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60話

差別するような発言がありますが、気にする方は読まないほうがいいかも。


 ゴブリンキングは少し高い位置からこちら側を睨んでいた。

 その体は他のゴブリンとは違って筋肉もあり、しなやかな体をしていて大きさは成人男性ほどだろうか。

 しかしそこは問題ではない。個人の武も危険なものがあるが、恐るべきはその統率力である。

 突如上空から現れたデンによる咆哮と、ダークエルフたちの弓による一斉射撃で混乱に陥ったがすぐに持ち直してしまった。

 前に出たゴブリンが盾を構え、その後ろから弓と魔法で援護する。ゴブリンキングはタイミングを見計らって号令をだし、また別働隊をすぐさま編成して奇襲をかけようと画策してきた。

 大きな巨体のデンに対して正面からは当たらないようだ。

 デンは電気を纏って毛を硬くさせ、矢による攻撃を完全に防いでいた。

 魔法は避けてはいるが、足場も悪くうまく動けずやりにくそうで、なかなか攻めることが出来ないでいる。ランドルフは流れ矢が来ないように結界を張って様子を見ていた。

 こちらも負けじとダークエルフ達が弓と魔法を放つ。しばらくけん制によるにらみ合いが続いた。


 「ずっと森にいたのに、ああいうのってどこで覚えたんでしょうか?」

 「それ、あなたが言うの?」

 「……すみません」


 ベネディッタの突っ込みに素直に反省したランドルフ。


 「単純に考えられるのは狩猟をしてってとこかしら。こんな森の中だし工夫しないと厳しいのかも」

 「そうだった。早く終わらせないと余計なものが出てくるかもしれないですね。川ではゴブリンの死体食われてましたよ」

 「これだけ暴れてると、よっぽど大物で無い限り警戒して近づいてこないわ」

 「そんなもんですかね?」


 いらぬちょっかいをかけて矛先が自分達に向いたらやられるのを分かってるのかね~。野生の勘とか生き延びる知恵ってことか。


 「ともかくあまり時間が無いのでさっさと終わらせましょう」

 「終わらせるってどうするの?」

 「せっかくだし槍を振り回したかったですが、よく考えたらこの森の中では邪魔になるだけでした」

 「何で持ってきたの!」

 「杖にもなるので、杖として使用します」

 「ランドルフ様。ゴブリンの別働隊が移動を開始しました」


 ゴブリンたちはばれないように後ろ側から別働隊を動かしてきたようだ。だが木の上から観測しているダークエルフの目はごまかせない。


 「俺が前のを蹴散らすから、残党は任せるよ」

 「はっ」

 「ちょっと、どうするつもり?」

 「こうします。デン! さがって!」


 言葉を聞いて、睨みを利かせながら徐々に下がっていくデン。

 ランドルフを囲んで守っているダークエルフ達を掻き分けて前に出た。アプスもその横に立ち並ぶ。

 ゴブリンキングは一人で前に出てきた子供に、集中して狙うように命令を出した。


 槍杖を前に掲げ、バリアを張って矢と魔法をかき消す。攻撃が切れたタイミングで控えめに魔力を開放した。


 「グギャ!?」 「ゲギョ!」 「グェ!」


 その瞬間、盾を構えていたゴブリン達の胴体が盾ごと二つに分かれた。


 ズゥゥーン! バキベキッ! 


 「ギョギャ!」 「ギョエ!?」 「ギョフッ!」


 それだけではなく、後ろにいた弓使いや魔法使いだけでなく周りの木々も切り倒され、生き残ったのは高い位置から指揮していたゴブリンキングだけになった。


 「「「……」」」


 先ほどまでの喧騒はパッと止んで、辺りは静寂に包まれた。


 「やりすぎないように抑えたんだけどなぁ……。全部倒してしまったよ。これじゃ戦闘訓練にもならないな~」

 「……………「やっぱりあなた、変よ」」

 「ってちょっと被せないで!」


 空気を読まないアマレット。さすがである。


 「ランドルフが全部倒しちゃったことには驚いたけど、ベネちゃんなら絶対言うと思ったからここしかないと思って」


 テヘッ☆ とお茶目に舌を出してウインクをした。


 「……お見事です旦那様。流石としか言えません」


 呆気にとられていたアプスも何とか言葉を搾り出した。

 他のダークエルフ達はまだ目の前の出来事を受け入れられずにいる。唾をごくりと飲む音が聞こえた。


 ゴブリンキングも同様で、何が起こったのかさっぱりわかっておらず、呆けている。

 しかし状況が不利と理解すると一目散に住処の方へ逃げ出した。だが切られて倒れた木が邪魔で逃走にもたつく。

 それを見ていたデンは、すぐさま切られた切り株の上を跳んでゴブリンキングに立ちふさがり、逃走を阻止した。


 うぅぉぉぉーん!


 雄たけびを上げて威嚇する。


 「別働隊はどうなった?」


 木の上から監視していたダークエルフにサインを送っている。返事が返ってきた。


 「森の奥地へ逃げていったようです」

 「なら放っておいても問題ないな。どうせ他の魔物に食われて終わりだろう」


 それよりもゴブリンキングをどうするか。退治するのはもはや確定だが、出来るなら強さを見ておきたい。


 「アプス、やる?」

 「ご命令とあらば」

 「早く倒さないと船も気になるから終わらせちゃうよ? 血の匂いにつられて他の魔物も寄ってきちゃうかも」

 「ふふっ、でしたら急ぎませんと」


 アプスが一人だけ前に出てナイフを両手に持ち、ゴブリンキングと向き合った。デンも少し離れて様子を見守る。


 「ねぇねぇ、アプスって強いの? 相手は王様なんでしょ? 危なくない?」

 「だったら余計にやらせて強くなってもらわないとね」


 アマレットは心配そうだが、もちろん危なくなったらすぐに割ってはいるつもりだ。


 手負いの獣を子に狩らせる心境だけど、アプスのほうが年上だし経験も豊富だから無用かもしれない。

 でも魔物の事をあまり知らないから、一般人や狩人にとってどの程度の脅威なのかは知っておきたい。

 以前にベネディッタさんに沼の事で怒られたっけ。


 一年ほど前の事だが、懐かしく思い感慨にふけっていると、アプスがゴブリンキングに向かい走り出した。

 足場が悪く、小石や折れた木も気にすることなく間合いを詰めていく。

 ゴブリンキングも他の敵が攻撃する気配が無いと観ると、生き残るためにアプスに集中し、戦闘を開始した。


 「ベネディッタさんならゴブリンの王に勝てます?」

 「私じゃ無理ね。魔法を唱えている間に間合いを詰められたら終わりだわ」

 「逃げながら魔法を使うのは?」

 「出来なくもないけど、集中力も乱れるし効果的な一撃は期待できないかもね」


 そういうものなのか。エルフでさえもそうなら他の魔法使いはそれも無理なのかな?


 アプスがナイフを投げる。ゴブリンキングは石の手斧で払い落とし、落ちていた石をアプスに投げた。

 体を少しひねってかわし、お返しに石を拾って投げ返す。それをゴブリンキングが払ったところで切り込んだ。

 応戦して大きく手斧を振るうが避けられる。避けられると同時に切りつけられて、肌にどんどん切り傷を作っていった。

 アプスは手を休めず相手の傷を増やして出血させてゆく。常に左右に動いて相手を翻弄し、傷口を広げさせて出血量を増やしていく。


 グルォォォォーー!


 ゴブリンキングは大きな振りの攻撃で止めを刺そうとせず、いやらしい攻撃を続けるアプスに咆哮した。


 「筋力も体力も多いゴブリンの王とはいえ、あのちまちまとした攻撃はやっかいでしょうね。出血による能力低下がそのまま死につながる。なんていやらしい攻撃なのかしら」

 「油断せず確実に倒すにはいいことだと思いますけど」

 「あのね、ここは森の中なのよ? あなたもさっき早く倒しなさいって言ってたでしょ」


 でもあの手斧の一撃もらったら死んじゃうって。それなら確実で安全に倒せるほうがいいけど……確かに場所が悪いかも。


 やがて、血を流しすぎて体力がなくなったのか、ゴブリンキングが片ひざを付いて息を荒げる。

 そこを見逃さず、すかさず近寄って喉をめがけてナイフを突き刺した。


 「そこっ!」

 「グァ!」


 それを力なく反射的に手斧を振るって防ぐも、弾かれてお互いに武器を落としてしまう。すぐさまもう一本のナイフで顔に突き刺そうとしたが、腕を犠牲にしてガードされた。

 腕に突き刺さったナイフが抜けず、アプスは少し焦ってしまった。

 ゴブリンキングがガードした腕とは反対の腕で殴りつけてきた。咄嗟にナイフを手放して離れるアプス。


グルァァァァー!


 離れるところにゴブリンキングは、落ちていた仲間の死体をアプスに投げつけた。死体と共に血が飛び、アプスに降りかかった。


 「くっ!」


 思わず両手で顔をガードしてしまったアプスは血を拭い、慌ててゴブリンキングの姿を捉えようとした。

 そのとき腹部に衝撃が走った。石を投げつけられたのだ。吹き飛びはしなかったが、剛速球による投擲で、痛みが激しくその場でうずくまってしまった。

 それを見たゴブリンキングは最後の一撃とばかりにアプスにタックルを仕掛けてきた。


 「あっ!」

 「だめっ!」


 アマレットとベネディッタは思わず声をあげる。

 このままでは吹き飛ばされて、打ち所が悪ければ死んでしまう。木や小石などが散らばっているのだ。

 さらに圧し掛かられてマウントをとられれば、豪腕による一方的な展開になるだろう。

 ランドルフは結界を張って守ろうとしたが、アプスの目はあきらめている感じではなかったので心苦しくも思いとどまってしまった。


 その時タックルを仕掛けてくる相手を見て、アプスはランドルフとの訓練を思い出していた。


 あの時は巴投げを教えてもらったが、今は足場が悪いから無理だ……ならばっ!


 フラフラとしながらも立ち上がり、相手をしっかりと見据える。呼吸を合わせ、手をクロスさせているゴブリンキングの懐に入るように急激に低い姿勢になる。

 そのまま相手を腰に乗せるように、コンパスで半円を描くかのごとく相手に背を向けてもぐりこんだ。

 背中に乗った感触が伝わると、バネのように立ち上がり、腕を掴んでそのまま投げ飛ばした。


 「おぉ、何をするかと思ったがここで背負い投げか」

 「カナンカが花壇を荒らしたときのやつだね!」

 「嫌なこと思い出させるなよ」


 ゴブリンキングは頭をぶつけたがまだ生きているし意識もハッキリしている。怯んでいる様子も無く、だが血を流しながらもしっかりと起き上がった。


 アドレナリンが分泌されて興奮状態ってか。あっ……。


 だがアプスが投げたナイフがゴブリンキングの額に吸い込まれるようにあっさりと突き刺さり、立ち上がった体制のまま後ろに倒れて呆気なく絶命した。


 「やったね!」

 「じゃあすぐここを離れましょう」


 容赦ない追い討ちだった。っとそんなことを思っている場合じゃない。


 「アプス、治療するからじっとして」

 「申し訳ございません。前回に続いてみっともないところを晒してしまいました」


 一瞬何のことか分からなかったが、きっとトクルマティアとの戦いの事だろう。


 「いいから、よくやってくれたよ。とにかく今は治療してさっさとここを離れよう」


 ダークエルフ達が警戒をしていたが、魔物はよってくる気配は無かった。だがここを離れればすぐさま魔物同士による争いが始まるだろう。


 「俺森ねずみ苦手なんだよね。あの集団で死体をむさぼってる姿がトラウマでさ」

 「無駄話はそこまでにして。他の魔物がここに気を取られてる間に、監視している人と合流して川沿いに逃げるわよ」

 「アプス、大丈夫?」


 アプスを肩に担いでデンに乗せ、その場を移動した。







 森を抜けたところで少し休憩した。すっかり日も落ちてきて、綺麗な夕暮れ空だ。


 「最後の最後で相手もいい動きをしたな。手負いの獣の決死の攻撃は危険だった。アプスも油断していたわけではないが……あれだと一般人には脅威だし狩人でも手に余るよね」

 「最初からそうだって言ってたでしょ」

 「一度自分でこの目で確かめたかったんです。前にベネディッタさんに怒られたこともありますしね」

 「……」


 やるにしてもアプスだけでやらせるのはまずかったか。でもちょうどいい物差しになってくれる人っていないしな~。アプスの実力なら大丈夫だと思ったんだけど……あれだな。

 忍びは諜報や防諜がメインであって正面から戦わせるものじゃなかったな。


 云々と考えているランドルフの顔を見てアプスが声を掛けた。


 「申し訳ありません旦那様。醜態をさらしてしまうなどと……」

 「いや、俺が認識を改められるいい機会だった。アプスはよくやってくれたよ。むしろ一人だけで戦わせてごめんよ」


 ランドルフからの言葉を慰めと受け取ったアプスは悔しそうな表情を隠さなかった。


 倒れたとはいえ、力があると分かっていた相手に安易に止めを刺そうとしたのが間違いだった。せめて背後にでも回って撹乱していれば……。

 旦那様のあのお顔……余計な心配をさせてしまった……。だが私は生きているし、次はうまくやってやる。これ以上醜態はさらせない。


 アプスは静かに闘志を燃やし、もし街に迫ってくる船が襲ってきたら今度こそ期待にこたえよう。そう思った。


 「アマレット。街の様子はどう?」


 先ほどから風の精霊に呼びかけて様子を聞いてもらっていた。


 「何も騒がしいことはおきてないみたい」

 「そうか。ではベネディッタさんも一旦戻ってもらって、森の様子が落ち着いたら今度はゴブリンの住処に調査ということでいいですか?」

 「その前に怪しい船が近づいてきてるんでしょ? あなたの事だから大丈夫だとは思うけど、調査に行く前に街が占拠されたなんてことは勘弁してほしいわね」

 「そうならなようにお力をなにとぞ~」


 手を合わせてベネディッタに対して祈るポーズをとる。


 「ちょっとやめなさい! ダークエルフたちも見てるのよ! 冗談でもやめてってば!」

 「でもベネディッタさんに頼らないと僕は! 僕は!」


 ベネディッタにすがり付こうとするランドルフ。


 「いい加減にしなさい! 貴族であるあなたがそんなことをしていたら、足元見られて舐められるわよ!」


 悪ふざけをやめて立ち上がり、まじめな顔をしてベネディッタを見つめる。


 「ですが、部下でもない人にお願いをするのですから、相手に礼を尽くすのは当然だと思っています」

 「……貴族なんだから偉そうにやれって命令すればいいのよ」


 ハァ、とため息をつきながら仕方なく了承したベネディッタ。


 「あっ、正式に俺を助けるために仕えてくれませんか?」

 「私が? ただの学者なのよ?」

 「軍師とか指揮官とか家令とか、その他もろもろの役割をお願いします」

 「何を言ってるの? 指揮官とか家令って女性の、しかも平民の私が偉い立場だなんて必死すぎて気でもおかしくなったのかしら?」


 いつもの突拍子も無い言葉にベネディッタは苛立ちを覚えるが、アプスもベネディッタのランドルフを馬鹿にしたような言葉に苛立ちを覚える。他のダークエルフたちもいい顔をしていない。


 「ちょ、ちょっと。喧嘩はやめようよ~」


 アマレットはデンの上でおろおろし始めた。


 「お願いできませんか?」

 「今回は私の失態だから協力したけど本業じゃないの。それに指揮官とか家令ですって? 女の私がそんなことをすればあなたの家は舐められるわよ。あそこの当主は女に頼る女々しい奴だってね。子供だから余計じゃないかしら? そんなの聞いたこと無いわ」


 女性が高い地位にいることは稀である。爵位を持つ女性もいることはいるのだが、そういう人は何かしら人一倍苦労をしている。

 メイドの護衛の事もそうだが、あまり女性がでしゃばってはいけない世の中なのだ。


 「そう言って忠告してくれるあなただからこそ是非お願いしたい。それに聞いたことが無いならば、我が家から発信すればいい。我が家にいる家令は女性だが、何でもこなせるとても優秀なやつだってね」


 そう言いながらじっとベネディッタから目を離さず、思いをぶつける。


 「何でも出来るってわけじゃないけど……ただのノリで言ってるわけじゃなさそうね。少し時間を頂戴。でもその前に今は街に来る船の事を何とかしてからね」


 ピリッとしていた空気が弛緩するのを感じた。


 「ぜひともよい返事を期待しています。街へは私の魔法ですぐに帰りましょう」


 休憩を終えて、全員を近くに寄せると結界を張って空を飛んだ。

 飛びながら帰るときにベネディッタの顔を見たが、どこかうれしそうな表情をしていた。

お読みいただきましてありがとうございます。


生活環境が変わったので投稿ペースを落とします。

いつもお読みいただいている方々には申し訳なく思いますが、なにとぞご了承いただけたらと思います。

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