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68話

久々の登場。


 ラヴェンナの処遇は本国にあるクベーラ商会の会長であり、親であるルメースの知ることとなった。


 ランドルフから届いた手紙を読む。

 そこにはプレイリー子爵としてのサインと、パンターナ辺境伯のサインがあった。

 島を守るために派遣していた軍も被害を受けたのだ。

 内容には怒りの言葉が並べられており、プレイリー家とパンターナ家に金貨100万枚をすぐにでも支払えという無茶なことが書いてある。

 払えなければ一族皆殺しの上、クベーラ商会は他の人物に引き渡す形にするとのことだ。


 「何故こんなことになった!」


 ルメースは髪を掻き毟り、怒りで顔が真っ赤になる。


 「守護竜様とはなんだ! 馬鹿にしているのか? 最初から無理難題を吹っかけて殺すつもりじゃないか!」


 カナンカがラヴェンナを気に入ったということで口ぞえをした形になる。

 貴族だけではなく守護竜にすら危害を加えたので本来ならすぐにでも処刑してよいのだが、レスタイト王国の守護竜の言葉を無碍にしてはいけないと、形だけは取り繕うことにした。

 だがルメースは何故守護竜が出てくるのかまったく理解できない。


 「守護竜を攻撃した? そんな話は無かったはずだ! あの馬鹿娘は何をやっておるのだ! 大丈夫というから許可してやったというのに!」


 ルメースもラヴェンナの行動内容を聞いて許可をしたので同罪である。

 まさか守護竜が島に存在してそれに攻撃したのであればどうにもならない。

 自分の首どころか国が吹き飛ぶ事態だ。


 「金貨100万枚など用意できるわけが無い……。小さな都市の運営予算並だぞ……」


 正確には両家になので、合わせて200万枚である。


 頭を抱えているところにドアがノックされる。


 「ルメース様。パンターナ辺境伯様より遣いのものが来ておりますが、いかがいたしましょう?」

 「もうだめだ……。俺は死ぬのか……」

 「ルメース様?」


 返事が無いので伝えに来たメイドがドアを開けようとする。


 「ここへお通ししろ!」

 「は、はい!」


 突然の怒鳴り声に、逃げるように足早に使者のところへ向かった。


 「俺はもうおしまいだ……」


 心にぽっかり穴が開いたように使者が来るまで放心し、涙を流していた。








 コンコンッ


 「失礼するよ。パンターナ辺境伯から来たアクラナス・パンターナの息子のジュレップです。よろしく」


 息子自らやってくるだと? 止めを刺しに来たのか……。


 「わ、私がルメースです。クベーラ商会の会長をやっています。いや、もう会長は名乗れないか」

 「いいえ、まだそれはどうかと。手紙は読んでいただきました?」

 「拝読しましたが、どういうことです?」


 まだとはなんだ? さっさと止めを刺してくれ……。


 もはや語る言葉はないとあきらめているルメース。


 「守護竜様たっての希望で条件付で許すことにしました」

 「はい。ですが到底払える金額ではありません」

 「おや? ずいぶんと素直ですね。もうすこし抵抗するかと思いましたが……守護竜様の事などご存じないでしょう?」


 確かに気になるがもうどうでもいい……。


 「もはやどうでもいいのです。抵抗する気はありませんので一思いにやってください。妻に先立たれて男で一つで娘を育ててきました。肉親はおりませんので私の首だけで十分なはずです」

 「まぁ、そう結論を急がずに」

 「よいのです。娘のために頑張ってきましたが、上手く行き過ぎた報いです。やることなすことすべて上手く行き、娘が大人になって事業に関わるとさらに業績が伸びました。娘はまさに女神のような存在でした」

 「……」


 突然語り始めたルメースに、頭をぽりぽりと掻いて困った様子のジュレップ。


 「一人娘だと甘やかしたのがいけなかったのかもしれません。やればやるほど、売れば売るほどすべてが上手く行き、法すれすれの事もやってきました。どんな内容でも娘の言うことにはすべて私が許可して進めていたのです」

 「その結果が今回ということですか」

 「はい。しっぺ返しは当然の事だったのかもしれません」


 もはや何を言っても諦めているので、結論をさっさと言ってしまうことにした。


 「ルメースさん。金貨100万枚ですが、借金という形にしませんか?」

 「借金?」

 「ええ。父もプレイリー子爵も到底払えるとは思っていません。ですので借金という形にしてこつこつ返してもらおうと考えています」

 「はぁ?」


 ルメースには何故そんなことをするのか分からなかった。

 いや、諦めて思考を停止していたルメースには考える力が無かった。


 「貴族に危害を加え、あまつさへこの国を護って下さる守護竜様へ攻撃したのですから、このくらいの無茶はやってもらわねば示しが付きませんので」

 「それはまぁ、分かりたくないですが分かります」


 耳を傾けてもらったところで、ジュレップは順を追って説明する。











 国家反逆罪として処分されて当然なのだが、ラヴェンナを気に入ったためにカナンカが待ったをかけた。

 しかし、ラヴェンナはそこを隙とみたのか、カナンカに向かって取引を持ちかけた。

 本来聞く必要もないので周りは止めた。だが、カナンカは面白がったので聞くことになってしまった。


 「私の命をお金に変えて、自らを買い戻します。それで許していただきたいのです」

 「クックック。やはり我の目に狂いは無かったぞ! このようなことを言い出してくるとはな!」


 ラヴェンナは自分を許してもらうためにお金を払うと言い出した。

 しかも、そのためにはクベーラ商会が必要なので残してほしいとまで言ってきた。


 「私が金貨100万枚を両家にお支払いいたします。それをもって今回の罪を許していただきたいのです」

 「そんなのだめに「よかろう!」っておぃ! 何言ってんの!」

 「寛大な御心に感謝いたします」


 カナンカの返事に片ひざを着いてお礼を述べるラヴェンナに、ランドルフは何も言えなくなってしまった。

 だがまだカナンカとラヴェンナの取引であって、両家には関係ない。二人が勝手に言い出したことだ。

 しかし、カナンカがスプモーニ家へ口を出せば、スプモーニ家は従わなければならないだろう。

 そしてスプモーニ家からプレイリー家へとつながってくる。

 ランドルフはカナンカの言葉は別に無視してもいいと思っている。

 だがスプモーニ家からの言葉は無視できないのである。


 「はぁ……。わかりました。ですが、借金という形にさせてもらいますよ?」

 「ええ、それでかまいませんわ」

 「借金ですから利子があります」

 「当然ですわね」


 暴利を吹っかけて一生返せないようにしてやろうと、あくどいことを考えていたランドルフ。

 だがまたしてもカナンカにとめられてしまった。


 「ランドルフや、つまらぬことはするなよ? 面白くなくなってしまうではないか」


 くそう。人間味のある生活をするようになって知恵をつけやがったからなぁ~。

 ばれてしまっては仕方が無いか。こちらが損をするわけではないしな。


 払えなくなったとしても、財産をすべて没収するだけでも儲けは出るだろうと考えた。


 「では一般的な利率ということで」

 「助かりますわ」

 「でも金額が金額ですので大変ですよ?」

 「ええ、分かっております」

 「今回みたいなことをせず、真っ当にお願いします」

 「もちろんです」


 ……たいした自信だよまったく。


 「我からも言いたいことがある」

 「なんなりと」

 「年に一回でいい。我のところにやってきて話を聞かせるのだ」

 「そのようなことでよろしいのでしたら」

 「うむ」


 うんうんと頷いて満足そうな表情をするカナンカ。


 「ではそのような内容で契約を交わしましょう」


 さらさらと書き記し、内容を確認してサインをするラヴェンナ。


 「身元受取人が来るまでは牢屋で生活してもらいますのであしからず」

 「ええ」


 用は済んだのでその場を後にしようとすると最後に声をかけられた。


 「必ず返して差し上げますわ」


 ルメースが迎えに来るまでおとなしくしているラヴェンナであった。









 「―――ということがありまして、あなたにはご息女をお迎えに行っていただかないと始まらないのです」

 「首の皮一枚つながったという事ですか?」

 「極々薄いですけれどね」

 「……守護竜様は実在するので?」

 「ええ。私が見たお姿は銀色に神々しく輝くお美しい姿でした」


 そのような存在に娘が攻撃するだろうか?


 ルメースは疑問に思った。


 何かある。確かめに行かねば。


 島に向かう覚悟を決めると、先ほどまで死んでいた目に光が宿った。


 「なるほど。では早速島に向かって、娘に会いに行きたいと思います」

 「それはよかった。契約書も娘さんがお持ちとのことですので」

 「わかりました」


 よい契約が交わせたと、にこやかな笑顔をしてジュレップは部屋を出て行った。


 「早速準備しなければ!」


 ルメースは部下に指示を出して、せっせと島に渡る準備を始めるのであった。










 数週間後。

 ルメースはランドルフ島にやってきて、まずはランドルフに謝罪した。


 「このたびは、子爵様の住まう島への侵略行為ついて、思い上がりもはなはだしく、愚劣な行為であるのは明白であります。誠に申し訳ありませんでした」


 ランドルフの前で、その場で床に手を着いて、頭を下げて謝罪した。


 「詫びは受け取りました。ですが既にお聞きかと思いますが、ご息女との契約が結ばれていますので、まずはそちらを確認していただきましょう」

 「拝見いたします」


 恭しく受け取ると、正座をしたまま読み始めた。


 「……内容はわかりました。私どもはレスタイト王国に刃向かうつもりも、守護竜様に危害を加えるつもりもございませんでした。ですので必ずお支払いして償うつもりです」

 「あなたの代で完済は厳しいと思いますが、がんばってください」

 「娘がおりますので必ずやり遂げて見せます」


 力強い言葉にランドルフは頷いた。


 「ではご息女をここに」

 「かしこまりました」


 アプスが一礼して部屋を出て行くと、すぐにラヴェンナを連れて戻ってきた。

 だが、何故かカナンカも一緒だ。


 「お父様、ごめんなさい。失敗してしまいましたわ」

 「こら! なんてことを言うんだ!」


 反省している様子がないラヴェンナを見てルメースが怒る。


 「クックック。その図々しくある気概が我は気に入ったのよ」

 「はぁ……」


 思わずため息をつくランドルフ。


 「こちらの方は?」

 「守護竜様ですわ」

 「……え?」


 カナンカを見ても守護竜と信じられないので、外に出て本来の姿を見せた。


 「なんてことを! あなた様に危害を加えるなどと愚かなことをしでかしてしまいました。なにとぞ! どうかお許しください!」

 『よい。 そこな娘を気に入ったのでな、特別に許すことにする』

 「ははー!」


 平伏して震えながらも、銀色に輝く神々しい姿を見て感激していた。

 人の姿に戻ると、部屋の中に戻ってすぐさまワインを飲み始めた。


 「お、そうじゃ。珍しい酒があったらよこすのじゃ。それでそなたの事は許そう」

 「わ、わかりました!」

 「もちろん定期的にじゃぞ? シュタルクがよこすのはワインばかりじゃからな。たまには違う酒も飲んでみたい」


 他の酒の味を覚えたらどんどん手がつけられなくなるんじゃ……。


 ランドルフの考えは遠からず当たるだろう。


 「それで聞きたいことがあるんだけど」


 あの兵器をどこで仕入れたかを聞いた。


 本来は剣歯狐の動きを封じるために考え出されたものだった。

 行方不明者が多いのは剣歯狐の仕業と考えて、対策として何台か作ったうちの一台を横流ししてもらったのだ。

 それを始めて人に向けて使ったということらしい。


 「誰が作ったかわかる?」

 「スプモーニ辺境伯が開発を進めていた中の一台を買い取ったので、辺境伯に属する誰かだと思いますが……」

 「……ほぼフォラスさんが作ったので確定だな。しかし、そういった事情でよかったよ。あの人が人に向けて兵器を作るとは思えなかったからね」


 だが人に向けても有用だと分かってしまった。

 そのことはジュレップに手紙で書いてあるので何か対策をしてくれるだろう。


 「ちなみに生き残った傭兵達は、この島で重労働をして罪を償ってもらうことにしたから」

 「勝手に暴走したんですもの。当然ですわね」

 「こらっ!」


 この女。まだその設定引きずってんのか。ここまで開き直られると逆にすげぇわ。


 「刑期をいつ終えるかはわかりませんがね」

 「こちらとしては連れて帰る心配がなくなったので、帰りの船が楽で助かりますわ~」

 「クックック。ここでそのようなことを言える横柄な態度がラヴェンナの面白いところじゃな」

 「やめんか! ランドルフ様。申し訳ありません」


 腹立つわ~。こいつまじでその顔を殴りてぇ!


 ルメースは謝罪をしてきたが、つんと澄ました顔をするラヴェンナを睨みつけた。


 「そうですか。ではさっさとお帰りください」

 「そうですわね、さっさと返済しなければいけないのでこの辺で失礼を。お父様、帰りますわよ」

 「止めろと言うに! ランドルフ様、守護竜様。このたびは本当に申し訳ありませんでした。やってきて早々ですが失礼いたします」

 「それでは、ごきげんよう」


 扉がパタリと閉められ、停滞していた嵐が去って行った。


 「カナンカのおかげで変なことになっちゃったじゃん」

 「しかしあやつがどのようにして借財を返すのか興味はあるじゃろ?」

 「まぁ、違うといえば嘘になるが……」

 「我も楽しみで仕方がないぞ。もう一杯飲むぞ!」


 そう言ってカナンカも部屋を出て行った。


 人の不幸話で酒を飲むなんて……。

 まぁ、なんにせよこれでとりあえずひと段落だな。

 やっと島の事に集中して活動できる。


 スプモーニ商会の特需のおかげで人が集まらないと思っていたが、半分はラヴェンナが妨害していたので、それがなくなり、次第に人がやってくるようになった。

 コラプッタで溢れた人材が流れてきたのだ。


 木綿も順調だしプールの利用率も徐々に上がってきている。次はどんなことをしようか。


 島の発展を考えながらニヤニヤが止まらないランドルフであった。






 だがその数日後。ラヴェンナとルメースの乗った船が沈没したと報告が届いた。

お読みいただきましてありがとうございます。

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