39話
とある屋敷の地下にある薄暗い場所に、トクルマティアは連れてこられていた。
「着きましたよ」
ゲザケインが地下の一室の扉を開ける。大きなテーブルを囲うように何人かが立っている。見えているだけで5人いる。
「遅れましたか?」
「いや大丈夫だ、久しぶりだなゲザケイン。だけど何人か欠席しているから君達で最後さ」
「それはすみません。お久しぶりですな皆様」
周りをちらりと見て挨拶をする。
「で、お前がトクルマティアか」
「そうだ」
話しかけてきた中央の対面に立っている男はリーダーなのだろうか?鎧を着た騎士と言った言葉が合うだろう。
「レスタイト王国で一騒ぎ起こしてきたと聞いているよ」
「……だが最後はしくじった」
「君自身は何も失敗はしていないと聞いているよ。お金をたんまり手に入れたとか」
かもしれない。だがついてきた仲間はみんな捕まった。
「実力はあるようだし、我々の仲間になるのであれば歓迎しよう。皆もいいよね?」
「別に、足を引っ張らなければそれでいいわ」
ローブを着た女エルフが言う。
「ははは、お前なかなかしなやかでいい筋肉をしているな!!後で俺と戦おうぜ」
ピンと上に尖った獣の耳をした男の獣人が言う。
「別にお互い利用し合えればそれでいい」
「どうでもいいの早く帰って実験したいのですが」
残りの二人は興味なさそうにしている。
「と、言うことだがどうする?」
「行く当ても無いしな。ゲザケインに助けてもらった借りは返したい」
「義理堅いんだね君は」
「ヒヒヒッ」
「じゃあ今後ともよろしく。一応私がまとめ役となっているけどみんなお互いが相互利益の為に集まっているだけだから。その辺はゲザケインから聞いているとおもうけど、引き続きゲザケインの元でがんばってくれ。この屋敷は好きに使ってくれてかまわないよ。こちらから仕事を頼むかもしれないしね」
「わかった」
「各々の名前は知りたかったら自分で聞いてくれ。それじゃ、顔も覚えたことだし解散って事でいいかな。さっさと帰りたい人もいるみたいだし」
その言葉を聞くとスタスタと皆出て行った。そのときにちらりと話し声が聞こえた。
「死体が増えたからそろそろ引き取りに来てくれない?こっちは調べ終わったしもういらないわ」
「おお!!助かるよ。そろそろ素材が足りなくなってきたんだ。種族は?性別は?」
けっ、聞いてるだけで胸糞悪い。いかれてるだろ。
トクルマティアは心の中で毒を吐く。部屋を去ろうとすると獣人の男に声を掛けられた。
「この後暇なら一勝負しないか?」
「私は先に帰りますね」
「私も失礼するよ」
ゲザケインと鎧の男は先に出て行った。
「俺はガブストンって言うんだ、見ての通り狼の獣人だ。元々漁師だったが、今は戦うのが好きで主に海賊や山賊として暴れまわっている」
「トクルマティアだ。ダークエルフで、ずっと山に住んでいた。レスタイト王国の王都で盗みをやっていた」
「いいね~。で、どうだ?」
「……まあいいか」
「そうこなくっちゃな!!」
アプスには魔道具を使って勝ったが、今の俺の実力はどれほど通じるのか知りたい。今までのように山の中ではなく、色々な世界を見てうまくやってやるっ!!
屋敷の庭に出て二人戦い、実力を認め合ったのであった。
朝息苦しさでランドルフは目が覚めた。柔らかい物で顔を挟まれている。
「ぷはっ!!おいっ、前にも言ったじゃん!!」
「おはようございます旦那様」
「起きてたならやめてくれ」
「久々ですし、可愛い寝顔でしたので」
照れながら慈しむようにランドルフの頭を撫でる。その手が振り払われた。
「やめんかっ、たたき出すぞ!!あと旦那様じゃないからね」
「申し訳ありませんランドルフ様」
顔はニコニコとしていて全然申し訳なさそうじゃない。
「ほら、さっさと辺境伯の屋敷へ戻れよ」
「もう少しだけ……」
「アプスにとってメイド修行はその程度だったと」
「ひどいですそんな言い方……。でもわかりました、旦那様のためにがんばりますね」
「旦那様はやめろ」
アプスは目の前で服をすばやく着替えて「行ってきます」と言って部屋を出て行った。
「そしてこいつは、あれだけ叫んでいたのに普通に寝てるし」
「すぴぃ~」
カナンカはランドルフの腕につかまって寝ている。
「おぃ、起きろ。王様にお前の事言いに行かないと、起きろって」
「ん、なんじゃランドルフ。全然寝足りんぞ」
「今は竜の姿じゃなくて人の姿だから。今までは何年も寝てたんだろうけど変えていこうな」
「むぅ~」
ランドルフはカナンカに、羽だけでも邪魔だからどうにかならないかと言い、何とか小さく収めることには成功した。尻尾もビタビタと叩きつけないように注意し、角で枕や布団に穴を開けないように、そして寝返りに注意するように言い聞かせた。
「人の体はまだ慣れておらんのでな、窮屈で不便なのじゃ。じゃがこの布団というのはなかなかによいものじゃの~」
布団から出て可愛くあくびをし、アプスに手直ししてもらった背中の開いた服を着て、はいたロングスカートから尻尾が出ている。アプスに着方を教えてもらい覚えたのだが、寝ぼけているのかもたもたして躓きそうになっている。
「歩くのは慣れたぞ。山で少しは練習しておったからの」
「走れるの?ってここでは走らないでね」
「わかっておる。走ることは出来るぞ」
「とにかく人と一緒に暮らしたいなら人の習慣を覚えよう」
「この姿で酒が飲めればいいだけなのじゃが……。昨日は元の姿のまま飲んでしもうたしの」
やっぱり酒か。酒のために覚えたのか。
「ちゃんとしないとお酒飲めないよ?」
「それは困る。ちゃんと学ぶのでよろしく頼むぞ」
「まぁそこは王様に聞いてみよう。教えられる人なんて俺知らないし」
ランドルフも着替えて準備し、メイドさんに王様へ会えるか聞いてみる。王様が朝食を一緒にどうだと言うことだが、カナンカを一緒に連れて行くのはまずい気がする。失礼かもしれないが食後に時間があればお願いすると伝えてもらい、カナンカの分の食事も部屋へ持ってきてもうように頼んだ。ちなみにメイドさんはカナンカの事については何も言われなかった。
「服を着て歩いてみるとやはり動きづらいの~」
「そこは慣れてもらうしかないね」
昨日は試着してすぐに寝たので、カナンカは部屋をぐるぐると歩き回り着心地を試していた。やがて食事が運ばれてきた。一緒にナイフとフォーク、そしてお箸の使い方を教えて食べ方を教える。
「うまい!!人間の食べ物はこのようにうまいのか!!」
「そういえば今まで何食べてたの?」
「別に何も食べなくてもよいが、食べるときは肉をそのまま齧り付いておったの~」
「さすがドラゴン。野生的だな」
ナプキンやテーブルを汚し、前掛けをしていたので服は汚れなかったが、食べ物を落としたり、落ちたものは食べないように教えたりと一筋縄ではいかない。
「食べ物は美味しいがいちい面倒臭いの~」
「まぁまぁ。慣れないと料理をおいしく静かに食べれないかもね」
正直俺も面倒臭いと思うけどね。美味しく食べれればそれでいいじゃないとは思う。
「それは嫌じゃ!!」
「みんなやってるのにカナンカだけ出来ないとそうなるよって話」
遠まわしにマナーを守らないと後ろ指差されると説明したがわかっただろうか?
「むぅ~。美味いものを食べるためには致し方なしか」
「そうそう、だから頑張って。俺も出来る限り教えるから」
何故そうしなければならないか分かってなさそうだが、がんばる姿を微笑ましく思いながら、その後も教えた甲斐もあって、カチャカチャと音を立てながらも使えるようにはなってきた。
しばらくすると、政務室に来るようにと言われたので向かう事にした。
政務室に行くと王様が椅子に座っていた。宰相もいる。いつもの面々だ。
「で、なんだランドルフ。何かやらかしたのか?」
藪から棒に王様に謂れの無いことを言われる。
「いえ、やらかしてはいませんが、厄介ごとがやってきました」
「厄介ごととは失礼な!!訂正するがよい!!」
カナンカのことだとは言ってないが、自覚あったのか。
ランドルフの後ろから現れた、白く美しくも特徴のある角・翼・尻尾を持つ女性が声をあげる。その姿を見た王様達は何かを察したようで、まさかといった顔をする。
「俺が呼ぶまで下がってろって言ったじゃん」
「お主が邪険に扱うからじゃ!!」
「もしかして、守護竜様でございますか?」
「うむ、如何にもじゃ。カナンカでよいぞ、シュタルクよ」
やはりそうなのかと驚く王様達。ランドルフが軽く説明をした。
「なんと言っていいのか……。まさかお酒をたくさん飲みたいからとは……」
「竜の力の一端を見ましたな……」
「そうであろうそうであろう。なのにランドルフときたら文句を言いおるのじゃ」
王様と宰相の驚いてる様子に機嫌を良くするも、ランドルフに対してぼやく。
「とにかく、カナンカに人としての常識を教えてくれる人がいないかと思いまして」
「何を言っているんだランドルフ。お前にカナンカ様との交渉役を命じたんだからお前がやれ」
「おっしゃることはごもっともなのですが、私も疎いところがございますので」
「だとしてもいつもはジュレップのところに行くじゃないか」
「私がこの国について教えてもらったのはパティスさんでしたので……」
チラチラと宰相のほうを見るランドルフ。パティスに頼めないかと合図を送る。
「パティスは今は居りませんので無理ですぞ。私としてはやはりランドルフ殿がお教えするべきかと思いますが」
「やはりお忙しいですか。せめて他に誰かいらっしゃればと思ったのですが」
「守護竜様との親睦を深める意味でもランドルフ殿のほうがよろしいかと」
「それはそうだな。ランドルフ、やはりお前がやれ」
「ぐぬぬ~」
自信ないぞ。ただでさえおかしな子供とか言われているのに……。
「我もランドルフから教わりたいぞ」
「うぇ!?」
「決定だな。まっ、がんばれ。何事も勉強だ」
「はぁ……、わかりました。お時間戴きましてありがとうございました」
まっ、そうだよな。しょうがない、とにかく自重することを先に教えよう。経験者は語る、だな。
失礼して部屋から出ようとしたが、カナンカは何か用事があったようだ。
「終わったのなら我にも言いたいことがある」
「なんでしょうか」
「お酒を飲ませてくれ」
マイペースなカナンカの言葉に間が空いた。
「……そうですな、そのために人の姿をとられたのでした。分かりましたランドルフのお部屋にお持ちするように伝えましょう」
「うむ、頼んだぞ」
「それとカナンカ様の事は城のものに伝えておきますので、自由に城を出入りしてもらって結構でございます。ランドルフが責任を持ってカナンカ様のお世話をするように」
「……はい」
すでにお世話してるけどね。お城の人たちも特徴的な姿だから、見れば一発でカナンカとわかるか。
「それでカナンカの扱いは客という扱いでよろしいでしょうか?」
「それでいい」
「秘密にしておく必要とかは」
「……無理だろ」
王様はカナンカの容姿を見て言った。
美人で真っ白だし、特徴的な部分が多すぎて確かに目立つよな。
「何かあれば言え、力にはなる」
「礼を言うぞシュタルク、では戻るとするか。ほれ、行くぞランドルフ」
「……はぁ、すみません王様。ありがとうございます。失礼いたします」
ランドルフの部屋に戻ってきた。カナンカは早速布団に飛び込んで寝転ぶ。
「世話といっても何をすればいいのやら……。カナンカ」
「ん~?なんじゃ?」
「とにかく人間は竜に比べて脆いから手加減してね。あと建物とかもね。それと分からないことがあったら俺に聞くこと」
「わかったのじゃ」
さっき料理を食べていたときに、力の加減は分かったみたいだし大丈夫かな?
「一人で出歩かないように。もし急な用事があったとしても誰かに必ず一言伝言をしてからね」
「わかっておる、迷惑をかけるつもりは無い」
「ならいいんだけど」
そのときドアをノックされたので開けると。兵士の方々がさっそく酒樽を持ってきてくれた。それを見たカナンカは布団から起き上がって酒樽を奪い取った。兵士が四人がかりで運んできたものを軽々と持つ。
「おいこらっ!!すみません、せっかく持ってきてくださったのに」
「いえ、そちらの白い龍人の方が守護竜様というのは陛下から聞いておりますので、お会いできて光栄であります」
「ほらカナンカ、ちゃんとお礼を言いなさい」
「ご苦労である!!」
「おぃ!!」
「お気になさらず。我々はこれで失礼します」
「すみません。ありがとうございました」
パタリとドアが閉められ、振り返ると。既に樽のふたを開けてコップでワインをすくい上げ、一人でのんでいた。
「美味いっ!!」
「それはようござんした」
さすがに人の姿で一樽を簡単には飲み干すのはしんどいだろう。フタを開けたままだとワインが酸化してしまうし、保管する温度もあわない。
ランドルフは樽とフタに魔法陣を書いて、空中の魔力を使って温度を15度以下に保つようにした。飲んだらちゃんと密閉する様に言うが、適当に返事をされた。
「ぷは~!!」
一口飲むたびに機嫌のよさそうなカナンカを見ていると、こちらもなんだかほっこりする。見た目は大人のお姉さんなのに、どこか子供っぽさが抜けていない感じも、ギャップがあっていいとランドルフは思った。
しかしランドルフが研究所に行って紙の様子を見たり、デンと広場で訓練したり、ジュレップの屋敷に行ったりしている間もずっと部屋で一人で飲んでおり。夜帰ってくるときには樽の底が見えるほどまで減っていて、夕食の間も一人でグビグビと飲み続けていた。
「おいカナンカ、飲み過ぎだって」
「どらごんのとぉきにくりゃべたらぜんぜん飲んでおらぬのじゃ~」
「まぁ、そうだけど。酔っ払ってるし、そろそろ寝るから今日はおしまい」
「むぅ~ん。ねるのじゃ~」
たくさん飲めてうれしかったのかね~?
そのままテーブルに伏せて眠ってしまった。仕方ないので布団まで運ぶ。ちなみにお姫様抱っこはしない。いや、できない。対格差があり、重たいので魔法で浮かして運んだ。
ランドルフも布団に入って眠る。布団の中は酒臭かった。
お時間いただきましてありがとうございます。




