49話
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定期巡回から戻ってきたエスドゴを呼び出して話をする。
彼らがいない間は辺境伯の軍船を派遣してくれているので、今はまだ大丈夫だが、将来はこの辺も何とかしないといけない。
「ランクイロの様子はどうだ?」
「よくやってくれています。今はまだ雑用ですが、子供なのに力が強くキビキビと率先して動いてくれているので、そこらの船乗りよりも助かってます」
「ほうほう。それは成長が楽しみだな」
「はい、このまま行けば、あと四、五年もすれば余っている船を任せてもよろしいかと」
なぬ!?やはりこの世界の獣人は優秀なやつが多いのか?
「そこまで言わせるのか。益々楽しみだな。だが分かっているとは思うが人手が足りていない」
「今日はそのことで?」
「ああ。またコラプッタまでいってスプモーニ商会の協力を得て移民を募集してくれ。多少素行が悪くてもかまわないし、とにかく人が足りない」
「荒くれ者でもぶん殴れば大人しくなるでしょう。何よりカナンカ様がおられます」
「いや、あいつの威光を借りるのはだめだ。あくまで俺達でやらないといけない」
ランドルフの返答を聞いてエスドゴは頷いた。
カナンカは別にこの街の事なんてどうだっていいからな。頼った木が折れたら腐るだけだ。
ってこいつまた分かってて聞きやがったな?このちょいちょい試してくる所はジュレップに似ているが……何か吹き込まれたか。
「まぁいい。カナンカで思い出したが、あいつのワインも持って来て欲しいんだ」
「あれほど持ってきたのにもうですか?」
「そうだ。あいつが何も考えず飲み干すから残りも少ない。一隻丸々頼んで持ってきてくれ」
「わかりました」
「これからは一月一隻と手紙に書いておいたからスプモーニ殿に渡してくれ。分かってるとは思うが俺の顔としていくんだからちゃんと頼んだぞ」
「もちろんです。しかし、ランドルフ様の口調、少し変わられましたか?」
「あ、わかった?ちょっと王様のまねをしてみたんだけど」
やっぱりばれたか。威厳のある言い方をしたほうがいいかと思ったんだけど無理はよくないかな。
「口調と子供の姿に差があるので、背伸びしようとしてる子供にしか見えません」
「ひどぃ!!がんばったのに!!」
エスドゴに笑われてしまった。
「エスドゴだって船乗りだったと言ってた割には妙にテキパキとして物怖じしないし、貴族の事や戦闘の腕前も絶対一般人ってレベルじゃないだろう」
「れべる?いえ、私は別に嘘は申し上げたつもりはございません。船乗りで乗っていた船が壊れたのも事実ですし、新しい船を捜していたのも事実です。ただ乗っていた船が軍船だっただけですけどね」
「やっぱり辺境伯の人だったのか!!ってことは部下の人も何人か?」
「そうですね。しばらくは辺境伯に新しく船を買う資金も無いとの事だったので」
しれっと言いやがって。絶対おかしいと思ってたんだよ!!
「なんでこっちにこようと?」
「元々ジュレップ様に都合がいいからどうだと打診されてはいました。パンターナを離れる事に迷いもしましたが、やはりカナンカ様の存在が大きいですね」
「やっぱ俺の人物像じゃ人は寄ってこないよね」
「いえ、今はこちらにこれてよかったと思っています。あちらと違って好きにのんびりやれますし、何よりランドルフ様ご自身が面白い方なので」
「褒められているのかそうでないのか……」
やっぱりジュレップはすごいよ。頭上がらないわ~。
「でも島の人の扱いでいいの?」
「私はもうこの島の住人という意識でしたがだめでしたか?」
「いいや、ありがたいよ。となるとエスドゴを騎士として叙任しよう」
「よろしいのですか?自分で言うのもなんですが、怪しいと思いますが……」
「いいのいいの、俺の判断を信じなくてもいい。ジュレップ様が選んだ人選を信じることにするよ」
「……ランドルフ様は本当に面白い方だ」
エスドゴは椅子から降りてその場で跪いた。
「私は守護竜様の友であり、認められた方。ランドルフ・プレイリー様に忠誠を誓うことを約束いたします」
やっぱりカナンカなのね。
「うん、よろしくね。悪いんだけど、まだうちの人間だって認めるための短刀って持ってないんだ。ムングに頼んで戻ってきたときに渡せるように準備しておくよ」
「ありがとうございます」
「部下の人たちも叙任しよう。エスドゴはそこでプレイリー家の海軍の団長として今までどおり気楽にやってくれていいから」
「はっ、謹んで拝命いたします」
立派に返答したが、ランドルフの言い方がおかしかったのか、言い終えた後に吹き出してお互いに笑いあった。
それからたわいも無い世間話をして移民募集とワインの件をお願いすると、早速準備に取り掛かると言ってもどっていった。
街の商業区へやってきた。馬車はないので徒歩だ。
しまったな。馬車もお願いして持ってきてもらえばよかったか?いや、こっちで造るか。
「ちわー、ムングさんいる?」
「おお、ランドルフか」
「釜の調子はどう?鉄は足りてる?」
ムングの住む場所と鍛冶屋を一緒にした建物をはやした。そのとき釜についてあれこれと注文をつけられたので、耐火煉瓦を魔力で固めた新たな魔法煉瓦を生み出してやった。
だが材料が無いので試せないということで、ランドルフが火山帯へ向かい、赤土からダークエルフから聞きかじった程度に教わった錬金術で練成して、鉄だけを取り出した。
「なかなかすごいぞ。指示通り出来ていて熱の通りも均一だしかなりの温度まで耐えられる。これならミスリルどころかオリハルコンまで鍛えられるかも知れんな!!」
「それはよかった。んで、頼みたいことがあるんだけど」
叙任の事を説明した。飾り用のナイフとメダルを人数分作ってもらい、ついでにランドルフの槍杖を真似たナイフも作ってもらう。それと馬車の骨組みも作ってもらうように頼んだ。
「杖の効果がある短刀は素材の問題で無理だな。知ってるとは思うが鉄や鋼は魔力を通しにくい」
「そっか~、でもとりあえず魔法陣だけ書いておくからさ、これを彫れるように仕組み考えておいてよ」
「わかった。それと馬車だがな、骨組みを鉄で作るとなると重たくて馬がばてないか?」
「そこは魔法で軽くするから」
王様へ献上した馬車の話をする。人が座る箱の部分を押さえるところと、車輪と車軸を特に頑丈にしてもらって壊れにくくしてもらうのだ。
「確かにそれなら骨組みだけを馬が動かすことになるわけだな。ランドルフは面白いことを考えるのだな。島に来てのんびり出来るかと思っておったが、なかなか楽しめそうだよ」
「まだまだいっぱい頼むよ?」
「はっはっは、年寄りをいじめんでくれよ?」
その後、出来次第連絡するとのことなので、ワイン樽を一樽お土産においていき、屋敷へと戻った。
屋敷もだいぶ様変わりしてきた。ブルグロットが空いた時間に、庭で大陸から持ってきた花を育て始めた。
植物の声が分かるというアマレットと一緒になって大事に育てている。元々畑としてあった場所も提供した。
潮風に乗って花の香りが漂う少し華やかな屋敷になった。
「おっ、珍しいな。組み手か?」
すっかりカナンカ専属の侍女となってしまった二人のダークエルフメイドとカナンカが庭で戦っていた。それも武器を持った二人と素手でだ。
海賊とエスドゴの戦いぶりを見ていたカナンカはあれ以来、尻尾をうまく使う戦い方をし始めた。
そしてエスドゴと見た目は同じ龍人だが、カナンカは本物の竜だからか柔らかそうな肌をしているが頑丈だ。
さらに全身から闘気のようなものがあふれ出ているのを感じる。
ナイフの一撃を受けても傷一つつかず、お構いなしに攻撃してくるスーパーアーマー状態だ。
だがその安全の上に胡坐をかくのはよくないとランドルフが指摘して、無駄に食らうのをやめさせた。
「なんじゃありゃ。もうくるくる独楽のように回ってるだけで勝てるんじゃね?」
まさに台風のごとく回りながらパンチ、キック、そして体の状態を残したまま尻尾を鞭のようにしならせて襲い掛かる。そしてぴたっと止まって相手に一直線に突撃する動きも見せた。
あの動きはエスドゴがやっていたことだな。
そしてスタミナが切れることがなくいつまでも攻撃し続けている。
ダークエルフメイド二人もいつ突進が来て仕留めに来るのかと攻めあぐねている。
でもくるくる回るのも有効だけど無駄が多いよね。どうせダメージが無いなら紙一重で避けることを覚えさえたほうがいいよな。失敗した時痛みで恐れることも無いわけだし。だけどね……。
「ちょっと終了!!ストップストップ!!」
「なんじゃランドルフ。せっかく追い詰めておったのに」
「なんだじゃねぇよ。庭を荒らすな。ブルグロットに怒られるぞ。あっちの広場でやれ」
「むっ……」
カナンカは気づかなかったのか、尻尾アタックでビタビタと叩いて地面が抉れている。
「ほら、ここは直しておくから」
「すまぬのじゃ」
「それとカナンカは紙一重で避けるようにしてみたら?そのほうが効率がいいと思う」
効率だけで人は倒せないが、無駄に動き回って相手に拳スジを見せる必要もないだろう。
「どういうことじゃ?」
カナンカに説明してやった。ついでにクロスカウンターも教えてやる。
「なるほど、確かに攻撃のときに相手が向かってきてくれるわけじゃからな」
すぐに理解したようだ。本気で当てるなと言い、もう一度ダークエルフメイドと組み手をする。
ッ!?すげぇ!!本当にすぐ紙一重で避けるのかよ!!ドラゴン恐るべしだな。
カナンカは最初のうちは反撃せずに避けることだけに集中したようだ。そしてすぐに攻撃してきたナイフをスッと首の動きだけでかわす。体が残っていたためにぶつかってしまい、吹き飛ばされることは無かったが、状態を崩し相手にくるりと背中に回り込まれて首筋にナイフを当てられた。
「むぅ、体も避けぬとだめか」
当たり前だろ。何か狙いがあるならそれでもいいけど、何も無いならぶつかるのは当然だ。だがいい線はいっている。相手は完全にボディに意識がいってなかったしな。
次に避けたときは上半身だけで避けていた。足が残ってしまったが、返ってそれが良い方向に働き、足に引っかかったメイドは転んでしまった。
「むっ?」
それから何かを掴んだのか、反撃する事にしたカナンカは避けると同時に拳を出してあっという間にメイドをねじ伏せた。
成長早すぎるだろ。お前は達人かよ。
だがメイドたちも負けてはおらず、手加減していたわけではないようだが、さっきまでよりちゃんとした戦いになっていった。
やがてメイド達の体力が限界に近づいてくると、今度はランドルフが指名を受けた。
「礼を言うぞランドルフ。おかげで我はまた一つ強くなれた気がする」
「その伸びた鼻をへし折ってやるよ」
「クックック、それでこそランドルフじゃ!!」
槍は使わない。こちらも素手で戦う。
アプスに合図してもらった。
「始めッ!!」
せっかくだからこっちから行ってやるか。
フッと短く息を吐いて拳をお見舞いする。だが先ほどまでとは違ってカナンカは避けようとしない。
なんだ?目がいいから俺の動きは見えてるだろうに、頑丈だから利かないってことか?
だがそれは違った。拳が顔に当たる近くまで来た瞬間にランドルフは横から衝撃を受けて吹き飛ばされた。
「あっ!」
アプスが心配そうに小さく悲鳴を上げた。
ぐおっ、尻尾の存在を忘れていたっ!!
「どうしたランドルフ。終わりかの?我はまだ一撃しか放っておらんぞ?」
「ゲホッ、ちょっと油断してただけだ。さえずるのはそこまでだぜ守護竜様よ」
「クックック」
ふぅ、落ち着け。俺はこんなキャラじゃなかったはずだ。ちょっとカナンカの成長具合に興奮して熱くなっただけだ。冷静に行こう。
カナンカと訓練はたまにやっていた。だがこうしてちゃんと戦えるようになり、尻尾を使ってくる相手とは初めて対戦することになった。
探査する魔法でカナンカの翼の動きまで理解できるように集中する。
同じように向かっていき拳を突き出す。またしてもカナンカは避けようとせず、尻尾攻撃が今度は槍のようにして突いてきた。
わき腹を狙って尻尾の突きが来る。ならばっ!!
攻撃途中で尻尾攻撃と反対の斜め前へステップして、横から顔めがけて拳をだす。
スッと顔だけで避けられると同時にカナンカの拳が飛んできた。先ほど教えたクロスカウンターだ。
カナンカは尻尾を動かしただけなので重心は動いておらず、腰の乗ったパンチをだせる。まともに食らえばランドルフは死んでしまうかもしれない突きになった。
だがランドルフは拳を自分の肩まで持ってきてひじを曲げて、さらに踏み込んでそのままひじを顔に当てる。曲げたひじにカナンカの腕が当たって拳がそれた。
要するに最初から拳ではなくエルボーを当てるつもりだったのである。
アゴに当たったが、カナンカの頑丈さは分かっていたので、まだ終わりではないと油断せずに攻撃を続ける。
カナンカが少し状態を崩して後ろに下がり、足が無防備に前に出されていたので、それを踏ん張っている軸足の方へ引っ張るように足で払った。
小外刈りである。
カナンカはまるで棒が倒れるように横に倒れこんだ。
足を叩かれたような感触はあったが、何故倒れたのかカナンカは分からなかった。傾く体を尻尾で何とか支えようとしたが判断が遅かった。
地面に横たわった瞬間に自分は負けたと心が認めてしまった。
倒されるなどと普段なら屈辱的なことであるが、相手がランドルフだと思うと自然と笑みを浮かべた。
「おい、受身取れよ。前に教えただろう」
「「「………」」」」
メイドたち三人は何が起きたのか分かっていないようだ。いや、足を払ったのは分かっているがあんなに簡単に、怯んでいたとはいえ人が倒れるとは思っていなかった。力で押した感じではないことが信じられないようだ。
「クックック、やはりランドルフは面白いの~。まだまだ人の姿に慣れてないとはいえ我が簡単に倒されるとはな」
「いや、十分に一般人以上に体の使い方うまいからね?」
「ほうほう。やっと認めてもらえたのか」
「ランドルフ様!!今の技はいったい何なのですか!?あれほど綺麗に人が倒れるところは見たことがありません!」
庭に戻って柔らかい土の場所でみんなにやり方を説明した。
「なるほど。うまく考えられているんですね」
「王様にもこれとは別の似た技をかけたな~」
それから小外刈りを練習し始めた女性達。メイド服が土まみれである。
「先ほどメイド達とやったときに感じたのはこれじゃったか」
「体の小さいものが大きいものを倒すのを見てると気分がいいですね!!」
「事実だけどへこむから小さい言うなし」
調子に乗って巴投げを教えた。
「飛び掛ってきた相手に自ら倒れこむとは」
「相手の力と倒れる力を利用するのじゃな。本当に良く考えられておる」
技をかけられて飛ばされるのが面白くなったのか、ほいほいと飛び掛ってくる。
カナンカはむしろ自ら遠くに飛ばされていた。
何かを掴んだのか、飛ばされては翼を広げ、空中で受身を取るかのようにピタッと止まる。
だが何回かやっていると翼を広げるタイミングを誤ってしまった。
どさっ!!
「あっ……」
「「「………」」」
そしてブルグロットとアマレットが大事に育てていた花壇へ、カナンカが飛び込んで荒らしてしまった。
そのときタイミングの悪いことに、デンの散歩から帰ってきたアマレットがその様子を目撃してしまったのだ。
「ただい……あっ~!!何てことするのよっ!!ぶるちゃ~ん!!」
アマレットはブルグロットを呼びに屋敷の中へと飛んでいってしまった。
「……さて、私は着替えて仕事に戻りますね」「「私もそうします」」
「あっ、お前ら汚ねぇぞっ!!」
「見ての通り汚れておりますので」
「そうじゃねぇよ!!」
「「私どもが荒らしたわけではないので」」
「お前ら俺の護衛だろ!!」
逃げようとするアプス達をランドルフが捕まえ、カナンカが魔法を使って慌てて花壇を直そうとしている。
醜い争いが続いていると、尻尾をピンと上に突き上げた鬼の形相のブルグロットがやってきた。
「くぉ~るぁ~~~~!!!!」
「るぁ~~~」
説教は花を育て始めてから今に至るまで、どれだけ丁寧にしてきたかくどくどと教え込まれ、全員こってりと絞られましたとさ。
あ「あたし達がどんな思いで育ててきた説明してやってよぶるちゃん!」
ぶ「ええ、もちろんですアマレット。……ぶるちゃん?」
お読みいただきましてありがとうございます。




