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54話

お時間いただきましてありがとうございます。


 人魚族は海に潜って一時間ほど相談していた。


 「確かに魅力的な話だが住んでいた場所を捨てるなど……」

 「ですが数の多い深海人たちに縄張りの外を押さえられていますし、海底が割れてから海の様子もどこかおかしい」

 「元々チレンド王国のやつらにはあまりいい印象をもたれてなかったんだ。後からやってきたくせにな」

 「だからと言って争っては勝ち目が無いぞ。深海人たちにも苦戦しているというのに」

 「……移り住むとしてもみんなの移動はどうする? 危険だぞ?」

 「それくらいは彼らも手伝ってくれるだろう。向こうは住んでほしいから提案をしてきたのだろうから」

 「どっちでもいい雰囲気じゃなかったか?」


 それはランドルフがそのように振舞っていただけで、実際は猫の手も借りたいほど人がほしいと思っている。しかしマクリルにはしっかりばれていた。


 「信用……できるのか?」

 「あの子供……どうみる?」

 「見た目とは裏腹に妙に落ち着いた雰囲気だった。それに従えているものも様々な種族がいたし悪いやつではないと思うが」

 「だが子供だぞ? われわれの事をしっかり考えてくれるのか? 誰かの操り人形なのかもしれないんだぞ?」

 「それはあるかもしれない。しかし私と話をしている間は誰も告げ口をしていなかった。深海人に荒らされているという話しかやつの部下には教えていない。その時点で島への移住を提案できる部下がいるのか? 普通は他国だと言ってたから、我々の協力を拒むか深海人をどうするかの話し合いになるだけだろう。この港に来てからそれほど時間も経ってないしな」

 「「「……」」」


 マクリルの言うとおりだとすると、島への移住案はあの子ども自身が考えたことになる。


 「私は賭けてみてもいいと思う」

 「だが家族が納得するかどうか……」

 「前にこの島を調べたが我々が住みやすそうな入り江はなかったぞ」

 「何か考えがあるのだろうか?」

 「かもしれない。だが海の様子がおかしいのは皆感じていることだろう。不安があるならそれを理由に家族を納得させるしかない。陸の奥地に逃げるわけにもいかないし、移動しながら新たに住む場所を探すのも危険だ」

 「しかし……」

 「移住先の安堵と移動中の護衛は最低限要求を呑ませる。それくらいはやってもらわないとな」

 「……わかった」


 代表であるマクリルの考えに、不安はあるが納得して決意を固めたのであった。










 マクリルが海から顔を出して埠頭へと飛び上がり腰掛けた。

 腰から先は魚そのもので、エラのようなものまである、どう見てもランドルフが想像していた人魚の姿だ。


 だけどどうせなら水着姿の女性がよかったな~。おっと、呆けてる場合じゃない。


 「話はまとまりましたか?」

 「ああ、だが先に確認したい」

 「何なりと」

 「移住したとして、移住先の土地を安堵してくれるのか、また移動中の護衛は頼めるのかだ。それが移住する最低条件だ」

 「ええ、もちろんです。言い出したのはこちらですから、それくらいはやりましょう。こっそりばれないようにですが……」


 ランドルフの言葉を聞いて、ばれないように入り込むことが出来るということがわかったが、それならばと思ったので聞いてみた。


 「ばれないように出来るなら、こっそり深海人を倒してもらうわけには行かないのか?」

 「こっそりと戦うって矛盾してません? 出来なくもないですが、巡回してる船に異変を察知されたらこちらも困りますので」

 「……」


 分かってはいたが、やはり無理なのかとマクリルは気落ちした。


 「移動中の護衛も出来るだけ戦いはしないようにします。姿を消してね」

 「姿を消す……とは?」

 「このように」


 そう言ってランドルフは魔法を発動させて姿を消したり現したりを繰り返した。


 「「「おおっ!」」」


 初めてみる現象に、人魚族から驚きの声が上がる。


 「これを船と皆さんにかけます。これなら安心に移動できると思いません?」

 「確かに……」 「これなら安心して……」 「ただの子供では……」


 人魚族は思い思いに声をだしてお互いを見ながら納得しあっている。


 「移動は安全だとわかったが、ならばその魔法を使えばばれないように戦えるのではないのか?」

 「水中では試したことはないですし、恐らくは難しいです」


 自分達の事情も考えるとあまりうかつなことはやりたくない。


 「これ以上無理強いはできないか。では、住む場所はどうするのだ?」

 「ここに住んでもらってもかまいませんが、出来ればこの島の北にある海岸付近に住んでいただこうかと」

 「この島の事は偵察はしていたが、我らの住みやすいような入り江はなかった」


 ダークエルフが山に住むプロなら彼らも海に住むプロフェッショナルなのだ。探知の魔法に引っかからないように海を偵察するのは慣れたものだった。

 ランドルフの魔法にはばれるかもしれないが……。


 「でしたらお好みの入り江を作りましょう」

 「それは、人を使って海岸を削るということか? だとしたら出来るまで時間がかかると思うが? その間我々はどうすればいい?」

 「いえ、すぐに造れると思います」


 マクリルはランドルフの言った言葉の意味が分からず首をかしげ、会話に間ができた。


 「造るって……馬鹿にしているのか? 言葉遊びをやってる時間はないのだが」

 「クックック」


 カナンカが突然苦笑しだした。アプスやアマレットもその反応は当然だ、無理も無いといった様子で人魚族を見ている。


 「今いるこの港も私が作りました」

 「は?」

 「このように」


 倉庫の裏側にある垂直に削られた岩山の一部に穴を開けて抜き取った。抜き取った円柱を浮かせて自分の頭の上まで持ってきて見せた。


 「「「なっ!?」」」


 目の前の様子が信じられないと言葉を詰まらせ、口をあけたまま驚く人魚族達。


 「こうやって削ればたぶんすぐ出来ると思うんですけど」

 「ランドルフ様、落ちてくると思うと怖いので早く戻してください。相手にも脅してるととられても仕方ないです」

 「あらま。そりゃまずいや」


 エスドゴに注意されて、元の位置にパズルでもはめるように戻して押し固めた。

 人魚族はもはや声も出ない様子だ。カナンカはその様子がおかしいのか、さっきからずっとニヤニヤと笑っている。


 「こんな感じでお好みの入り江を作れると思うのですがいかがでしょう?」

 「「「……」」」

 「もしも~し」


 人魚族からの反応が無い。


 「見てくださいランドルフ様。あれが普通の反応です」

 「ま、まぁ宮廷魔法士だからね」

 「左様でございますな」


 エスドゴが冷たい反応をする。

 ハッとして正気に戻ったマクリルが返事をした。


 「わ、わかった、お願いする。いや、お願いいたします」

 「ごめんなさい、そういうつもりじゃなかったんです。なので畏まらなくてもいいですよ?」

 「いえ、これからここに住まわせていただくのですから、領主様に無礼なことは……」

 「私は気にしてないので、気にしないでください。仲良くしましょう」

 「は、はい。ありがとう……ございます……」


 すっかり萎縮してしまったマクリル。だが同時にこの人なら大丈夫だと感じていた。


 「やるの~、ランドルフ。人魚族がすっかり縮こまってしまったではないか」

 「おい!本人達の前でそういうことを言うな!」

 「だ、大丈夫だ、です。ランドルフ様のお力を目にして逆に安心できましたので」

 「気を使われてしまったよ! 悲しい!」


 最近では耐性がついていたと思っていたが、人魚族に本気でドン引きされたのでちょっぴりへこんだランドルフ。


 「『やっぱりあなたって変よ~』」

 「やかましいわ!」

 「ちょっと似てますね」

 「でしょ? ベネちゃんの真似したんだけどどうだった?」


 アプスが物まねを評価し、アマレットはデンに問いかけた。


 「うぉふ!」


 似てたといわんばかりに元気よく返事をしたデンに、追い討ちをかけられたランドルフであった。


 その様子をみたマクリルは、異種族が仲良くしているなら、我々の事も無碍には扱わないだろうと期待を寄せた。


 「あ、その代わり島の北側を警備してもらいたいんだ」

 「それくらいはかまわ……いません。我々の中でも腕の立つものを出しましょう」

 「ありがとう、お願いするよ」

 「こちらこそお礼を。それぐらいはさせてくれ……ください。最初はこちらからお願いに参ったにもかかわらず、望んだ答えとは違いましたが、手厚く向かえて下さる心の広さに感謝いたします」

 「いいのいいの。来てくれるっていうから教えるけど、人が少なくて困ってたんだよね」

 「やはりそうでしたか」


 納得したマクリルに、早速指示を出す。

 決まったことを伝えに住んでいた場所に戻ってもう人と、どんな入り江がいいのか教えてもらう人兼案内役だ。


 「あ、その前に。アマレット」

 「なに~?」

 「精霊はこのことを知ってたりしないのか?」

 「ん? ちょっと聞いてみるね」

 「ああ、頼む」


 アマレットが海に向かって口をパクパクさせて何かに語りかけるように音を出している。

 しばらくじっと見ていると、精霊との会話が始まったのか一定の方向をじっと見ている。

 ランドルフも目を凝らしてその辺りを見つめているが、精霊がいるのかどうかさっぱり分からない。

 会話が終わったようだ。


 「深海人? が、北に行ったのは知ってるって。それよりも大きな生き物がうろついてるって言ってる」

 「大きな生き物?」

 「それが最近感じる違和感の正体だろう。やはり移住はしたほうがよさそうだな」


 マクリルは精霊からの情報を得て意思を強めたようだ。


 やってきたばかりなので、今日は休んでと言ったが、すぐに伝えに行くと言うので、ランドルフは魚などの食料を渡して、準備が出来次第すぐに船を出すと伝えた。

 残った人は、伝令に行った人には悪いが、今日一日はゆっくり休んでもらって、移住に向けて英気を養ってもらおうと宴を開いた。











 「クックック、あの呆けた顔を見ながらワインを飲みたかったの~」

 「酔っ払いめ、ちょっとは考えろ。失礼でしょ」

 「いいのだ、です」

 「話やすいように話してくれていいよ。無礼講さ」

 「ではそうさせてもらう」


 ダークエルフの人々も港に集めてみんなで飲みあう。ランドルフはぶどうジュースだ。


 「我もこうして人魚族と話し合うのは初めてでのう。興味があったのじゃ」

 「へぇ~そうなんだ?」

 「私も初めてです。ぜひお聞きしたいですね」

 「我々の話をしても特に面白いことは何もないと思うが」

 「よいから、話を聞かせるのじゃ」


 あ~あ、カナンカに絡まれたよ。マクリルさんご愁傷様です。


 「マクリルさんは秘境の地にいたわりには、いろんなことを知っている様子でしたがどこでそれを?」


 早速話を切り出すアプス。


 「私は次期代表ということで、前代表の命令で若いうちに北の海をあちこち旅してたんだ。そこで色々な国や種族に出会ったからな」

 「賢明な方だったのですね。トクルマティアもそうであったならまた違ったかもしれない……」


 話が始まって早々アプスの声が徐々に沈んだ。


 族長も悪い人ではないんだろうけど、昔から続けてきたことを変えるのは難しいしね。


 「何があったのか知らないが、種族や住む場所が違えば掟や風習も違うものだ。それが必ずしもいい結果になるとは限らない。実際に次期代表という立場なのに何度か死に掛けたこともあったしな」

 「そう……ですね」


 少し物思いに(ふけ)ったアプス。


 「ところでおぬし、ワインを飲んでおるが、酒を飲んでも大丈夫なのか? 人魚族は酔って海で溺れたりはせぬのかの?」

 「酔いはするが溺れることはない。まぁ、ふらふらになって怪我をすることはあるだろうが……」


 マクリルは遠い目をした。きっと過去にやらかしたことがあのだろう。


 「ならばたらふく飲んで酔っ払い、騒ごうではないか! ほれ、アプスもいつまでも沈んでおるな~。おぬしも飲め飲め!」

 「カナンカ、あまり羽目をはずしすぎるなよ? アプスも、元気出して」

 「わかっておる」

 「はい」


 ワインを注いでグビグビ飲むカナンカに、香りを楽しみながら飲むアプス。マクリルはちびちびと味わうように飲み始めた。


 「人魚族は下半身は魚のようですが、海での移動は早いのですか?」

 「魚は生で食うのかの?」

 「二人同時に言われても答えられないぞ。まずは移動する早さの方だが、早いか遅いかでいうと早いと思うのだが、何と比べて―――」


 ワインを飲んでアプスが気を持ち直し、話が弾んできたところで、他の様子を見てくると言って席をはずして移動した。


 大人たちに混じっているランクイロを発見した。


 「やぁ、ランクイロ。あれからほとんど会ったことないけど、うまく馴染めている様でよかった」

 「あ、ランドルフ様。皆さん親切にしてくださるので何とかといったところです」


 最初に助け出したときから話をしたことはなかった。エスドゴから話を聞いたり、船に乗っているのをちらりと見かけただけで、向こうはこちらには気づいていなかっただろう。


 「エスドゴが良くやっていると言ってたぞ」

 「本当ですか! でも僕はまだまだ下っ端ですので、もっと色々と学んでもっとお役に立ちたいです!」

 「おいおい! これ以上ランクイロに頑張られたら、俺達のやることがなくなっちまうな!」

 「ちげぇねぇ!」

 「「「あっはははは!」」」


 船員達とも仲もよさそうだし、最初に会ったときとは違って、少し落ち着いて大人びた気がするな。


 「仲良くやれているならそれでいい。怪我には気をつけてね」

 「はい! ありがとうございます!」


 それから軽く話をして移動した。


 新人メイドの二人が樽のほうをじっと見ている。

 何かと思って近づくと、アマレットがキリッとした目をして、デンの横においてある酒樽の上に立っていた。ワインを飲んだのか少し顔が赤い。


 「『それもまた領主としての必要な資質なのは確かね』、『私は学者なのよ?』」

 「あはは、似てる~。それベネディッタさんに似てる~」

 「アマレットは物まね上手なのね!」

 「でしょ~? 新しい自分の特技を発見しちゃった? みたいな? あたしすごくない?」


 給仕をしているはずのフェーニとクニャータがアマレットの物まねを見て笑っていた。二人もワインも飲んでいるようだ。


 「げっ、ランドルフ」

 「えっ?」


 アマレットと目が合ってしまった。

 新人メイドが慌てた様子を見せる。


 「す、すみません。すぐに仕事に戻りま~す~」

 「別にほどほどにならかまわないよ」

 「え? さっすが! ランドルフ様は話がわかってらっしゃる~!」

 「ランドルフ様お優しいです~」


 少し酔っ払っているのだろうか、二人はふらふらしている様に見える。


 「未成年なのに飲んで大丈夫なのか?」

 「年の頃12を過ぎればいいのです!」

 「ふむ。まっ、私は飲まないけど」

 「え~、一緒に飲みませんか~?」

 「悪いがお酒は二十歳からだって決めてるんでね」

 「「ぶ~ぶ~」」


 それにしてもアマレットめ。深海人を追い出す遠征に行ったときの言葉だな。俺の情けないところを二人に言ったに違いない。


 こっそりと逃げようとしているアマレットを呼び止めた。


 「アマレット」

 「はぃー!」

 「おやつ抜きね」

 「え、ちょっとまって! それは勘弁してよ~」

 「ランドルフ様優しくな~ぃ!」


 アマレットとのやり取りを聞いて笑いを浮かべていた。そのとき……。


 「こら! 二人とも。ちゃんと料理を運べ! 私とブルグロットさんだけでやってるじゃないか!」

 「シャキュピはお堅いんだから~」

 「だから~」

 「お前達、今は見逃されているが……、言いつけるぞ」

 「「すみませんでした! すぐに戻ります!」」


 慌てて二人は給仕に戻った。


 う~ん、仕事中のブルグロットは二人にとって鬼教官なんだろうか?


 「すまぬ主殿。失礼する」

 「シャキュピも一息ついたらちゃんと食べてね」

 「ああ、わかった」

 「じゃ、あたしも~」

 「おやつは抜きだからね」

 「ひどい! ちょっと真似しただけなのに! 別にランドルフの事悪く言ってないでしょ!」

 「あの二人にも?」

 「それはその……真似をする時にランドルフがベネちゃんに叱られてたって言ったような……」


 あれは叱られてたと言うのだろうか? どちらかというと愛の鞭だろう。でも……。


 「やっぱりおやつ抜きね」

 「びぇ~ん! ランドルフの馬鹿! もう知らない!」


 アマレットはどこかへと飛んでいった。その後をデンがのっそりと付いて行く。


 デンはすっかりアマレットの保護者だな。


 そのまま無事に歓迎の宴は終わり、今度はみんなちゃんと移住し終えたらまたやろうと約束した。

ちなみにランクイロは泳げます。


お読みいただきましてありがとうございます。

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