67話
ちょっと長いかもしれません。
お時間のあるときにでもどうぞ。
「はい、どうぞ旦那様」
アプスに軽食を渡された。それをもぐもぐと頬張る。
カナンカはいつも通り、お酒をお付のメイドに注いでもらっている。
エスドゴ達も皆集まって、ランクイロの様子を見ながらいつでも動けるように待機している。
ランクイロを港の真ん中で寝かせて周りに火をたいて、体を冷やさないようにしている。
暖かい島とはいえ、夜になると流石に冷えてくる。
もうすぐ完全に日が沈み、満月が眩く輝く時間だ。
それにしてもあの兵器に書いてあった文字が気になる。
あの人には小学校低学年くらいの文字しか教えてなかったはずだが……。
低学年でどんな文字を書いたのか覚えてないので、使いそうな文字を適当に色々書いてたはずである。
そういえば熟語の説明もして色々書いたか……。
色々しつこくあれこれ聞かれて教えてたからあんまり覚えてないぞ。
俺も教えてほしかったし……。
熟語を教える中で小学生では教えない文字を教えていた可能性もある。
これじゃあの人なのか転生者なのか判断がつかないぞ。
でも話したこと全部メモしてたしあの人だろうな……。
たぶんだけど、転生者がやるなら『乱調』なんて効果が曖昧な文字を書かないと思うんだけどな~。
転生者なら『混乱』や『麻痺』など、なじみのある言葉や意味のはっきりした言葉を使うだろうとランドルフは考える。
そのせいで何がどう乱れてるのかわからん……。他の人は自律神経を整えれば治ったが……。
「これで治らなかったらどうしよう……」
不安が募り、思わず言葉を漏らしてしまった。
「きっと大丈夫ですよ」
耳のいいアプスがその言葉を拾った。
「根拠は?」
「我々ダークエルフも昔から月光浴はしていました。傷の治りが早いからとされています。何か効果はあるのでしょう」
「ふむ、そんなもんかねぇ~」
この世界では月明かりというものは、魔力が降り注ぐので割りとそういう伝承は多い。
アマレット達妖精も、何故かは理由が解明されていないが、月明かりの下で踊りを踊ると言われている。
その妖精は今、デンの上でぐっすりとお休み中であるが……。
気分を変えるため、海の方へお行儀悪く食べながら歩いていく。
もし先日の傭兵達のように、ランクイロが暴れだして海に落ちた人がいれば助けてもらおうと、海に向かって声を掛ける。
「イルマーレいる?」
「何でしょうか?」
いつからいたのか海中から顔を出した人魚族の美青年が、海から飛び出してランドルフの横に腰掛けてきた。
「この前の戦いはどうだった? 皆うまく動けてた?」
「いえ、相手を倒すならともかく捕らえるのは少し難儀したようで、捕縛できずに溺れたのも何人かいるようです。かく言う私もそうでした」
「ふむ。まぁ、あんなことするなんて初めてだろうしね。よくやってくれたと思う」
「ありがとうございます。ですが代表のマクリル様からはお小言をもらってしまいそうですね」
「かもしれないね~。あの人真面目そうだし」
たわいも無い話をしながら人魚族の有用性を語り始めると、イルマーレは分かってくれる人がここにいたとばかりに興奮しだして、精一杯がんばるとしきりに吼えていた。
「この後も少しひと悶着あるかもしれない。もし誰か落ちたりしたら助けてあげて」
「はい! お任せください! あなたにお仕えできてよかった!」
「そんな大げさな。不幸な出来事が無ければ北の海でのんびり過ごせてたかもしれないのに……」
「いいえ、過去は過去です。怯えて暮らしていたあの頃よりも、今はこっちに来てから皆、活き活きとしてます。これもランドルフ様と出会えたおかげだと思っています」
「大した事してないけど、照れるからその辺で」
ランドルフは恥ずかしくなったので逃げるようにランクイロの側に戻ってきた。
アプスが離れたところから、その大きな耳を活かして風に乗って届いた話を聞いていた。
過去は過去……か。旦那様と出会えて我々も助かった。個人的にも……。
ゴブリンを相手にしたときの技も旦那様が教えてくださった。先日の島への襲撃も旦那様が治療してくださった。トクルマティアのときも……。
島への襲撃は実際に騒ぎを収めたのはカナンカだが、そのことは一切頭に入ってないようだ。
今生きていることに感謝して私もがんばろう。
何度目かの決意を新たにした。
やがてランクイロの寝ている場所に月明かりが差し込んだ。
「さてどうなるやら。頼むから治ってくれよ」
しばらくじっと見つめていたが、何も起きない。やがて月明かりが徐々にずれていく。
だめなのか? 皆がそう思ったとき異変は起こった。
「グルゥゥゥ……」
低く唸るような声をあげてランクイロが苦しみだした。
ビクリと体が跳ね上がり、やがて毛がゴワゴワと生えていく。体も大きくなり、着ている服がビリビリと破れ始めた。
「これが人狼になる瞬間ってか? やっぱり考えはあってたのか~」
爪や牙が伸び始め、口元も犬のように突き出していく。
変化が緩やかになり、次第に治まるとランクイロが目を開けた。それと同時に飛び起きて、辺りを見回す。
「フシュー。グルルァァァ……」
「正気を失ってるって感じじゃない?」
「急激な体の変化には耐えたが意識が戻っておらぬ。やはり未成年には辛かったか」
「で、どうすればいいと思う?」
「クックック。戦ってねじ伏せればよかろう?」
「やっぱりそうなるのか~」
めんどくせ~。でもそれでランクイロが治るなら安いものか。
「旦那様。ここは私が」
アプスが名乗りを上げるが、エスドゴも名乗りを上げた。
「ランドルフ様。私が行ってもよろしいでしょうか」
「アプスはだめ。エスドゴ、頼むよ」
「はい」
アプスは悔しそうに手を握り締めている。
「この前の事もあるしちゃんと体を休めて」
「しかし……」
「汚名返上とか名誉挽回したいのかもしれないけどさ。誰もアプスが悪いとかそんなこと思ってないし、アプスだけだよ? そんなこと思っているの」
「……」
それでもまだ悔しそうな表情だ。
「無理に前に出て戦う必要は無い。もし俺が気づかず誰かに襲われたときに、守ってくれるように気を配ってくれるというだけで安心できるからさ。そのときに活躍してくれればいいよ」
「……はい」
「って前にも似たようなこと言わなかった?」
「私は旦那様のように優秀ではないので何度も言ってもらわないとだめなのです」
「俺だってそうだよ。だからお互いに支えあってがんばろう」
「お互いに……支えあう」
ランドルフは言ってから顔を赤くした。
今のってプロポーズみたいな台詞じゃね! うっわ! 恥ずかしい! 海に飛び込みたい!!
「まったく、イチャイチャしおってからに!」
「あの……いい雰囲気のところ申し訳ないのですが。ランクイロの様子がおかしいです」
「「ふぇ!」」
こんな大事な場面で仲のよさそうな二人に全員が呆れた目を向けてくる。
二人は恥ずかしそうに咳をして気を取り直した。
ランクイロの方をみると、小刻みに震えて白目をむいたと思ったら、目が赤く光ったように見えた。
今にも飛び掛ってきそうであるがその場でビクビクとして動かない。
「う~ん……なんだろ。違和感があるな。我慢しているようなそうでないような」
「恐らくは野生の衝動と戦っておるのじゃろう」
「なにそれ」
「我も若いときにあったことじゃ。ある日突然本能のままに暴れまわりたくなってのぉ。何とか我慢しておったがついに爆発してな、そのときは父上に止められて大事にはならなんだが……」
「今がその状況ってか」
「うむ」
唸りを上げながら先ほどからずっと周りを見渡している。
だがちょうどいい小さな獲物を発見したようだ。その目標に向かって飛び掛った。
「はやっ!」
アプスが前に出てガードしようとする。しかしその前にエスドゴが飛び出して、ランクイロの爪を剣で受け止めた。
「何っ! 剣を受け止めるってどんな爪の構造してるわけ?」
「我もアレくらいはできるぞ」
いつもの意味の分からない対抗心を出してくるカナンカ。
「ガウァァァァ!」
振りかぶった爪で剣を払うかの様に振り上げる。
「ぐっ、重い!」
剣を落としはしなかったが、思い切り弾かれてしまった。
その隙にまた襲い掛かろうとしたが、その途中で停止する。
「己の中で戦いが始まっておるのじゃな。打ち勝つことができれば制御できるようになるじゃろう」
それってスポコン漫画みたいな状況だな~。この世界では死活問題かもしれないけど……。
ランクイロたちの種族は実際に成人の儀式に成功せず、本能に負けて暴れまわった場合は殺されてしまうという悲しい部分もある儀式なのだ。
儀式がそのまま葬式に変わるか、成功したことをお祝いする祭りに変わるか。
そのために若い頃から心と体を鍛える修行をしている。
しかしランクイロは奴隷として捕まった時期があり、また成人までまだまだ時間があったので親や仲間から伝授されることもなく、中途半端のままこのようなことになってしまった。
あれ……なんで僕はエスドゴさんに爪を立てているんだ? っ! 体のあちこちが痛い……いうことを利かない……やめて!
「ウヮォォォォォ~ン!」
苦しみのあまり月に向かって吼えるランクイロ。そのときデンが前に出てきて同じく吼えた。
「ウォォォーン!」
全員が突然出てきたデンを見た。狼同士、何か通じるものがあるのだろうか?
デンはランクイロと目を合わせた。少しだけランクイロが後ずさる。
「デン? 突然どうした?」
「グルルルゥゥー」
ランドルフの言葉を無視して、デンが唸りを上げながら徐々にランクイロへと近づいていく。
「ふぇ? ……何? 蜂蜜くれるの?」
その時、背中の上で寝ていたアマレットがキョロキョロと辺りを見回し、目を醒ました。
「馬鹿かお前! さっさとこっちこい!」
「んぇ? 蜂蜜?」
「アプス! 蜂蜜あげとけ!」
ゆっくりと起き上がって、フラフラと飛び立とうとしたとき、突然デンが飛び出した。
突然足場がなくなったのでバランスを崩し、さらにデンが飛び出した時の勢いがすごかったので突風が発生し、引っ張られるようにデンと同じ方向へ少しだけ空中を移動してその場にベチャリと落ちた。
「ぐぇ!」
落ちたアマレットを放置して、デンとランクイロの戦いが始まった。
飛び掛ってきたデンにランクイロは少し怯えているようだ。だが本能的に手が出てしまった。
爪をデンへと突き立てる。
デンはそれを紙一重でかわし、同時にデンもランクイロの胸めがけて爪をつきたてた。
「グルァ!」
悲鳴を上げたのはランクイロだった。思い切り胸に爪が刺さって血が流れている。
「ランクイロ!」
兵士達が見守る中、エスドゴは声をあげて飛び出しそうになるが、ランドルフにとめられた。
「まって! デンが何も考えずにあんなことをするとは思えない。きっと何かあるんだよ」
「くそっ!」
心臓を貫かれたのかと思うほど流れている血を見て、悔しさと悲しみがこみ上げてくる。
何とかしてやりたいと。
痛い! 何で急にこんなことをするんだよ!
ランクイロは突然攻撃されたデンに怒りを覚えた。
「クックック。いつもは昼寝ばかりしておるが、あやつはなかなかに強いの~」
そんなことはお構いなしにマイペースに戦いの評価をしているカナンカ。
「次はデンを相手にしてみるのも面白いかも知れぬ」
やめてくれ。どうなるか想像できないぞ……。だがきっとひどいことになるな。
ランクイロがしゃがみ込み、デンは胸元から爪を抜く。ドクドクと血が流れるが、五秒も経たないうちに傷が完全にふさがった。
「何じゃそりゃ! すげぇ回復力!」
ちょうど噛みやすい位置に首元があったのでデンは相手が怯んでいる隙に噛み付いた。
「グギャァァァ!」
化け物のような悲鳴を上げてランクイロは苦しみだす。だが今度は怯まずに手を出して反撃した。
それをさっと後ろに下がってかわすデン。その隙に噛まれた傷が治った。
しかし流した血は戻らないので徐々に意識が朦朧としてくる。
すると、ランクイロは月に向かって吼えた。
ウヮオォォォォーン!
「ふぁ! 魔力が渦を巻いてランクイロに集まってる!? 魔力を吸収しているのか!」
ランドルフの六感ではそのように感じられた。
朦朧とした意識もはっきりとし、ランクイロの目に力が宿る。
先ほどまで怯えていた様子も無くなり、地面が爆発した音がしたと思えばデンに飛び掛っていた。
デンは咄嗟に電気を纏って毛を硬くした。だが衝撃までは受け流すことができない。
「ギャゥ!」
少しダメージを負ったようだ。
容赦の無い引っかき攻撃がデンを襲う。
デンはじっと耐えてタイミングを見計らっていた。
やがてリズムを捉えて爪をかわし、その腕に噛み付く。
「つぁ!」
痛そうな声をあげるランクイロ。だがそれだけでは終わらなかった。
噛み付いたまま腕を引っ張って物凄い力で振り回し始めた。
ランクイロの体が大きくなったとはいえ、デンの大きさには到底及ばない。なすすべなく振り回され、地面に叩きつけられる。普通ならば、腕ごと引きちぎられていてもおかしくない。
「ぐはっ! このやろっ!」
ランクイロはデンの顔めがけて思いっきり殴りつける。だが怯むことなく振り回され続けた。
「かはっ! ぐぇ!」
くそ、この巨体に対抗するにはどうすればいい。どうすれば勝てる!
もう一度叩きつけようとデンが上半身を持ち上げた。
ここだ!
脅威の回復力で即座に体制を立て直し、思い切り踏ん張る。
そして懐へもぐりこんで抱きつくように体当たりをした。
だがデンも、自分が小さいときにランドルフに何度も投げ飛ばされていたのである。対処法は分かっていた。
力に逆らうこともできたが、逆らわずに力を利用して横に転がって回転し、圧し掛かった。
ランクイロはずしりと巨体に圧し掛かられて苦しくなり、倒れた衝撃で思わず手を離してしまった。
デンはその両手を前足で押さえて、下半身は体を押し付けて体重を乗せて押さえこんだ。
「くそっ! 離せ! 何でこんなことをするんだ!」
首を振りながら何とか動かせないかと抵抗する。
「「「ん?」」」
その時全員が疑問に思った。
「ランクイロ? 意識が戻ったのか?」 「今話してたよな?」 「やったか!」 「心配かけやがって馬鹿野郎!」
周りに言われてランクイロも気がついた。
「あれ? ……もしかしてこのために?」
デンの目をじっと見つめると、返事をすることも無くゆっくりと体を持ち上げてランドルフの方へと戻っていった。
そのついでに落ちたまま寝ているアマレットを咥えて回収する。
「ランクイロ!」
エスドゴがランクイロの元へ走っていった。肩を叩いて喜んでいる。
入れ替わりでデンが戻ってきた。
「よくやったなデン。正気に戻すなんてお前はすごい奴だ!」
咥えているアマレットをランドルフの手にそっと降ろす。
受け取ったランドルフは、アマレットを胸ポケットに入れて両手でデンの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ぐるるぅ~♪」
デンも気持ちよさそうにしている。
こうなることが分かって前に出たのか~。
何で知ってたんだろ? 狼同士、何か通じるものがあったのかね?
疑問に思ったが、今は正気に戻った事を喜ぶ。
「クックック。ランクイロや、体を元に戻すことはできるのかの?」
カナンカがランクイロの側に寄ると、囲んでいた人々が道を開けた。
「あ、カナンカ様。このたびはご迷惑を……」
「なに、子供のうちは迷惑をかけて当然じゃ。それよりもどうじゃ? 制御できるのか?」
カナンカが何かしたわけではないがもっともな事を言う。
「ちょっと待ってください。ふっ!」
本能が分かっているのか、気合を入れると体が縮んでいき、毛も縮んで元の姿に戻った。
姿が元に戻ると、力が抜けたのかフラフラと倒れこんでしまった。
「「「ランクイロ!」」」
「ふむ。やはりまだ体が慣れておらぬようじゃな。まだ少し早いが、徐々に慣らしていくとよいぞ」
「は、はい……いたたた。そうします……」
「しばらくは我のところに来い。教えてやろうぞ」
「「「おぉ!」」」
周りのものは守護竜様から直々に教えをいただけると驚いている。「うらやまし」といった声や「よかったな」などと声を掛けられていた。
「ドラゴンと人狼じゃ全然種族が違うのに教えられるの?」
様子を見に来たランドルフに話しかけられた。
「失礼な! 我を誰じゃと思うておる! 昔はランクイロのように変身できるやつがたくさん挑んできおったからな。見れば分かる。それに我も似たようなことがあったと話したじゃろうて」
「でも酔っ払いに教わるとなんか不安だな~」
「まじめにやるわい!」
「せやろか?」
「むぇ~。蜂蜜~」
寝ぼけたアマレットが蜂蜜を要求してきたので、さっき用意していた蜂蜜を目の前に持ってきて匂いを嗅がせる。
小瓶を受け取ってフラフラと飛んで、デンの頭の上でペロペロと舐め始めた。迷惑そうである。
「ランドルフ様。デン。このたびはご迷惑をおかけしました」
「いや~、元はといえば俺がちゃんと守らなかったのが原因だからさ」
「しかし、私はランドルフ様にお仕えすると誓ったのに手を上げるなんて……」
「ん~……。じゃあ罰としてさっさと変身の仕方を覚えてくれ。いや、あれだ。カナンカに教えてもらう間お酒を飲ませないようにするんだ」
毎日酒臭いのが横で寝てるんだぞ! 鼻がおかしくなるわ!
「え、それはちょっと無理な気が……」
「クックック。ランクイロや、わかっておるの?」
「は、はい!」
「おいこら! 脅すんじゃない!」
分かったのか分かってないのか、まったく気にしていない様子のカナンカ。
早くお酒を控えてほしいので、ランクイロの調子を見て治療をした。
だがしばらくは筋肉痛だろう。それも治療できるが、そういうのは自然と治したほうがいい。
二、三日ゆっくりしてすぐにでも取り掛かってほしいところである。
体調も回復し、熱も無くなったので解散となり、屋敷へ歩いて帰る。
兵士達は港に泊まるか、船に泊まるかして夜を明かす事にした。
快気祝いとばかりにお酒を飲みながらランクイロと色々話をするようだ。
治ったばかりなので、ほどほどにするようにと言い聞かせておく。
人魚族も無事に何も起きることがなかったので、お礼を言うと住処へ帰っていった。
「お~い、アプス?」
「支えあう……ハァ~」
艶のあるため息を吐いているアプスに蹴りを入れた。
「いたっ! 何ですか?」
「帰るぞ」
「はい。……はっ!?」
突如何かを閃いたアプス。
「そうです! 旦那様、私に罰をお与えください!」
ササッ!
突然わけのわからないこと言い出したアプスに全員が距離を取った。
「アプスよ。おぬし、前々からランドルフに対してはおかしいところがあったが、本当におかしくなってしまったか」
「無いわ~。さすがに引くわ~」
「いいえ、私はアレだけの失態をしたのです。罰の一つや二つあって当然なのです! ランクイロの言葉を聞いてこれだと確信しました!」
「わけがわからないよ」
アプスが罰せられるなら兵士全員罰せられなければならない。
全員倒れてランドルフを守りきれなかったのだ。
ベネディッタもゴブリンとの戦いを起こさせたので同様である。
「さぁ! 私はどんな罰でも受ける所存です!」
「こんな気持ち悪いアプスは初めてだ! さっさと逃げるぞ!」
デンの上に跨って猛ダッシュで屋敷へと帰っていった。
「ちょっとまって旦那様! 気持ち悪いってひどいです!」
「いや、十分に気持ち悪いぞ」
「カナンカ様まで!」
カナンカも翼を広げて飛んで先に帰った。
「何でですか~~!」
一人取り残されたアプスの叫びは、満月が照らす海の彼方へと虚しく消えていった。
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
主人公が主人公していない……。




