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48話

お時間いただきましてありがとうございます。


 「とにかく落ち着いて詳しい報告を」

 「はぁ、はぁ、すみません」


 アプスがお茶を出してくれた。


 島を回って半周したところで北の海岸に着いたのだが、そのときに海から上陸してくる謎の人型生物を発見したそうだ。

 あまりにも数多くぞろぞろと出てくるので、自分達だけでは対処は難しいと考えて引き返してきたと言う。


 辺境伯の海軍の人を呼んで話を聞く。定期的に巡回しているときには見たことは無かったそうだ。


 「何故今になってだろ?海の中の事情が変わったのかな?」

 「海底火山に何か異変があったのかもしれないわね」


 ベネディッタさんが答えてくれた。


 ってかしまったな。人もいないのに調子に乗って北の海岸にも建物造ってたな……。誰もいないし占拠されちゃってて当然だよね~……。


 「どんな姿か分かる?」

 「人魚とも違う、鱗をびっしり生やした魚のようなトカゲのような、とにかくそれらをそのまま人にした姿でした」

 「蜥蜴人じゃないの?」


 新人メイドのシャキュピの姿を思い浮かべる。だが彼女は鱗がびっしりとした姿ではない。


 「……それって深海人かもしれないわね」


 ベネディッタが答えた。


 「深海人ですか?」


 その名の通り、栄養豊富な海の底に住む種族だ。人間に対する猿のような生き物で、知能はあるが言葉を話さず、海草をむさぼったり、岩に隠れる魚や貝を漁って生活している。


 「つまり、害獣という事で処理してもいいのかな?」

 「そうね、でも何故ここに来たのかわからないわ。ジュレップ様も海を巡回して魔法で人型生物がいるか探査していたはずだもの」

 「人魚族の存在がいるならそういう配慮は当然いりますよね。彼らの住処を荒らすわけにも行かないですし」

 「陸に上がらなければいけないほど脅威になる魔物が現れたか、さっきも言ったように海底火山の影響かしら?」

 「わかりませんが、陸と海から調査して見ましょう」

 「そうね」


 ランドルフは陸から、エスドゴ達は海から北の海岸へ向かった。








 出発して約一週間後、北の海岸に着いた。カナンカも来るかと思ったが、お酒を運ぶ余裕は無いと言うと留守番することに決めた。


 薄情なやつめ。


 ベネディッタ、アプス、デン、そして何故かアマレットも付いてきた。


 「ランドルフ君が整備してくれた道は本当に楽ね。物資を運ぶのも簡単だったわ」


 学者のはずのベネディッタが何故か隊を指揮していた。


 人手不足なもので申し訳ない。


 「平らな道で車輪が引っかからないから馬車も故障もしにくいしね。でもね、無計画に建物を造って占拠されていたら世話無いと思うの」


 無能で本当に申し訳ない。


 「返す言葉もございません」

 「船はとっくに着いているようね。話を聞いてきてくれないかしら」

 「わかりました」


 子爵だけどあごで使われる。しょうがないね、無能だし……。グスン。


 空から船に降りてエスドゴに話を聞く。


 「お待ちしておりました。四日ほどここで滞在していましたが、こちらに攻撃を仕掛けてくる様子はありません」

 「それはよかった。海の様子はどう?」

 「大きな魔物の姿を捉えたという報告はあがっていません。海底火山の動きも調査された時と変わっていないようです」

 「ふ~む、だとしたらますます不思議だねぇ。なんで彼らは陸に上がったのか……。このまま監視をお願いね」

 「わかりました」


 深海人の上を飛び越えてベネディッタのところへ戻る。


 「―――と言うことなのですが」

 「この辺りにはいなくても深海人が住んでいたところにはいるかもしれないわ。彼らがどの辺りから来たのかが分かればいいのだけれど……」

 「ねぇねぇ、ランドルフが一番偉いんじゃないの?なんでベネディッタに従ってるの?」


 デンの頭の上にいる妖精のアマレットが素朴な疑問を口にする。


 「それは……俺が無能だから……」

 「違いますっ!!ランドルフ様は優秀でいらっしゃいます!!一人であれもこれも出来るわけないじゃないですかっ!!適材適所です」


 アプスがすかさずランドルフを慰める。


 「まっ、そうとも言うわね。でも領主なら軍を指揮するぐらいはやってもらわないとね。私は学者なのよ?ダークエルフの戦士達も私に指揮されて不満もあるでしょうしね」


 ベネディッタの棘のある言い方にアプスが噛み付いた。


 「ちょっとあなたねっ!!ランドルフ様に何でも求めるなんて無茶なことなの。ましてやまだ子供なのよ、あなたのような年増とは経験が違いすぎるの!」


 アプスの言葉に青筋を浮かべるベネディッタ。


 「っぐ、この女……。私は優しさで言っているのよ?今ここで苦い経験をして次に活かしてもらわないと困るの」

 「でもっ!!」

 「アプス、ベネディッタさんの言うとおりだ。経験がないから今はお願いしているが、いずれは俺がやらないといけないことだ。失礼なことを言ったんだから謝って」

 「ランドルフ様……。すみませんベネディッタ殿」


 アプスも少し冷静さを欠いていたと反省したのか素直に頭を下げた。


 「別にいいわ。まだ事件も片付いていないし、失敗もしていないわ。がんばりどころね」

 「ありがとうございます」

 「人間って大変なんだね~」


 炊きつけた張本人のアマレットは他人事のように言う。


 「ですが、私はベネディッタさんならちゃんとこなせると思ってお願いしました」

 「ふ~ん、言うわね。適切な人選をする。それもまた領主としての必要な資質なのは確かね」


 不満そうなアプスだったが、その言葉で溜飲を下げてくれたようだ。


 「それよりも今をどうするかです」

 「そうね、追い出すのは簡単だけど、元を断たないとまたやってくるかもしれないわ。海から離れることはないと思うけど、今は彼らがこれ以上陸に上がらないように封鎖しないとね」

 「そうですね、とりあえず柵と堀を作って簡単にこちらにこれないようにしましょう」


 深海人たちは海岸から動く様子はない。指示を出して海岸から離れた場所に、西の森から木を切り出して柵を作る。

 ランドルフが魔法で壁を作ればすぐだが、訓練もかねて手を貸すことはしない。一般人はランドルフほど魔力が多くないので、大きな壁をすぐに作るのは無理なのだ。

 兵士達が魔法やシャベルで土を掘り下げる。テントを張り、野営の準備をした。

 こうしている間にランドルフは原因を探らなければいけない。


 「と言っても海の様子を見て探れるわけじゃないからな~。どうしたものか……って潜ればいいじゃん!!」


 魔法があるんだし潜るのは簡単じゃないか。何で当たり前の事を気がつかなかったのか。


 「安全かどうか分からないのに潜るの?海流に流されたりするからやめておいたほうがいいわよ」

 「え?だめですか?」

 「ええ。魔物もいるし最悪岩にぶつかって死んじゃう危険もあるわ。……と思ったけどランドルフ君なら無事な気がしてきたわ」

 「だめですっ!!危険があるのに領主自ら潜るなどと認められるわけがありません!!」

 「それもそうね」


 結局どうしようもないってことか。


 「精霊さんに聞けばいいんじゃないの?」

 「「「えっ?」」」


 アマレットが話に割り込んだ。


 「そうね、妖精なら精霊の声を聞けるんだったわね。滅多に見ないから忘れてたわ」

 「エルフは無理なんですか?」

 「崇めてはいるけど存在をなんとなく感じることが出来るくらいね。それもかなり集中しないといけないわ」

 「そうなんですね~」

 「ふ~ん、そうなんだ。だからみんな秘密にしろって言ってたのね」


 お前知らなかったんかい……。妖精にとっては精霊は当たり前の存在なんだろうな。


 「それじゃアマレット。聞いてもらってもいいかな?」

 「しょうがないわね、ランドルフの頼みだからしかたなく聞いてあげるわっ!!」

 「そりゃどうも。アプス、蜂蜜をあげておいて」

 「わ~ぃ!!」


 ばれないように海岸の近くへよって、深海人達から離れた場所でアマレットが精霊と話をし始めたようだ。ランドルフたちも護衛として付いていく。

 アマレットはよく分からない音を発している。


 音で会話しているのか?言葉とは違う……声も音だけど形態が違うのかな?だけど返事するような音は聞こえないけど……。


 アマレットは表情をころころ変えながら時々笑ったり頷いたりしている。


 こいつもしかして……。


 「おい、ちゃんと海の事について話してるんだろうな?」

 「あっ、ごめん。そうだったね」

 「おぃ!!」


 ごめんごめんと言って今度はちゃんと話しをしているようだ。


 「そういえば精霊ってどういう存在なんですかね?」


 アマレットが話をしている間にベネディッタに聞いてみた。


 「簡単に言えば力そのものと言われているわ」


 精霊は土地に住む幽霊のような存在らしい。ポルターガイスト現象を引き起こしたりするようだ。

 神がこの世界を作ったときに手足となって働いた存在が精霊だと言われている。いたずらが好きな精霊が多く、そのためか妖精とは気が合うからお互い認識しあえるという説がある。


 神聖視されてる言い方だが、ずいぶんとあやふやなんだな。悪霊なのか神聖な存在なのか、話からだと良く分からんな。


 「どうすれば見えるんですかね?」

 「人間では無理ね。高位の精霊は自ら姿を現すことがあって、人に道を指し示すと言われているけれど、エルフはそれを崇めているわ」

 「ダークエルフも精霊と大地の恵みに感謝を捧げています」

 「なるほど」

 「なるほどね。わかったわ」


 アマレットが聞き終えたようだ。


 「えっとね、北のほうで地震があって、地面が割れたとからしいの」

 「北……チレンド王国の辺りかしら?」

 「それでね~。避難してきたんだって」


 相変わらずざっくりした説明だな。


 「それじゃあ、別に魔物が襲ってきたからとかじゃないんだね」

 「そうみたい~」

 「ふむ。精霊様にちゃんとお礼を言っておいてね」

 「は~ぃ」


 なるほど、じゃあ追い返してもいいのかな?このまま居座られてもお互い不幸になるだけだろうし。


 「まって、結局また何かあればここに避難してくる可能性が高いわ。追い返すにしてもここも危険だと思わせなければいけない」

 「確かにそうかもしれません」


 本当に害獣対策だな。


 「では退治するのではなく、嫌がらせをしてみますか」


 エスドゴにも作戦を伝えた。陸から海岸へ向かって大きな音を鳴らして追い出す。エスドゴ達には海へ逃げたやつらをさらに追い返すように頼んだ。

 そしてランドルフは電気ショックを与えて脅かすことにした。


 隊列を作って順序よく木の板を叩いて高い音を鳴らす。カッカッカッと騒がしく音が鳴り始めると、深海人たちは何事かとこちらを振り向き、隊列をなして迫ってくるランドルフたちに恐れをなして海へと逃げ始めた。

 海に入ったのを確認すると、小船を出してさらに音を出して脅す。ランドルフも乗り込み電気風呂を意識して海に手をつけて電気を流した。

 全滅させてしまっては、この場所が危険だと知らせる深海人がいなくなってしまうためだ。

 魔法で深海人のいる位置を把握しながら沖へと追い返し、後をエスドゴに引き継いだ。

 船の上から魔法使いがボトンボトンと音を鳴らしながら岩を落とす。三、四個落としたところで魔法使い達に疲労が見え始め、十個落とす頃には肩で息をし始めたので終わりにする。


 「また戻ってきたら同じように追い返すわよ。ただし、次はちょっと痛い目を見てもらわないといけないけどね」

 「今でも彼らは十分痛い目を見てると思いますが……」

 「来なければよし、来たらやらないといけないわ。野生の勘があるなら逃げてくれるといいのだけれどね」

 「しかし、なんというか手馴れてますよね?」

 「そりゃ、調査するときに邪魔されたらたまったものじゃないもの。命に関わるし、そういう対策はしっかり身につけておかないと危険よ?」

 「そりゃそうだ」


 そのまま二日野営して過ごしたが、深海人たちが戻ってくることはなかった。

 前回作った小屋はぬめぬめのべとべとしたことになっていたので取り壊した。

 監視している間暇だったので、海岸でデンと走って遊び、兵士達と一緒になって訓練をした。

 監視とはいったいなんだったのか。

 アマレットも一緒になってはしゃいで飛び回り、疲れてくたくただ。

 デンの頭の上で休むが、落ちそうになっていたのでランドルフの上着のポケットに入れておく。

 そのままスヤスヤと寝てしまった。

 そしてまた一週間かけて街へと帰ってきた。


 「ねぇねぇ、またあの水しぶきを避ける遊びやろうね!!」

 「街に戻っても海が近いんだからいつでも遊べるさ」


 アマレットはずいぶんと水遊びが楽しかったようだ。


 「ずいぶんと楽しかったようだのぉ、我も行けばよかったか。しかしワインが……」


 酔っ払いの言葉は放っておく。


 今後の事を考えて北の海岸の事もちゃんと考えないといけない。


 「砦を作って人員を配置したいけど……」

 「人が全然足りないわね」

 「うぐっ」


 ベネディッタの容赦の無いツッコミが入った。


 「一度またコラプッタへ行ってもらって移民を募集しますか」

 「なんならあのダークエルフたちみたいにパブチスカ王国から引き抜いてこれば?」

 「それは問題になるでしょう……。それにこの島の存在を他国に大きく知らせてしまいます。余計な問題が出てくるかも」

 「でも人が来ないとこの島も活気付くことは無いわ」

 「せめて国内で穏便に済ませたい」


 しかたない。その間俺が定期的に北の海岸を見に行くか……。あっ、そういえばすっかり忘れてたけど、俺って深海人みたことあったわ。


 「それとカナンカの飲むワインを追加でお願いしないとな。一隻ワインを運ぶだけの船にして持ってきてもらおう。あいつ飲みすぎてもう残りが少ないらしいし」

 「流石カナンカ様ね」


 結局募集するためにもエスドゴにまたコラプッタへと向かってもらうことにしよう。

お読みいただきましてありがとうございます。


4話で深海人には出会ってます。

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