表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/278

70話

おかしなところがあったらごめんなさい。


 雪解けの水が山から流れ、春の兆しが見え始める頃。

 辺境伯の屋敷でジュレップはスプモーニと会談していた。


 「―――わかりました。では今期……いや、もうすぐ来期ですか。組合長を交替することとしましょう」


 あっさりと決断したスプモーニ。


 「すまないね。スプモーニ商会が大きくなると、いらぬおせっかいを焼く者が出始めるからね。ここは我慢してほしい」


 内心とは裏腹に、相手を気遣う言葉で語りかける。


 「存じております。正直に言って手広くやりすぎてますからなー。人の恨みつらみは恐ろしいものですし、クベーラ商会の事を引き受ける件もありますから致し方ないでしょう。つまらぬことに足を引っ張られても困りますから」


 流石は海千山千の商売人だな。引き際を見据えていたか。

 もしかしたらクベーラ商会の事件が起こることとは関係なく、前々から考えていたのかもしれない。


 「そう言ってくれて助かるよ。これからもよろしく」

 「こちらこそ今後ともご贔屓にお願いいたします」


 そういって二人は笑顔でがっちりと握手をした。


 「ところでアクラナス様はおられないので? せっかくですのでご挨拶と土産の品をお渡ししたかったのですが……」

 「あ~、父上は相変わらず社交界に入りびたりさ」

 「ははは、相変わらず精力的でいらっしゃる。では品だけでも後ほど送り届けることにします」

 「ありがとうございます。父も喜ぶでしょう」


 アクラナスは茶会や舞踏会などのパーティーに参加をして活動しているために、家にいることは少ない。

 ジュレップはそういうことは苦手である。


 私にはああいうのは向かないが重要なことではある。


 貴族の間を駆け巡る情報を得る機会だし、顔をつないだり付き合いもある。

 各地の催し物に顔を出すことで、市民への人気取りもあるだろう。


 けど馬車であちこち移動ばかりの日々だと、どうも体が腐ってしまいそうなんだよね。


 「最近父上も歳なのか、私がこうやって交渉の場に立つ事が多くなってきて困ったよ」

 「そろそろ世代交代なされるつもりなのかもしれませんな」


 何気ない一言だったが、一瞬ジュレップの目が鋭くなるも、すぐにいつものにこやかな目に戻った。


 「私は体を動かすほうが性に合ってるのでね。まだまだ父上には現役でいてほしいものだ」

 「今はお若いですからそうでしょう。ですが私のように歳をとってくると、体のあちこちが痛くなって、動かすのも辛くなってくるものです」

 「でも今はそうも言ってられないと」

 「ええ。おかげさまで忙しいので休む暇もありません」


 苦笑しながら頷くスプモーニ。


 「ですが私も事態が落ち着けば、後進に譲るのも悪くないかもと思い始めています」


 ふむ。それであっさり降りたのか……やはり前々から考えていたようだね。


 「それこそまだまだお早いのでは?」

 「そうでしょうか?」


 会談を終えて世間話をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。


 「対談中に失礼いたします。プレイリー子爵様の遣いのものがお話をとやってきておりますが……」


 やはり来たかとジュレップは気持ちを切り替える。


 「おっと、長居をしすぎましたかな? 私はこの辺でお暇するとしましょう」

 「すまないね。本来の予定ではないのだがお客人のようだ」

 「いえいえ、プレイリー子爵には私もお世話になっておりますからな。遣いの方に帰りの際には一言挨拶をさせてもらうとしましょう」


 部屋を出て屋敷の外までお見送りをしようとジュレップも付いて歩いた。












 玄関に着くと、待っていたのは遣いではなくランドルフ本人であった。ベネディッタも一緒だ。


 「おや? 遣いの者と聞いていたがプレイリー子爵ご本人自らご来訪とは」

 「おお! プレイリー子爵。お久しぶりでございますな」

 「お久しぶりですジュレップ様、スプモーニ殿」


 挨拶を交わし、日ごろのお礼を述べ合う。


 「おっと、本来はもっとちゃんとお時間を取ってお話したかったのですが、辺境伯に御用時でしたな。名残惜しいですが私はこの辺で失礼します」

 「ええ、またじっくりとお話しましょう」


 去っていくスプモーニを見送ったあと、部屋に招かれた。


 「それで、今は辺境伯はいないのですが、プレイリー子爵はどういったご用件で?」

 「プレイリー子爵はやめてください。いつもどおりで結構です」

 「ふむ。……では言わないでおこうと思ったが、スプモーニ殿がおられる前で私のことをジュレップ様と言うのはだめだよ? 私はまだ辺境伯ではないし、君は爵位をもった立派な貴族だ。立場は君のほうが上だし、人の目のあるところではちゃんとしないといけない」


 早速お小言をもらってしまった。


 「おっしゃるとおりです、ご忠告感謝します」


 何気ない返事だったが、ジュレップはランドルフの雰囲気から何か変わったと感じた。


 今回の事は相当堪えた様子だね。雰囲気が前に会ったときよりも大人びてきたか……。


 「私との話をする前にベネディッタから話があるそうで」


 今ベネディッタと言ったか? 敬称をつけなかったな。早速実践したのかな?


 ベネディッタのほうを向いて頷いた。


 「では失礼して。……島の調査の契約についてですが、来期は結ばないことにいたしました。ですので今回の報告が最後になります」


 そういって調査資料をジュレップに手渡した。


 「ふむ。せっかく分かりやすい調査内容で報告してくれるので助かっていたのだが……。理由を聞いても?」

 「はい。学者としての心を忘れるつもりはありませんが、このたびからプレイリー子爵様の下で仕えようと思いまして」


 かも知れないと思っていたけど本当にそうなったか。

 ランドルフ君と島で過ごすうちに何かあったのかな?


 「なるほど。私としては良いことだと思うよ? 彼もなかなかに大変だろうしね」

 「そう言ってくれて助かります。私からのお話は以上です」

 「報酬は上乗せして支払うよ。今までご苦労だったね」


 ジュレップは立ち上がってベネディッタと握手をし、今までの事に感謝した。

 握手を終えるとベネディッタはランドルフの後ろへ下がる。


 「それで、ランドルフ君は?」

 「クベーラ商会の事なのですが、まずは最初に謝罪を。ご迷惑をおかけしました」

 「ん? あの事故の事? いや~、お互いに困ったよね。船と共に亡くなったの人達は残念だが……、せっかく金貨100万枚を手に入れる機会だったのに。きっと彼らなら成し得ていただろうさ」


 惜しむ表情をして事故と言い切ったジュレップをじっと見つめているランドルフ。


 あくまでも事故ということにするということか。

 それもまたこちらを気遣ってくれていると思うことにするのか……それとも蒸し返すか……。


 「それも残念ではありますが、駐留していた辺境伯の兵士の方々も襲われた被害者であるというのに、勝手に交渉してしまい申し訳ありません。あの兵器も元々は辺境伯のものだったとのことで」

 「ん~、まぁ、しょうがないでしょ。カナンカ様が勝手に言い出したんでしょ? 私が側にいたら止めるなんて無理だもん」


 私がということは俺ならできたと言いたいのか。まぁ、そうだろうな。


 「ですが、こういうことはきっちりとしておきませんと」

 「わかったよ。謝罪を受け取ろう」

 「ありがとうございます。お詫びとしてですが、契約を不履行することになったクベーラ商会はお好きになさっていただいて結構です。契約書はこれです」


 二枚の契約書を渡した。


 「ん? いいの? 財産の没収もこっちでやるよ?」

 「はい、それでかまいません」


 後片付けを押し付けることにもなるが、クベーラ商会ともなればその財産はかなりのものになる。

 お詫びということだが、あまりに大きすぎる詫びになる。


 「人材もこっちで好きにしちゃうよ?」

 「元々そうお考えだったのでは?」

 「いやいや、ちゃんと話し合って決めようと思っていたよ。勝手に没収するなんて思われていたとは侵害だな~」

 「それは失礼しました。ですが、ここに来る前にクベーラ商会の様子を見てきたのですが、辺境伯の方々が既に押さえていた様子でしたので」


 ジュレップは眉をひそめて少し困った顔をした。


 ん~。今日のランドルフ君は押してくるな~。やはり商会を押さえるのはもう少し我慢するべきだったか……。

 先に様子を見てどうせならと上乗せして全部渡してくるとは……。思い切ったことをするし、ちくりと刺してきていつもと違って強かさがあるな。


 ランドルフとしてはどうせそうなるなら熨斗(のし)をつけて押し付けることにした。


 「先走ったことについては逆にお詫びをしよう。確かにクベーラ商会を見に行ったのなら、そう思われても仕方の無いことだった。だが情報が入って内部で混乱すれば、財産を持ち逃げする輩もでるかと思ったのでね。含むところは無かったんだ」

 「なるほど。それは確かに」


 もっともな言い訳に納得させられてしまう。


 「でも全部こちらがもらうとなると、お詫びにしてあまりに大きすぎることになっちゃうよ。私に何かできることがあれば聞くけど」


 その言葉を待っていたランドルフだが、特にほしいものは今のところは無い。

 人材はほしいが、これ以上辺境伯の手のものを入れるつもりはないし、ルメース商会に勤めていた者を雇うつもりも無い。

 だが聞きたいことはあった。


 「では事の真相をお聞きしたい。大体の予想はついていますが、私が知っておかねばならない気がしましてね」

 「真相と言われても……聞いたと思うけど、事故だったとしか言いようがないんだけどね~」


 どう説明すればいいのかと困った様子だ。

 それでもランドルフはジュレップの目をじっと見つめる。

 やがて根負けしたかのようにジュレップがため息を吐いた。


 「ふむ、そんなに見つめられても困るよ。確認したいんだけど、カナンカ様は来ていらっしゃらないよね?」

 「はい、きていません」

 「本当? 姿を消す魔法でこっそりいるとかじゃないの?」

 「その手がありましたね」


 と、少しおどけて見せた。

 今のランドルフは油断なら無いとばかりに、やれやれといった表情をするジュレップ。


 「救助した人からの証言もあるから事故で間違いなんだけど」


 念のためにとじらしてみせる。


 「その救助した人が事故に見せかけた辺境伯の工作員だったとしたらどうでしょう」


 証拠も無いのに言いがかりだと怒鳴ることもできるが、本当にカナンカがいない様子なので、話すことにした。


 「君と私の間柄だからいいけど、知らない人だと証拠も無いのにその言い方は問題になるよ?」

 「肝に銘じておきます」


 悪びれる様子もなく、素直に受け止めたランドルフに対して、本当に油断できないと認識を改める。


 「覚悟があるみたいだからいうけど、君の予想通りあれは私の指示でやった」

 「やはりそうですか」


 ベネディッタも納得したように頷きながら話の続きを聞く。


 「海流に乗るか乗らないかの位置で、皆が寝静まった夜にやらせるように指示した。魔物に襲われたと言ったが沈めてしまえば確かめるのは困難だしね」

 「そんなところでしょうね」


 それくらいは考え付くが、そうしなければならない理由を知りたい。


 「貴族になったばかりの君には分かりにくいかもしれないけど、うちは辺境伯だからね。攻撃しても罰金で済むなんて思われた日には付け上がる奴らも出てくるかもしれない。国の守りを担っているのにそれでは許されないのさ」

 「それは当然の事ですが……」

 「金のある商人なんて自分達の要求を突きつけるためには無茶をするんじゃない? 今回みたいな前例を作ると、失敗しても命はあるし罰金で済むんだしお金がたまったらやるかも?」

 「ですが、もう少しやりようがあったのでは? 守護竜の意向もあるので他の国も納得すると思いますが……」


 カナンカの声があったのにそれを無視する結果にしたのは何故なのか。


 「だからだよ。もしこの事件に注目する連中がいたとして、カナンカ様の声があったとしても守るためには貫き通す意志があると思わせなければいけない。そうすることで益々油断ならないと思うようになる。守護竜様の事で王都は沸いてけど、守護竜様だけではないんだぞと他国に知らしめることになる。まぁ……相手は商人だったけどね」


 だが徹底して許さないと知らせることにはなる。


 「ですが、守護竜をないがしろにしていると思われないでしょうか?」

 「だからこその事故にしたんじゃない。カナンカ様の考えどおりに事を運ぼうとしました。でも事故により成し遂げられなかった。やろうとしただけでも十分だとおもうけど」

 「成し遂げられなかった事については不甲斐ないとか思われませんか?」

 「確かにそうかもしれない。でもどうしようもない状況ってあるでしょう。生き残りも救助したしやれる事はやった」

 「実は辺境伯の工作員だったんですけどね」


 ふっ、と息を吐いて遠い目をする。


 「それでちょっと聞きたいんだけど、カナンカ様はどういう反応をしてた?」

 「当然怒ってはいましたが、暴れまわるようなことは無く、おもちゃを取り上げられた子供の様な反応……ですかね?」

 「ふむ。本当はカナンカ様にも真相を話したいところだけど……それは賭けだからな……」

 「何故です? ……いや、戒めるためですか」

 「そういうこと。確かにこちらとしてはお世話になる立場かもしれないが、何でもかんでも好き放題されたら困るからね。今回の事は貴族の事も考えてほしかった件だから……」


 お店に入ってお金払ってる客だからといって好き放題されたら困るもんな……。

 デリケートな問題だったのにカナンカの一言で面子を潰されるところだったと言う事なんだろうけど……これ以上は堂々巡りか。


 「うちだけでなくランドルフ君もそうなんだよ? 周りは海なんだから船があれば誰でもやってこれる。山に囲まれてるとはいえ、海には砦や関所をおくこともできないし、威武は大事なことなんだよ」


 それは思ったな~。今回みたいに巡回してるだけではいっぱい攻めてこられたら止められないし、何とかしないとって思ってたんだけど……。確かにそうだな。もう少し強気に出ないとだめか。


 「防衛について考えさせられますね」

 「分かってくれたようでうれしいよ」


 後ろでベネディッタも頷いている。


 あそこの島に敵対しては危険だと思わせることが大事か。

 カナンカがいるけど誰も信じなかったもんな。それじゃ意味無いよね。

 前から考えていたんだけど……。俺ってだめだな……。


 「こちら側の人々は島に守護竜がいることを知っているんでしょうか?」

 「そこか~。……半々といったところかな?」

 「といいますと?」

 「ジャスタ山が寝床であるというのは皆が知っている。守護竜の伝説って本が人気出てきてるからね」

 「そ、そんなのが……」


 なんじゃそりゃ。ちゃんとした御伽噺の本が出回ったのか。お土産として持って帰るか。


 「島にはたまに遊びに行ってるとかそんな認識じゃないかな」

 「なるほど。でもそれだったら守護竜見たさにもっと島に人が来てもいいはずですけど……」

 「漠然とだが、面倒臭い所にあるって思われてるみたいだしね。観光に行くにはちょっとした覚悟がいると思われてるみたい」

 「うへぇ……」


 その辺も何とかして認識を改めさせないとな~。

 でも実際にコラプッタから船で結構かかるし、内陸の人とかはもっと来にくいだろう……。


 「話はそれたけど、真相と言っても政治的な背景が少しあって、やったことはそんなに大した事じゃないよ」

 「でもちゃんとどういった理由でやったのか話してくれて助かりました」


 だが話をするだけでは悪いと他にも要望を聞かれたので、考えた末にコラプッタの街に物資をやり取りするための事務所を欲しいと頼んだ。

 大陸での情報収集をするためにも人魚族とダークエルフを配置する。


 その後は世間話をしつつ、エレインや奥様とも久々と会って話をした。ナダンは相変わらず敵意をむき出しだ。

 ベネディッタを紹介すると、少しむくれた顔をするエレインと共に夕食に招かれたのでお世話になる。

 それから一泊して島に帰った。


 「私にとっても色々考えさせられる話だったわ。ちょっとしたことにも気をつけないといけないのね」

 「周りへの影響をよく考えないといけないので肩がこりそうですが」

 「今後今回の事件みたいなことが無いようにもう少し情報を発信しましょう」

 「噂を流すということですね」


 だがもう少し自分に考えがあったらなと、どうしても思ってしまうランドルフであった。

お時間いただきましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ