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58話


 皆でぞろぞろと港へと歩いてゆく。いつも家で飲んでばっかりのカナンカも一緒だ。


 「北の海での出来事を聞きたくての~。おぬしはあまり話そうとせんし」


 俺は自分の事を自慢げに話できるような人間じゃないからな~。それにやったことなんてただ逃げ帰っただけじゃん……。


 「やぁ、待たせちゃってごめん」

 「お久しぶりですランドルフ様。といっても五日ほどですか」

 「そっちがここに住んでくれる人?」


 ざっと見た感じ40人くらいいる。


 「ええ、皆屈強な者とその家族です。こいつが次期代表候補のイルマーレです。ランドルフ様が到着なされるまで入り江を守っていたものですので、しっかりとやってくれると思います」


 イルマーレと呼ばれた男が前に出て挨拶をする。しなやかな体だが、肉付きはいいのではないだろうか? 目つきもキリッとしているイケメンで、細マッチョというやつだ。


 「お久しぶりでございますランドルフ様。ランドルフ様の活躍を目の当たりにして、この人に仕えるのかと楽しみにしておりました」

 「よろしくね。なかなか強そうな体つきをしていて頼りになりそうだよ。でも次期代表かもしれない人がここに来ても大丈夫なの? それに人数も多いようだけど」


 人魚族は150人ほどだと聞いたが、その約1/4も来てくれるって北の入り江は大丈夫だろうか?

 それにしてもイルマーレの顔をよく覚えていないんだが……。


 「こいつにも色々と学ばせようかと思いまして、それにランドルフ様の近くのほうが重要な任務が多いでしょう」

 「確かにそうかもしれないけど、人魚族の住みかや北の海は大丈夫なの?」

 「私が若いやつを鍛えて使えるようにします」

 「ならいいけどね」


 こちらもアプスやカナンカを紹介する。

 そして住む場所に案内した。


 「おお! 北の入り江にある洞窟と同じ、いや、それ以上に住みやすい環境に仕上がってますな!」


 あれから横穴を掘って、住居スペースを作ったが気に入ってもらえたようだ。他に何か要望があれば教えてもらうことにする。

 夕方からは歓迎の宴を開くことにした。

 それまでに早速だが色々と説明をする。


 「警備とは別に、まずはプールの管理と海でのライフセイバーの役割をお願いしたいんだ」

 「ぷ~るとらいふせいばですか?」


 軽くどんなものか説明した。プールの方は素直に受け入れてもらえたが、ライフセイバーのほうは訓練が必要とのことだ。


 そもそも人と接する機会が無かったわけだし、いきなり人命救助をやれって言われても無理だよね。


 両方とも事務的なものはこちらがやるが、監視などを主にやってもらうと伝えた。


 「それと、人魚族が着ている服なんだけど。陸の人間用にも作ってもらえない? 泳ぐときに着る服がほしいんだ」

 「魔物の皮と、丈夫な海草があれば作れますが」

 「それを産業にして貨幣を獲得してもらいたいのだよ」

 「貨幣ですか……確かに我々には馴染みのないものでしたな。私も最初は苦労しました」


 マクリルが知っているので説明は任せることにした。

 北の海も一定の海域を与えるので、貝の養殖をがんばってもらい、それを売って貨幣を手に入れてもらう。

 家族の女性達に貨幣の説明をしてもらっている間に、男達には心臓マッサージと人工呼吸、溺れた人の運び方などを教える。

 まだであったばかりで初日なので、あまり多く教えるのは控えておくが、海で溺れた人を助けることだけは出来るだけ早くに理解してもらいたい。

 海に落ちた船員達を助けるときに役に立つはずだ。


 浮き輪とかないしな~。人命救助を教える人形も無いから家族のいる人は協力してもらおう。


 「私がやります!」

 「言うと思ったよ」


 アプスが元気よく手を挙げた。

 人魚族達に胸を強く押したり息を吹き込む説明をすると少し嫌な顔をされたが、こちらはいたってまじめなのでしっかりとやってもらう。

 カナンカもアマレットも興味があるのかじっと見つめてくる。


 知り合いに見られるとやりにくい……。


 「さぁ、旦那様! お早く!」


 アプスのこの顔を見ていると殴りたくなってくるな。


 終始興奮しっぱなしのアプスに一回だけ手ほどきをした。

 アマレットは手で顔を隠しながらも隙間からしっかりと見ている。カナンカはちゃんと学んでいるようだ。

 アプスはアゴを押さえられ、息を吹き込む動作だけをやって見せたランドルフに不満げだった。

 なので説明をしているランドルフの頭を掴み、強引に口付けをしようとした。

 だがランドルフもそうなる予感があったので、というか丸分かりだったので、お仕置きとばかりに電流を流した。

 そしてついでに電気ショックで心臓を動かす方法もあると無理やりに実践してやった事にした。

 人魚族は腰の当たりにあるエラのようなものがあるので、人工呼吸にいまいちピンと来ないみたいだ。

 だが今後もしっかりと練習するようにとイルマーレに頼んでおく。


 「ランドルフ様。我々の住む入り江の名前をつけていただきたいのですが」

 「え~、俺って名前付けるセンスは壊滅的だよ? ドラゴンであるカナンカのほうが、深い意味のある立派な名前をつけてもらえそうだし、そっちのほうがいいと思う」

 「カナンカ殿はドラゴン? 龍人では?」


 説明していなかったようなので、カナンカにドラゴンの姿に戻ってもらう。

 銀色に輝く大きなその姿に、驚きのあまり言葉も出ないようだ。

 しばらくして目の前の現実を理解し始めた途端、怯えて崇めだした。


 「ランドルフ様とカナンカ様がいれば安心して暮らせる!」


 今までとは違ってカナンカだけでなく、ランドルフまでちゃんと信仰の対象になってしまったようだ。

 だが名前はランドルフに付けてもらいたいという。海に関する言葉を適当に並べた。


 「じゃあオーシャン、ウェイブ、コースト、ロティオン、サーフ後はなんだったか……、まぁこの中から適当に選んでよ」


 そういえば海の近くだと紙が使えないな。木の板に書いて字も教えないといけない。文字もたぶんないだろうしな~。


 「ではロティオンにします。どのような意味があるので?」

 「あ~、えっと、なんだっけ……。波って意味があったと思うんだが……」

 「波ですか。北の海岸はここと違って波が高いですからな。外敵を阻む波となりましょう」


 気を使わせてごめんなさい。無理やりこじつけさせたようでごめんなさい。やっぱり俺にネーミングセンスはなかった……。


 名前をつけてて思い出したので木のを削り、それっぽいサーフボード作ってサーフィンを少しやって見せた。

 まったくうまくいかなかったが、体の小さいアマレットにはちょうどよい波のようで好評だ。

 北の海は波が高いのでこれを遊びとして人が来るかもしれない。そのとき溺れた人たちを助けるために先ほどの人命救助を覚えてくれともう一度お願いした。


 「むぅ、全然滑らんぞ」

 「私にはちょうどいい~」


 カナンカは波に乗る前に海に落ちる。だがアマレットは器用にも波に乗れていた。

 ……いや、若干体が浮いている様に見える。


 「アマレットは楽しそうでうらやましいのぉ。明日にでも北側へ行ってみようかの」


 チョロい者達はすぐに試したがり、やっぱりチョロかった。







 夕方になり、前回同様ダークエルフたちも招いて宴を開く。

 ダークエルフをないがしろにしないアピールもあるのだが、そう考えてしまう自分を少し嫌になった。


 別に彼らはそういう機微には気にしてないと思うけどね。


 「やはりベネディッタ殿に申し訳なく思うのですが」

 「気持ちはわかるけど人魚族との交流の場でしらけた事言うなよ。内心歓迎してないとか思われたら困るぞ」


 面従腹背とかになったらめっちゃ困るんだけど!


 「これからもこういうことがあるかもしれない。何事も順序よく時期が合うわけじゃない。切り替えていかないと」

 「そうですね。それが政治というやつなのかもしれません。ただのメイドである私が口を挟むべきではありませんでした」

 「いや、そう言ってくれる意見は貴重だからこれからも頼むよ」

 「はい、ありがとうございます」


 前回は人魚族のときは宴を開いて、ダークエルフのときは開かなかったと言われないかドキドキしていたので、いい機会だとばかりにダークエルフのほうを優先して他の人の話も聞いて回った。

 なので今回は人魚族について理解を深めようと思う。


 「ランドルフ様。前回と変わらぬ歓迎の宴を開いていただき誠にありがとうございます」

 「今回も堅苦しいのはなしにしてよ」

 「そう……だな。そうします。イルマーレもそうしろ」

 「はっ」


 カナンカがドラゴンだと分かってから余計に畏まってしまった。

 時間をかけてじっくりほぐそう。実際にただの酔っ払いドラゴンだしな。


 「楽にしましょう。ささ、アプス、ワインを注いであげて」


 グラスにワインが注がれる。最近手に入れた特注品のグラスだ。

 カナンカにも買ってあげて今ではそれを愛用している。そこにもワインが注がれた。

 ランドルフはぶどうジュースだ。


 「……それでですね前回は聞けなかった人魚族の歴史とか知りたいです」

 「歴史ですか。そうですな、イルマーレもよく聞いておけ」


 年寄りから聞かせられる昔話に、偉い立場の人しか知らない追加されたエピソードの話をしてくれた。


 酒の席でそんなことを話してもいいのか……。聞いたのはこっちだけどもね。


 昔々、元々は西にある魔族の住む大陸の海に多くの人魚族が住んでいたらしい。

 大きな岩盤を削って造った立派な海底都市があり、その中心にある龍宮城に住む水龍を崇めて暮らしていたという。


 「水龍……やつのことかの?」


 カナンカが思わせぶりにつぶやいた。


 「カナンカは何か知ってるの? 名前は?」

 「我々のほうでは名前は存じ上げません。親しい人にしか教えない、言いふらさないとの様で」

 「うむ。我もそうであるぞ。だが我は心が広いので別に言いふらしてもかまわんがの」


 変なところで対抗するカナンカ。話を続けてもらった。


 真珠の養殖や海にしかない資源や珍味などを求めて人との交流も盛んで、にぎわっていたという。

 だがあるとき、水龍は何か異変があるといって北の方へ出かけて行き、戻って来たときには傷がひどくもはや助かるかどうか怪しい状態だったようだ。

 水龍は人魚族達に好きに暮らすように伝え、弱った自分がここにいては、よからぬ輩が寄ってきて迷惑になると言ってどこかへと去って行った。

 水龍が居なくなったため、大樹を失った人魚族達は大型の魔物に襲われたり、悪いたくらみをした魔族に騙され、どんどん衰えていったという。

 もちろん人魚族の代表がしっかりと纏めていたが、魔族はともかく、大型の魔物の前にはどうしようもなかった。


 この前の衝撃鯨とかクラーケンとか出来てたら確かに厳しいかもな……。地上はある程度人間や獣人、魔族が支配しているけど、海は広いからな……。


 やがて水龍の住処を守ろうとするものは、龍宮城に残って細々と暮らし、住みにくくなったものは新たに安住の地を求めて去っていったという。


 「ん~。もし他に住みたいって人が居たら遠慮なく連れてきてね」

 「ありがたいお言葉でございます」

 「そうか……何があったのかは知らぬがあやつは死んでしまったのかの~」

 「まだそうとは限らないんじゃ? どこかで身を潜めてじっと回復しているのかも」

 「そうかもしれぬが……」


 空いたグラスにワインを注いでやった。しんみりとしてしまったが、結果はいいものではなかったが、知り合いの話を聞けてよかったのではないかと思ったランドルフであった。


 「じゃあその移住したのがマクリルたちの祖先ってこと?」

 「そうだと聞いている」

 「それって何年前の事なの?」

 「前代表のさらに前のその前の……自信はないが、五百年ほどではないかと思うのですが……」

 「カナンカはめっちゃ寝てた時期だね」

 「うるさいぞ! 別によいではないか!」

 「別にだめだとかそういうことは言ってないけど」


 ランドルフがニヤニヤしてカナンカの顔を見る。カナンカは顔を赤くしてランドルフのほっぺたを両手でつまんだ。

 その様子を見ていたマクリルとイルマーレは、すごい人物の二人の仲がいいことに頼もしさを感じていた。


 その後、反撃とばかりに人魚族の移動の詳細を聞き「その程度で経たれるとはまだまだじゃの!」と対抗して子供のような事を言い続けていた。


 「はいはい、俺はまだ子供だから、歳をとってるカナンカに比べてまだまだ未熟なんだよ」

 「キッー! なんじゃその言い方は! 我を誰だと思っている!」

 「いつも酔っ払ってるドラゴン」

 「確かにそうですね」

 「アプスも敵になりおったか!」


 そのやり取りに周りの人間も笑い出し、しんみりとした雰囲気も吹き飛び楽しい宴になった。


 その後、カナンカのご機嫌を取り成すのにだいぶ苦労させられたとか。

アマレットはサーフィンで遊びつかれて寝てました。


お読みいただきましてありがとうございます。

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