64話
いつもより遅れての投稿。
ごめんなしゃい~。
「旦那様、少しお側を離れますがよろしいでしょうか?」
「ん? どうしたの? ってあれか」
アプスは思うことがあり、ランドルフに声を掛けたがランドルフも気づいたようだ。
「あの魔法使いは放って置こう。むしろどんどん打ち込んで疲弊してくれたらいいよ」
「私なら大丈夫ですが……。よろしいのでしょうか?」
とんがり帽子を被ったエルフの男が、またも大きな魔法を放とうとしている。
カナンカが足止めされているので今のうちにといったところだろうか。
「それよりも負傷者の手当てをお願いするよ、邪魔が入ったら倒して」
「わかりました」
「皆さん、またでかい魔法がきますけど、私が守るんで音と衝撃だけに備えて踏ん張ってください!」
相手の詠唱の邪魔をするわけでもなく、正面から受けようとするランドルフに兵士達は少し不安そうだが、ランドルフの魔法の腕前は知っているので言われたとおりにする。
「僕の魔法に耐えるって? あの化け物女じゃあるまいし、お前のような子供には無理だね!」
やがて先ほど放たれた火の玉よりも大きいオレンジ色をした玉が放たれた。
「2000℃くらいかな? 鍛冶屋のお手伝いでもすればいいよ。……あっ、守るって言ったけど港がだめになるじゃん!?」
時既に遅く、空間の壁により完璧に魔法を遮断する。ついでに周りを冷却して暑さにも対処しておく。
「あの野郎またか!」 「海へ逃げろ!」 「あちぃ! 飛び込め!」
またも何も言わずに撃たれたので、傭兵達は自ら海に飛び込み退避した。
カナンカ達も離れるように移動しながらも、お互いに手を休めることが出来ないため攻防は続いている。
兵士たちも思わず目を瞑り息を呑んだ。
ドォォォーン!
空間の壁にぶち当たり、火の玉はひしゃげて大きな音を立てて大爆発を起こした。
空間の壁の近くの地面がマグマのようにドロドロに溶けており、その周りは衝撃で割れて破片が飛び散っている。モクモクと黒煙が上がって魔法の威力の凄まじさを物語っていた。
「っ!?」
ここなら大丈夫だろうと様子を見ていたラヴェンナは、音による衝撃であげた声もかき消され船の奥へと転がっていった。
乗っていた船も焦げ付いて黒ずんでいる。
「あちぃぞおぃ! 毛焦げてないか!?」
「「……」」
「グゥ!」
戦っていたカナンカたちも、衝撃に押されながらなんとか一瞬耳をふさいで耐えたが、さすがに熱量が多く熱かったようだ。
魔法が収まるや否やすぐさま相手の目を見て戦闘を再開する。
「あっははは! 溶けて跡形もなくなったかな? 正面から受け止めるとか馬鹿な真似をするからだよ!」
「それフラグや~」
黒煙が風に払われると、衝撃にも熱にも耐えて平然としている盾を構えた兵士達の奥から声が聞こえた。
「撃った本人は平気か。まぁ、対策くらいはしてるよね」
「何で! 何でお前も耐えられるんだ! 直撃を食らったはずだぞ!」
理解できないとばかりにわめき散らすエルフの男。
「俺達生きてるぞ!」 「もうだめかと思った……」 「ランドルフ様はすごいぞ!」
無事に生きていることを実感した兵士達は、魔法に耐えたランドルフを褒め称えた。
それは士気の高揚につながり、ランドルフへの忠誠が上がったのであった。
だが傭兵達は最悪である。
ランドルフ達の周りに倒れていた傭兵達は跡形も無く消え去り、生き残った者達は海へと逃げ込んだ。
港はまともに歩ける状態ではなくなって、攻めるのは難しい地形になってしまった。むしろ今攻めてこられたら体制を立て直すのは困難である。
そして海に逃げ落ちた彼らには人魚族が待ち受けていた。
「うぁ!」 「ごぼっ!」 「何だ!? 海の中に引っ張られているぞ!」 「早く港に上がれ!」
足を引っ張り、溺れて弱ったところを捕縛して次々と打ち上げられていく。
あるものはパニックに陥り、あるものは武器を持って抵抗するも、海の中では人魚族には勝てず槍に突かれて命を落としていった。
さらにそんな彼らに、無慈悲にも悪魔のような命令をランドルフが下した。
「では諸君。港に上がろうとする傭兵達を突き落とそうではないか」
それはそれは、歯をむき出しにて口を吊り上げる良い笑顔であった。
「何故だ! 僕は手加減なしで全力で放ったのに! 耐えられるわけが無い!」
喚いているエルフの男にいつの間にか近づいたアプスが、相手の首を締め上げて意識を落とした。
「ナイスだアプス! さっきはああ言ったが、これ以上壊されたら港の修繕がさらに面倒になるとこだったよ」
「ですから最初に私が申し上げましたのに……」
「ごめん。俺が悪かったよ」
吹き飛ばされていたラヴェンナがどういう状況になったのか確認しに戻ってきた。
「何ですのこれは!」
港が滅茶苦茶になって傭兵達はいなくなり、海に落ちたものは次々と捕縛されるかそのまま浮いてこなかった。
船が一隻島を離れて逃げようとしている。それを見たほかの船も離れる準備をしていた。
こんな状況を作り出し、滅茶苦茶にした張本人は、喚き散らしている間にあっさりと捕まっている。
「本当に余計なことをやってくれましたね! 大金を払ったというのにこの役立たず!」
ラヴェンナが怒るのも無理は無いことだ。最善だと思った一手が最悪の一手になってしまった。
まさかこんなことになるとは思ってもいない。
ガブストンと双剣の男が端っこで戦ってはいるが、でかい魔法を打ち消したカナンカを倒せるかどうか……。倒せたとしてもただではすまないと思っている。
ランドルフも流石に魔力切れを起こしていると思ったが、全然平気な様子でケロッとしているのも不気味に感じた。
そしてあのメイド。その気になればいつでもこちらを捕縛できそうな動きである。
まずいですわ。このまま捕まれば、私だけでなく家族まで殺されてしまう……。
……アレを使いましょう。
「例の物は準備できまして?」
「出来てはいますが本当に使用するのですか?」
「もう後が無いの。ここで使わなければ生き残る術はありません」
「……畏まりました」
ラヴェンナはコラプッタの街で手に入れたという最後の手段を使うことにした。
エスドゴはカナンカに任された相手に苦戦していた。
フラフラとした動きでこちらに的を絞らせず、ほんの一息呼吸した隙にいつの間にか攻撃されている。
何とか防御するので精一杯だ。
「くっ! この捉えどころの無い動き、そして双剣使い……。あなたは《縦横無尽》のカルバードですね」
「……」
質問には答えず、フラフラして今にも倒れそうである。……と思ったら喉めがけて剣が突き出され、その剣を避けようと集中すると、もう片方の剣で足を狙われて切りつけられた。
「……チッ」
完全に足をもらったと思ったカルバードは舌打ちをする。
エスドゴはその攻撃に気が付いて咄嗟に足を引いてかわしたと思ったが、傷を負ってしまい機動力を少し落としてしまった。
「っ! 本当に気が抜けない。戦場ではまるで幽霊のように彷徨い、通った後には死体しか残らないと言う。いやはや恐ろしい動きです」
「………」
こちらの攻撃が当たらず、向こうの攻撃は何とか致命傷は防いでいる状態だ。
考え方を変えて、倒すのではなく時間稼ぎをしてカナンカがノビノビと戦えるようにこちらに釘付けにすることにした。
手数を増やしてけん制をするが、けん制の攻撃すらも死につながるような攻撃を返してくる。
思っていたのとは違ったが、自然と慎重な攻撃になって、それがうまい具合にいい時間稼ぎになっていた。
「エスドゴがなかなかに苦戦しておるようなのでの。我の事を思っての事であるが、そろそろ決着をつけて加勢に行かねばの」
「連れないことをいうなよ。もうちょっとこの戦いを楽しもうぜ」
健康的な歯を見せながら吼えて迫ってくる。
「ウラァ! これならどうだ!」
手甲をつけた拳で殴ってガードさせた後に距離をとったガブストンは、筋肉が盛り上がり魔力を込めて何も無い空中に最小の動きで最大のパンチを放った。
「ムッ!」
カナンカは何をするのか様子をみて、顔を隠すようにガードの体制を維持していた。
ガブストンが何も無い空中で素振りをするかのようにパンチを繰り出すと、腹部に衝撃を感じて思わず後ずさってしまった。
「意識のいってない腹部を狙ったはずなのに平然としてやがる……マジもんの化け物だぜ」
圧縮した空気を腹部めがけて爆発させた。普通ならば内臓がおかしくなっているはずである。
「おなごに迫って口説く台詞とは思えぬな」
「ぬかせよ! 俺は魔物を相手にしてると思うことにするぜ!」
ガブストンの考え方は間違ってはいない。カナンカの正体はドラゴンなのだ。
ドラゴンであることを知らないガブストンは、太ももに力を込めて物凄い速さで間合いを詰める。
「遅いぞ。我より遅い。攻撃もうちのメイドよりも遅い!」
「そうかぃ! アレでも倒れないから力を込めたが、早さもありやがる。ならこれはどうだ!」
豪腕からなる拳がうなりを上げる。
カナンカはそれを難なくかわすが、かわした拳から顔めがけて衝撃を受けた。
「ぬっ! 何をしたのじゃ?」
「これもだめかよ……。答えを言うわけねぇだろ!」
先ほどと同じで拳に乗せた魔力をその場で爆発させたのだが、今度は至近距離で放ったのだ。
食らえば常人ならば首の骨が折れるほど吹き飛んで戦闘不能になるはずの一撃だった。
ガブストンは底知れない相手に恐ろしさを感じ始めていた。
いくらなんでもおかしい。龍人の見た目をしているが龍人ではないはずだ。こいつの持っている魔力もそれほど多くは感じられないし、この頑丈さは説明が付かない。
身軽さもあるから力を載せた攻撃は大振りになってかわされる。型どおりの攻撃だが、拳は重いし素直な分一切無駄が無く早い。奇襲を仕掛けても異常な頑丈さで攻撃が効いている様子がない。
正直お手上げだぜ。何をしても倒せる気がしない。
「もう終わりなのか? ならばこちらからいくぞ」
拳、足、尻尾による息を付かせぬ連続した動きに防戦一方になった。
いや、単純な分反撃に出ることは出来る。だが攻撃を当てたところで相手が倒れるビジョンがみえないのだ。
これだけ動いて息切れしない体力もおかしすぎる……。マジで何もんだこいつ?
ガブストンは拳をかわして腕を取り、体重を乗せて移動して相手の骨を折ることにした。
しかし相手は平気な顔をしている。むしろ腕をつかまれたままこちらを持ち上げて振り回し始めた。
「化け物め! 力まで尋常じゃない!」
自身事振り上げられたときに狙いを首に変更して、相手の顔に全体重を乗せて梃子の原理で折りにいったがケロッとしてまったく折れる様子が無い。
「抱きついてくるな! 気持ち悪いぞ!」
怒ったカナンカは掴まれている手に手甲ごと思い切り噛み付いた。
「ぐぁ!」
手甲の硬さが無かったかのように噛み砕かれた。
物凄い痛みが襲ってきたが、ガブストンは噛まれた手を反射的に引っ張るのではなく、むしろ押し込んで相手に嘔吐反応を起こさせた。
気持ち悪くなったカナンカは吐き出すように噛むのを止めた。その隙にガブストンは距離をとって激痛によりうずくまった。
「ありえねぇ。何なんだお前は!」
「ぺっぺっ! 答えを言うわけないじゃろ?」
手甲の破片を吐き出して言われた台詞を言い返す。
「その拳では戦えまい。大人しくしておれば命まではとらん。……ランドルフに感謝するんじゃな」
ガブストンは本物の化け物を相手に何も言えず、ただ痛みに耐えてしゃがんでいた。
「エスドゴや、こちらは終わったぞ。加勢しよう」
「カナンカ様……。本当であれば倒したかったのですが……私の実力では時間稼ぎが精一杯でした。申し訳ありません」
「ようやってくれた。おかげで楽に戦えたぞ」
「ありがたきお言葉! より一層精進して御役に立ちたく存じます!」
「そういうのはランドルフにやってやれ。あいつのおかげで我は退屈な日々から抜け出せたのじゃ。それが我のためになる」
「ハッ!」
カルバードはエスドゴを倒したカナンカに最大限の警戒を抱いている。さらにさっきから止めを刺すことが出来ないエスドゴの二人で攻撃をされれば勝ち目は無いかもしれない。
額の汗が流れた落ちた。
「そこまでですわ!」
そのとき、ラヴェンナの声が高いところから聞こえた。
お時間いただきましてありがとうございます。
そろそろこの戦いも終わらせてのんびり日常を……。




