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55話


 荷物の積み込みに半日かかった後、ゴブリンの事もあり不安が残るので、カナンカに留守番させて出発する。

 彼女がいるのならゴブリンが攻めてきても大丈夫だろう。

 だが念のために、この街が荒らされたらワインも滅茶苦茶にされるかもしれないと言っておいた。


 あの酔っ払いの事だから、もしそんなことになったら怒り狂うだろうしな。

 むしろそうなったほうが、後が大変かもしれない……。


 急ぎのため、スピードを出して出発して三日経ったあと、船に透明魔法をかける。水しぶきまではうまく消すことが出来なかったが、海から出ている部分を消しておく。

 普通の哨戒船ならばれることはないだろう。大きな魔物だとでも思ってくれるはずだ。

 航海中の魔物もランドルフが海に電気を流してしびれさせる。人魚達にはその間船へ避難して貰った。


 「港でも実力は見せてもらったが、あっという間に魔物を黙らせるとは……すさまじいな。それにこの透明になる魔法……。いやはや恐ろしい……」

 「相変わらずいくつの魔法を同時に使われているのか私にも分かりません。今度教えていただけませんか?」

 「あたしもあたしも~」


 アプスに教えるのはかまわないけど、アマレットに教えたらいたずらに使われそうで嫌だなぁ……。


 「帰ったらな。悪いけど今はちょっと維持するのに集中しないといけないから、あまり話しかけないでくれ」

 「やった!」

 「あ、すみません。平気な顔をしてらっしゃったので、ランドルフ様ならと思いましたがそうですよね」


 この反応の違いである。


 「これが……ランドルフ様の実力……」


 ランクイロは初めてランドルフの実力を目の当たりにして言葉も出ないようだ。

 退治し終えると、ランドルフは甲板に足を組んで座り、空中を漂う魔力も取り込んで集中する。


 「エスドゴ殿、ランドルフ様に負担をかけるのはまずい。出来るだけ早く目的地に着くようにしてください」

 「ええ、わかってます。魔法使いを総動員させています。教えてもらった場所には後二日ほどで着く予定です」

 「出来るだけ早くお願いします」


 アプスが仕事モードに切り替わり、エスドゴへ嘆願する。


 メイドが船長に指示を出すってどんなだよ。


 若干ランドルフの集中力が乱れた。






 二日後。予定地に近づいてきた。

 天候は曇り空だが波は高くない。そろそろ陸地が見えてくる頃だ。


 「アマレット、精霊はなんていってるんだ?」

 「なんかちょっとまずいかも。この前言った大きな生き物って二つあるみたい。あと西からも逃げてきた深海人がやってきて、人魚達が危ないかもって」

 「なに!? ランドルフ様、私だけでも先に行きます!」

 「ちょっとまって! 今から先に少人数で行ったって意味はあまり無いよ! それよりもちゃんと誘導して! こちらの到着が遅れたらそれこそだめだ」

 「……そうだな、すまない」


 分かってはいるが、今は何も出来ない自分に悔しそうにしているマクリル。


 「秘境と呼ばれている場所だ、空からの襲撃にも気をつけろ! 風を起こせ!」


 エスドゴも警戒を強め、いつでも戦闘態勢に入れるように部下達へ通達する。


 「アプス、回復薬をくれ。デン、いつでも動けるようにしてくれよ」

 「はい!」 

 「うぉふ!」


 ダークエルフの作った回復薬を飲む。魔力がわずかだが回復し、体力も少し戻った気がする。

 ランドルフはここ三日ほど透明魔法を維持するのに、夜は遅くまで、朝は日が上る前に起きて魔法を発動させることを繰り返していた。

 この後の戦闘も考えると、できるだけ万全に近づけておきたい。


 二時間ほどすると陸地がうっすら見えてきた。

 そのときアマレットが入り江まで押されていると伝えてきた。なので途中で作戦を変える。


 「入り江が見えた!」

 「ランドルフ様、後はこのまままっすぐ進めば大丈夫でしょう。私達は先に行きます!」

 「作戦はわかってるよね!?」

 「もちろんだ!」

 「わかった、御武運を!」


 マクリルは海に飛び込み、深く潜ってあっという間に見えなくなった。


 「エスドゴ、魔法使いを休ませて回復薬を飲ませておいて。俺が風を起こす」

 「分かりました」

 「作戦を皆にもう一度確認させて」


 船を入り江の近くに接岸させて隠し、透明魔法を解く。そうしたら奇襲する形で入り江を占拠している深海人を排除し、海の中への援護はランドルフが行う。その間に人魚族を船に乗せてすぐさま離脱する。

 作戦と言うほどの作戦でもないが、とにかく電撃的に行わねばならない。


 「無用な戦闘は避けて避難を優先してね!」

 「はい!」

 「アプス達ダークエルフメイドの三人は避難してきた人をお願い。敵が来るようなら遠慮なく排除して」

 「「「わかりました」」」










 やがて入りへ近くまでやってきた。深海人達に奥のほうまで押されているようだ。

 息を殺して突撃の合図を待つ。

 エスドゴがこちらを見て頷いた。挙げていた手をさっと下ろし、透明魔法を解く。

 そのままランドルフが土魔法で足場を作った。


 「突撃ぃ! 突破口を開け!」

 「「「うぉぉぉぉぉぉぁぁぁ!!」」」


 エスドゴをはじめとした騎士に叙任した者達が突撃する。ダークエルフの戦士達は弓を使って船からの援護だ。デンも入り江へ飛び込んでいった。


 「エスドゴ! 後は任せた!」

 「お気をつけて!」


 ランドルフは結界を張って海へと飛び込んだ。

 人魚族の戦士達と合流し、共闘する。いつものように電撃を浴びせては、味方に被害が出るので地面から土の壁を作る。


 くっ、いつもより魔力の消費が激しい。水が重たい!


 今のうちに船へ乗り込めとジェスチャーで合図する。怪我人はその場で治療し、引きずって移動する。

 深海人が壁を乗り越えてやってきた。

 人魚族曰く、深海人は海に住むゴリラらしい。貝殻を握って殴りつけてきた。


 海の中なのにパンチが早いじゃないか!


 目の前に土の弾丸を生み出して、回転させて発射する。だが分厚い筋肉によりダメージは少ないようだ。


 至近距離で発射したのに海の中だから減速してほとんど効いてない! 


 数も多いので仕方なく後退しながら海面から岩を落とす。ドボンドボンと音を立ててゆっくりと岩が降ってきた。

 深海人たちはランドルフ島に来たときの事を思い出したのか、若干混乱し始めた。


 その間にランドルフは海から顔を出して他の状況を確認した。


 「エスドゴ!」

 「もう少しです!」


 兵士達が人魚族を抱きかかえて船へと運んでいた。

 岩を落とすのを続けながら船へと戻る。デンも戻ってきた。


 「マクリルはどこだ?」

 「あちらに」


 入り江から船の方へ後退しながら槍を振るうマクリルの姿があった。

 槍を振り回し、突き刺し、深海人たちを屠ってゆく。


 「マクリル! もう船へ上がれ!」

 「わかった!」


 マクリルはイルカショーでも見ているかのように見事に水面ジャンプを見せて船へ乗り込んできた。


 「人数確認は済んだのか?」

 「残りはもう目の前ですね」


 後退している兵士達の中に、ランクイロも剣を持って戦いに参加していた。

 獣人特有の強靭な脚力としなやかな動きで相手の攻撃をかわし、一撃を入れている。

 だが一匹しとめて油断したのだろう。背後からもう一匹迫っているのに気づいていなかった。


 「ランクイロ!」


 エスドゴが声をあげた。


 間に合うか!?


 海に岩を落とすのを止め、ランドルフが石の弾丸を回転させて放つ。しかし間に合わずにランクイロは強烈なパンチをもらって船体まで吹き飛んだ。それと同時に深海人は弾に当たって海へと落ちた。


 「くそっ! エスドゴ、船を出せ!」

 「は、はい!」


 ランドルフが慌てて飛び出し、ランクイロへ近づく。

 咄嗟にガードしたのか、腕の骨は折れているが、意識はハッキリとしていて命に別状はないようだ。

 だが念のため内臓の様子も診察しないといけない。その前に戦っている兵士達を浮かせて船へと一緒に乗り込んだ。


 「エスドゴ、マクリル、全員いる?」

 「点呼!」

 「こっちは大丈夫だ。全員乗せた」


 後をエスドゴに任せてランクイロの様子を見る。


 「すみません、ランドルフ様」

 「じっとしてて、内臓の様子を調べるから」

 「ありがとうございます」


 頭、胸、お腹に手をかざしながらぺたぺたと触る。


 「よくやってくれたな。おかげで人魚族は全員無事だぞ」

 「それはよかったです。奪われる悲しみは知っているので必死でした」


 ランクイロは獣人のかなでも獣や人狼に変身できる希少種だ。そのせいで奴隷狩りに襲撃され、集落は無くなり、両親をなくしている。

 今回の人魚族に自分の境遇を重ねたようだ。


 「だがちゃんと周りを見ないとな。無茶をしてお前が死んじゃったら、亡くなった両親に俺が怒られるじゃないか」

 「そうですね。もっと強くなります」

 「よし、異常はないようだ。さすが獣人は頑丈だな!」

 「ありがとうございます」

 「ランドルフ様。全員搭乗完了です」

 「ならすぐに出発だ」


 ダークエルフの戦士達が弓を放って船に近づけないようにしていたが、船が動き出すとやめさせた。


 「休憩していた魔法使いはどうだ?」

 「だいぶ疲れは取れたかと思われます」

 「ならさっさとこの海域から離脱だ。血の匂いにつられて魔物が森のほうから来るかもしれない」


 血には魔力が含まれているので、少量なら問題ないが、これほど流れていてはさすがに寄ってくる可能性がある。


 「アマレット、精霊はなんて言ってるんだ?」

 「やばいよランドルフ! おっきなのがこっち向かってきてる!」

 「マジか!」


 アプスから回復薬をもらい、一気に飲み干す。

 再びダークエルフ達に弓を持たせて警戒させる。

 ランドルフも透明魔法で姿を消しながらも、風を起こすほうを優先した。


 くっ、この状況で探査魔法も使うとさすがに頭が破裂しそうだ。


 だが船員の命には代えられない。人魚族たちも乗っているのだ。


 「くるよ!」


 アマレットの声が危険を知らせる。ランドルフも探査魔法が魔物を捉えた。


 でかい! ってか触手かこれは? ってことはクラーケンか!


 ランドルフは定番ならリヴァイアサンかクラーケンかどちらかだと予想していた。そして個人的に面倒な方の魔物が現れたようだ。


 巨体を生かした体当たりくらいなら何とかできるが、触手による複数同時攻撃は面倒すぎるぞっ!


 「魔力が空っぽになってもいいから、帆柱が折れるくらい全力で風出して!」


 姿は見えないが、海から触手がこの船を掴もうとしてくるので結界で弾く。

 陸へ逃げ遅れた深海人達が突き上げられ、数名捕まって餌食になっていた。


 「うひゃ~!」


 アマレットが声をあげた。他の人たちも海から出ている触手に言葉が出ないようだ。

 ダークエルフの戦士が弓を射ようとするので、エスドゴがそれを止めていた。


 透明魔法に探査魔法に結界を広範囲に張って頭が痛い! 攻撃魔法使ったら吐いて倒れそう……。


 「あっ!」

 「今度はなに!?」

 「もう一つでっかいのがきた!」


 ピンチなのだが、アマレットはどこかうれしそうだ叫ぶ。

 深海人たちが餌食になっているおかげで、このまま離脱できるかと思ったが、そうはいかないようだ。


 ブォォォーン!!


 大きな声をあげて巨大な鯨が突然海から姿を現した。

 あまりにも大きな声に全員が反射的に耳をふさぐ。


 「あれ何! 誰か知ってる!?」

 「あれは衝撃鯨です!」

 「何それ!」

 「もう二つでっかいのくるって!」

 「勘弁してくれ!」


 もう滅茶苦茶だ。何が起こっているのかさっぱりわからん。


 波しぶきで船体が揺れる。衝撃鯨の家族なのか、同じ大きさのが二匹現れた。そしてこちらに向かってくる。


 「これ逃げ切れるのか?」

 「ランドルフ様でも分からないなら私どもも分かりません」

 「旦那様! 死ぬときは一緒です!」

 「不吉なことを言うな!」


 何だよこの怪獣大戦争は! 人魚族避難させるだけだったのにどうしてこうなった!


 衝撃鯨も深海人を餌にして食べていた。どうやら大きな声を出して動きを麻痺させているようだ。


 ブォォォーン!!


 音が頭痛がしているところにさらに響いてくるので、うまく集中できず魔法を使えない。


 「あああうるせぇ! クラーケンは何してる!」

 「くらーけん? 巨大王イカですか?」

 「イカだイカ!」

 「イカはどっか逃げていったよ!」

 「なら問題はあの衝撃鯨だけなんだな!?」


 何とか透明魔法は維持できているものの、このままではそれも危ういのでさっさと退治することに決めた。

 魔力を空高く飛ばし、曇り空を濃くして巨大な雷を発生させる。


 ドゴォーン!


 「やったか!?」


 このぐらいではダメージは少ないだろうと思い、わざとフラグを立ててみた。そうすれば意外と退治できているかもしれない。


 ブォォォーン!!


 そんなことは予想通り無かったようだ。


 「もうどうしようもないね!」

 「旦那様! 死ぬときは一緒です!」

 「お前さっきから同じ事言って意外と余裕あるんじゃないの!?」


 隕石でも降らせれば退治は可能かも知れないが、それをするとこちらまで巻き添えを食らう。

 空間魔法で鯨を真っ二つにすれば確実に殺せるだろうが、それだと流れた血でまた余計なものを呼んでしまう可能性がある。ここは秘境と呼ばれている、陸の奥地は魔物の多いところなのだ。


 くそっ、こうなったらまだ試してない極太レーザーでも放つか。


 「ランドルフ様、追ってこないようです」

 「あれ? なんでだ?」


 衝撃鯨はぐるぐると回りながら海の中へ潜っていった。

 静かになったと思ったとたん、急上昇して海面から飛び出した。深海人や魚達も何体か空高くへと舞い上がっている。


 「もしかしたら深海人を陸に上げないように追い込んでただけなのかも」

 「かもしれません。今のうちにさっさと離れましょう」


 何とか海域から離脱することに成功した。


 「ランドルフ様、ありがとうございます。我ら人魚族一同、深海人はもとよりあの化け物の餌食にならずに済みました」

 「「「ありがとうございます」」」


 甲板に土魔法で巨大な水槽を作ってその中から人魚族が一斉にお礼の言葉を口にした。


 「いいのいいの。人が増えてくれたらこちらも助かるしね。即席だけどその水槽大きくないから交替で入ってね」

 「ご配慮感謝いたします」

 「んじゃ悪いけど集中するからちょっと話しかけないで」

 「本当にありがとうございました」










 それから二日経ち、少し早いが透明魔法を解除する。


 「アプス、俺はもう限界だ。寝るから島に着いたら起こしてくれ」

 「分かりました」


 ほとんど寝ずに自分達を守ってくれていた姿を見た人魚族は、ランドルフにこの二日ずっと感謝の祈りを捧げていた。

 その場で眠ったランドルフを抱き上げて、アプスは部屋へと入っていく。そのまま付きっ切りで世話をした。


 それから一週間後。出発したときよりもずいぶん遅れて島の北側へ帰ってきた。


 「この辺でいい?」

 「はい、お願いします」


 ランドルフは海岸の東の山を削り、入り江を造った。それだけでなく海の色を光が反射するような洞窟も造った。洞窟全体が青い色をしているように見える。

 だがこれだと切り取ったような形なので、自然に出来たように見せるため、凹凸を意識して土魔法を使う。

 次々と簡単に出来ていく自分達が住む場所に、人魚族達は言葉も出ないようだ。


 せっかくだし城にいたときチェルベさんに教わった、石像作りもやってみるか。


 人魚族を模した石像を入り江の入り口に二つ作った。


 「どう?」

 「な、なんとすばらしい! このような粋な計らいまでしてくださるとは!」


 マクリルは喜んでくれたようだ。


 「水深はこのぐらいでいいの?」

 「十分です! 後は我々が微調整をします」

 「じゃ、ここは人魚族の土地ね。だけど何人かは島の南東の街に住んでくれない?」

 「わかりました。こちらから泳ぎが速いやつと腕の立つやつを選んで派遣します」

 「あと、海岸のところに街を作る予定があるから、何かあったらよろしくね。んじゃ帰るよ」

 「何から何まで本当にありがとうございます。ランドルフ様に誠心誠意お仕えしてこのご恩に報いる所存でございます!」


 マクリルが代表してお礼を言ってくれた。帰る時も全員が手を振って口々にお礼の言葉を述べていた。

 ランドルフは帰ったら派遣される人魚族の住む場所を造らないといけないと考えるのであった。






 北の海岸から飛ばして半日かけてコムラードへと帰ってきた。


 「やっと帰ってこれた~」

 「本当にお疲れ様でした」

 「しばらく何もやりたくない」


 その時扉が突然開いた。アプスがすぐさま振り返って戦闘態勢に入る。


 「ランドルフ様!」

 「ランドルフ君!」


 エスドゴとベネディッタが一緒に入ってきた。またもや何か事件の予感がする。

お読みいただきましてありがとうございます。

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