53話
お時間いただきましてありがとうございます。
ランドルフはこの日も島の発展について考えていた。
リバーシなどの売り上げからお金をいただいているので、それらで得たお金は物資に換えてもらって送ってもらう。ほぼタダで手に入れている状態だ。
カナンカたちがリバーシをしているのを見て、大会を開こうと心の中では決めている。だがどれほど普及しているのかはまったく分かっていなかった。
なのでちょっと飛んで調べに行こうとするととめられた。曰く、そういうのは部下に任せてくださいとの事だ。
それは分かっているのだが、時間がかかるしとにかく人がいないので自ら動かなければならない。しかしここは任せてみることにした。
エスドゴ達は現在島の周りを巡回警備中なので、ダークエルフ達を数名パンターナ辺境伯海軍の駐留交代のタイミングにあわせて向かってもらう。
今は忙しいかもだが、普及しているならスプモーニ商会に協力してもらおう。だけど人が来ても宿屋がないな……。それにこの島に来るまで片道高速艇でも約一週間かかるからなぁ……。
せめて大会を開催するまでに温泉宿を造りたい……。そっちも一緒にアピールすれば頻繁に人が来てくれるかも。
腹に毒を抱えてでもラヴェンナを迎え入れるべきだったかなぁ……。いや、無理だな。
思わずため息が出てしまう。
お金はどんどん増えているのだが人が増えない。
ラヴェンナの事もあるし、スプモーニ商会だけに任せている流通の問題もどうにかしないと。
船は余ってるからスプモーニ商会の負担を減らす意味でもやってみないとな。
ずっとあまらせて遊ばせているなら思い切って人にあげてしまおう。その代わり島と大陸を行き来してもらうというのはどうだろう?それにあわせて商人もだな。
ついでに白い紙も持って行ってスプモーニ商会に話を聞こう。
早速思いついたことを紙に書いていく。出来た内容をダークエルフに渡してスプモーニ商会に届けてもらう。
よし、これであとはうまくいくか待つだけしかない。温泉予定地でも見に行くか。
昼から出かけると伝えると、アプスが軽食を作ってくれた。少し待ってからデンに跨り、二人と一匹で……いや、二人と二匹で出かける。
「ふぉ~!はや~い!」
アマレットはデンの角につかまって飛ばされそうになっている……雰囲気を味わっている。
ランドルフが結界を張っているので実際には風圧などはない。アマレットの芸が細かいのだ。
「いい景色ですね~」
アプスは北の海岸線へ行くときに乗っているので感動は薄いが、空から青い海を眺めて思わず言葉を漏らす。
火山の手前までやってきて着地する。
「この辺の地下に温泉があるはずなんだ。だけど岩山に湯を出してもしょうがないし、平らな地がほしいね」
「山頂を削って作るのはだめなんですか?」
「それだと山を登るのが大変かなと思ってね」
「それはそれで良いものなのですが」
「かもしれないけどまずは気軽に来れるようにしたいんだ。魔物が来る危険もあるからね」
「ではどうなさるので?」
「岩山の中身をくりぬいて宿にしようかなってね」
「またとんでもないことを考え付きますね」
だがまだ作るつもりはない。北の海岸での出来事を反省しているのだ。留守中にまた占拠されてしまっては困る。
「魔物の調査とついでに石灰と鉄を錬金して持って帰ろう」
マグマは地中の魔力の通り道なので、それが噴出す火山には魔力があふれている。しかし魔物がいる様子はない。
環境に適応できる魔物がいないだけかな?ベネディッタさんはそんな事言ってたけど……。
「せっかくだしちょっとだけ本当に温泉かどうか掘ってみようかな」
ストローの穴ほどの大きさを意識して水源までまっすぐに掘り進めた。
これで温泉じゃなかったらどうしよう……。
水源まで貫通したのでしばらく待っていると、小さく湯が噴出した。
「うわ!お湯が出てきたっ!」
問題なくお湯だな。……湯気が立ち上って熱そうだな。
アマレットが興味津々に近づいていくと。
「熱っ、あっちー!」
やると思ったわ。
「ランドルフ熱すぎるんだけど!本当にこんなのに浸かろうっての!?」
「入るときは冷ますに決まってるだろ。このまま入ったら死んでしまうわ!」
「あ、そっか」
問題なくお湯が出ることを確認できたので、穴を埋めておく。
空からの襲撃もあるから、ここまでの道はトンネルを掘るか。コの字に掘って外の景色を見えるようにしよう。空調管理もしなくていいから一石二鳥だな。
空中から一定感覚に四角い穴を開けて港のほうまで進む。街まで戻ってきて港へとするむ道から分岐した新たな道を作る。
岩山の壁にぶち当たったらそこから、岩の状態をしっかり確認しながら高速道路のトンネルをイメージして穴を掘っていった。
なんか景色を見えるようにしたおかげで、断面が食べかけの饅頭みたいな形になってしまったな。
ひび割れた部分や岩山の継ぎ目はしっかりと補強して、道の真ん中には柱を立てておく。天井もコンクリート以上に魔法でしっかり固めておく。切り取った形のよい岩は石材として持ち帰ることにした。
鉄骨を仕込めない分念入りにやらないとな。
その様子をアプス達はポカーンとした様子で見ていた。
「いったいいくつの魔法を同時に使用されているのか……」
「ほゎ~。街を作ったっていってたけど、実際作業してるところを見るとすごいんだね。やるじゃんランドルフ!」
「宮廷魔法士ですからっ!」
すべてその一言で片付ける。
「しかもまったく魔力が切れている様子が無い……。やはり旦那様はすごいお人です」
デンは足を上げて耳の裏をぽりぽりと掻いていた。
「道だけ作って後は建設予定地として放って置こう」
「また魔物に占拠されたりしませんかね?」
「土で柵を作っておくから大丈夫だよ。よっぽど強い魔物じゃないと入ってこれないはずさ」
「だといいんですけれど」
「さて今日はもう帰ろっか。残りはまた後日ってことで」
屋敷に帰ってきて夕食まで少し時間があるのでゆっくりしていると、ベネディッタさんに呼ばれた。
「ランドルフ君ごめんなさい。私の失態だわ」
「めずらしいですね。何があったんですか?」
「小鬼達に気づかれてしまったわ」
「ゴブリンですか?そういえばすっかり存在を忘れてました」
ベネディッタさんは川沿いを上って森の比較的安全な場所を調査していた。だがその日は何度か調査していた場所までやってきたのだが、偶然なのか、いつもその場所までは来ないはずのゴブリンたちが何匹かやってきていたのだと言う。
「まさかこちらまで下がっていたとは思わなくて……ごめんなさい」
「遭遇してしまったのは仕方ありません。相手も生き物ですからそういう事故があって然るべきです。それよりも今後どんな問題があると考えられますか?」
「すぐにこっちにやってくることはないと思うけれど、警戒をしなくてはいけないわ。威力偵察にいってもいいかしら?」
「答える前に確認ですが。ゴブリンは強いんですか?」
「群れによるとしか答えることが出来ないわ。一匹一匹はそれほど脅威ではないけれど、数が増えていればそのまま脅威になるのわ。弓や魔法などを使う個体がいる場合は危険度が増すわね」
個体ではなく群れ単位でみなければならないのか。弓を使う奴は見たことがあるな。
「魔法は分かりませんが斧や弓を持っている奴は見たことがあります」
「だとすると頭のいい個体がいるのね。小鬼の王様がいるかもしれない」
「王様ですか?」
「群れの統率する個体の事よ。もし襲ってきたら戦争を想定した戦闘をしないといけないわ」
「まじか……。対話は可能ですかね?」
「まず無理ね。この前の深海人と似たような存在よ」
「害獣扱いですか」
「でも今度は全滅させないといけないわね」
「争いは好まないのですが……。とにかくゴブリンたちの反応を知りたいですね。護衛を増やしましょう。ダークエルフ達を付けます、お願いできますか?」
「もちろんよ。私の失態だもの。しっかりと情報を持ち帰るわ」
その後も夕食に同席してもらいながら話を聞いていた。
カナンカはその話を聞いてもまったく気にしていない様子だ。実際にゴブリンごときではドラゴンには何の脅威にもならないんだろう。
翌朝。ベネディッタさんは早くに出発した。
朝の仕事が速めに終わったので、昨日掘っていたトンネルの掘削作業を進める。
昼時になったので屋敷に戻ると、巡回から戻ってきたエスドゴがランドルフを探していたようだ。
「ランドルフ様、急な話でもうしわけないのですが、人魚族が面会を求めております。いかがいたしましょう?」
「……嫌な予感しかしないけど、もしかして前の深海人がらみだったりする?」
「そのようです」
「ぶぇ~」
エスドゴから話を聞くと、人魚族は最初は巡回してエスドゴ達に警戒して声を掛けることはしなかった。
だが深海人たちが集団で自分達の住処を荒らしにやってきたので、協力をお願いできないかと話しかけてきたようだ。
「……それってさ。俺のせいだよね」
「いえ、深海人たちがどこに逃げるのかわかりませんので必ずしも悪いとは言えないのでは?」
「でも気まずいよね……」
人魚族はパンターナ領の北にあるチレンド王国の半島を住処にしていた。海底が割れたが彼らには影響はなかったようだ。
「とにかく話を聞いてみるか。海岸?港?」
「港でお待ちいただいてます」
「わかった」
人魚族に会いに行くと伝えると、アマレットとカナンカも興味がわいたのか一緒に見に行くと付いてきた。
デンに跨ってのしのしと歩いていく。人魚族が数名海から顔を出していた。
「あなたがこの島の代表なのか?」
「ええ、レスタイト王国の子爵位を授かっております、ランドルフ・プレイリーと申します。高いところから挨拶をする無礼をお許しください」
「貴族なのに腰が低い……。それに子供だと?」
若く見える人魚族の男の言葉にアプスの眉が動いた気がした。
ランドルフは気にせず話を切り出す。
「そちらのお名前を教えていただけませんか?」
「マクリルだ。人魚族の長をしている」
マクリルは目の前の人間の子供を訝しげに見つめる。
ダークエルフに妖精族まで……白い龍人に獣まで従えているのか? 何なのだこの子供は? 本当に貴族なのか?
ランドルフはランドルフで別の事を考えていた。
人魚なのに服着るんだな。動きにくそうだが……海に住む魔物の皮なのかな?生臭そう……。
気を取り直して話を続ける。
「お話はある程度部下から聞きました。何でも深海人による被害を受けているとか」
「そうなのだ。奴らは元々チレンド王国の西の海に住んでいたはずなのだが、突然それとは別の南のほうからやってきて困っていたのだ。様子を探りに人をやるとここに島があるではないか」
「そのことですが、我々も深海人の被害を受けて追い返したばかりなのです」
実際に受けた被害は皆無だが、人を動かしたのでそう言っておく。
「勘違いさせるような発言をして申し訳ない。別にあなた達を責めている訳ではない。襲ってきた奴らを追い返すのは当然だからな」
ランドルフは内心ほっとした。もしかしたらチレンド王国との関係にヒビを入れることになるのではと冷や冷やしていたのだ。
「ただ出来れば協力をしてほしいのだ。我々は入り江と、その付近の海を住処にしているのだが、海を奴らに占拠されてしまった。せっかく育てていた貝の養殖も全部荒らされた。抵抗を続けてはいるが、数も多く、このままでは辺りの魚も海草も近いうちに逃げるかしていなくなるだろう。海底が割れてから嫌な気配も漂っているしな」
貝の養殖か……。それに嫌な気配ってなによ。これ以上事件は勘弁してください。
「協力して差し上げたいのは山々なのですが、ここはレスタイト王国の領土なのです。国が違うチレンド王国の領土に勝手に入って協力すると色々と問題があるのです」
「確かに我々はチレンド王国の領地内に住んでいるが、あそこは人間にとっては秘境の地で魔物が多く住む自然豊かな未開拓地なのだ。お互い不干渉で奴らは何もしてくれん。それにあの場所も元々はご先祖様がちょうどよい入り江を発見して以来ずっと住んできた場所だ。領内に住んではいるがこちらも税を納めてるわけではないしな」
何それ、知床半島みたいな所なのか? チレンドはそんなんでよく今まで平気だったな。普通は何か言ってきそうなものだけど、未開拓地だから言うに言えないのかね?
「申し訳ないですがご自分達で何とかしていただくしか……」
「奴らを追い返したお力をお貸し願えないだろうか。あそこに住めなくなっては我々は流浪の民となってしまう」
無理だって言ったじゃん……。だけどこのパターンあれだな、ダークエルフと一緒だな。ならば……だが誘ってみるか?
「失礼な発言をあえてしますが先にお許しを。皆さんは荒らされて早く立て直さないと住めないということですよね?」
「先ほどからそう言っていると思うが?」
少しイラついた感情をだしているマクリル。
「でしたら先祖の代から住んでいた場所を離れるのは心苦しいかもしれませんが、この島に住んでみませんか?」
「なに?」
「話しぶりからして養殖所もあらされて一から作り直し。このままでは魚も減るし、入り江も占拠されてしまうかもしれない。不謹慎かもしれませんが、でしたらいっその事こちらに引っ越してはいかがでしょう? 他にも海の様子が怪しいようですので」
「……」
マクリルはランドルフをじっと見つめて頭の中で考えを整理している。
確かに荒らされた場所を一から作るなら新天地で始めるのも悪くない。チレンド王国とも仲はよくないのだ。様々な種族を連れているこいつなら信じられるかもしれない。
だが先祖代々の土地を捨てるなどと……。
「先ほども申し上げましたが、勝手に他国の領地に入るのは問題があるのです。勝手に住んでいると思われているような国ならこちらに来てみてはいかがでしょう?」
「……少し相談をしたい」
「どうぞどうぞ」
さて、人魚族はどういう返事をしてくるかねぇ?
読んでくださり、ありがとうございます。




