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66話


 翌日になるとアプスは起きて早々謝ってきた。

 だがランドルフが大砲のようなものなら大丈夫だと油断したおかげで、最後は危なかったのだ。

 謝る必要はないと言ったのだが納得はしていないようだった。


 「三度も倒れる姿をお見せするなど、失態という言葉ではすまされません!」

 「いつも寝てる姿を見てるけど」

 「もう! そういうことではありません!」


 茶を濁したつもりだったが深刻に捉えている様だ。怒られてしまった。

 そのうち修行するからお暇をくださいとか言い出しそうな雰囲気だ。


 「でも実際アプスにはずいぶんと助けられてるからねぇ。いまさらどこかに行かれても困るよ?」

 「私もお側を離れるつもりはございませんが、お守りする事も出来ずに何の護衛でしょうか」

 「じゃあ、あの酒飲みを誘って訓練すればいいんじゃね? 本来の姿のほうでさ」

 「確かに……効果的かもしれません。ですが私は咄嗟の判断力と必ず命令を遂行するという忍耐力がほしいのです」


 あの時、ランドルフがアプスを呼んでいたのは微かに聞こえていた。しかし体が動かず、すぐに意識を失ってしまった。

 ゴブリンの時だって投擲された石をくらい、痛みでうずくまってしまった。

 ゴブリンの王の腕力で投げられたので仕方の無いことなのだが……。


 「判断力は経験とかあるだろうけど、耐久力はねぇ……。防具をつけるとか?」

 「それでは機動力が落ちてしまいます。あの獣人のように恐ろしいまでの勘が働けばいいのですが」

 「ん~……。やっぱり地道な訓練しかないんじゃない? カナンカに相談してみなよ。俺も色々となれてきたから付きっ切りにならなくてもいいし」


 獣人とはガブストンことだろう。六感や判断力は達人ではないランドルフにとって分からない世界である。ましてやアプスはランドルフより何倍も生きているのだ。


 「側につくことが減るかもしれませんが……」

 「別に今までも四六時中ずっと一緒に居たってわけでもないし、思う通りにやってくれればいいよ」

 「申し訳ありません、ありがとうございます。いない間はラセットかウィステリアを交替で付けます」

 「ついでにあの酒飲みの消費量を減らしてやってくれ」

 「ふふっ、そうですね」


 少し元気が戻ったのか、肩の力が抜けたような表情をしている。

 早速カナンカに相談しに部屋を出て行った。


 本当は俺が戦わずに済んだ方法を見つけていればよかったんだけどね……。多感なお年頃ってか。

 さて、次は兵器を調べてみますか。


 兵器が運びこまれた倉庫へ移動した。







 街の倉庫にやってきて兵士に挨拶をして中に入る。


 「ん? これって……」


 兵器に触れて内部構造を空間魔法で読み取ると、魔方陣が書かれている文字が気になった。

 重低音・精神・感覚・乱調・発光・増幅などが日本語で刻まれているようだ。


 ラヴェンナはコラプッタの町で手に入れたって言ってたよな……。


 必要なことだけ軽い尋問をするとあっさりと兵器の事をしゃべった。そうすることで何とか罪を軽くしてもらおうという考えだろうか。

 だが命令しただけで、どこから手に入れたか詳しい話は、本国にいる部下に聞かないと分からないそうだ。


 転生した日本人? いや、あの人か? 転生者が早々いるとは思えないし、現実的に考えるならあの人だろう。

 転生者ならあんなまどろっこしいのは作らないと思うしな。


 街の噂を調べていたダークエルフを呼び出した。部屋に戻って報告書を見ながら質問する。


 「前に街の様子を調べてもらったとき、高性能な魔道具が出回っているって報告してくれたよね?」

 「はい。それが何か?」

 「それって出所ってわからない?」

 「申し訳ありません。今、街に行っている者からの追加報告を聞かないとなんとも……。ただの噂程度でしたので」

 「そっか~。他にくだらないことでもいいから何かないかな?」


 しばらく熟考するも、報告したこと意外は特にないと言われた。

 報告書に気になった部分があったので聞いてみる。


 「行方不明者って結構多いの?」

 「詳しい数は分かりませんが、街にやってきた人たちが数名、忽然といなくなったとの事です」

 「もしかしてあの兵器が使われて、意識を失ったところ誘拐されたとかじゃないよね?」

 「分かりませんが、街では剣歯狐のせいではないかと囁かれていましたが……。あの兵器を使われたのなら音を聞いたものがいるのではないでしょうか?」

 「ふむ……確かに……」


 アレが使われたのなら壊されないようにするためか、頑丈にできていて重いし、運ぶのには人数がいるだろう。

 それにあの音の範囲は1キロあるかないかで、効果範囲外でも音は聞こえているようだ。

 街にやってくるなら人の通る道を使うから他の人が誰か聞いていてもおかしくは無い。

 しかし音が噂になっていた様子は無いという。


 「わかった。ありがとう」

 「はい。では、失礼します」


 パタリと扉が閉められ、一人で考える。


 もしあの人が作ったならば何のために作ったのか……。行方不明と関係あると思ったんだけどな~。

 確認のために聞いてみるか。


 手紙を書いて皮袋に二重にしてしばり、人魚族にお使いを頼む。

 イルマーレに大陸まで郵便を頼めるかと聞いたところ、問題無いという頼もしい返事をいただいたので早速活用する。

 コラプッタに着いたら現地で街の様子を調べているダークエルフに渡して、返事をもらってきてほしいと頼んだ。


 だがランクイロが目を醒まさない原因がわからないな~。また何かの要因が勝手に働いているのか?


 魔力を使って無理やり実行していることが少なからずある。何か思わぬことが起きているかもしれない。

 もう一度倉庫に戻って調べてみた。

 そこで気になったのが『乱調』の文字だ。


 精神や感覚を乱したかったということで書いたんだろうけど……。カナンカは変身が解けそうになっていたと言っていた。『重低音』の部分が音を胸に響かせて浸透させるんだろうな。

 そういえばランクイロは成人になると獣に変身できるとか言ってたな……。もしかしてそれか? だとしたらお手上げだ。ランクイロの自身にかけるしかないが……ベネディッタさんなら何か知らないかな?


 ベネディッタを呼んでもらうように頼んだ。


 「何? ゴブリンの住処に行こうと思ってたのだけれど、家臣になれって話ならまだ返答はできないわ」

 「お忙しいところすみません。それも気になりますが、今はランクイロの事です」


 事情を話し、自分の考えを述べた。


 「確かに、その可能性が高いわね。ちょっと待ってて」


 ベネディッタは部屋を出て行って一冊の本を持って戻ってきた。


 「ええと、希少種ということだけで種族名はわからないけれど、成人になると人狼になれるのは知っているのよね?」

 「はい」

 「恐らく彼の容姿からして、成人になるかならないかという微妙な時期に影響を受けたからじゃないかと考えるわ」

 「カナンカも胸がざわざわしたと言っていましたしありえるかもしれませんが……」

 「この本によると、満月の夜に成人の儀式を行って祝福するといった風習があるらしいわ」


 あ~……、ね。

 狼男っていったら満月だよね。魔力と関係があるとかそういうことかね?


 「では、満月の夜までうなされたままってことですかね?」

 「う~ん。儀式の内容までは書かれていないからなんともいえないけれど、月の光を浴びると治るかもしれないわね」

 「月の光から魔力を吸収して体を作り変えるとかかな? 満月っていつでしたっけ?」

 「ゴブリンの偵察するときに月が隠れる時期を選んでいたから……」


 人差し指を頬に当てて、反対の手の指を折って日数を数えるベネディッタ。

 考えるその仕草は、できる大人を連想させて色っぽく見える。


 「明日か明後日か、そろそろじゃないかしら?」

 「では月を確認して港で満月の光を浴びさせますか」

 「あくまでも予測だから確かだとは言えないわ」

 「でもこのままやら無いよりはマシです」

 「そうね」


 お礼を言うと、付き添いたいけれどゴブリンのほうも気になるから行けないといわれた。

 そちらのほうも十分に大事なことなので気にしないように伝えると、早速出発すると言って行ってしまった。

 アプス達にランクイロの事を説明し、港を開けてもらうように手配する。


 本当に狼男の類だったら暴れだすかもしれないしな。注意しておかないといけないし、ランクイロの体の事も心配だ。


 エスドゴも同行すると言うと、同じ船に乗る全員が見守ると言い出してきた。

 ずいぶんと可愛がられているようだ。

 ランクイロの見舞いに行き、調子を見る。熱があるのかしんどそうだ。回復魔法をかけてみたが、少し体調は良くなったものの、すぐに先ほどの状態に戻り具合が悪くなった。


 だめか……。もう少し我慢してくれ……。


 ギュッと手を握って必ず元気にしてやると誓ったのであった。









 その日はまだ月が満ちていなかったので翌日に挑むことにした。


 昨日は夜まで時間が無かったので、荒れている港の死体を片付けて、とりあえずの応急処置をしたが、今は時間ができたので本格的に修復する。

 歪んだ部分は切り取って、使える部分は細かくブロックわけをして石材にした。

 港の拡張や道路を作ったときに、岩山を切り取って放置していた石材を持ってきてはめ込む。継ぎ目は土魔法で綺麗にならしておいた。


 「どや~」

 「お見事です旦那様」

 「ねぇねぇ~。終わったなら早く『うぉ~たすら~だ』作ってよ~」

 「我も『うぉ~たすら~だ』とやらで遊びたいぞ!」

 「お前ら……」


 土木建築にすっかり慣れてテキパキとあっさりこなしてしまったランドルフ。港を守る兵士達は驚いているが、彼女達にはその凄さは風化して無くなってしまったようだ。

 馬車を置いてプールにまで引っ張られていった。アプスは残って設営準備やランクイロの移送をすることにした。

 ドラゴンの力には逆らえず、プールの前まで連れてこられたので渋々作ることにする。


 他にやることがあったのに……。


 「ねぇ、どうするの? ねぇねぇ!」

 「うるせぇよ! 今作るから大人しくプールで遊んで待ってろ!」

 「は~ぃ」


 プール横の岩の壁を削り取ってまず階段を作る。作りながらどういった構想にするのか考えていた。


 作る予定が無かったから前に書いたメモを持ってきてないぞ。


 メモを書いたけど意味が無いパターンはよくある。ランドルフも例に洩れなかったようだ。


 しかたない、絶叫系は止めておいてまずは楽しめるような構造にするか。……確かトンネル作るとかって考えてたんだっけか?


 高さ30mくらいにしてくり抜いていく。


 かなり高いな……もう少し低いほうが……いやこれでいいか。


 海が見えるように吹き抜けにして強度を保ちながらジグザグに落ちていくように造る。


 砂時計でこんな構造あった気がするな~。砂じゃなくて水だったか?


 折り返し部分は緩やかなカーブにしてぐるぐる回って滑っていき、また直進して折り返しでぐるぐる回る。

 そして最後に数秒間、回りながらトンネルを抜けると5mほどの高さからプールにダイブするような仕組みにした。

 着水する場所を分けて事故を防いでおく。

 後は水を流すだけだが、せめて魔石で調節ができるようにしたい。


 「新しい泳ぎ方を考えたぞ! どうじゃ! 我の翼を使って水の中で飛ぶように泳ぐのじゃ!」

 「すっご~ぃ! あたしもできるかな? ちょっとやってみよっと!」


 お前らはペンギンかよ。


 作れと言った本人達はこちらの作業の事などお構いなしにプールで楽しんでいる。いつの間に水着を持ってきたのか。

 アマレットの保護者であるデンは、今回もプールサイドの奥で水がかからないように避難している。


 ダークエルフの里に行って魔石をもらうついでに、新しいプールでの遊びができると宣伝しておく。

 何人かはただ滑るのが面白いのかと疑問に思っているようだ。


 戻ってくると四角く地面をくりぬいて魔方陣を書く。真ん中に魔石をはめて、下から水が半永久的に沸くようにした。


 もうちょっと水の量を多くするか。……これでよしっと。


 試しに自分ひとりで滑ってみた。落下防止やスピードが出すぎて、衝突事故などが起きないかを確かめる。


 もうちょっと地面を滑らかにしたほうがいいな。景色が見えにくくなるけどここはもうちょっと壁を高くして……直線は少し早いがカーブで緩やかに減速できるから大丈夫か。


 ザバーン!


 最後は放り投げられるように落ちてしまった。危ないので落ちる前にもう少し手前を盛り上げて減速させ、角度を緩やかにしてちゃんと滑り落ちるように修正した。もう一度乗る。


 「あ~! 何ランドルフだけで遊んでるのよ!」


 目ざとくもアマレットがランドルフの側にやってきた。


 「遊んでるわけじゃない。危険な場所が無いか確かめてるんだよ!」

 「ずるい! カナンカー! ランドルフが一人だけ先に遊んでるよ~!」

 「なぬ!」

 「いや聞けよ!」


 水中から顔をだして恨めしそうにこちらを見ている。

 言い訳ではないが話が通じず一緒に乗ることになった。


 「ひゃっほー! いけいけ~!」

 「ぬぉ~! このぐるぐる回るのはよいの~!」


 二人は楽しんでいるがランドルフは冷静に訂正箇所を探している。


 子供と大人と人形一つ乗っても感じは一緒だし大丈夫だろう。


 「うわ! 暗いよ!」

 「出口じゃ!」


 トンネルを抜けると目の前には道がなくなっていた。


 「あー!」

 「ぬぉ!」


 アマレットと一緒にランドルフは無事に落ちたが、カナンカは翼を広げてゆっくりと滑空しながら降りてきた。


 「飛んだら意味無いだろ……」

 「ふむ。そういう遊びじゃったか。すまぬの」

 「面白かった~! もう一回乗る!」


 アマレットは頂上まで飛んでいって、今度は一人で滑り出した。だが体が小さいのか、ころころと左右に転がってまともに滑っている感じがしない。あちこちぶつけて痛そうである。


 シュールだ。流しそうめんがザルに落ちるより虚しい感じがする。どんぐりころころかよ……。


 カナンカもそれを見て言葉が出ないようだ。

 やがてトンネルを抜けてプールへと急降下する。


 ポチャン


 「「……」」


 軽い音がしてアマレットが水中へとダイブした。


 「……誰だゴミを捨てやがったのは!」

 「ランドルフや、いくらなんでもそれはひどいぞ……」


 思わず叫んでしまったランドルフ。カナンカもそう思っていたのだろうか。注意しながらも笑うのをこらえている。


 だって滑るというより転がって落ちてきたって感じなんだもん。


 「ぷっは! 一人で乗るのも楽しいけど目が回るね!」


 水中から元気に顔を出してからの満面の笑顔である。どうやら打ち身や擦り傷などは無いようだ。

 意外と丈夫な体なのかもしれない。


 ちょっと心配したけど本人が楽しいならいいんだ。


 デンもアマレットに引っ張られて乗るように誘われたが、まったく動く気配がない。

 カナンカももう一度滑って楽しんでいた。












 十分に楽しんだので、お開きにすることにした。すっかり夕暮れ時になり、うっすらと月が見え始めている。

 アマレットはいつもどおり遊び疲れてデンの広い背中の上で寝てしまった。

 港に戻る道中で、カナンカから声を掛けられた。


 「ランドルフや。あまり思いつめるでないぞ」

 「ん?」

 「いやなに。そんな気がしてな」

 「それで作るように無理やり引っ張ったってわけ?」

 「うむ」


 うむって貴女……。こっちはやることがあったのに胸を張って威張るなよ……。


 「まぁ、半分は我も遊びたかったのじゃがな」

 「ですよね~」

 「じゃがな、我は最初に出会ったときに言ったぞ。困ったことがあったら助けてやるとな。我は自分で言った約束を守ったに過ぎん。じゃから気にするな」


 神秘的な雰囲気をかもし出し、まじめな目をしてランドルフを見つめてくる。

 いつもの酒飲みとは違う夕映えする美人がそこにはいた。


 「……ふっ、何せ守護竜様だからな」

 「そうじゃ! 我は偉いのじゃ! じゃから珍しい酒をもっと持ってまいれ!」

 「結局それかよ!」


 いつもどおりか! とお互い笑いあいながら港に歩いていった。


 ありがとな、カナンカ。


 言葉には出さないが心の中で感謝したランドルフであった。


 

お読みいただきましてありがとうございます。


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