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57話

遅れましたすみません。


 ゴブリンに対する報告が来た。

 こちらに向かってくる集団がいたので、警告のために姿を現し対峙すると問答無用で襲ってきたらしい。

 ベネディッタは陣頭指揮を執ってこちらに被害が出ないように、下がって罠に誘い込み、怯んだら攻めてを繰り返しているのだという。怪我人もおらず、数も多くないので援軍はいらないとのことだ。


 「でも本拠地を攻めないように。攻める必要があるなら俺も行くから、勝手に突撃しないように伝えて」


 派遣した人数は少数だし、篭城されたら攻め落とすのには三倍の兵力が要るって言うからな。


 ゴブリンキングが出てきたら撤退も視野に入れて無理しないようにと話し、伝令は出て行った。


 「ダークエルフ達はやはり森の中でも優秀のようだな」

 「ありがとうございます。ですが相手はゴブリンですので、この程度では話にもならないかと」

 「ふむ。頼もしい限りだよ」

 「ランドルフ様のお考えで大勢と戦わずに済んでいる結果です」


 アプスと話をしていると、頼んでいた街の偵察に行っていた報告が来た。


 まずはスプモーニ商会からの手紙を読む。

 内容は、白い紙があると今スプモーニ商会で作っている紙が売れないのではないかという懸念があるとのことだった。

 なので、こちらの白い紙をスプモーニ商会より高い値段をつけて売ることで、差別化を図る。

 だがスプモーニ商会に安物を売るイメージをつけないために、こちらは大量生産は無理なので、安定した数と品質を重視して儲けをだすようにと今後の問題点も伝える。


 その辺はスプモーニさんも考えているだろうが、こちらには別にライバルになる気はないと意思を伝えないとな。

 ってか、ジュレップに白い紙の事は話したことあるし絶対聞いてるはずだろ。

 最悪別の街に売りに行くことになるけど……。


 そもそも、スプモーニが雇用を拡大しているので、わざわざ島へ行く人が少なくなって申し訳ないとのお詫びが書いてある。

 しかし、それとは別に何者かに島への移住者募集を妨害されている気配があるらしい。

 大きく目立った動きはないが、怪しい島に連れて行かれて強制労働させられるなどの噂をされて、近隣の街にも募集をかけているのだが、芳しくないとのことだ。


 「それと、こちらへ戻るときに怪しい船を見かけました。進路妨害してくる気配はありませんでしたが、じっと監視されているようで不気味でしたと船員達が話しています」

 「海賊とかじゃないの?」

 「旗も無地で、遠くだったのでよくわかりませんでした」

 「ふむ。この妨害の気配があるってのを調べてくれない? たぶんクベーラ商会が関わってると思うからその線を当たってください。怪しい船もたぶんクベーラ商会だと思う」

 「わかりました」


 それからリバーシの様子を聞くと、かなりの賑わいを見せているのだという。

 スプモーニ商会が主催した大会では大いに盛り上がり、優勝者は指南教室を開いているのだとか。


 「こちらでも開いたら盛り上がりそうだけど、わざわざ島まで来てくれるかってのがね」

 「距離が遠いですからね」


 まずはこちらの島だけでも大会を開いてみるか。人魚族にも普及させたら参加人数は100人くらいはでるだろうしね。


 「他には何か噂はなかった?」

 「コラプッタの街では人が増えたので、街の拡張と治安維持が問題になっているようです」


 電車や車で遠くから通えるわけじゃないしな。マンションもないし、人がその町に住むとなるとパンクするのかね。


 「その景気に乗ってあふれた人がこっちに来ないものかなぁ~」


 随時募集しているので、定期便で本当に少しずつは人が訪れるようにはなっている。

 渡航費はこちら持ちにしているが、そこから定住してくれる人はさらに少ない……。

 他にも高性能な魔道具が出回り始めているとか、北の街道で行方不明者が出ているなどだった。


 「とにかくクベーラ商会の事を頼むよ」


 だめな方向に強引なラヴェンナならやりそうだしな。









 アプスとデンの上に乗ったアマレットを連れて屋敷の前の広場へとやってきた。


 「さて、前に言ってた魔法を教えるってのをやりますかね」

 「ゴブリンの問題がある今。ぷ~るを作るより先に戦力を増やすために講座を開いたほうがよかったのでは?」

 「いつでも人魚族を受け入れる体制を作っておいたほうが、心象はいいとおもうけど?」

 「それはそうかもしれませんが」

 「ベネディッタさんとダークエルフの戦士が抑えてるし、それに人魚族に仕事を用意して馴染んでもらわないといけない。ダークエルフも安心して住める場所があってほっとしたんじゃない?」


 少し意地悪な言い方をした。


 「確かにそうです。我々もそうであったのに……己を恥じ入るばかりです」

 「だからベネディッタさんに気を使うことはしなくていいのさ」


 半分仕事で半分プライベートだったがな!


 やはりアプスの考えたとおり不謹慎であった。


 「ねぇ~。早く教えてよ~」


 アマレットには難しい話だったのか、聞いてても面白くないので催促した。


 「それではまず、俺の考えを述べようと思う」

 「まほ~、早くまほ~教えて~」

 「いいから聞けよ」

 「前から思ってたんだが、俺の使ってる魔法とみんなが使ってる魔法には認識の違いがあるのではないかと思う」

 「違いですか?」

 「これは前から思っていたことなんだけど。イメージを頭の中で固め、それを心臓の辺りから魔力を放出して、それを糧に現象を起こすのが俺のやり方」


 魔力というエネルギーを対価に現象を起こす。


 「だけどみんなのやってるのは術じゃないかと思うんだ」

 「術……ですか」

 「そう。錬金術だったり呪術だったりそういうの。だから魔術ってことだね」

 「魔術……」

 「何が違うの?」


 疑問に思うのも当然である。みんなランドルフと同じように魔法を使ってきたつもりだったのだ。


 「みんな杖を使って詠唱したりするじゃない? それって現象を起こすのに間に一つ二つかませてるんだよね。それはなぜかって考えたんだけど、魔力の消費を抑えるためじゃないかな?」

 「むしろ、杖や詠唱をしないと魔法の発動は無理です」

 「うん。それが一般化して誰も疑問に思わなくなったんだろうけど、無くても発動できると思うんだ。消費は馬鹿でかくなるだろうけど」


 これは魔法陣の製作しているときに感じたことだ。もしかしたら同じではないのかと。


 「しかし、詠唱も無く魔法を発動できる気がしません」

 「そこは例えば、火が燃える原因をしらないからさ」

 「燃える原因……」

 「話してることあんまりわからないけど、ランドルフは万物の理を知っているのね!」

 「そこまで大層な物じゃないけど……まぁ少しは」


 明確な化学式とか覚えてるわけじゃないしな~。


 「でもそんなの普通じゃないの~?」

 「え、アマレットも知ってるの?」

 「私も簡単なことは小さいときに教わったよ? 魔法使うときには意識してるもの。精霊さんも教えてくれるしね」


 妖精恐るべし。さすがは精霊のお友達だわ。でもアマレットの癖に生意気なと思ってしまう俺はやっぱり心が醜い……。


 「シュワシュワーってしたのと、ふわ~ってする空気を燃やすと水が出るんだよね?」

 「お、おう。まぁそんな感じだ」


 ドラゴンもそうだが妖精の感覚もよく分からん……。


 「それを教えてくださるのですか?」

 「まぁまて。えっと……、要するに今存在するものを利用するのが魔術で、無から有を作り出すのが魔法だと俺は思ってるわけ。だから水を自由に動かすのは魔術で、何も無い場所から出すのが魔法。アマレットが言ったのはまだ魔術の範囲だと思う」

 「ほえ~、でも何も無い場所から出てきたから魔法じゃないの?」

 「空気は目に見えないだけでそこに存在はするだろ?」

 「あぇ? よくわかんない……」


 空気を肌で感じているはずなので、そこにあるのは分かるようだがどういうことかは分からないようだ。


 「あるものを詠唱によって行使し、杖で増幅させてやっと発現できるほど人の魔力は少ないんだと思うね。だからエルフとか魔族は魔力が多いから魔法を使えるかもしれない」

 「ランドルフ様の言うとおりならできるかもしれません」

 「でもその出来上がりを、まずは魔術によってしっかりと意識しないと無理かも。わかったかな?」

 「分かったようなわからないような……」


 う~む。俺もうまく説明できないし、そもそも説明がへたくそすぎるな……。


 「火の玉をしっかりと意識して、いきなり火の玉を出そうとしてみたらできるんじゃないかってことね」

 「なるほど~」


 それは分かるのね。でも実際にやってみると無理そう。3Dグラフィックとかそんなのこの世界にないからな~。


 なので簡単に燃える仕組みを色で例えて説明した。


 「細かい問題は抜きにして、赤色と青色に混ぜるという作業が行われて紫色になる。これと同じようなことが起こっているのさ」

 「混ぜるのが魔力による作用ということですか」

 「そういうこと」


 アプスはなんとなくだが理解できたようだ。


 「とにかくバーンとやっちゃえばいいんでしょ?」

 「俺にはよく分からないが、それがわかりやすいならそれでいいよ」


 アマレットが魔法を使うところは見たことが無い。だが杖を使わずに魔法を発現できるようだ。


 アマレットの魔力を感じ取るのは難しいけど、妖精も魔力が多いんだな~。


 「ん~、ばーん!」


 腕をクロスさせて溜めのようなポーズをとった後、声にあわせてピリッと小さい電撃が放出された。


 「やるな」

 「ふっふ~ん。どれだけあたしがデンからビリビリされてると思ってるの? これくらいは楽勝よらくしょ~」


 満面のドヤ顔だったが褒められたものではなかった。


 「アプスは無理に……おぉ……」

 「はぁはぁ、どうですか、空気を、動かして風を起こしてみたのですが……ふぅ」


 そよ風程度だが心地いい風が吹いてきた。


 「アプスも一発でやるとはね」

 「普段ランドルフ様の魔法を見てきましたので」

 「それもまた修行だということか」

 「ですが、これはその、魔力が血と共に体中を駆け巡って暑くなりますね」

 「滑らかに魔力を使えるようになると楽になるよ」

 「今まで一定の方向からしか魔力を放出しませんでしたので。ですがまだまだ強くなれるということですね」


 手ごたえを感じたのか、休憩を繰り返しつつも少しずつ上達していった。


 「今日はこの辺でやめよう。やりすぎると明日が大変だよ」

 「わかりました」

 「は~ぃ!」


 疲れている様子のアプスに対してアマレットは元気だ。


 「ねぇねぇ、あたしちょっと飛ぶのが早くなったかも!」

 「魔力の使い方がうまくなったのかもね」

 「やったー!」


 アマレットも喜んでくれたので一定の成果はあったからよしとしよう。








 その翌日からアプスが度々ランドルフの側を離れるようになった。

 何をしているのか聞くと、昨日の復習と共に仲間達に考えや自分で掴んだコツを教えているそうだ。

 ダークエルフたちもさらに強くなって頼もしくなりそうだ。


 「ランドルフ様、兵士の方が御呼びです。なんでも港に人魚族の方がこられたとか」


 ブルグロットが知らせに来てくれた。ついでに耳をモフモフさせてもらう。


 「あ、あの。早く行きませんと、お待ちになっておられるので……」

 「よいではないかよいではないか」

 「ちょっと! 急に尻尾を触るのはやめてくださいって言いましたよね!」

 「相変わらずいい手触りだわ~」

 「聞いてますか!?」


 これ以上触っては本気で怒られそうなので、名残惜しいが港に向かうことにした。

お読みいただきありがとうございます。

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