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51話

お時間いただきましてありがとうございます。


 エスドゴが移住希望者を連れて帰ってきた。狩人を引退して、貯めたお金で漁師をやろうと考えていた人や、これから独り立ちしようとした人が、数は多くないが何人か希望して来たようだ。

 住居がタダでもらえるという宣伝文句は、思いのほか魅力的だったようだ。


 だが気になることもあった。王都で顔を見せて新興貴族をアピールした割には人がそれほど集まっていないのだという。


 守護竜の友だと箔もついてるはずだから集まりそうなもんだけどな~……。情報の伝達速度が遅いとはいえ、もうだいぶ日にちが経っているのに……。


 だが今は来てくれた人たちのためにも、住みよい島にしなくてはいけない。

 まだ何も無い島だがやってほしいことは色々あるのでがんばってほしい、そう願った。










 帰ってきてそろったエスドゴ達の叙任式を行った。

 プレイリー家の兵士全員が広場に集まり整列している。

 カナンカやベネディッタ、ダークエルフの族長も集まり、その様子を見守っている。


 「この島に住まう守護竜様の名を汚すことの無いよう、盾となりそして脅威となる敵を討つ矛となり、護り抜く事を誓います!!」


 エスドゴがその代表して宣誓をした。


 プレイリー家じゃなくて、カナンカに対して誓ってない?島の安全を守ってくれるならなんでもいいけどさ。


 敬礼をされて握手をし、騎士と認める証として短刀とメダルを渡す。

 まだ全員分はできていないので、ムングに引き続き作ってもらい、出来次第渡す形となっている。

 ダークエルフの戦士達も街の警備をお願いするので同じく代表して渡す。族長はわずかに目に涙を浮かべていた。


 叙任式を終えて部屋に戻り、アプス達ダークエルフメイドと族長を部屋に呼び出した。

 メイドの三人にも短刀とメダルを渡しておく。渡したときは驚かれたが、信頼の証として受け取ってほしいと言うと、恭しく受け取られた。


 「山の民であった我々がこうも必要とされるとは……トクルマティアもこんな気持ちだったのかもしれません……」


 族長が思い出したかのようにつぶやいた。


 ありゃ? 余計なことを思い出させてしまったかな?


 「山の民が何を意味するのか分からないけど、アプス達ダークエルフが優秀だからほしかっただけだよ」


 ランドルフの言葉を聞いたアプスと族長の目に涙が浮かんだ。

 元々住んでいた場所を捨て、国を捨ててやってきた。ならばここも立場が悪くなれば出て行くと思われても不思議ではないはずだ。にもかかわらずランドルフは我々を必要だと言い、場所を与えてくれたのだ。


 「ランドルフ様からはたくさんの物をいただきました。お返ししようも無い大恩をです」

 「そんなに大きく考えなくていいよ。気楽にやろうよ」

 「ふふっ、そのような方ですからランドルフ様の事をお慕い申し上げているのです」

 「ちょっと、族長もいるのにやめてよ恥ずかしいから」


 後ろにいる二人のダークエルフメイドも微笑ましい目でこちらを見ている。


 ちゃんとした儀式というか、けじめのつもりでやっただけなんだが、思いのほか喜んでくれたな。やっぱりこういうのって大事なんだな~。


 何気なくポンと山を与えると書いた紙を渡しただけだったので、族長にも紙とは別に、村長の証としてメダルを渡したのだ。


 「ところでランドルフ様。アプスとの間に子供は儲けないので?」

 「ぶはっ!!いきなり何を言うんですか!!」


 突然の族長の言葉にランドルフは噴出し、アプスは顔を真っ赤にし、褐色の肌が茹で上がっている。


 「しかし、貴族になられたのであれば世継ぎを儲けねばなりません」

 「それは分かってますが、私もまだ子供なのです」

 「ですがアプスはまんざらではない様子でしたので、ぜひとも貰っていただけたらと」

 「いやいや、待ってくださいよ。まだ当分は先の事です。私の体の問題もありますが、今は島の開発に注力せねばなりませんので」

 「アプスの事が嫌いだからということではないのですな?」

 「嫌いだったらそばに置かないでしょう?」


 アプスの顔が輝いた。


 「もうこの話は終わり!!はい解散!!」


 変な空気が漂っていたのでランドルフは声をあげて自ら雰囲気をぶち壊した。


 「旦那様。私はいつでもおっけーですよ?」


 アプスはランドルフが度々使う言葉を真似してアピールをした。


 「解散だっていってるでしょ!!お茶持ってきてっ!!」

 「かしこまりました~」


 うれしそうにして部屋を出て行った。

 様子を見ていた族長達も、失礼しますといって微笑ましい顔で出て行った。


 「ぐぬぬぅ~。周りを固められている気がしてならないぞ……」


 思わずため息をついたランドルフであった。








 叙任式を行った翌日。

 朝は木綿の出来具合を見て順調なのを確認した後、昼過ぎまで政務をやっていたランドルフに会いたいという人物が突然やってきた。

 エスドゴ達の船の後ろに付いてきた、一隻の船共にやってきていた人物だ。


 「お初お目にかかりますプレイリー子爵様。(わたくし)、クベーラ商会からやってまいりました、ルメース会長の娘のラヴェンナと申します」

 「始めまして、ランドルフ・プレイリー子爵です」


 それがこの優雅に挨拶をする、クベーラ商会からやってきたと言うラヴェンナだ。

 エスドゴが移民の募集をしているのを見て声を掛けてきた。

 エスドゴの話では、島で商売を始めたいらしく、まずは島の様子を知るために数日滞在したいとのことだった。

 自分の一存では決められないので、後日訪れたときに返事をすると返答したのだが、ならば自ら乗り込むと後付いてきたのだ。

 攻撃して追い返すわけにも行かず、振り切ろうとしたが、荷物をたくさん積んでいるため引き離すことはできなかった。船を沈めると警告もしたが、結局距離を離れたまま付いてこられて島までやってきてしまった。

 そして一日待たせたが、呼んでもいないのに屋敷にも突然やってきたというわけだ。


 「本当に子供が子爵位をもらってらっしゃるのね」


 その言葉に側に、控えていたアプスの眉がピクリと動いた気がした。


 「子供(・・)だけに()爵なのかも?」

 「つまらない冗談はよろしいですわ。それよりも、一日も私を待たせるとはどういうことです?」

 「ん?」

 「私は言わばこの島で商売を始めようとする客です。その客を待たせるとはどういうことですかと言っているのです」


 ランドルフが何も分からない子供だと勝手に思って挨拶の時と態度を変え、強気に発言をして、今後の商売に関する事を自分達の有利に運ばせよう考えていた。

 街の中は人が少なく空き地だらけだが、外壁は素人が見ても頑丈そうに見えて、街全体は見たことが無いほどに整っていて綺麗だ。ここはやがて発展していく、そう思ったのである。

 そして島には何も無く、商売を始めて物の流通が始まると人がやってくる。それを成すのは自分達であり、感謝して当たり前という考えである。自分達がいなければ島の発展は無いとまで思っている。

 

 そう、街だけは立派だが、発展させていくのは私の力が必要なはず。なのに一日待たせるとは……。所詮は領主が子供と言うことかしら?


 「まだ子供なので仕方が無いのかもしれませんが、礼儀がなってないですわ」


 アプスはラヴェンナの物言いに、怒りを何とか抑えて顔に出さないようにしているが、手はギュッと力強く握られている。


 何だこの女?あれか、俺は今試されているのか?どういう反応をして人物像を確かめようとするためにわざと失礼な事を言っているのか?子供とはいえ貴族なんだけどねぇ~……。こちらの常識……というわけではなさそうだな。


 心の中で深くため息をつき、気を飲み込むと姿勢を正して返答する。


 「ではあなたも、先触れも無くいきなりやってきた、礼儀のなっていない大人ということでよろしいですか?」

 「なっ!?」

 「部下から聞いた話では強引に島まで着いてきたとか。人の後を、ましてや貴族の船を付回すなんて、その場で沈められても文句は言えないですよね?」

 「それはあの龍人が返事に一月以上もかかると言ったからですわ!!クベーラ商会の事をなんと思っているのです!?」

 「なんとも思ってません」

 「なんですって!?」

 「返事に一月以上かかるってあたりまえでしょう。あなたはここに来るまでに何日かかりました?一日二日でなんて物理的に無理でしょう」


 ラヴェンナは怒りを隠そうともせず、顔を真っ赤にしている。

 ランドルフが飛べばすぐに届けられそうではあるが、そのことは黙っておく。


 「こんなに遠くだなんて知りませんでしたわ」

 「調べなかったのですか?募集はスプモーニ商会主導で行っていたはずです。募集しているくらいですから別に島の存在を隠しているわけでもありませんし、部下にでもスプモーニ商会にでも聞けば分かったことでしょうに」

 「そう、それです!!スプモーニ商会がこの島の存在を知りながら、ここに店を構えない今が好機なのです」


 スプモーニ商会も島に店は出したい、だが今は無理なのだ。

 なぜならランドルフがジュレップに紙の製法や遊具を教えたからである。

 製紙工場や遊具製作工場を一から確立し、人員を集め、販売をするので手一杯なのである。

 出来上がった商品はどれもこれも好評で、生産が追いついていない。

 紙やリバーシもそうだが、ヨーヨーもその動きが不思議なのか人気が爆発している。

 今までの組合の仕事や港産業もある、カナンカの飲むワインの用意など、島に運ぶ物資の事もあるのだ。ランドルフにもそのことは伝えてあるし、店を出すときは土地を押さえてもらえるようにお願いしている。

 だがスプモーニ商会はうれしい悲鳴を上げているので、今は島に一から店を構える人員はいないのである。


 一番最初にランドルフ島で店を構えて街の実権を握れるチャンスなのだ。

 もちろん人がやってこないで投資するだけ損だという可能性も考えもあったが、ランドルフが造った街並みを見たラヴェンナは確信していた。


 「話をすり替えないでくださいよ。彼らは構えないんじゃなくて、今は別の事で忙しくて無理なだけですから」

 「ならばなおさらです。スプモーニ商会にも負けないクベーラ商会に店を出す許可を出しなさい。必ず島にとって有益なものになることを約束いたしますわ」


 確かに店を出してはほしいが、この人はだめだな。調べれば分かることを調べないし、突然やってきて相手の迷惑も考えない。スプモーニ商会に聞くのは引け目を感じたのか?


 ランドルフも散々お城で生活していたときに、突然王様を訪ねることがあったのだが……。そのことには触れないでおく。


 ロコチョルの魔道具店に行った時も思ったが、商売するって感じじゃないよ。利権とかお金の事しか考えてないんじゃないのか?

 物を売るのも買うのも人だってのに。


 「せっかく来ていただいて申し訳ないのですがお断りいたします」

 「なっ!?何故です!!」

 「あなたとはうまくやっていけると思わないからです」

 「クベーラ商会ですわよ?物資や人員をそろえるのは簡単ですわ。何が不満というのですか」

 「クベーラ商会が不満というわけではなく、あなたがだめなのです」


 ラヴェンナは怒りで目が釣りあがり口を大きく開けて怒鳴りだした。


 「失礼なっ!!私はクベーラ商会の代表としてきているのです。私がいなければクベーラ商会は動きませんことよ!!」

 「ええ、ですからお引取りをと申し上げているのです」


 悔しい顔をしていたが、怒りが一周して冷静になったのか、ラヴェンナは静かに話をしだした。


 「……何がいけないというのです?」

 「信用」

 「信用?確かに商売は信用が大事ですわ。ですから信頼と実績のあるクベーラ商会が「私が言いたいのは」


 ランドルフが言葉を被せる。


 「私が言いたいのは、強引に貴族の船に付いて回る、先触れも無く突然屋敷にやってくる、島への上陸許可は?入港許可は?あなたのやり方が信用ならないと言っているのです」


 島に着いたが上陸許可は下りていない、入港許可ももらっていない。あったのは船で待てと言うお達しがきただけ。

 勝手に入ってきたラヴェンナに警備は何をしていたかと問われるかもしれないが、ぞろぞろと来られては、最悪血みどろになってとめなければいけない。

 理由は色々あるが、自分が会えば済む事だとランドルフはそれを嫌がった。


 島へ強引にやってきたラヴェンナだ。とても待つことはできなかったのだろう。

 スプモーニ商会がいない今がチャンスと焦りもあったし、クベーラ商会なら断られることも無いと言う自信もあった。

 相手は何も分からない子供だし強気に行けば簡単に許可はでると舐めていた。

 だが目の前の子供は、何も分からない子供ではなかった。ちゃんとこちらの不手際を突いて信用ならないと堂々と告げて度胸もある。


 確かに悪いのはこちらですわ。でしたら手法を変えなければいけませんね。


 「確かに、大変失礼なことをしでかしました。心からお詫び申し上げます」


 そう言って丁寧に頭を下げた。

 ランドルフはいきなりラヴェンナの態度が変わったことに少し動揺し同時に警戒を強めた。


 「……謝罪を受け取りましょう」

 「寛大な心に感謝いたします。今からでも上陸許可と入港許可をいただけますでしょうか?」

 「しょうがないです、いつまでも海放り出しておくわけにも行きませんし、許可しましょう。できればさっさと帰っていただきたいのですがね」

 「ありがとうございます。感謝とお詫びの気持ちを込めて後ほど当商会の品を献上いたしたいと思います。帰るにしてもぜひ受け取ってからにしていただきたいですわ」


 ストレートに皮肉を言ったつもりだが、かわされた上にお詫びの品を渡すので時間をくれと滞在してしまう隙を与えてしまった。

 ランドルフは別にそこまで気を使わなくていいと言おうと思ったが、それでは先ほど謝罪を受け取るという言葉が嘘になってしまうと思ったのでしかたなく受け入れることにした。


 「……今日はもう日も落ちてきました。アプス、ラヴェンナさんに住める場所を用意をしてあげて」

 「いいえ、その必要はございませんわ。私は船へ戻らせていただきます。また明日訪れてもかまわないでしょうか?」

 「……午後からならかまいません」


 すぐには返答せず、少し間を開けてから答えた。


 ならば今日は帰るとばかりに、ラヴェンナは部屋を後にした。







 「ふぅ……、やっぱり試されてたのかな?どう思う?」


 ランドルフはアプスに尋ねた。


 「急に態度が変わったのでそうかもしれませんが……、最初は本当にランドルフ様を子供だと侮っていたように感じました」

 「雰囲気が落ち着いてからは言葉に(したた)かさを感じたんだ。素直に謝るし、あの状況で上陸許可を聞かれても出さないわけにはいかないよ。もしかしたら最初から狙っていたのかもしれない。謝罪の品も思っていたのよりすごいのが来るかもしれないな~。すぐにでも帰ってほしかったのに時間稼ぎされてしまったよ」

 「そう言われるとそうかもしれません」

 「売り言葉に買い言葉で感情的になった部分があったのはまずかったかも」

 「いいえ、客観的に見ても信用ならないという点は正しいかと思います」

 「ならいいけど」


 どうしたものかとランドルフは机にうつ伏せになった。


 「やっぱり文官の人呼んでおいたほうがよかったかな~。ベネディッタさんもいてもらったほうがよかったかも。言葉の一言一言が重たい……」

 「ですが彼らはやがて帰ってしまいますし、いつまでも頼るわけにも行きません」

 「だよね~。明日どうしよっか……」


 アプスにお茶を淹れてもらって疲れた気持ちを落ち着け、気分転換に夕食までには戻るとデンと軽く散歩に出かけた。


 「あたしも行く~。デンはあたしのものなのよ!!」

 「違うからな」

 「うぉふ!!」


 アマレットの言葉を否定したランドルフに同意するように吼えるデン。


 こいつはいつも吞気だな。……そうだ、考えてもなるようにしかならない。ブルグロットにクベーラ商会の事を聞いておこう。辺境伯のところにいた彼女なら何か知っているはずだ。


 夕食の席で話を聞いて明日の対談に備えるのであった。

けん玉「……解せぬ」


お読みいただきましてありがとうございます。

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