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69話

遅れてしまいました。

68話の最後に一文を加えました。

含みを持たせすぎたかもしれません。反省ですね。



 少し時間を逆戻る。


 「ジュレップ様。ルメースが出港しました」


 パンターナ辺境伯の家令のヘレスが、ジュレップに報告にやってきた。


 「ランドルフ君のところだよね?」

 「そのようです」


 今のうちに商会を押さえたいところだが……今は我慢か。


 「手筈は整ってるよね?」

 「はい。船に工作員を何名か忍び込ませております」

 「よし、商会のほうも時期が来たら押さえるから。何日ぐらいかかるかな?」

 「彼のお子様の事ですから、引き渡したらすぐにでも帰らせるのではないかと」


 お子様と言ったヘレスの言葉を聞いて苦笑するも、自分もそう考えるとばかりに頷く。


 「フォラスが作った魔道具を横流しした連中はどうした?」

 「運んだ連中も含めて処分しております」

 「ふむ。いつも仕事が早くて助かるよ」

 「ありがとうございます。それが私のお役目なれば」


 そう言って褒められたことに対し、慇懃に礼をする。


 「問題はカナンカ様だけど……ばれないかな?」

 「ばれてもよいように工作をなさったのでは?」

 「まぁ、言い訳はできるようにしてるけどね」

 「あのお子様がお止めになることも計算の内だと思っておりましたが」

 「まぁね」


 ヘレスには何でもお見通しかと呆れ顔でため息をついた。


 貴族や、ひいては王国に楯突いたのだ。許されるわけが無い。

 カナンカがラヴェンナを気に入っているというので、表面上は許した。


 「でも困ったよね~? 勝手に二人で約束してさ~。こっちも被害受けてるのに交渉の場にも立たせないなんてひどいと思わない?」

 「まだまだお子様故に考えが足りないのでしょう。また、そう考えられる大人が周りにはいないようで」

 「その辺はまだまだひよっこ貴族だから仕方ないけどさ~、少しはこっちの事も考えてほしいよ」


 ため息をついて、やれやれと困った顔をする。


 「いつもどおりの尻拭いですな」

 「少しはマシになったと思ったんだけどね」

 「……まぁ、あのお子様も馬鹿ではありませんので、恐らくこのお屋敷にまでやってくるでしょう」


 そこまでお見通しかと感心する。


 「見せしめの意味もあるしいいんじゃない? 商人が力をつけ過ぎてうぬぼれるとどうなるか。スプモーニ商会はそんなことないと思うけど、少しは身を引き締めてもらわないとね」


 自分達が種をまいた部分もあるのだが、スプモーニ商会は忙しい毎日を過ごしている。

 事態が落ち着いて余裕が出てくれば、増長しないとも限らない。


 「そこにクベーラ商会を吸収合併させる……というお考えでしょうか?」


 ジュレップはヘレスの読みに対して手を上げて降参のポーズをとった。


 「人材もほしいって言ってたしいいんじゃない? 流れてきた人たちを見て自分達もああはなるまいと思うはずさ」

 「それは確かに……。ですが大きくなりすぎませんか?」

 「その心配は確かにあるけど、そのおかげで今は懐が暖かいじゃないってことで」

 「何か手を打っておられるのでしょうか?」

 「わかってて聞かないでおくれよ」


 苦笑しながら返答する。

 ジュレップがランドルフに対して度々同じようなことをしていたのは、このやり取りからの真似である。

 ジュレップもずっとパンターナ家にいるヘレスに鍛えられてきたのだ。基本はできていた。


 「別の商会を組合長に据えて、スプモーニ殿は解任させると」

 「まぁ、そんなところだろうね。こちらの本気度合いも分かってくれるよきっと。噂も流しておいてね」

 「承知しております」

 

 物流の一旦である卸売り市場の長を解任させれば、その影響力は下がるだろう。

 だが、今は景気に沸いているのでそこまでは落ち込むことは無い。


 「忙しいって言ってたから仕事量を減らしてあげるのさ。こちらからも色々恩恵を与えたから文句は言えないでしょ」


 机にひじを突いて黒い笑みを浮かべる。


 「とにかく、事態が動いたらすぐに行動するからそのつもりで」

 「かしこまりました」


 ヘレスが出て行き、パタリと扉が閉められ、部屋の中で一人ジュレップは考え込む。


 いくらカナンカ様とはいえ、そこは許されないことなんですよ。

 パンターナ家はこれでも国境を護る役目を担っているのですから、特に例外は許されない。

 他国に付け入る隙を与えてはならないんだよね。

 カナンカ様の傍若無人な振る舞いもこれで少しは控えてくれるといいんだけど……それは無理かな~?

 あ~、でも本気で怒ってこっちに来たらどうしよ。

 ランドルフ君がいるとはいえ、一息で街が消滅してもおかしくないからな~。

 言い訳は色々用意してあるけど……もう少し考えを詰めるか……。

 来なければ一番いいんだけどね。


 机に向かって黙々と考え付いたことを書いていった。









 そして現在。


 その知らせを聞いたのは、ちょうどベネディッタがゴブリンの住処を掃除したと報告に来たときの事だった。


 「ゴブリンの住処は一掃したわ。でもあの場所をそのままにしておくのは問題ね。何か対策を立てないと他の魔物が住み着いたりしたら困るわよ?」


 残っていたゴブリンの雌や子供を駆逐して住処を占拠した。

 文字通り死体も森の中に捨てて掃除した。

 動物や他の魔物の死骸も多く匂いもひどかった。

 ゴブリンの王との戦いで逃げた奴らが戻ってくる可能性もあったので、占拠してからしばらくは清掃活動をしながら滞在していた。


 「確かに。ではそこに森の監視兼湖までの中継所として休める場所を作りましょうか。きっと湖は綺麗ですから、観光名所になります」

 「それはいいけれど……道の整備はあなたがやってね? 人が増えてきたとはいえ、まだあちこちに割り振れるほど多くは無いわ」

 「しょうがないですよね~。がんばります」


 机に突っ伏して気だるげに返事をする。


 「せめて住処までの道は作ってちょうだい」

 「わかりました。でもベネディッタさんはあれですね」

 「何よ?」

 「ちゃんと島の事を考えてくれるようになって私はうれしいです」

 「そうね……。この前の話だけど、受けようかと思っているわ」


 机に突っ伏していた状態から、驚きのあまり椅子を後ろに倒して立ち上がる。


 「本当ですか!?」

 「ええ。けれど私もあまり政に詳しくはないの。それでもいいの?」

 「もちろんです! 一緒にがんばりましょう!」


 ベネディッタの前にやってきて両手を掴み、ぶんぶんと上下させて喜んだ。


 「そこまで喜んでくれるのならやってあげましょう」


 照れ隠しなのか、いつもより澄ました態度で返事をした。


 「それで、早速だけれど、私がゴブリンにかかりっきりになっている間、あのお嬢様がいなくなったみたいだけどどうなったの?」


 ラヴェンナの質問に対してランドルフは事情を説明した。

 すると、先ほどまで照れて赤くなっていた顔が、次第に怒りの色に変わっていった。


 「あなた馬鹿じゃないの! 確かに私は降参するなら許すことにも賛成するとは言ったわ。でも明確に攻撃してきたのなら罰金で許すなんてだめよ!」

 「でもカナンカが言い出したので……」

 「カナンカ様がどうこうじゃないの。あなたはどうしたかったの? それが大事なのよ!」


 確かに……俺はあの時、面倒ごとが終わるならと流されてしまった……。

 許すつもりなんて無かったのに、次に島をどう発展させようか考えて逃避していたのかもしれない。


 「それに、力の持った商人達が同じようなことをしでかすかも知れないでしょ! あなただけの問題じゃないの。他の貴族達にとっても迷惑な話だわ! もっとよく考えなさい!」

 「すみません。……今からでも撤回させに……」

 「もう遅いわね。撤回すれば今度はあなたが約束を守らない貴族と認識されてしまうわ」


 信用できない貴族と誰が付き合うのか。

 島への移住者も減ってしまうだろう。

 力でものを言わせれば余計に嫌煙されてしまう。


 やってしまった。確かにそれはまずい。どうすれば……。


 「……方法が無いわけでもないわね」

 「え? あるんですか?」

 「ええ。でもその前に確認だけど、契約の事を知っているのは誰?」

 「えっと……。ラヴェンナとルメースとあとはジュレップ様かな?」


 ベネディッタが熟考しながら言葉を返す。


 「……ならまだ修正が利くわね」

 「修正……って、まさか!」


 何を言わんとするのか理解した。


 「貴族の間ではよくあることじゃない。ランドルフ君の覚悟が試されるわ。逆に今が好都合。まとめて解決できる機会よ」

 「大陸に戻る前に、事故に見せかけて船ごと沈めろ……と」


 返事はせずにじっとランドルフの目を見つめられた。

 思わずごくりと唾を飲み込む。


 一度約束したことを自分の都合が悪くなったから無かったことにしようとする……。

 自分が巻いた種だ。元々許すつもりはなかったんだ、今更じゃないか。

 でもそれをすると心のタガが外れて黒く染まる気がする……。


 悩んでいるその時、扉をノックしてアプスが部屋に入ってきた。


 「旦那様。ラヴェンナとルメースの乗った船が沈没したと報告が入ってきました」

 「……」

 「……きっとジュレップ様ね」


 ちらりとベネディッタはランドルフを見た。

 だがランドルフは顔を隠すように手をやって、少し怯えた様子だ。


 「アプスさん。続きを報告してちょうだい」

 「え? でも旦那様? 旦那様大丈夫ですか!?」


 様子がおかしいランドルフに心配する声をあげる。


 「え? あ、ああ。大丈夫だよ。報告の続きを」

 「本当に大丈夫ですか?」

 「大丈夫、心配してくれてありがとう」


 声が小さく、弱弱しい笑顔を向けるランドルフに、まだ心配そうにしているが報告を続けた。


 「場所はこの島と大陸の間ほどの距離で、どうやら魔物に襲われたのではないかと報告を受けています。この島に駐留するためにコラプッタからやってくる辺境伯の交代の船が偶然目撃したようです」

 「流石ジュレップ様ね。ちょうど海流に乗れるくらいの位置で仕掛けるなんて……」


 海流に乗ってやってくる海の魔物はたくさんいるので、事故があってもなんら不思議ではない。


 「交代の船はもう着いてるの?」

 「はい。先ほど着いてその船からの報告です。生き残りはわずか4名。他は絶望的との事で、あの女と父親は生き残りの中にはいないとのことです」


 その報告を聞いて当然かと両者は頷く。


 「救助した人をコラプッタに戻って送り届けたので、到着が遅れたことにお詫びをと申しております」

 「それは気にしなくていい。それより空の魔物じゃなくて海の魔物の仕業ってことだよね?」

 「恐らくですが……詳しい話は直接船員から聞いてみないとわかりません」

 「……そうか、わかったよ。ありがとう」

 「はい……。あの……本当に大丈夫でしょうか?」


 落ち込んでいるランドルフに再度、心配の声を掛ける。


 「うん。本当に大丈夫だから」

 「でしたらよいのですが……。この後少し用事があるので……失礼しますね」

 「あ、ちょっとまって。カナンカにもこのことを伝えておいて」

 「わかりました」


 アプスはちらりとベネディッタのほうを見てから部屋を出て行った。


 「「……」」


 二人とも考えているのか何も話さない。

 やがてベネディッタが口を開いた。


 「……カナンカ様を押さえるのはあなたの役目よ?」

 「わかっています」

 「ジュレップ様にも借りを作ってしまったわね」

 「……わかっています」

 「あなたとカナンカ様の約束であって、被害を受けたパンターナ辺境伯は何も約束はしていないのよ?」

 「わかっています!」

 「勝手に話を決められたジュレップ様はどう思うかしら?」

 「わかってるって言ってるじゃないですか!」


 ランドルフは怒鳴り込み、一呼吸してやがて気持ちを落ち着けた。


 「怒鳴ってしまってすみません」

 「いいのよ。それで冷静になれるならいくらでも怒鳴ってかまわないわ」


 柔らかい口調で受け止めてくれるベネディッタ。

 ランドルフは少し許された気がした。


 カナンカが言ったならジュレップも何も言うまいと思っていた。

 だが実際はどうだ。

 それは自分の勝手な考えであって、向こうはちゃんと冷静に物事を見て対応している。

 流されて行動を起こす自分とは違って、ちゃんと意思を持って動いている。


 でもそれは当たり前の事なんだ!

 くそ! またしても分かっていたフリをしていただけだった!


 自分の情けなさに思わず涙が出そうになる。


 「……ベネディッタさん。やったのがジュレップ様だとして、そのことはカナンカには黙っていてください」

 「もちろん」

 「では船員から話を聞きましょうか」


 幾分かいつもの調子を取り戻したランドルフ。

 そう言って部屋を出ようとしたとき、走ってくる音が聞こえ、扉が勢いよく開けられた。


 「ランドルフや! どういうことじゃ!」

 「ラヴェンナの事?」

 「それしかなかろう!」

 「聞いたと思うけど、魔物に襲われて船が沈没して生存は絶望的だってさ」


 ぐぬぬと怒りのあまり戦慄(わなな)いて握りこぶしを震わせている。


 「その魔物を根絶やしにしてくれる! 我の楽しみを奪いおってからに!」

 「どんな魔物か分からないし、それに海の中だよ? 数や生息地が多かったら何年かかるのか」

 「そんなことは分かっておる! 気分の問題じゃ!」


 単純に魔物の仕業と思ってくれているみたいだな。


 「ん? ランドルフや。おぬし、少し体調がよくないのか? 様子が変じゃぞ?」

 「ああ、まぁ、ちょっと俺も突然の事に衝撃を受けててね」

 「ふむ? おぬしは襲われた立場じゃから、怒っていた相手がいなくなってよかったのじゃろうがな」


 カナンカも襲われたはずなのに、まったく気にしている様子がない。

 まるで他人事のように話をする。

 と、そこでカナンカが何かに気がついたような顔をする。


 「もしやおぬし、何かしたのか?」

 「いやいや、衝撃を受けてるって言ったじゃん。これでも堪えてるんだよ?」

 「……そのようじゃな。すまんかった」


 それでもどこか腑に落ちない様子だ。

 だがジュレップの仕業とまでは思考が回らないようだ。


 「……ふん! こうなったら自棄酒じゃ! ベネディッタも付き合え!」

 「い、いえ。私はまだランドルフ君と話をすることが少しありますので……」

 「くー! では後で絶対に来るのじゃぞ! 忘れるでないぞ!」

 「はぁ。わかりました……」


 また絡まれるとばかりにため息をつくベネディッタ。

 カナンカは言うだけ言って、乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった。


 「カナンカ様、お怒りのご様子だったけどそれだけだったわね。もっと暴れまわると思ったけれど……」

 「静かならそれに越したことは無いんじゃないですかね?」

 「それもそうね」


 本当に暴れられてはたまらないとほっとする。


 「一緒に船員に話を聞こうと思ったのですが……」

 「私はこの後カナンカ様のところに行くわ。なんとか宥めて気を静めないと」

 「お疲れ様です。では俺だけで行ってきます」

 「ホント、大変よ~」


 コメカミに指を当てて困った顔をするベネディッタ。

 困った顔も可愛らしく見える。むしろあざとい。


 「ジュレップ様のところにも直接話をしに行こうかと思います」

 「そうね、それがいいわ。その時は私も着いていくわ。すり合わせも大事だし、怒られなさいな」

 「うっ……。はい……」


 港に行くと伝えて馬車に乗る。

 その中で色々と考えながら馬車に揺られるランドルフであった。

お時間いただきましてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 70話前後まで読みました。 ラヴェンナ達の死亡がぼかされていて船を沈める細工をしたのか、殺害した後に沈めたのか分からないので後の復活などがあるかは分かりませんが、そこも含めて設定に気に…
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