63話
まぁ、言っても止めないのは分かってたけどね。
ランドルフはデンが守っているベネディッタのところへ向かった。
「予想通り戦闘になってしまいました。デンと共に街へ避難してください」
「そうね、私も戦えるけど、人と戦うのにはあまりなれてないの」
「あたしも一緒にお留守番してよ~っと」
今まで寝ていたアマレットは、昼寝の続きとばかりに帰ることにした。
デンと共にベネディッタは街へ戻っていく。
街まで戻そうとするランドルフが逃げると思った傭兵達は、そうはさせまいと押し寄せてきた。
「あのガキを捕らえれば追加報酬がもらえるんだったよな?」
「街に逃げるつもりだぞ!」
「させません!」
「ぐはっ!」 「メイド風情がなんで武器を持っていやが、うがっ!」 「ただのメイドじゃねぇぞこいつ!」
襲ってきた傭兵達にナイフを投擲し、アプスが食い止める。
「ベネディッタさん、早く行って下さい。デン、送ったらそのまま門を守ってくれ」
「うぉふ!」
「本当はあなたが一番に逃げたほうがいいのだけれど、カナンカ様がおられるなら大丈夫でしょう。でも無理はしないでね?」
「はい、ありがとうございます」
傭兵達は足早に去っていくベネディッタを追わずにランドルフを取り囲んだ。
「恨みはねぇがすまねぇな小僧」 「そこの活きのいい女も俺達がもらってやるぜ」
卑下た視線をこちらへ向けてくる。
「あの~、あなた達この島で働きませんか? 肉体労働してくれる方々大募集中なんですよ。畑の開墾とか資材運びとか色々ありますよ?」
「旦那様、何もこんなときまで……」
「へへっ、怖気づいてびびっちゃったのかなお坊ちゃん? 俺たちゃ戦うのが好きで傭兵やってんだよ」
「ではうちで兵士としてどうです?」
「こんな何もねぇところで働くのはごめんだな。ってことで少しの怪我は多めに見てくれよ!」
言うや否や剣を振りかざす。アプスがそれを受け止めた隙にランドルフが風魔法で吹き飛ばし、一掃した。
「この槍杖、杖に慣れてないからかうまく威力の調整ができないんだよね」
「それが無くても旦那様は十分頼もしいです」
「だとしても使ってやらないと馴染まないからねぇ~」
街へ続く道を封鎖し始めている兵士達が戦っている場所まで戻る。盾を構え、弓を放ち魔法を放ち、突っ込んでくる相手にはすぐに応戦して片付け、体制を立て直して攻めてきたらまた固まって盾を構えている。
指揮をしているエスドゴに話しかけた。
「皆なかなか訓練どおり動けてるんじゃない?」
「こちらから攻めればあっという間にばてますからね。数は多いですからこちらは温存して戦わねばなりません」
どんどん船が港に到着してきてゾロゾロとまた敵が増える。
傭兵達も負けじと弓や魔法を放ってくる。
しかし、空から降ってきた人によって彼らは吹き飛ばされていった。
「人の体で戦うのもなかなかに楽しいの~。船を壊すなというから我自ら乗り込んでしまったぞ」
訓練ではなく、本格的な戦闘をして気分が高揚しているカナンカは、船の上から傭兵達を吹き飛ばしていた。吹き飛ばされた傭兵達が次々と海や港に降り落ちてくる。
「おい! こっちに落とすなよ! 傭兵達が見ていて哀れだ!」
海に落ちたものはまだマシだが、硬い地面の上に落ちた相手は打ち所が悪くて死ぬか、骨が折れるなどの重症だ。
「そうは言うても加減がまだまだわからんのじゃ!」
「一人でこんな! 化け物め!」 「取り囲め! 魔法詠唱しろ!」 「女一人にやられるとは情けない!」
包囲されて一斉に攻撃されるも、体を回転させて尻尾を振り回し、吹き飛ばす。耐えた奴らに拳をお見舞いし、盾ごと吹き飛ばしていった。
そこに魔法使いが魔力を練りこんだ魔法が複数放たれる。
「今だっ!」 「くらえ化け物!」 「行けっ!」
ドォォーン!
魔法同士が干渉して爆発が起き、煙が上がってどうなったかが見えなくなった。
「やった!」 「見たか化け物めっ!」 「でももったいなかったな~。結構美人だったのにな」
だが傭兵達が見守る中、煙の中からゴホゴホと声が聞こえてきた。
「ゴホゴホッ、魔法を殴ってみたが失敗じゃったか。素直に打ち消したほうがよかったの~。煙が目にしみるわい」
煙が晴れると、少し涙目のカナンカが無傷で平然と立っていた。
「なっ……本当に化け物かっ!」 「もう一発魔法だ!」 「弓を放て!」 「うぉぉぉぁぁぁ!」
傭兵達も今まで経験を積んできたためか、カナンカの様子を見てすぐに頭を切り替えて、もう一度攻撃を開始する。
「これ以上服が汚れるのもごめんじゃ。せっかくアプスからもらったものじゃからの」
背中の開いたワンピースが所々裾が破けたり、返り血や先ほどの爆発で汚れている。
これ以上はごめんだと速度を抑えて相手を殺さないように、控えめに突進して次々と吹き飛ばしてゆく。
「メイド達の攻撃よりは遅いの~」
剣を手の甲でそらし、そのまますべるように手刀を当てる。尻尾で足払いを掛け、倒れた相手に鞭の様に尻尾をしならせる。弾丸のように突撃して魔法使い達との距離を詰めて倒していった。
やがて襲ってくるものはいなくなり、船を確保したようだ。
「ふぅ……。少し休憩じゃ」
血に濡れた拳を倒れている傭兵の服で拭い払い、荷物の上に腰掛けて羽の根元に吊り下げていた小さな酒樽を取り出し、ワインをラッパ飲みし始めた。
「グビッグビッ、プハァー! 動いた後のワインもまた格別じゃな!」
仕事あがりのおっさんのような発言をするカナンカ。そのまま休憩して他の戦いぶりを眺める事にした。
「怪我したらこっちで治療しますよ~。 程度の軽い人は別の人のところに行ってね~。お薬もあるよ」
「ランドルフ様。もう少し緊張感をお持ちになってはいかがですか?」
「いや~。なんか俺って本番になるとあまり緊張しないんだよね~。本番前のほうがあれこれ考えて緊張するんだけどね」
「それはいいことでもありますが、適度な緊張感は油断をせず、常に何とかしようと模索していくので必要なことです」
エスドゴにお小言をもらってしまった。
「でも俺がやっちゃうとあっさり終わるじゃん?」
「その油断が命取りとなるのです!」
「旦那様。エスドゴ殿の言うとおりです。私も先日不覚を取ったばかりですので」
危うくゴブリンキングに致命傷をもらうところだったアプスは、己の事のように言ってきた。
「……ごめん、確かにその通りだ。少し血を見て興奮したのかもしれない」
「反省したならばよいのです。今はこの状況をどうするのか考えていただけますか?」
「このまま兵士達には経験を積んでもらうよ。危なくなったら手を出すけどそれはかわらない」
「わかりました」
とは言ったものの、このままではジリ貧である。負傷兵も魔法で回復してすぐに復帰できるとはいえ、体力までは戻らない。回復薬もあるがやがて疲労がたまり、防御する腕も重くなってくる。
「傭兵達も仲間同士なら連携が取れてるけど。違う仲間の傭兵達とはうまくいってないみたいだね」
「ですが交互に攻撃してこちらを疲弊させようとするのはなかなかです」
「分断していくか」
ランドルフは地面を波のように隆起させて傭兵達を海へと追いやり、次々と落としていった。
人魚族は捕獲するのが大変そうである。
ラヴェンナはその様子をじっと悔しそうに見ていた。
何故魔力がなくならないの? 他の魔法使いはともかくランドルフは昨日戦って消費したといっていたのに……。あの話し方は嘘を言ってる感じではなかったけれど騙されたという事かしら。
まったく魔力切れを起こす様子が無いランドルフたちに疑問を持った。
ダークエルフの作った回復薬によって回復しているとは知らないようだ。
魔力を回復できる薬は存在するが高価である。それが多く存在するのは新興貴族にしてはおかしい。
だがエルフやダークエルフの作った回復薬は、一般的に出回っている回復薬より回復効率がいいものが多い。
ランドルフはこの島に来たときからずっと作ってくれと頼んでいたのだ。在庫はたくさんある。
そのとき最後の船が港にやってきて、その船からラヴェンナのいる船に飛び移ってきたものがいた。
「なかなか活きのいい相手だな。この人数相手に持ちこたえてやがる」
「なに、魔法でドカンとやってしまえば一瞬で片が付きますよ」
「それじゃ面白くないだろ! なぁ?」
「……そのほうが俺の仕事が無くなって楽だ」
「お前らつまんねぇなぁ!」
短い剣を二本携えた口数の少ない人族の男と、とんがり帽子を被った杖を持ったエルフ、そして見たことのある狼の獣人の男が戦況を見て話をしている。
「あなた達、やっと来ましたわね。早く何とかしてちょうだい」
「いい戦いの場に連れてきてくれて感謝してるぜ。遠慮なくひと暴れさせてもらおう」
「私が一撃で終わらせて見せますよ」
「……」
「出来るだけ港への被害は少なくして頂戴な。補修するのが大変ですわ」
「善処しますよ」
一人を除き、自信にあふれる二人を見て頼もしく頷いた。
「あそこにいる子供だけはできるだけ生かして捕らえるように頼みますわ」
「あいつは……」
「ご存知ですの?」
「ああ、一度やりあったことがある」
「そのときはどうなりまして?」
「あの時は仲間を逃がすためだったから軽く相手にしただけだ。だが何をやってくるのかまったくわからないガキだったな」
「では今度は決着をつけてください」
「へへっ、楽しみだぜ」
どこにも属さない一匹狼の傭兵。その実力は各戦地で名が知れているほどの猛者達。商人の情報網を使って探し出し、大金を払って雇ったのですからそれに見合う結果を出してもらわないと。
もし彼らが敗れることがあるなら、コラプッタの街で手に入れたアレを使うことも考えないといけませんね。一応用意しておきましょうか。
船から移動した彼らを見送った後、従者に万が一使うかもしれないと用意をさせた。
「ん?」
ランドルフは船の上から大きい魔力反応があったので目をやった。
すると大きな火の玉を作り出し、今にも投げて来そうな人影が見えた。
「ねぇ、エスドゴ」
「はい」
「アレって防御できそうな魔法使い、うちにいる?」
「最初から万全なら数人掛りでも耐えられるでしょう」
「じゃあ今は?」
「無理ですね」
平然と無理って言うなよ。思わず笑ってしまった。俺が何とかしろってことですね。
「クックック。酒を飲んでおったらまた面白そうなのが来おった!」
休憩していた船からランドルフの前まで飛び降りてきたカナンカ。肩をぐるぐる回して何かをするようだ。
「ねぇ、もしかしてアレを殴るつもり?」
「うむ。先ほどは少し失敗したが次はうまくやるぞ」
「あ、もうやったことあるのね」
詠唱が完了したのかさらに大きくなった魔法が放たれた。
「おぃ! 俺達がいるのに普通に撃ちやがった!」 「逃げろっ!」 「冗談じゃねぇぞ!」
傭兵達もまさか何も言わずに放つとは思わず、慌てて海の方へ逃げ出す。
その巨大な火の玉に向かってカナンカは走り出した。そして拳に魔力を集中させて体の勢いと共に思い切り腕を突き出した。
するとカナンカの腕が突き刺さった火の玉は、花が散るようにふわりと霧散した。
「今度はうまくいったようじゃの~」
少し熱かったのか、殴った手をプルプルと振っている。
「馬鹿な! なんだあの龍人は!? 加減したとはいえ僕の魔法が散らされるなんて! しかも平然としているなんて!」
「すげぇ化け物がいるな! 俺はあいつをもらうぜ!」
獣人の男がカナンカめがけて走り出す。
「そいつを何とかしてくれないと一掃するのは無理そうだ! 頼んだよ!」
「……俺も行く」
ショートソードを両手に持って切りかかった。
「あの獣人見たことあるな」
「この島にやってくるときに最後にランドルフ様が戦われた獣人ですね」
「ああ~、あいつか。確かガブストンと言ったか。本当にまた会うとはね」
「ランドルフ様。カナンカ様に二人相手にさせるのはまずいのでは?」
「そうだね、俺が行こうか」
「いぇ、私が行きます」
ランドルフが返事をする間もなく、エスドゴが前に出てカナンカに助勢するべく走り出した。
カナンカが手練れと思われる男二人に襲われていると思うと我慢できなかったようだ。
ドラゴンだから放っておけばいいのに。やはり守護竜様は特別ってか。
「ん? ちょっと! ここ指揮するの誰!?」
「ランドルフ様しかいないのでは……」
ランクイロが申し訳なさそうに返答した。
「ぶぇ~。じゃあとにかく盾を構えて魔法と弓撃って近づけさせないように!」
ランドルフもまた、訓練どおりの事しか指示できずにいた。
「クックック、何じゃおぬし達。男の二人掛りでおなごを襲うつもりなのかの?」
「お前のような化け物を普通の女とは思うまい!」
「……シッ!」
拳をかわし、双剣に対しては尻尾でけん制するも防戦一方になっていた。
容赦なくカナンカを襲う二人にエスドゴが駆けつけた。
「カナンカ様!」
「……邪魔だ」
「ぐっ!」
視線や感情の隙を突いて、予期せぬところから双剣を使う男の攻撃がエスドゴに向かって放たれる。
咄嗟にガードが間に合ったようだ。
「俺はこの化け物を相手するからお前はそっちをさっさと倒せ」
「……チッ」
エスドゴができると感じた二人はすぐに分かれて対処しだした。今までカナンカを相手にしていた周りの傭兵も、激しい猛攻に手出しできず、二人に任せてランドルフの方へ目標を変えて走り出した。
ぶぇ~! こっちにくる敵が増えたんだけど! ってかエスドゴ大丈夫か? アプスを加勢に向かわせるか?
「エスドゴや、すまんが少し頼むぞ」
「ハッ! 命に代えましても!」
「うむ」
カナンカが声掛けちゃったからなんとしてでもやるつもりだよ……。
カナンカ対狼の獣人ガブストン。エスドゴ対双剣使いの男と戦いが始まった。
お読みいただきましてありがとうございます。




