱきと作業をこなしていく。
ゴミ一つ、塵一つ残さぬように気を配る。
余計な埃を吸い込んでご病気になられたとあっては、旦那様の言う所の「どげざ」では済まされません。
でもそれを看病して熱にうなされる旦那様にそっと近づき……それでおでこ同士を合わせて熱を計る……。
妄想が膨らんで褐色の肌が赤く染まり、動かす手が乱雑になって埃が余計に舞ってしまった。
いけない。こんな調子ではダメだ。
気を取り直してちゃんと掃除を行った。
時間を見計らってランドルフに休憩のためのお茶を用意する。
部屋に入るとベネディッタと難しい話をしていた。
「とにかく王命を果たす前にこれだけはやってちょうだい」
紙を広げて机の上に並べている。
「ん~。この土壌の改善って、バークメリの手伝いをするのはよろしくないって言ってませんでしたっけ」
「そうね。最初からランドルフ君主導の下で行うならともかく、一農家に領主が肩入れすることがあったら周りは不公平に思うわよね」
「そうですね。でも?」
「でも彼にはこの島の食糧事情を改善してくれるかもしれない人材よ。あまり露骨なのはダメだけど、下地を整えるくらいなら周りもまだ納得しやすいはずよ」
しょくりょうじきゅうりつがひゃくぱーせんとを下回ったと愚痴を言っておられたな。
「まぁ、その後どうなるかは本人次第ですからね」
「土地を寝かしている今のうちにやってほしいの。少し投資したくらいにしか思われないでしょうし、もし失敗してもその土地を貸してくれと他の農家が言ってくるかもしれないわ」
「でも俺も私もと言ってくる人が増えるかもしれませんが。そうなったら私も困りますよ?」
旦那様のご負担になるのならばダメだ。何を考えているのだこの女は!
「そう言ってくる人がいなかったから今の状態になったんじゃない。むしろ増えてくれるなら歓迎だわ。降水量の多いこの島で作物を育てるなんて皆無理だと思っているのよ。そんな中でも頑張ってくれそうな人を増やすために、そういう姿勢を見せる方向に切り替えましょう」
「木綿はうまくいきましたが」
「それでも時期は何とかぎりぎりの所だったでしょ。木綿はお金に変えることが出来ても食べられるわけじゃないわ。あなたが島に人を呼び込むために住む家を無料にしたじゃない。あれと同じ様なことをすると考えてちょうだい」
「なるほど……」
育てる時間が長いものは無理だろうと言っておられたがそういうことか。
雨季に入ってしまうと作物が全滅してしまう。
前に住んでいた山も土地が滅茶苦茶にならなければ……。
ランドルフが悩み始めたので、そのタイミングで話を切り出す。
「お茶も淹れましたので少し休憩しませんか?」
旦那様のお考えの邪魔をするなんていけないことなのでしょうが、そんなに深く悩むようであれば私がほぐしてあげねばなりません。
「そうね」
「そうしましょうか」
ランドルフのコップには丁寧に。
ベネディッタのコップには仕方なくついでにやっているので適当に注ぐ。
渡すときも乱暴に渡す。
大体この女が全部考えればいいんだ! 何のための相談役なのか。
旦那様に正しく答えを導く為じゃないのか。悩ませてどうする!
普段の冷静でまともな思考が消え去って、滅茶苦茶な考えをするアプス。
キッ! とした目でベネディッタを睨みつける。
「な、何かしら?」
お茶を飲んでいたが突然睨まれたので何事かと問いかける。
「何でもございません。さっさと飲んでください。片付けますので」
「ん? 忙しいのにわざわざお茶を淹れてくれたのか? なんかすまんかった」
旦那様に勘違いされてしまった。でも好印象という所だろうか?
しかしそうではないのです旦那様。
ここは正直に……いや、この女に……くっ、良心が痛んでしまう。
「いえ、旦那様はごゆっくりと味わって飲んでいただいて、安らいでください」
「あなたねぇ……」
ベネディッタにはアプスの考えがばれてしまったようだ。
ばれてしまった所でアプスは気にしていない様子だ。
ベネディッタの視線は無視して、ランドルフにお代わりを注ぐがベネディッタには注がない。
仕方ないので自分でお茶を淹れていた。
飲み終えて満足した顔のランドルフを見て茶器を片付け、仕事の続きの邪魔にならないようにと部屋を出て行った。
心の淀みが少しでも薄まったのであればお茶を淹れた甲斐があったというものです。
今日もまた一つランドルフの一助になれたことに自分を褒めるアプスであった。
午後からはもはや新人メイドとは言えなくなった三人に、屋敷の掃除や洗濯を任せて訓練に励む。
カナンカとランクイロと二日酔いでダウンしていたウィステリアもつれて草原へ出かけていく。
ラセットはすでにカナンカに付き合ってお腹たぷたぷなので動くのは無理そうだ。
今日はカナンカにドラゴンに姿になってもらっての訓練である。
やはりこの銀色に発光するようなお体は、普段の酒飲みとは全然違います。
プレッシャーも全然違うので、気を飲まれないように心を強く持つ。
ランクイロとウィステリアと一緒に攻撃を開始する。
カナンカが息を吹きかけるだけで吹き飛ばされそうになるし、気を抜けば手は動いてないが尻尾が飛んでくる。
周りの状況をよく見て有効打を!
ナイフを投げるなどのちまちまとした攻撃は、カナンカといわずドラゴンにはまったく無意味である。
狙うとしたら目や口の中になるのだろうが、これはあくまでも訓練なのでそれはしない。
ランクイロが正面からせめて鼻めがけて攻撃しようとしていたが、カナンカは何もせずただ受け止める。
まるでビクともしていない。
「まともに当たったはずなのに。流石カナンカ様です!」
改めてカナンカの硬さを認識するランクイロ。だが狙いはそこではない。
ランクイロの巨体に隠れて、カナンカの視線から消えるようにウィステリアが移動して飛び上がる。
『飛んだのは間違いじゃな』
大きく口を開けたカナンカの口から弱めの火炎放射が放たれる。
弱めと言っても十分に火傷するレベルである。
しかしウィステリアは少し火傷を負ったものの体をひねって全身が燃えるのを回避した。
地面に転がり、火をかき消す。
『本気で飛んでおらなんだか。囮……アプスか』
上を向いていたおかげで、音も無く静かに首元に近づくアプスに気づくのが遅れた。
前足で姿を見ずに払うが、アプスは地面に倒れこんで回避する。
立ち上がる勢いをそのまま活かして喉めがけてナイフを突きたてた。
カッ!
見事に命中はしたが、その硬さの前にナイフの刃が欠けてしまった。
カナンカからすれば何をされたのかわからないレベルの衝撃である。
すぐにアプスはジャンプしてカナンカの角を掴み、背中に着地して首にナイフを突き立てる。
だがやはりカナンカには文字通り歯が立たず、またも刃が欠けてしまった。
大型の魔物に攻められた時はこの動きでも十分通じるだろうが、その中でも竜ともなれば地力が違いすぎる。
三人がかり、連携もうまくいってこれでは……。
『そこまでじゃ』
カナンカに止められて背中から降りる。
人の姿に裸の状態で戻ったカナンカにアプスは服を渡す。
ランクイロは後ろを向いてウィステリアに回復薬を渡してやけどの手当てをしている。
「人の姿で戦ってばかりおったから、本来の姿の動きを忘れてしまう所だったぞ」
「炎の吐き方を忘れておったわ」と言って笑っている。
「どうでしたか。うまく連携できていたと思うのですが」
手当てを終えたランクイロがカナンカに評価を聞いた。
「うむ。なかなかいい連携であった。ランクイロもいい一撃じゃった。鼻がこそばゆいので思わずくしゃみが出そうであった!」
その言葉を聞いて「その程度だったのか」と悔しそうだ。
ランクイロの一撃がこそばゆいならば、この細腕の一撃ではまったくダメということになる……。
「ウィステリアとアプスは流石の動きで翻弄されてしもうたわ」
そう言いながらも嬉しそうだ。
「まったくダメでしたがね」
「そう言うでない。そもそも我とやりあおうということ自体が無謀なのじゃ。もし遭遇したのならなんとしてでもランドルフを生かして逃がすことに考えを切り替えなければならぬ。時間稼ぎならわかるが、倒そうなどと思ってはならぬぞ」
カナンカはカルバードという両手に短い剣を持った相手に、エスドゴが倒すのは無理だと判断して時間稼ぎしていたことを知っていた。
無理な相手には勝つ事ではなく生かすことを考えるのだと学んだのだ。
「絶望せず諦めず、活を見出す」
「その通りじゃな。まぁ、我もエスドゴを見て習ったので偉そうなことを言えぬがな」
最強であるはずのドラゴンでさえこの姿勢。
カナンカ様は長い生活の中で油断が死につながるのを知っておられる。
故に日々学んでおられるのか……。
普段の酒飲みの姿と違いがありすぎて、まったくそうは思えませんが……。
「ご指導ありがとうございました」
「うむ。互いに精進じゃな」
「はい」
その後はランクイロとカナンカが人の姿のまま組み手をし始めた。
アプスとウィステリアはメイドとしての仕事があるので屋敷に戻った。
軽く風呂に入り汚れた服を着替えて、洗濯出すついでに乾かしていた物を回収し所定の位置に置いておく。
夕食の手伝いをしてからランドルフを探しに部屋に戻った。
部屋にいないので長い耳を使い、音でランドルフの居場所を探る。
無駄にピクピクと動かすようにはしない。訓練の賜物である。
小さく風を切るような音が聞こえたのでそちらのほうに向かう。
「あ、アプス~。お腹減ったから蜂蜜ちょうだい。お花の手入れしていたら余計にお腹減っちゃった」
アマレット。旦那様に助けられて奴隷から開放された妖精だが、正直に言ってうらやましい!
私も旦那様の胸元ですやすやと眠りたい!
アマレットがランドルフの胸ポケットに入って寝ている姿を見て、いつもはランドルフがアプスの胸元で寝ているのでその逆をやってもらいたいという事である。
旦那様の匂いに包まれながら寝るなんて、なんて最高なことなのだろう。
酔っ払いの酒臭いドラゴンも一緒なのでそういう気分は味わうことがなかなかできない。
「アプス? 聞いてる?」
「ブルグロットさんの所に行けばもらえますよ。それより旦那様を見かけませんでしたか?」
「ん~。お庭でデンと一緒にお昼寝してたよ。おかげであたしの特等席を取られちゃった」
デンは旦那様のものだろうがこの浮遊物は! 何度言ったらわかる! 旦那様のものを勝手に奪うんじゃない!
と言いたいが声には出さない。
私は旦那様のメイドなのだ。主人に恥をかかせるようなことはしない。
と思っているがすでに手遅れであることは皆知っている。
残念なアプス。
「はっちみっつ、はっちみっつ~♪」
鼻歌を歌いながら飛んでいったアマレットとは逆の方向に足を進めて庭に出た。
旦那様の寝顔を早く拝見せねば。
自然と足早になる。
近づいてきたアプスにデンが片目を開けて反応するが、そろそろ日も暮れてきたので屋敷に戻る時間だと理解した。
デンは賢いのだ。
「旦那様。ここで寝ておられては風邪を引いてしまいます」
優しく揺り動かしてランドルフを起こす。
はぁ~。この可愛らしい寝顔をずっと見ていたい……ですが心を鬼にして起こさねばなりません!
「もうすぐご夕食の準備も整います。中に戻りましょう」
「ん。わかった」
あくびをして体を起こしたランドルフに付き従って中に入っていく。
デンはまたねと言わんばかりに、ランドルフの手をひと舐めして大きいけど小屋の中へ帰っていった。
もはや車庫以上の大きさである。
夕食を終えた後、ランドルフが風呂に入るので『背中を流すのため』という建前でに一緒に入る。
ああ、旦那様。もっと私の体をじっくりお好きなように見て下さっても良いのですよ?
そんなにチラチラと見ずに、さぁ! 遠慮なく!
身も心もすべて旦那様のものです!
「うっさい! 静かに湯につかれよ! タオルは湯につけるな!」
「……声に出てしまいましたか。すみません」
「まったくもってけしからん……」
何がけしからんのか。
体が温まったのか顔が赤くなっている。
照れて赤くなっている旦那様も可愛らしいです。
アプスはそうは思わなかったようだ。
風呂から上がり、部屋に戻ったランドルフにお茶を出す。
胃に優しい薬草を混ぜたお茶です。
旦那様の健康はお茶から始まるといっても過言ではありません!
「アプスは今日はどんなことしてたの?」
今日一日あった事をお話しするこの一時もまた……幸せです。
お互いに一日の事を話していると、部屋が乱暴に開けられて酔っ払いが戻ってきてしまった。
チッ。
二人の世界が壊されたことに心の中で舌打ちをして、ここまで酔っ払いを介抱して連れてきたラセットから受け取る。
ラセットもかなり飲んだようで酒臭いが、意識はハッキリしているし、足取りも軽やかだ。
お礼を言うと一礼して「お休みなさいませ」と言って去って行った。
「はぁ……。ランクイロに指導し始めてからは大人しかったのになぁ~」
「王都で陛下からもらったお酒が原因でしょう」
「だから嫌だったのに……。とにかくベッドに乗せよう」
ランドルフは物を捨てるかのようにカナンカを放り投げる。
「旦那様! 角や翼で枕やベッドが痛んでしまいます!」
「あ、そっちなんだ」
投げ捨てられたカナンカの事はまったくもってどうでもよく、ランドルフと一緒にぐっすり眠るためのベッドを大事にする。
「俺達も寝るか。また酒臭いけど……酔いとかアルコールを分解するとこいつ怒るからなぁ……」
「仕方ありません。駄々をこねられたら厄介です」
ひたすらにめんどくさいです。
ぐずって子供のようにその場から動かないことになれば、本当に邪魔ですからね。
「んじゃ寝るか」
「はい」
ランドルフの前で当たり前のように平気で着替え、下着姿のまま布団に入る。
ふふふ。また旦那様が私の胸を見ておられる。
旦那様だけの胸ですのでご自由になさってください!
とばかりに抱きしめて押し付ける。
「やめんか! 息苦しいっていつも言ってるだろ!」
「申し訳ありません。反応が可愛らしいのでつい……」
「まったくもってけしからん……」
何がけしからんというのだろうか。
怒られたので優しく抱きしめるアプス。
それでもランドルフは嫌がって距離を離すようにアプスを端へと追いやる。
もっと触って、触られていたいですが、これ以上わがままを言っては布団から追い出されそうですし、今日はこの辺で我慢しましょう。
こうやって照れておられるうちは大丈夫。
あの事件以来旦那様はほんのわずかだが、どこか心に陰りが見えるときがある。
そのお心を癒し、お守りするのも私の役目である。
「おやすみなさい旦那様」
スヤスヤと眠り始めたランドルフの顔を見て、今日も一日無事であったと安心しアプスも眠りに付く。
こうしてアプスの一日が終わったのであった。
お読みいただきましてありがとうございます。
長すぎたのでお風呂のシーンを消そうと思ったのですが、ナイフを構える音が聞こえた気がしたのでそのままに……。




