59話
お時間いただきましてありがとうございます!
翌日から人魚族を各二名ずつに分けてエスドゴの船や、辺境伯軍に乗船させることになった。挨拶を済ませ、早速活躍してもらう。
見送った後、木綿の様子を見に行った。蕾の数は思っていたよりも少ないが、このまま行けば順調に収穫できそうだ。
畑自体の改良もほとんどやっておらず、少し水はけを調整したくらいである。
だが雨季にどういう問題が起こるかわからないので油断はできない。
害虫の被害にあってないか、余計なところに養分が行かないように剪定する。
「う~む。やっぱりちょっと石灰をまいたほうがいいみたいだな」
石灰をまいた土の場所は育ちがいい気がする。次の時期にはすべての畑にまくことにしよう。
ムングの爺さんが馬車の骨組みが完成したというので見に行った。
「一から一人で作るのは骨が折れたぞ」
「いや~、でも頼んで半年も経ってないのにやってしまうのは、さすがドワーフといったところですか」
「まぁな。耐久性もあるだろうから丈夫なはずだ」
庭先に真っ黒い車輪が目立つ骨組みが置いてあった。
「後は乗車部分を取り付ければいいはずだが、そっちはどうなってるんだ?」
「ダークエルフの里に置いてあります。塗装はまだですが立派な飾りも付いていてなかなかの高級感ですね。柔らかい座布団を敷いているので眠くなるかもしれません」
「ははは、さすが貴族様だな。そうでなくては俺もがんばって作った甲斐がないというものだ」
お礼を言ってワインの樽とお金を置いていく。
ダークエルフの村へと向かい、族長に挨拶をした。
「ランドルフ様。この間の宴会ではありがとうございます。楽しい時間をすごさせていただきました」
「こんにちわ~。ダークエルフにはいつもお世話になっているからね。たまにはいいんじゃないかな」
「お世話になるなどと。我々はあなた様の僕です。ご随意にお使いください」
「そんなこといって~。物じゃないんだからさ、もうちょっと偉そうにしてくださいよ」
「ふふふ、そうですな。でしたらアプスとの」
「アッー! 聞こえない~!」
族長の言葉を途中でさえぎったランドルフ。次に言われることを察したのでもみ消す。
ランドルフの失礼な行いにも族長は苦笑して流した。
「旦那様、わた」
「しゃらーっぷ!」
「しゃら?」
「いいから! えっと、馬車の箱を取りに来たんですけど」
「すぐにお持ちしましょう」
族長はニヤリと笑ったまま近くにいた人に声を掛けた。しばらくして数人が乗車部分を丁寧に運んできた。早速そのまま設置してもらった。
「装飾も立派でそのほかも見事な拵えですね」
「家を建てたりしているうちに、今まで以上に扱いが上手になりましたのでこだわってみました」
今までも村を作るために木材を切り出し、余った部分で木彫りの像などを作ってきた。
その合間を縫って頼んでいたのだが片手間で作り上げたとは思えない出来だ。
「塗装はいらないくらいだね。このままのほうが趣があっていいよ」
「お気に召されたようで何よりです」
「ありがとうね」
だが彼らもこのままというのはだめだということで、虫除けや防腐を目的とした薬品を皆で塗りこんだ。
村の様子を聞きながら一時間ほど話しをしていると、作業を終えたのでお金を渡してお礼を言って帰ることにした。
彼らはお金を使うことは少ない。大陸から運ばれた物資の中から、道具や消耗品などを買いはするが、大量に購入などしないし、何よりランドルフが依頼してばかりなのでどんどんお金が貯まっていっている。
だけど人魚族もきたから、今は利用者は少ないが、プールや水着でお金も取るし、交流も深められれば今はそれでいい。
徐々に浸透していかせることが今は重要だ。
「あっ、御者って誰かできる?」
「ええ、部下に何人かいますが」
「じゃあその人に管理を任せよう。馬も繁殖させて増やしていかないといけないな」
今は人魚族と交流するだけだから、船でもいいかもしれないけど、今後は陸路の事も考えていかないとだめだしね。
何頭かは大陸から送られているけど、人が増えて新しい街が出来たりすると、本格的にそっちも考え出さないとだめかもしれない。
回復薬を買い、山菜などのお土産ももらって屋敷へと帰ってきた。
二日後。
プールの利用者はまだいない。人魚族には事務的なことはやらせず、監視員として働いてもらっているが、これでは意味が無い。
だが人魚族に不満は無く、洞窟から直通なので通いは楽だと言っているし、居ない間はプールサイドで水着を作ってもらっている。
海の監視と救命講習をローテーションで行ってもらい、最初のうちは慣れるまでその様子を報告してもらうことにした。
一日の政務を終えて夕食までのんびりしていると、伝令がやってきた。
「ランドルフ様! ゴブリンの王が砦を出ました!」
「ベネディッタさんは? 無理に応戦してないよね?」
「はい。ですが、仕掛けていた罠もことごとく見破られ、弓と魔法を使って遠距離からけん制してくるのでうまく近づくことが出来ません。王が出てきてから監視もすぐにばれました」
「魔法を使うやつがいるのか! 敵の戦力は?」
まじかよ。やっぱり最初に住処を見たとき接触しなくてよかったわー。
「数は200ほどです。ゴブリンの王の周りには革の鎧を纏った近衛のようなものが10匹ほど居ます。とにかく統率が取れていて、進軍を遅らせてはいますが、どんどん押されているのが現状です」
「森の外までは来るときは出ていなかったんだよね?」
「はい」
「わかったゆっくり休んでくれ。他の皆にはすぐにでも出発できるように準備してくれ」
「わかりました」
アプスが部屋を出て伝言を回し、自らも準備に取り掛かった。
伝令が走って約二日で戻ってくるのだから、もうちょっとこちら側まで引いてるかも知れない。
無事で居てくれたらいいけど。
「街の防衛はいつもどおりカナンカに任せよう。外にいる住民には避難してもらってそれから……」
あれこれと考えていると、部屋の扉が開けられアプスが戻ってきた。
「ランドルフ様、緊急事態です。所属不明の砲台を積んだ船が10隻島へ近づいてくるとの報告です」
「まじかよ! なんだってタイミングの悪い!」
「旗には何もでておらず、詳細は不明。警告をしましたが、無視して突っ込んできたとのことです」
何じゃそりゃ? こっちは仮にもレスタイト王国の旗掲げてんだぞ!
先に手を出させていちゃもんつけてくる輩だったらどうするか。せめて海賊であったほうがまだましだ。こっちは好きに出来る権限はあるけど出来るだけ慎重にやりたいな。
「魔法で威嚇したり霧をだして撹乱させたりと時間を稼いでいるようです。このまま進めば到着は夜になるで、今日は無理にやってくることはないとの予想です」
「人魚族が伝えてくれたの?」
「はい」
「早速活躍してくれたか! 直接会おう。ゴブリン退治の準備は進めておいて」
「わかりました」
港へ向かい、休憩していた人魚族から直接話を聞く。
「ご苦労様、楽な姿勢でいいよ。それで、まだ島を出発して二日だったよね? どれくらいで帰ってきたの?」
「4時間ほどでしょうか」
はやっ! いくらあたりを探りながらゆっくり巡回しているとはいえ、船で二日の距離を4時間とは……。
時速約10キロで船が移動してるとして、一日10時間運行だから二日で200キロ。それを4時間か……。
人魚族早すぎだろ、海の中なのにマラソン選手を軽く超えてやがる。いや、直線距離とは限らないか。
「乗ってたのエスドゴの船だったよね?」
「はい。船長は現在遅延行為を行っています。ですが予想では明日の昼には島までやってくるとのことです」
「海賊船じゃないの?」
「それが……。ただやってくるだけで攻撃は一切してきません」
「海賊船にしてはおかしいか……。ちょっと今はゴブリンが街にやってくるかもしれないから、そのまま時間稼ぎをお願い」
「わかりました」
「たぶんラヴェンナだと思うけど、徐々に後退してもかまわないって伝えて。攻撃してこないなら忍び寄って相手を確認できるか人魚族でできない?」
「やってみます」
「頼むよ。分かったらエスドゴにそのまま伝えて。まだわからないけど、もし武力背景にするならこっちもさすがに黙ってられないよ」
話を聞き終えた伝令はすぐに出立した。
さすがに抗戦させてもエスドゴの船一隻じゃ十隻を相手にするのは無謀だしな。
くそっ、まさかそんなに数をそろえてくるとは。本当に海賊船だったらどんなに楽なことか!
さすがにヘタレのランドルフさんでもおこですよ!
ランドルフは内心苛立ちを隠せなかった。
エスドゴが時間稼ぎをしている間にゴブリンの問題を片付けないと。
すぐさま屋敷へと帰った。
「アプス、事情が変わった。準備してくれた兵士には悪いけど、海岸の警備に勤めてもらうように伝えて。避難警告もね。ゴブリンは俺が飛んでって何とかするから」
「危険です! いくらゴブリンとはいえ、その統率者に自ら向かうなどと」
「船が来るまでに解決しないといけないからね。俺が行けば多少は早く終わるんじゃない?」
「……わかりました。私も行きます」
「庭で待ってるから先に伝えてきて」
アプスがすぐに出て行った。その間に槍杖を手に取り、感触を確かめる。回復薬をポーチに詰めて、庭に出てデンを呼び、跨ってアプスがやってくるのを待った。
「ねぇねぇ。どこかお出かけなの?」
「何をいってるんだ。緊急招集かけたはずなんだけど聞いてない?」
「知らないよ?」
アマレットはペット扱いだから別に知らせる必要もないけど、警告は出ているはずなのに何も知らないのはおかしい。
まだ出来て半年も経ってないとはいえ、ちゃんと伝達がうまくいないのか。二回目だけど情報は大事だし訓練をちゃんとさせないとな。今後の課題だな。
「アマレットは……きてもらおうかな」
「どこ行くの?」
精霊の声を聞けるアマレットなら、離れていても街の様子を知ることが出来る。カナンカがいるとはいえ、情報を得るのは大事だと思っているので連れて行くことにした。
「お待たせしました」
「じゃあ行こう」
「どこ行くのよ!」
やってきたアプスの格好はいつものメイド服とは違って、動きやすい暗殺者のような黒い布を巻いた格好だ。森の中では目立ちにくいかもしれない。
デンに跨ってすぐに出発した。
結界を張って猛スピードで移動する。
森の入り口までやってきたが戦闘の形跡はない。
姿を魔法で消して、そのまま川沿いに進むと、ゴブリンの住みかと反対の対岸から木々がなぎ倒されている場所に着いた。
大きな戦闘があったようで、ゴブリンの死体が点在している。森ねずみや鰐たちが死体を取り合っているが、ダークエルフたちの倒れた姿は見当たらない。
そのことにランドルフはほっとするが、すぐに気を引き締めて探索を開始した。
ベネディッタさんどこなんだ。早く合流しないと。
「ランドルフ様あそこです」
アプスが教えてくれた方向を見ると、ダークエルフが木の上から敵を観察しているのが見えた。
すぐに近づいて話しかける。
「ご苦労様。状況は?」
いきなり現れたランドルフに体がビクリとしたが、冷静に状況を報告してくれた。
そのとき……。
グゥォォォォー!
ゴブリンキングの雄たけびだろうか。声が聞こえたとたん木がなぎ倒された。
すぐさま現場へ向かうと、後退しているベネディッタを発見した。
身軽にぴょんぴょん跳ねて、木をうまく利用しながら逃げている。
だが木の根っこに足を引っ掛けてベネディッタは転んでしまった。
そこにチャンスとばかりにゴブリンの矢が射掛けられた。
「ベネディッタさん!」
しかしすぐさま一人のダークエルフの戦士が、荷物鞄を盾にして割って入り、もう一人がベネディッタの上体を起こすのを手伝った。いい連携が取れている。
「ベネディッタさん大丈夫ですか!?」
その間にすぐさまランドルフが地面に着地し、結界を張って矢を防いだ。
「ランドルフ君!? 何で来たの!」
「それはあとで、今はこいつらをどうにかしましょう」
「ええ、そうね」
ダークエルフの戦士達が集まってきてランドルフを守ろうと周りを囲んだ。
ゴブリンキングも、突如上から降ってきた敵に驚いている様子だ。
うゎぉぉぉぉーん!
そこにデンが雄たけびを上げて相手を怯ませる。
「弓構え! ……撃て!」
アプスの号令でダークエルフ達が一斉に矢を放つ。自身も矢を放った。
「グギャ!」 「ゲギョ!?」 「グェ!」
前面にいたゴブリンたちが何匹か討ち取られていく。だがすぐさまゴブリンキングの命令か、盾を構えたやつらが前に出てきた。
「えっと、あたしは……がんばれ~!」
何も思いつくことなく応援することにした。
「グギャギャギャ!」 「ギャギャ!?」 「グギョギャギャ!」
だがアマレットの応援は虚しく、ゴブリンたちの喧騒にかき消されてしまった。
「なかなか統率が取れてますね。混乱もすぐに持ち直すとは」
「それだけじゃないわ。力もあって、ゴブリンの王が出てきてからは、こちらの罠も正面から突破されたし、弓による奇襲もほとんど被害なしよ。そのおかげでずいぶんと追い詰められてしまったわ……」
ベネディッタは悔しそうだ。
だが相手がゴブリンとはいえ、ベネディッタたちは200の相手に対して30名ほどで、しかも被害も無く凌いでいたのだ。十分に賞賛されるべきことである。
「ならここから反撃しましょう!」
「ふふっ、そうね!」
さっさと帰って謎の船団の事も片付けないと!
ランドルフはゴブリンキングのほうを向いて睨みつけ、槍を構えた。
お読みいただきましてありがとうございます。




