41話
戦うメイドさんは大好きです。暗器使いなどはロマンがあって大変よろしいと思います。
島に帰ることをジュレップにも伝える。
「じゃ私も帰ろう。そろそろ軍学校に勤めてる旧友がしつこくてね~。一回だけ講師をやってくれって話だったのに何度も出る羽目になっちゃったよ」
「なんか私に付き合って滞在していただいてありがとうございます」
「いいのいいの。来た頃はともかく最近は半分仕事、半分休暇みたいなものだったし」
付き合ってもらってた部分は否定しないということは、やっぱり無理に滞在してもらってたんだな、申し訳ない。
挨拶して部屋に戻る。カナンカがいないので、メイドにどこに行ったか聞くと、デンを連れて広場に行ったそうだ。ずっと部屋で飲みながらリバーシをしていたのに珍しいこともあるものだ。
広場に行くとデンとカナンカが対峙していた。
時間を見つけてはかまっていたけど、やっぱりちゃんと運動したほうがいいよね。遊んでくれたカナンカには感謝だな。
訓練していた兵士や騎士達が遠目から眺めている。戦いぶりを見ているというよりはカナンカに目が行っているようだ。デンの突進を避けてパンチを繰り出す時に胸が揺れると小さな歓声が上がる。
カナンカはダークエルフからもらった身軽な布の服を着ているので、動くと大きな胸の押さえが利かない。
「むむぅ。人での動きは難しいのぉ。足が絡まりそうじゃ」
まだまだ咄嗟の動きには体が慣れないのか、躓いたりとフラフラして重心が安定せずおぼつかない。
そんなんでいきなりデンと戦おうと思ったな。予想より動きにくかったのか。
いったんお互いの距離が離れたところで、ランドルフがこちらに来たことに気づいたカナンカに声を掛けられた。
「ランドルフ、来よったか。デンが相手では避けるばかりなかなか攻撃ができんのでのぉ。相手をしてくれぬか?」
「いいよ。デンの相手してくれてありがとね」
デンもこちらにやってきて顔をランドルフにこすり付けるので、頭を撫でてやる。
「それにしても珍しいね。いつも部屋でお酒飲んでるだけなのに」
「リバーシで全然勝てんのでのぉ。気分転換というやつじゃな」
お酒の事に関して、良くない言い回しをしたのにまったく気にしていない様子だ。
「お酒ばっかり飲んでるから酔っ払ってちゃんと考えられないんだよ。なんなら酔いを醒ます魔法をかける?」
「おぬしはたわけかっ!!酔いを楽しまぬのなら、酒を飲む意味が半分ないのと同じじゃぞ!!」
お前は何年も酒をたしなんできたおっさんかよ。ちょっと前までまったく飲んでなかったのに。
「それは悪かったな。まだ酒をたしなんだことはないので」
「じゃからおぬしも一緒に飲もうと言うておる」
「未成年だと思うのでだめです」
「固いのぉ~」
「いいから、はじめようよ」
まずはカナンカがどのくらいの実力なのか知ることにする。カナンカは素手で攻撃してくる。体の動かし方が分かっていないので、腰の入っていないヘナヘナパンチだ。ジャブにすらなってないし、予備動作が大きすぎて攻撃してくるのが丸分かりだ。
こちらがお手本になるように攻撃をかわすだけにする。
「あたらん、まったく持ってあたらんのじゃ」
「腕の振りが大きすぎるし、攻撃したら腕を伸ばしっぱなしだよ。まずはしっかりと体を固定して拳を出せるようにしよう」
大体の実力が分かったので、アプスを人形代わりにしてパンチの出し方を教える。飲み込みがいいのか時間もかけず腰の入ったいいパンチを出すようになった。
パンチを出すたびに胸が揺れて、周りで訓練してる兵士達の視線が集まり、教官に怒られている。
「ただ腕を振るだけなのじゃが、なかなかうまくいかんのぉ」
カナンカのパンチをアプスが受けるが、拳に力が乗る前にそらす。ドラゴンのカナンカの体は頑丈なので、ヘナチョコパンチでも手に当たると痛そうだ。そらしては練習にならないので、手に当たる瞬間に衝撃を和らげるために、手を後ろに引くように言う。
しばらく続けて少し休憩をとることにした。
「ランドルフ様。一度私ともお手合わせをお願いできますでしょうか」
「お、いいね。部下の実力を知るのも上司の務めだよね」
「メイド服を着たまま戦うことにも慣れておきたいのです。あの気味の悪いハイエルフにも遅れをとりましたし」
最後の言葉はちょっときになったが……。なるほど、確かに必要なことだ。
武器はなし。ナイフを隠し持ってはいるが素手での戦いにすることにした。
「それでは行きます」
身長では負けてるからな~。素手で人と戦うのは初めてだから感覚がわからない。
アプスは掌底を顔めがけて容赦なく放ってきた。顔がちょうど狙いやすい高さにあるのだろうか、体は狙わない。だが逆にアプスもランドルフが小さいのでやりにくそうだ。
少し沈むようにかわして拳を下から思い切り振り上げる。かわされて隙だらけになり、勢いで飛び上がってしまった。だがそうなるのは分かっていたのでジャンプ回し蹴りをいれた。しかし足が短いのかとどかずかわされた。
その隙にアプスがお返しにと、ちょうどいい高さに的が来たと言わんばかりにミドルキックをいれる。
ランドルフはスケート選手のように回転しながら弾いて蹴りをそらし、地面にへばりつくように着地しながらそのまま回転して足払いを放つ。片足に当てることに成功し、引っ掛けることにはならなかったがアプスがバランスを崩した。
素早く起き上がりこぼしのように立ち上がりながら拳を突き出す。しかしその腕は持ち直したアプスに掴まれて、引き寄せられ脇に挟まれた。
「ぎゅ~♪」
突然アプスにハグされる。柔らかい感触に、濡れた土の香りがするいい匂いがした。
「むぐぅ、離せって!!」
「私の勝ちですね」
「俺の負けでいいから離せっ!!恥ずかしいわっ!!」
太ももをパシンッと叩いて驚かせた瞬間に抜け出す。
「ヒゥッ!!あ~ぁ……、残念です。最近抱きしめてないからいい機会だったのに……」
「それが狙いで組み手をしたのかっ!!」
「いいえ、ちゃんとした理由です。抱きしめたのはおまけです。別に順序は逆でもいいんですけど」
「クックック、やるのぉアプス。短い時間じゃったが参考になったぞ」
参考って何の?体の動かし方だよね?
「抱きしめるならデンを抱きしめてみろ、絶対気持ちいいから。カナンカも人の体になってそういう感覚もわかるようになったんだろ?」
「うむ。一度試してみるか」
カナンカは人型になってから六感が鋭くなったとか。早速デンの上に乗って抱きしめる。
「こ、これは……。確かにこのさらさらとした毛の感触、そしてぬくもり、日向の匂いまで。寝ている布団以上の心地よさじゃ!!」
デンをサワサワと撫でながら顔をこすり付けている。アプスも試してみて満足そうに撫でている。すっかり虜になったようだ。
訓練は中断し、カナンカがそのままデンの上で寝てしまいそうだったので部屋に戻る。
こうしてカナンカの日課に訓練と、デンを撫で回すことが追加されたのである。
その後、王様とジュレップにリバーシをもう二つ作って渡し好評を得た。権利を三人で分けて流行らせるようにする。ランドルフはお抱えの商人や、商会を持ってるわけではないので、販売は任せることにし発案者として利益からいくつかもらえるようにしてもらう。
作るのも簡単なので王家や辺境伯の家紋をいれてブランド物にした。生産も一つ一つが手作りで、こだわりのあるものにする。
広まったら大会を開くのもいいかもと提案もしておけば、より売れるかもしれないと言っておく。
もう島に帰ろうかという時にこんなものを考え付くなと怒られた。解せぬ。
話を色々詰めているとあっという間に一月が経ち、小さい規模ながら生産販売する工場を作った。
それだけでは物足りないと思ったのでけん玉やヨーヨーを教えておく。そしてまた怒られた。どちらも木で作れるのでいけるはずだ。
王都の鍛冶屋から連絡があり、島への移住希望者が一人いるとの事で早速会いに行く。
名前はムング。立派なひげを蓄えたドワーフである。
もともとは故郷から王都に出てきて鍛冶屋の品揃えを見て弟子入りしたらしい。
腕前も認められ長年勤めてきたが、故郷に戻ろうとはせず、ずっとここで働いていた。
理由は故郷では鋳造ばかりで、こちらのように鍛造はほとんど行っていないからだとか。
なぜその腕前を披露できるか分からない島で振るってくれると決めたのか聞くと。そろそろ歳だからゆっくり仕事したいとの事。
前回会った時に言っていた若い人ではない。そんな古参を引き抜いてもいいのかと聞くと。他にも同じくらいの実力者は何人かいるし、いつまでも古い物が居座ってたら若い者が活躍できないと言われた。元々自分の店でもないので気にするなとの事だ。
ありがたくお礼を言って迎えることにした。
そうこうしていると、ダークエルフの一団が王都まで無事に着いたようだ。100名以上の宿は取れないので、王様に許可をもらって王都の外で野宿してもらう形にした。来ることは分かっていたのに寝床を用意できなかった段取りの悪さを嘆く。ランドルフも城で寝ることはせず、ダークエルフと一緒にすごす事にした。
族長をはじめ村の人々の感謝され、ここまでの旅路をねぎらった。食料を買い込んで宴を開く。そこでもまた一人一人に感謝された。よほどひどい状況だったのだろう。決まった時点で早くこちらへ向かわせるべきだったと後悔した。
パブチスカ王国の現状について聞かされると、国家としてぎりぎり成り立っているように思える。北東側は被害が少なく農地も無事で安定しているが、南のほうはいまだに復興のめどが立っていない。瓦礫や泥まみれの畑が放置されている状況だと言う。
疫病被害は一人の治療師が薬を開発したとかで収まってきたが、このままでは経済の二極化が進みそうだ。そのことを王様へ族長とともに報告する。族長は王様にお礼をいい、持ってきた工芸品や薬、山で取れた魔物の毛皮や牙などを献上していた。
飛空挺の予定もあったので、二日後に出発だと伝えて今後の事も話しながら、疲れを癒しのんびりと休んでもらうことにした。デンは子供たちにもみくちゃにされ、カナンカは恐れ崇められ、暇だろうとリバーシを教えるとみんなはまってしまったので量産する。ジュレップも挨拶に来て感謝の言葉をもらっていた。
ダークエルフの中から二十人ほどが兵士として仕えたいと申し出があり、承認する。元々いた人数を合わせると四十名近くになった。錬金術に詳しい人に薬や薬草の事を聞いて、島に帰ったら紙作りに携わってもらうようにお願いする。
二日後。王様に挨拶をして城を離れた。馬車の周りをダークエルフの兵士達が併走する。ずいぶんと貴族らしくなってきたのではないだろうか。ちなみにカナンカはあれ以来デンの上に乗るのが気に入ったのか跨っている。
「ランドルフ君もたくさん部下ができて様になってきたんじゃない?」
考えていたことをジュレップに言われた。
「偶然とはいえ、これだけ人材を確保できたのは僥倖でした」
「ランドルフ君がしっかりと事件を解決して、機会をものにしたからさ」
「一人逃げられましたがジュレップ様達の助けがあってのことですから、申し訳なく思うところはあります」
「いいのいいの。こっちもランドルフ君のおかげでおいしい思いをさせてもらってるしね。遊具の件はもう少し詰めた話をしたかったけど……」
「それはカナンカのせいと言うことで」
「まっ、そういうことにしておこう」
久々にジュレップのその台詞を聞いた。
「聞こえておるぞっ!!」
ランドルフとジュレップはカナンカに聞かれて、しまったと言う顔をする。一緒に乗っているアプスがそれを見てクスクスと笑う。
王都郊外の飛空挺発着所について、馬車ごと乗り込む。前回と同じ荷物輸送の飛空挺なので全員何とか乗ることができた。
ランドルフ一行は辺境伯邸があるロコチョルへ向けて出発した。
お時間いただきましてありがとうございます。




