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71話

間に合った_(:3」 ∠)_


 ベネディッタには相談役として仕えてもらう事にした。

 文字通り困ったらあれこれ聞いて相談するのだ。

 長年生きて蓄えたその知識を貸して欲しいとそう思う。


 そのことについてアプスは、ランドルフが決めたことなので歓迎するそぶりを見せるも、握手するときに力を込めていた。


 「ちょっと! 痛いわよ!」

 「私もランドルフ様よりは長く生きているので相談に乗れます!」


 そりゃそうだろ。ってかお前何歳だよ……。


 ベネディッタに対抗して自分もそれくらいはできると声をあげる。


 「でも山からほとんど出なかったんでしょ?」


 そう言うとショックを受けていた。

 ベネディッタは学術調査で彼方此方に赴き、その結果を研究や考え方に反映してきた。

 山から出なかったアプスとは同じ長生きでも経験が違う。そう言われた気がした。


 「で、でも、アプスさんの戦闘技術は私なんかよりも比べ物にならないし、気にすることはないわ」

 「くっ! 慰められてしまうなんて!」


 一層の事、殺せといわんばかりに今度は悔しそうな表情をして、ころころと顔色を変えるアプス。

 他にも知らせに行かないといけないのでと放っておく事にした。


 カナンカは何を今さらといった感じで特に気にしてもいなかった。

 お土産に御伽噺の本を渡しておいた。自分の事が書いてあるので、これで文字の勉強でもしてほしい。


 「これで島からベネディッタさんがいなくなったらどうなってたんでしょうね」

 「この前みたいに自棄酒をするときは探し出して連れ出されたかもしれないわね……」


 考えたくも無いといった表情だ。


 人魚族とダークエルフの族長に挨拶をしたり、エスドゴやアマレットとも知った仲ではあるがちゃんと挨拶をして回った。

 早速、今日から色々と働いてもらうことにする。








 クベーラ商会は解体され、スプモーニ商会に吸収されることとなった。

 希望するものはそのまま勤め、辞めたいものは相応の金額を支払い離れることになった。

 販路が拡大したことで、今までの製品も遠くにまで売り出すことができるようになり、製紙工場は二つ目を建設予定らしい。

 ランドルフの元にもそれに比例してお金が入ってくる。


 「お金はあっても人材が~」

 「今さらじゃない。宣伝の効果もあって徐々に人も増えてきてるでしょ」

 「土地とお金は余ってるんですが物と人材がほしい」


 島へ移住してくる人たちにもっとアピールしようと、絵描きを呼んでコムラードの街並みを描いてもらった。

 守護竜の避寒地、青い海に綺麗な砂浜、ウォータースライダーに温泉(予定)に綺麗な湖を見に行くツアーなど、宣伝文句にあれこれ付け加えて呼び込みをする。


 「家は長屋だけどタダだしな」

 「無料で渡航できるのもありがたいわね」

 「場合によっては二週間近くかかりますがね……」


 職を探してやってきた人に、話を聞いて仕事を割り振る。

 ちゃんとまともに商売をしたいという人も現れた。

 パン屋を営みたい人や、大工に散髪、革をなめしていた人や酒屋を開きたいなど要望も増えてきた。

 島を気に入って住んでくれる人の中には彫刻家、画家、吟遊詩人などの芸術家や、山や森を探索したい狩人なども訪れるようになった。


 「今は大人ばかりだけど、今後の子供のためにも小学校は作っておきたいな」

 「小学校?」

 「子供達が集まって計算や文字を教える場所ですね。まぁ、勉強する場所です」

 「それはいい考えだけど、子供は親の仕事を手伝うものじゃない? そうやってるうちに覚えていくもので、一箇所に集まって勉強なんて親が許してくれるのかしら」


 物心ついたころから家事手伝いをさせられるのが普通である。奉公に出されたりと働くものもいる。


 「大陸には大学しかありませんからね~。貴族や商人は講師を雇ってですし、平民でも勉強できる環境を整えれば、島の発展にもつながるかと」

 「少しずつ変えていくしかないわね」

 「教育方法も考えないと……」


 ベネディッタと一緒にあれこれ考えながら昼休憩を取り、午後から木綿を収穫するというので見に行く。








 暑い日ざしが照り付けるなか、茶色に長く伸びた茎が風に揺れてざわざわと音を立てる。


 「いい感じにできてるね~。でもこれ、全部摘み取るのは大変だな……」


 茶色くなったコットンボールが四つにぱっくりと分かれ白い綿が見えている。

 収穫した綿は乾燥させて天日干しにする。


 「綿を摘み取れば、残った茎は魔法でなんとかなりそうだな~」


 魔法で刈り取り、土を耕して慣らし、しばらく寝かせる。

 刈り取った茎や葉っぱは回収して紙の原料にするために運び出した。


 乾燥させた綿の中にある種を取り除き、また次に種をまくときに使用する。

 試験的に雨季でも作れるか試す事にした。


 「もし生き残ったのがいたら、それらを元種にして雨に強い品種を作っていこう」


 年中育てることができればいいけど、ほぼ無理に近いだろうが地道にやるしかないね。


 種を取り除いた綿を、綿打ちをしてふわふわの状態に仕上げていく。

 弓が得意なダークエルフさん達に協力してもらった。地味だが大変な作業だ。

 それらを細い棒に刺してくるくると丸め、キリタンポのような形に仕上げて棒を抜き取る。

 できたものを大陸から持ってきた糸車で、カラカラと音を立てながら糸を紡いでいった。


 「綿の状態で売り出さずに糸の状態で売った方が高く売れるんじゃない?」

 「手間がかかってるから高く売るのはいいけど、綿の状態でも残しておいたほうがいいわね」

 「布団欲しいですもんね」

 「それだけではないけど……」


 この島は年中暖かいので厚着することは無い。布団の需要も少なそうだ。

 色を染めて色分けして付加価値をつけるなども考えたが、その職人がいない。

 なので人形作りや座布団などのクッション用に一部を残しておくことにした。







 ある日の事。

 二人の人物がランドルフの元に訪れていた。

 まずは一人目と対談する。


 「始めまして子爵様! 私、バークメリと申します!」


 礼儀正しそうな肌が焼けた好青年が元気に話をする。


 「そんなに大きな声じゃなくても聞こえてますから」

 「これは失礼を」

 「それでどのようなご用件で?」

 「はい! 砂糖をこの島で作りませんか!」


 身を前に乗り出して大きな声で話しかけてくる。


 いい人そうなんだけど、やかましいな……。


 側で控えているベネディッタも、エルフの長く尖った耳が邪魔をして余計に響いてうるさそうだ。


 「サトウキビを育てるの? 気候的にはいいかもだけど、雨もたくさん降るよ?」

 「木綿を育ててると聞きましたので、その時期に合わせれば問題ないと思います!」


 まぁ、そうかもだけど……。


 「育てたことあるの?」

 「はい! 自分は実家が農家でしたので、小さいときから手伝って一通りの事はできます!」

 「もうちょっと声を抑えてくれない?」

 「これは失礼を」


 このやり取り、さっき言ってから三分も経ってないんだけど……。


 「それで、育てる土地が欲しいってことかな?」

 「その通りです子爵様! 成功すれば懐も潤いますよ!」


 お金は余っているが、いざという時のために蓄えは必要だし、島にお金も循環し始めているからやるのはかまわないが……。


 「ではどういった感じで作るのか、具体的に紙に書いて提出してください」

 「それはかまわないのですが、少し問題がありまして……」


 先ほどの大声が極端に小さくなった。

 このバークメリという男は、そろそろ自分も一人前になったので一人でサトウキビを作ってみたいと父親に話をした。

 だが父親はお前にはまだ早いと言われ、喧嘩をして家を飛び出してきたという。

 そのためお金はほぼ持っていない状態で、当然一緒に作ってくれる人もいない。

 そんなときに家がもらえ、渡航費はタダという宣伝文句につられてやってきたというのだ。


 「……つまり、投資をしろと?」

 「簡単に言えばそうです」


 どうしようかとベネディッタに意見を聞いた。


 「その前に、こういう人がこれからも来るかもしれないことに対策をしないといけないわね」

 「やってきたはいいが、島で野垂れ死にされたら困りますよね」


 新たな問題が浮上してしまった。


 「とにかくバークメリさん。今後どうやってサトウキビを作っていくのか報告書を書いてください。しばらくは長屋で暮らしていただいて結構です。今回はあなたに期待してわずかですが路銀を差し上げます」

 「分かりました。子爵様のご温情、ありがたく受け取らせていただきます!」


 この人のおかげで問題点も発見できた。有用であれば島のためにがんばってくれそうだし、これくらいはね。


 アプスを呼んで部下に住む場所に案内させた。









 次の人を呼んでもらっている間に話していた内容をメモする。


 「もし、ちゃんとした内容だったら絶対に押さえておいたほうがいい人物ね」

 「私もそう思いますが、今は置いておきましょう」


 ノックする音が聞こえた。


 「始めまして子爵様。私はヴァサーロ・ロッドウェルと申します」


 金髪に焼けた肌が健康的で細マッチョな青年が現れた。


 「ロッドウェル……ロッドウェル……」


 姓があるので貴族と分かるが、どこの貴族かすぐに出てこないランドルフ。


 「本国の南西部にある小さな領地を任されている男爵家の三男です」

 「あ、すみません。ご丁寧にどうも」


 簡単に謝って腰の低いランドルフを、首をかしげて疑問に思うもすぐに元の表情に戻る。


 やっべ、いきなりどこぞの偉い貴族様が来たのかと思ったよ。貴族の名前なんて全部覚えてないよ。


 大小あわせて百以上いる貴族の名前を覚えるのは難しいことである。


 「本当に小さな領主ですのでお分かりにならないのも無理はありません」


 ロッドウェル家は領地は小さいが、昔から討伐困難な魔物が現れたら援軍に駆けつけることで有名な家だそうだ。

 現当主は剣一本でワイバーンを一人で倒す猛者なのだとか。


 「武家のご出身ということですか。どうりで引き締まったいい体をしていらっしゃる」

 「いえいえ。私なんて見かけだけでして、お恥ずかしい話、私には剣の才能が無くてですね、家では肩身の狭い思いをしていたのです」

 「それで家を飛び出してきたと」

 「飛び出したとは違いますが、まあ似たようなものですね。ちゃんと親には話をして各地を放浪して修行するという形で出ています」


 何故そんな人がここに来たのか。


 彼は剣の腕前よりも計算が得意なので、そっちを活かしたことをやりたかったのだという。


 なんか似たような境遇の人物がうちにいたような……。


 「それに貴族と言っても三男じゃ家を継ぐわけでもないので、放り出されて当然ですからね。そのために色々と勉強したのですが、武家には似つかわないと疎まれていました」

 「それで、当家にはどのようなご用件で?」

 「できればここで働かせてもらえないでしょうか!」


 うぇ? それはうれしいけど修行するんじゃなかったのかよ。


 「何故ここで働きたいと?」

 「新興貴族ですし人材が必要だと思いましたので。それに、守護竜様が訪れる場所で人が増えて今後も発展していきそうなので、おもしろそうかな~と」

 「もうちょっと早く来て欲しかった……」


 思わず小さくでぼそりと声を漏らす。


 「え?」

 「いえ、なんでもないです。計算が得意だということですが、今ここで簡単に計算試験してもいいですか?」

 「かまいませんよ」

 「ふむ。では、18782+18782はいくらですか?」

 「37564ですね」


 即答かよ。でもまぁ、これはちょっとした冗談で出した有名な問題だし、知っていてもおかしくは無いよね。


 嫌なやつと嫌なやつが二人いたら皆殺しにするのである。


 「159*357は?」

 「……56763ですかね?」


 少し間があったが暗算ですぐに答えを出したので、ランドルフも紙に書いて計算してみた。


 「あってるし……天才かよ」

 「ほんと。すごいわね」


 ベネディッタも計算していたようだ。


 「すばらしい計算能力です。念のためにお聞きしますが、どこかの諜報員とかじゃないですよね?」


 こんなこと聞いても「諜報員です」と言うやつはいないが……。


 「もちろんです」

 「でもそれだけの能力があれば何も貴族の下でなくても、商人として働けば優遇されると思いますよ?」

 「そうなのですが、先ほども言いましたが、募集を見てこの島が発展していく姿を見れればと思いまして。新興貴族なら私の能力を買ってくれるかもと思った次第です」


 う~む。少なくとも島の発展に協力しようとする姿勢は評価できるよね。


 ベネディッタも頷いてこちらを見ている。


 そうだな。元々貴族なら色々としがらみも知っているだろうし、役に立ってくれるだろう。

 しばらくは文官たちに混じって働いてもらおう。

 ずいぶんと滞在時間を延長してもらってるし、育ったら交代時期かもしれないな~。


 「分かりました。では明日から早速お願いしますね。給料などについても明日説明します」

 「おお! ありがとうございます! 即決していただけるとはなんと豪胆なことか」


 え? そりゃすぐにでも欲しい人材だしね。

 見た感じ悪い人でもなさそうだし、うちには監視の目もいくつかあるしね。

 目ざとい妖精とかさ……。


 ダークエルフにデンやカナンカまでいるのだ。掻い潜って悪さをするのは難しいだろう。

 港には人魚族がいるので海で異変があればすぐに知らせてくれる。


 大丈夫だとは思うが一応監視を頼んでおくか。


 支度金を渡して長屋に案内してもらった。








 翌日も二人を招いて話をした。


 バークメリの生産計画については問題なかった。だが人材や土地、元となる苗が無い。

 揃える当てがあるのかと聞くと、苗は手に入れられるが人材はここで募集もかけるが、知り合いを当たってみるということになった。


 土地は俺が調えてやればいいけど、そこまでするのはだめだって言われたしな。

 土地を貸すだけにとどめておこう。三年は我慢して様子をみるか……。

 うまくいけば他の作物も作ってほしいしな。


 島の自給率は人が増えてきたことによって100%を下回っている。

 ニンジンやレタスにピーマンなどは小さい畑で試験的にしか作っていないし、山の幸はともかく海の幸の収穫量もそれ程多くはない。

 鹿やイノシシの肉もとてもじゃないが島民全員にまかなえるほど取れるわけではない。

 絶滅してしまうほうが先だ。

 家畜も考えてはいるが、島に来てやりたいという人はまだ現れない。

 主食の小麦はまったく作っていないので、輸入頼りな辺りも考えなければいけないところだ。

 今後のためにも期待して投資をすることにした。


 ヴァサーロにはベネディッタを筆頭に、文官たちからも色々案内されて、簡単な雑用からさせるように頼んだ。

 貴族の三男などというのは気にせず、気さくに仲良くやってほしいと思う。


 その後も街を探索し、市民の意見を聞いて回る。


 俺は地元密着型の領主なのだ!


 「自分でやらないと手が回らないというのもあるわね」


 うぐっ……。


 鍛冶屋のムングに人が増えて手が回らないと怒鳴られたり、製紙工場に行って大量に回収した木綿の茎を腐らせないために保存方法を考えたり、北の海岸に住む人魚族の様子を見に行ったりとそれなりに忙しい日々をすごしていた。


 忙しいけど充実してて、なんかいいな~。

 次は例の事件で没収した船をどうにかしろとって要望か……。

 船を貸すから海運業や漁業をやってくれる人を募集する張り紙をこの島と大陸でも出すか。

 前もうまくいったし、やがて船を買い取ってくればいいし、港の使用料も懐に入るしな。


 歩き回りながらあれこれ考え、馬車の移動で港を往復し、ついでにプールの利用状況も見て回る。


 ……ん~、相変わらずデンの散歩もあまり行けてないけど、様子はちょくちょく見に行ってるし、アマレットが行ってくれるしな。


 ランクイロもカナンカに鍛えられているようで、アプスも一緒になって励んでいるようだ。

 たまに草原の方向からカナンカの吼える声が聞こえるときがある。


 酒の量も減ったんじゃないかな? 戻ったら資料を見てみるか。


 落ち着いて満足した日々を過ごせるようになり、大きな事件もなく島が徐々に活気に溢れていく姿を見て、今まで以上にやりがいを感じるようになっていた。


 そんな気分に浸っているランドルフに、一つの嵐の予感が訪れる事になる。

 まさか島に来るなどと思ってもいない予想外の人物である、変態ハイエルフ様がご来訪したのである。

お読みいただきましてありがとうございます。


変態ハイエルフ……いったい何リームなんだ……。

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