40話
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その後もなんだかんだと時間が過ぎ、王都に来てから約半年が経っていた。
島の様子も気になるので、そろそろ帰りたいと思った。
ジュレップは一度辺境伯領に帰っていたようだが、また王都に戻ってきている。恐らくこちらの事を気にしてのことだろう。
アプスたちのメイド修行も終えた。予定より少し時間は延びたが、及第点をもらって帰ってきた。だが城の中では特にすることも無く、部屋の中だけでの仕事となる。その内容は主にカナンカの遊びと酒飲み相手だが……。遊びと言うのはランドルフが作ったリバーシである。
「のうランドルフや」
「何でしょう?」
「この前色々遊びを知っていると言っておったが、どんなのがあるんじゃ?」
とおっしゃるのでダークエルフさんに頼んでリバーシを作ってもらった。凝った物は作らず、四角い木の板に升目を彫ってもらい、丸い駒を作ってもらう。遊び方は単純なので簡単に説明して遊ぶ。
「面白いのかの?よく分からんがとにかくやるぞ」
カナンカは自分の色に似た白色の駒を選び、盤上を白く染めてやると意気込んでいる。だが当然ランドルフも初心者に負けるわけにもいかないので、遊びとはいえ手を抜かない。
「のあっ!!白に染めておったのに一気に黒くされた!!」
「最初はそんなもんだよ」
「むぅ~。もう一回じゃ!!」
単純な面白さ故にあっさりとのめり込んでしまった。
アプスもやってみたが、アプスは黒色の駒を選び、カナンカと同じ事をしていた。今では部屋に帰るとメイドさんとカナンカの対戦をよく観察して、次は私と言わんばかりに席に着く。良い対戦相手になって仲良くなってくれたようだ。だがワインを飲みながら対戦するカナンカの勝率は悪い。本人はそれでも楽しそうなのでよしとしよう。
鍛冶屋に家紋入りのナイフと焼きゴテを取りにいく。出来ているというので早速ナイフを抜いて、刃の部分を見せてもらった。
「いい出来ですね。ありがとうございます」
飾り用のナイフだが、しっかりと作られていて実戦でも十分に耐えれそうだ。それをアプスに渡した。
「はいこれ」
「えっと?」
「そろそろ島に帰ろうかと思ってね。なのでこれを族長さんに渡して村の人たちを連れてきてよ。通行とかで融通利くでしょ?ずいぶんと待たせてごめんね?」
「い、いえ、ありがとうございます」
アプスの目が少し潤んでいる。
「勿論書面も書くけど、それを持ってたほうが確実でしょ」
「ご配慮感謝します」
いい笑顔でお礼を言われた。
次に焼きゴテを見せてもらった。
「注文通り出来てると思いますが。なにぶん秘密との事なので、誰かに試してもらうわけにも行かず……」
CDの大きさほどの焼きゴテだ。少し重たいが早速店の庭に出て火の玉をだし、熱してから木の板に当てた。ジューという音と焼けた木の香りが鼻を通る。彫りは深く作ってあるのでくっきりと円の中に文字が浮かぶ。ここまでは問題ないように思える。板の下から魔力を通して、魔法陣の上に物を置いてみると、しっかりと浮かんだ。
「馬車と同じ重さのものを置いていないけど成功だと思います。いい仕事をしていただいて感謝です」
「それは良かった。こちらも初めての試みでしたので、貴重な体験をさせていただきました」
サービスでしまえるようにと木の箱をもらった。
「もしよければなのですが。私、島の領主をすることになりまして、独立して鍛冶をやりたいという方がいらっしゃれば紹介していただければと」
「うちの若いやつでよさそうなのはいますけど、本人に聞いてみますのでお返事は後日でもよろしいでしょうか?」
「かまいません。よろしくお願いします」
感謝の気持ちを込めてお金を多めに支払い城に帰る。王様と会えるか予定を聞いてきてもらって、その間にアプスを族長のところへ向かわせた。族長とともに何名か村に戻り、早速こちらに来させるとの事なので許可する。川を利用すれば一月ほどで戻ってこれるとの事なので、明日にでもすぐに出発するようだ。
王様と会えるとメイドさんが教えてくれたので、焼きゴテを持って政務室へ行く。王様といつもの面子に挨拶をして早速見せる。
「既に試験して物を浮かせることができるのは確認済みです」
「試すのは当然だろう。どのくらいの量を浮かすことができるんだ?」
「少し余裕を持たせているので大人10人ほどでしょうか」
小さいエレベーターほどの積載能力であれば十分だろう。
「座席部分の下に焼印を押した木の板でも挟めば浮きますので。後はそれを横に動かないように固定してください」
「ふむ。後でやらせてみよう」
「こちらが簡単な説明書です。それと、そろそろ島に戻ろうかと思いまして、許可をいただきに参りました」
「ふむ……。まぁ、しばらくは何も無いだろうが―――」
―――長い沈黙が続いた。紙を探して手に取って見ながら何か考えているようだ。
「……許可しよう」
「ありがとうございます。それとダークエルフの輸送に関してですけど、来たときと同じように飛空挺を貸していただけないかと思いまして」
「もちろんだ、手配しておこう。後で日程を教えてくれ、調整する」
「わかりました」
他にも今まであまり話を詰めなかった島の事を話し合う。
裁量はランドルフが自由に行っていいし、しばらくはジュレップにお願いして今までのように軍を派遣してもらう。
下賜された船は型は古いが軍船と商船を改造した見栄えのいい貴族の船の二隻をくれるとの事。木綿の種と栽培してくれる人も手配してくれていた。
島の資金はなんと金貨一万二千枚もくれると言われたときは思わず聞き返してしまったほどだ。ありがたすぎて申し訳ない。
しかし、船だけもらったので人員はいないので雇わなければいけない。部下も増えるとお金がいるし、開拓するにしてもやはりお金がいる。カナンカのワインを含めた物資も支援してもらるが、最初のうちだけなので何とかそのお金で遣り繰りしないといけない。
「俺が呼んだらすぐに王都に来るんだぞ?」
「すぐにと言われても距離があるので簡単には……」
「わかったな?」
「はい」
相変わらず強引だな~。どれだけ気に入られてるんだよ。
お礼を言って部屋からでる。他へ挨拶もしなければいけない。
宮廷魔法士のお偉い方と軽く話をして挨拶をする。まずはフラロッスだ。
「ほっほっほ、今度はいつ会えるかの~。もっとじっくりと話をしたかった」
「フラロッス様とのお話は為になる事ばかりでした。感謝しております」
「またいつでも来なさい」
次にチェルベと挨拶をしたが、結局またゴーレム談話になって長い時間をすごしてしまった。
パトリームの部屋に行くと、相変わらず部屋は散らかっていて一人でゴリゴリと薬草をすりつぶしていた。
「私もついて行く」
何を言い出すんだこの人は。
「宮廷魔法士の仕事や研究もあるでしょ。無理ですよ」
「……わかった。残念」
「でもまぁ。いつかご招待しますよ」
「楽しみにしてる」
あれ以来強引な行動は控えるようになり、自然と話をできるようになった。内容は魔法の事についてばかりだが、職業柄仕方ないのかもしれない。
翌日の朝。族長達が出発するのを見送った。紙作りも一旦はおしまいだ。
研究所を片付けて部屋に戻ると王様から呼び出しが会った。今回はいつもの政務室ではなく後宮前まで来いとの事。
「こんにちはプレイリー子爵」
出迎えてくれたのは王妃様だ。
「わざわざ王妃様自らお出迎えとは恐悦至極に存じます」
「歩いてきたの?馬車は使わないのかしら?」
「まだ持っていませんので、やはり貴族になったからには持っておくべきでしょうか」
「当然じゃない。新興貴族だから今はまだいいけれど、品位を疑われるわ」
やっぱりそうか~。別に城からそれほど離れてないのにわざわざ馬車とか、貴族ってめんどくせー。
庭に案内されると、王様と王子様がテーブルでお茶を飲んでいた。
ムキムキな王様が優雅にお茶飲んでるとか似合わねぇ~。テーブルと椅子が小さく見えるし。
しかし動作に気品を感じさせ、イケメン顔も相まってバランスは悪いが絵になる光景ではある。
「さっ、座って」
王妃に勧められたので、挨拶をして席に座る。メイドさんがお茶を淹れてくれた。
「ランドルフと話がしたいというからな、時間をとったのだ」
王妃様と約束はしたがあれって社交辞令じゃないのかよ。
「島に戻るというのでぜひその前にプレイリー子爵と話をしたいと思ったのだ」
殿下が話しかけてきた。
あれ?王妃様じゃなくて殿下のほう?そういえば王妃様も前にそう言ってた気がする。俺の勘違いだったか。
「私の事はランドルフとお呼びください殿下」
「ではランドルフ。私の事もスペロテスと呼んでくれ」
「分かりましたスペロテス殿下」
名前言いにくいんですよ殿下!!そのうちステロペスとか言い間違いをしそうで怖い。
その後王様と王妃は静かにお茶を飲みながら見守り、殿下とたわいも無い話をした。今まで似たような質問の内容だったので返答も楽だ。
「一人で生き抜いて来たというのはすごい。私には到底出来そうもないよ。君の年の頃は着替えですら侍女に手伝ってもらっている有様だったんだ」
「王族や貴族の方々はそれが当然でしょう。私には逆にそれが慣れていないので少し困っています」
「なかなかに優秀なダークエルフを侍女にしたと聞いているよ。泥棒を捕まえるのに協力した人とか」
さすがにその程度の情報はみんな知っているか。
「ええ、なぜか恩義を感じたらしく、甲斐甲斐しく世話をしてくれます」
「身の回りの世話も出来て、護衛としての腕前もあるというのはいいね。私も検討しようかな」
殿下も戦うメイドさんの良さを分かってくださるのか!!同士よ!!
なんでもメイドさんに対して戦えるようにするという発想はないらしい。そもそも家の事でいっぱいなのに戦えるように仕込むのも時間がかかるし、怪我をして本来の仕事ができなくなれば本末転倒である。大人しく家の事だけしておけというのが普通だ。
だが身近な存在であるが故に何かあったときに護衛としても最適なのは確かだ。だがそうなると本職の護衛からの反発もあるという。しかし逆に、ムキムキマッチョで暑苦しい護衛の人に世話をされるのはそこはかとなく遠慮したい物がある。難しい問題だが自分の考えを述べる。
「別に完全に侍女の仕事をさせる必要はありません。勿論出来ることに越したことはありませんが、特に殿下の場合は身を盾にしてでも護ってくれる存在というのは大事でしょう。部屋の中にまで常に護衛を入れさせているというわけにもいきません。来てくれた相手を威嚇してしまいます」
クレイブルは常に王様と政務室にいるがな。それを体験しての発言だぜ。
「時にはそれも必要なことだと思うが」
「確かに場合によりけりかもしれません。ですが私は静かに一人で政務をこなしたいですし、男とずっと一緒に部屋にいるというのは嫌です。でしたらお茶を淹れたり連絡をとったり食事を運んだりと頻繁に顔を合わせる存在が戦えるというのは心に安心を得られるのではないでしょうか?そういった者が廊下を歩いているというだけでも警備としての役割もあるかと思います。護衛をして気配りに意識を置いているというのは大事です」
「なかなかな力説を披露してくれたね」
「訓練させる内容も室内戦闘を意識したものにすべきかと」
「おもしろいと思う」
「例えば皆さんがそのような意識をお持ちということは。訪れた人はまさか侍女が戦えるなどとは思っていないということ。ついでに人となりを観察して伝えてくれる人などを育成すればよいと考えます」
「訪れた人がどのような人物かを知らせるというのはたまにやるが……。意表を突くのは確かに良い案だが、時間がかかるな」
「しかしやる価値はあると思います」
「ふむ、父上?」
「何人か希望者を募って極秘にやらせてみるのもおもしろいかもな」
おっしゃー!!俺の意見が通ったどー!!
「獣人などの身体能力の高い種族を主にした部隊にされたほうがよろしいかと」
「ランドルフは面白いことを考えなさるのね」
「王妃様の護衛に女性騎士が付いておられるを見てよいのではと思いました」
嘘だけどね。
「なるほど、似たような感じか」
殿下が感心している。そろそろ政務に戻ると王様が言うのでお開きになった。
「なかなか面白い時間をすごせたよ。ありがとう」
「こちらこそこのような場所に呼んでいただけたこと、光栄に思います。恐れながら殿下の事を兄のように感じました」
「私にも弟がいるが、ランドルフのように気軽だと楽しいと思ってしまったよ」
「仲良くなれて何よりだわぁ」
「また会おう」
殿下と仲良くなれたし、今度この城に来る頃には戦うメイドさんが増えているだろう。
お時間いただきありがとうございます。




