43話
遅れてすみません。
幾日か前の事。トクルマティアと数日の間戦い、お互いを認め合ったガブストンだが、隠れ家を離れると言ってきた。
「そろそろ戻って暴れないとな。部下達も待ってるだろうし俺は戻るとするぜ」
「なかなかに楽しかった。外にはお前みたいなやつがたくさんいるんだろうな」
「お前もなかなかだったぜ。久しぶりに楽しめた」
「ずいぶん手加減されていたと感じたがそれでもか?」
こちらの腕前を見るように気持ちよく攻撃させてくれたと感じることが多かった。隙が出来ても気づかせるようにわざと手加減した攻撃を打ってきていた。
「分かってたのか。やっぱりお前さんはスジがいいな」
「おかげで前より強くなれた気がする」
「なら良かった。次ぎあうときも俺を楽しませてくれよ」
「ああ」
お互いにがっちり握手した。
「さて、前は山で馬車を襲ったからな。今度は海で商船でも狙うか」
そのときガブストンの顔が獰猛さを見せた気がした。「じゃあな」と言って、彼はゆっくりと去っていった。
俺もいつかはあれくらいには強くなれるだろうか……。
トクルマティアは去っていくガブストンの背中を見つめていた。
「おい、本当に大丈夫なのか!?ダークエルフの人達も居るんだぞ、ちゃんと護衛してくれよ?」
「俺達を信じてくださいよランドルフ様」
出発して動き出すと、軍船の動きが遅いことに疑問を持った。荷物が多いために動作が鈍い。甲板にもどかどかと多くの荷物が置かれている。ランドルフはこれで身動きが取れるのかと疑問に思った。
「魔物に襲われたら逃げ切れるのかよ……。不安だ」
「魔法使いが10人も居るんですから大丈夫ですって。ランドルフ様の船にはご自身で風を送るんでしょ?」
「まぁそうかもしれないが」
不安なので始めて島にやってきた時のスプモーニ商会の船をまねさせてもらうことにした。
マストを杖に見立てて魔力を増幅し、風の勢いを強くさせるようにする。
「ちょっと帆柱に魔法陣書くから、それを通して魔法を使うようにしてくれ」
「魔法陣書けるんですか?」
「ああ、ちょっと魔法使える人呼んできて」
呼んできてもらっている間に指先から小さな炎を出し、マストを焦がして魔法陣を書く。これくらいなら別に痛まないだろう。
「……っと。よしっ、できた。魔石はつけてないし、素材も普通の木材だからあまり増幅できてないかもしれないけど……」
「もう出来たんですか?ずいぶんと早いですが……」
やってきた魔法使いに試しに早速使わせてみる。突風が吹き、ぎしぎしと船が音を立て、帆が大きく弧を描く。
「どうだ?」
「放出量を調節すればうまく出来そうです」
魔法使いに聞いてみたが大丈夫なようだ。
「ランドルフ様はすごいですね。簡単にこんなものを作ってしまうとは」
「本当は帆船じゃなくて、蒸気船みたいにできればいいんだけどね。火魔法があるから簡単だと思うんだけど、シャフトやスクリュー部分をどうするかだな」
「俺には何のことだか良く分かりませんが、ランドルフ様がすごいということが分かりました」
その様子を、外に出て甲板でワインを飲んでいるカナンカは眺めていた。日の当たるところに酒を置いておくのはどうかと思ったが、このシチュエーションがいいんだろう。
それを魔物に邪魔されたときのカナンカの怒りはまさにドラゴンの逆鱗に触れたという言葉がふさわしいものだった。
たびたび空から魔物に襲われていたのだが、その日は大きく黒いが、白鳥のような魔物が襲ってきた。
そして船体に空中から蹴りを入れられて、船が大きく揺れてワインがこぼれたのだ。
こぼれたワインを見て怒りで顔を真っ赤にし、いや、ワインを飲んで元々赤かったのか、とにかくドラゴンの姿に戻って咆哮するとすぐさま魔物は逃げ出した。
声だけで船がきしみだして壊れるのかと思うほどの威力で、デンは伏せながら耳を押さえてうるさそうにしていた。
カナンカの真の姿を見た船員達は畏怖していた。特にエスドゴは「伝説の守護竜様だ」と言って熱心に祈りを捧げていた。
マストに魔方陣を書かなくても良かったかもしれないな。
だが今では静かにブルグロットと一緒にリバーシをしている。
「ここをめくれば次は置くところが無いので、また私の番ですよね」
「むぅ~。何故勝てんのじゃ!!」
ペラペラと駒をめくられて、いつもどおり負けてしまったようだ。
ダークエルフの人たちも交えてリバーシをしたが、今のところブルグロットが一番強い。
やはり獣人が脳筋だという思い込みは改めないとだめみたいだな。
デンの体を撫でながらランドルフも日向ぼっこをする。アプスは負けて落ち込んでいるカナンカに、休憩してはいかがかとおつまみを出していた。
平和だな~。のんびりしてていい感じだ。魔物が来てもカナンカが追い払ってくれるし、身の回りの世話はアプスやブルグロット達がやってくれる。なんて贅沢な時間なんだ。
次第に眠たくなってきたので、デンに寄りかかりながら昼寝をする。それをアプスがニヤニヤとした顔で見ていた。
高速船でもないのでのんびりとした航海をしていたが、出発して一週間ほど経った日の事。
「船長!!船が見えます!!」
「なんだと?」
カナンカが居るおかげでこんな安全な航海はないと船長と話していた時だった。
物見が船を発見した。三隻いるようだ。
「軍船へ戻ります」
「私も行きましょう」
エスドゴは自前の翼を広げてランドルフと一緒に飛んで軍船へ行く。
「状況は」
「どうも砲台の数が少ないので商船のようですが……」
「普通の船はこんな外れた航路に来ないはずだ。遭難して迷い込んだか……」
「偽装した海賊船ですか?」
「ええ、かもしれません。接触しますか?」
「そうですね。遭難した船だったら助けないといけませんが……、警戒はしておいてください」
音を鳴らして警告する。旗を振って会話しているようだ。
「迷い込んだといってますね」
「今どのあたりか場所を教えて帰ってもらいましょう。こちらは当ても無く船の旅を楽しんでいるとでも言えばいいでしょう。実際に甲板でお酒飲んだり遊んだりしてますし」
「ふふっ、確かに。ではそうしましょう」
カナンカが顔を赤く染めながらワインを飲んでいる姿を見てエスドゴは苦笑した。
一人だけ船へ乗ることを許可し、話を聞くことにする。一人の男がヘコヘコと挨拶をしてきた。
「申し訳ありません。貴族の方とお見受けいたしますが、突然の無礼をお許しください」
ランドルフはエスドゴを見て頷いた。
「許そう。それで、迷ったという話だったが、今居る場所を教えるのでさっさと帰ってくれ。こちらの貴族様は船の旅を楽しんでおられるのだ。邪魔をしないでもらおう」
「ありがとうございます。すぐに引き返します。ですが真に申し訳ないのですが、食料を少し分けていただけないかと」
エスドゴがこちらを見た。
分けるのはかまわないが割り増しでお金を払ってもらおう。三隻の船の様子を遠見の魔法で見てみると、船員達は別に飢えている様子はない。痩せてもいないし、むしろ活き活きとしている。
「分かりました。すぐに戻ってお金を用意しますので船を寄せてもかまわないでしょうか?」
「仕方がない。だが積み終わったらさっさと帰れよ」
「はい、それはもう。では、失礼します」
男は小船に乗って自分達の船へ戻っていった。
「襲ってくるなら荷物を積むときですが」
「そうだね。各自警戒を強めて、怪しい動きがあったらすぐに大声で知らせるように」
「わかりました」
「それとちょっと考えがあるんだけど―――」
食料を甲板へ運んで、受け渡しの準備を進めることにした。
「船の様子はどうだった?」
「船の旅を楽しんでいる貴族とかで、どうも護衛の船は素人が混じってるようでして、何人かは船乗りのようですが動きや体つきが悪い物がいます。人数は予想ですが半分ほどかと。貴族の船には女達が優雅に甲板でワインを飲んでましたぜ」
船へと戻ってきた男は、船団をまとめている船長に船の様子を話した。
「物見の意見と同じか」
「はい。でもまさかこんな外れたところに船がいるとは思いませんでしたね」
「ああ、海流からそれたときはどうなることかと思ったがな。俺達は運がいいようだ」
「それでは」
「よし、野郎ども戦いの準備だ。いつもどおり荷を積み込むときに襲うぞ。やばそうならそのままやり過ごす。ガブストンにも伝えろ」
男は言われたとおり伝えるべく走っていった。
「―――そうか。それで奪うことに決めたんだな?」
「はい」
「強そうなやつはいたのか?」
「私が見たところ相手の船長が龍人でしたので強いとは思いますが、他はいまひとつだと思います」
「そうか。じゃあいいや、お前達でやれ」
「分かりました。女は好きにしても?」
「俺はいらん、いつもどおりにしろ」
「へへっ、さすがガブストンだ。話が分かってるぜ」
「いいからさっさといけ、俺の出番がないようにしろよ」
伝えに来た男は部屋から出て行った。
「今回も外れくさいな、魔物の相手ばかりで退屈だったから楽しめるかと思ったが……。せっかく船に乗ったってのによ……。遭難もするし、いい戦い相手には恵まれないし、まったくついてねぇぜ」
ガブストンはテーブルに戻り一人酒を飲む。彼は海賊の用心棒として船に乗っていた。
三隻の内一隻がこちらの船に近づき、横付けして歩み板を倒してきた。
「渡せる分の食料はこれだけだ、さっさと持って行け」
「ありがとうございます」
木箱の一つを開けて中身を見せると、男が頷いて荷運びの男達が数人こちらへやってきて荷物を運んでいった。荷物がある程度運ばれたのを確認すると、男が袋を差し出してきた。
「こちらがお約束したお金でございます」
「うむ」
エスドゴは差し出された袋を受け取り、中身を確認する。
その中身は石ころだった。それを見てやはりそうかと思ったエスドゴは、すぐさま攻撃するように命令を出そうとした。
エスドゴが袋に視線をやっている隙を狙って、男がエスドゴの胸元にナイフを突き出していた。しかしその攻撃は胸に刺さりはしたが、ランドルフの魔法によって止められていた。
「ちっ、懐に物でも詰めていやがったか」
男は舌打ちをする。だがエスドゴは懐に何も入れてない。痛みがないことですぐさまランドルフが何かしたと察した。
「こんなことだろうとは思っていましたけどね」
「ありがとうございます、ランドルフ様」
続々と向こうの船から海賊達がやってくる。そして残りの二隻がこの船の進行を妨げるように挟み撃ちにした。こちらの船員も軍船からランドルフの居る船に乗り込んで皆武器を構える。
「なかなかに慣れている動きですね」
「ガキが、余裕こいてられる状況かよ。分かっているとは思うが俺達は海賊だ。おとなしく荷物と女を差し出せば命は助けてやってもいいぜ」
ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべる男。だがランドルフはまったく気にしていない様子だ。
「エスドゴ。ちゃんと非戦闘員は中に避難したんだよね?」
「はい、ここにいるのは腕に自信のあるやつらだけです」
「何を言っている。この状況で殺り合うつもりかよ」
「ええ、そのつもりです。じゃ、戦いましょうか、初陣ですよ皆さん」
「「「うぉおおおおおおおおおおおお」」」
「馬鹿が、この人数に勝てるとでも思っているのか!!」
まず目の前にいるうるさい男を風魔法で吹き飛ばす。吹き飛ばされた男にぶつかって、後ろにいたやつらも海へと落ちていった。
エスドゴもそれに続き駆け出す。他の皆もそれに続いて戦闘を開始した。
エスドゴは尻尾を振り回し、回転しながら剣も振り回す。そしてぴたりと止まると一直線に相手に突進して喉を突いた。
「普段は邪魔だと思うけど尻尾はこういうとき便利だな。後ろからの攻撃にもすぐ反応できるし、けん制にはもってこいだ」
カナンカは戦闘が始まったのを見ていたが、我関せずとばかりにワインを飲む。だが目線はエスドゴの動きをしっかり観察していた。
デンもテーブルの側で伏せて様子を見ている。ダークエルフのメイド達も動かない。
「仮にも兵士として働いてくれるんだから訓練は必要だよな。治療はするからがんばって!!」
訓練ではなく実戦だが、吞気なランドルフの言葉に誰も反応するものはいなかった。
デンの側に戻って頭を撫でる。
意外とみんな強いな。特にエスドゴを中心として連携が取れてる。
「あ、そういえばせっかく作ってもらったんだし試してみよう。俺の槍杖持ってきて」
「わかりました」
挟み込みが完了すると船から続々と海賊達が乗り込んでくる。
さすがに数の多さには不利なのか、エスドゴは徐々にこちらに下がってきて固まって相手をしている。
船の後ろと前から海賊達が押し寄せてきて、カナンカ達も囲まれてしまった。
そしてダークエルフメイドが槍を持って戻ってきた。
「定員オーバーじゃないこれって。ほぼ全員こっちにみんな乗り込んで来たかな?」
「恐らくは」
「じゃあダークエルフさん達の出番だね」
「はい」
「何を言ってやがる、この状況がわからないのか?大人しくしろ!!」
海賊の言葉を無視してアプスは運び込まれた木箱に向けてスッとナイフを投げる。
「へっ、どこに投げてやがる」
するとカッと音を立てて木箱に刺さり、その中から一斉にダークエルフの戦士達が飛び出した。
「なんだと!!」「荷物の中から!?」「最初からばれていやがったのか!!」「まずい、挟み撃ちにされるぞ!!」
海賊達は驚きうろたえた。
もし本当に遭難した人たちだったらどうしようかと思ったが、即席の作戦が成功してよかった。プチトロイの木馬作戦だぜぃ。
海賊達がうろたえている様子を見たエスドゴは、前へ出て攻撃を開始した。ダークエルフ達はナイフを投げたり弓を構えて相手の船から援護をする。
混乱した海賊達は次々に討ち取られていく。
「畜生、船へ戻れ!!」「だが挟まれてるんだぞ!!」「女を人質に取れっ!!」
だが立ち上がったデンによって道をふさがれ、後ろの船に戻ることを許されない。ダークエルフメイドも応戦する。
「ぐあっ!!」「くそっ、前の船へ逃げ込め!!」「やってられるかっ!!」
前へ逃げ出した海賊達。だが槍杖を持ったランドルフが風魔法を放つ。
「そんなに戻りたいなら手伝ってあげるよ」
「うわっ!!」「ふぎっ!!」「と、飛ばされる!!」
吹き飛ばされて次々と海へ落ちてゆく海賊達。
そのとき一人の男がこちらの船に乗り込んできた。
「おう、お前ら、さっさと船に乗り込め。このガキの相手は俺がやるからよ」
「すまねぇ、ガブストン。助かったぜ」
海賊達が我先にと乗り込んでいったが、逃がすまいとエスドゴが追いかけようとする。だが、ガブストンのすさまじい攻撃に吹き飛ばされた。
なんだ?拳に魔法を乗せている?あの拳につけているのは魔法武器か。
ガブストンは拳に篭手をつけており、その内側に魔方陣が刻み込まれていると思われる。手の甲には丸くふくらみがあり、恐らくは魔石か何かの増幅させる物があるのだと予想した。
「お前ただのガキじゃねぇな。魔法使い……いや、重心に安定感がある」
「今にも怖くて泣き出しそうなか弱い子供ですよ」
「ランドルフ様っ!!」
アプスがこちらへやってきて、ランドルフの前に出て対峙しようとする。
「メイド風情が、邪魔すんじゃねぇ!!」
「アプス、少しやらせてよ。まだこの槍杖を全然試してないんだよ」
「しかし……」
「ねっ、お願い」
「……わかりました。力は勿論ですが脚力にも注意してください」
「ありがとう」
アプスはゆっくりと下がっていく。
「なかなか目がいいメイドだな。それに比べてお前は身の丈に合わない槍を持っているときたもんだ。何をしてくれるのか楽しみだぜ」
スッと槍を構えるランドルフ。深く息を吸うとフッと息を短く吐き、すべるよう水平に突きを出した。
ガブストンはその攻撃を篭手で払い、同時に懐に入って拳を入れようとした。だが払う瞬間に勘が働き、横に思い切り飛んだ。
「ぐっ」
突いた槍の延長線上にいた、逃げていた海賊が胸に穴を開けて血を流して倒れた。それだけでなく船の手すりにも綺麗に穴が開いている。
「よく避けたな~」
「あのまま払っていたら腕を持っていかれてたな」
初見殺しが失敗したので、普通に突きを繰り出す。王様と戦ったときの事を思い出し、矛先に気持ちを込めて相手を黙らせるように意識する。そしてたまに魔力を乗せた一撃を混ぜ込む。
ガブストンはいつ先ほどの貫通力のある攻撃が来るのか読めず防戦一方だったが、慣れてきたのか避けることに余裕がでてきた。
「反撃するぜっ!!」
「わざわざ教えてくれてどうもっ!!」
自慢の脚力を生かして、突きを恐れずに突進してくる。
その程度、デンの電光石火に比べれば!!
突いた槍を小さく振り上げ、横に払い、くるりと回転させて魔力を乗せ、斬撃を飛ばす。
「突きだけでなく縦横の動きも出来るのか。体にあってない槍でよくやる!!」
またしてもガブストンは勘を働かせて急停止し、回避する。停止したときに残った勢いを利用して回し蹴りを繰り出す。
ランドルフはしゃがんで回避し、大きく横薙ぎに槍を振るう。
ガブストンは大きく跳んで後ろに下がり、そのまま船首までぴょんぴょんと身軽に跳んだ。
「楽しかったがここまでだ。じゃあな、また会おうぜクソガキ」
「私はもうお会いしたくないです」
「ケッ」
ガブストンはランドルフと戦いながらも周りをしっかりと見ており、全員が逃げ込んだと見ると離れていく船に乗りこんだ。
「こちらはあらかた片付きましたが追いますか?」
「追わなくていいよ。後始末しよう」
「わかりました。まぁ、追わないのが正解でしょう」
こいつめ、あえて聞いてきたな?
「分かってて聞くのやめてくれない?」
「単純にランドルフ様のお考えを聞こうかと思いまして」
「よく言うよ」
お互いに笑い、指示を出して後片付けをする。ダークエルフの作った薬も出して、怪我人はすぐに治療する。重傷者はいたが命に別状は無く、死者は出なかった。
治療を終えて死体は身包みをはいで海へと投げ捨てる。
そういえば偶然とはいえ始めて人を殺したんだな。だけど何も感じないや。
カナンカのいるテーブルへと戻って席に着くと、アプスがお茶を出してくれたので一息つく。
「ランドルフよ、なかなかの余興であったぞ」
「ありがとう。次回の公演は未定でございます」
「クックック、よい肴になったわ!!」
カナンカは気分良く残っているワインを飲み干し、グラスをメイドに渡しワインのお代わりをする。
後始末を終えたエスドゴが報告にやってきた。
「ランドルフ様。捉えたものの処分ですがいかがいたしましょう。普通であれば処刑です」
「ふ~ん。何人いるの?」
「26名ですね」
島に住む人はほしいが犯罪者はいらないしな~、どうしたもんか。
「正直に罪を告白して内容がひどければ処刑、何か技能があったり罪の軽いものは見逃そう」
「わかりました。ですが正直にしゃべりますかね」
「デン」
「うぉふ!!」
海賊達をデンの前に連れてきて罪を告白させる。デンが怪しいと感じたものは電撃を即座に浴びせる。それを見た海賊達はぽつぽつと正直に話し始めた。仕方なく海賊になったものがほとんどだが、人殺しや強奪などを行っていたため、どの道助からないと思っているやつは殺せと叫んでいた。
「じゃあこの三人だけ助けるから」
船のコックだった人と船を動かすために無理やり連れてこられた人は許すことにした。
そういえば魔法使いはいないのかと聞くと、魔法使いが海賊をするなんてめったに無いと返された。そりゃそうか。
「残った人は悪いけど処刑だよね。せっかくだし兵士の中で人を殺したこと無い人に殺させよう」
「ランドルフ様は結構ひどい事をおっしゃるのですね」
「やっぱりそう?さっき俺も始めて人を殺したけど何も感じなかったんだよ。でもそう思うのが普通だよね」
「いえ、海賊や盗賊、山賊に情けをかけてはいけませんので、気にすることはないかと」
気にかけられた言葉なのか本当にそうだからなのか、エスドゴに言われそういわれた。
ランドルフは今度は自分の意思で一人殺すことにした。ナイフで刺した時の感触はあまり思い出したいものではなかった。
感傷に浸っていると、突然アプスがランドルフを抱き寄せた。
「おい、人前でやめろっ」
「ランドルフ様は強くてご立派でいらっしゃいます。海賊を挟み撃ちにする作戦をすぐさま思いつく所はまさに私どもの自慢の主人でございます」
「……」
アプスに慰められてると分かったランドルフは不機嫌になる。
「戦いぶりも見事でございました。まぁ、自ら戦おうとするのはよろしくありませんでしたが」
「ふんっ、どうせまだまだ感情の制御できない子供さ」
「でしたら、別に甘えてくださってもよろしいのですよ?」
「いらんわっ!!」
「クックック。ドラゴンである我に臆することの無いランドルフがたじたじであるぞ。なかなかやるの~、アプスは」
その様子を肴に機嫌よくワインを飲むカナンカに冷やかされて、さらに不機嫌になるランドルフであった。
お読みいただきましてありがとうございます。




