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37話

パトリームさんが(ry


基本的にアプスさんはランドルフに付きまとっています。怖くないよ。


 国中から王都に人が集まっていた。普段でさえ活気のある王都だが、その日は一段と賑わいをみせていた。


 『お城の広場に降り立って、一吼えしてくれればいいんだってさ』

 『あまり気乗りはせんがの~。おぬしが困ると言うのなら仕方がない』

 『ありがとうカナンカ。助かるよ』

 『うむ、しかと感謝するがよい』


 渋ってはいたが、ランドルフにお礼を言われて機嫌がよくなった守護竜様。


 「守護竜様は大丈夫だと言っていたか?」

 「はい、いつでも迎えに来いと」

 「うむ。もうしばらくお待ちいただくように伝えてくれ」


カナンカに伝えて念話を終了した。


 カナンカを迎えに行くまで暇なので、城の近くをうろうろしていると、人々が続々と広場に集まってきている。御偉い方も席に着き、守護竜が現れるのを待っている。

 ジュレップの屋敷に預けてメイド修行をしているアプスも、人が多くなるこの日ばかりはこちらに来て護衛をしたいと言ってきたので了承する。と言っても騎士達がいるのであまり出番は無いと思うが、ランドルフの後ろを付いて歩く。

 

 「すごい人だね~」

 「私も詳しいことは知りませんが、隣の国であるパブチスコ王国まで、レスタイト王国の守護竜の伝説は伝わっていますから、実在したのか見たい人は多いでしょう」

 「やっぱり他国からも人が来てるのかな?」

 「噂の真偽のほどを確かめに来ている輩はいるでしょう。パブチスコ王国以外は封鎖はされていませんので」

 「そういえばアプスはどうやってこっちに来たの?」

 「商人として普通に検疫を通過してこちらにやってきました。薬もありましたので。ですが密入国している人もかなりいるようです」


 国境警備がばがばかよと思ってしまうが。南の森を通ってこられたらどうしようもないよな~。長い川を常に見張る人員を配置できるわけでもない。海を回ってこられてもどうしようもない。疫病被害が出てないことだけは救いか。そもそも病人が移動できる体力があるかは厳しいか……。


 アプスと話をしていると、こちらをじっと見ている人物に遭遇した。パトリームだ。


 「やっと会えた」

 「私は会いたくなかった」


 ストレートに思いを伝えた。


 「ひどい。何故?」

 「何故って、会っていきなり血をよこせとか、皮を剥ぐとか言う人とか怖すぎてね」

 「なに!?」


 ランドルフの言葉に危機感を持ったのか、前でて武器を構えて警戒するアプス。


 「宮廷魔法士第二席の方がそのような危ない方だったとは」

 「あなた誰、いきなり失礼」


 お前が言うなっ!!


 一度は会っているはずだが、パトリームのほうはアプスの事を覚えていないようだ。


 「ランドルフ、話がしたい」

 「いいえ、遠慮しておきます。この後守護竜様を迎えに行かねばなりませんので」


 まだ少しなら時間の余裕はあるが、相手にすると何をされるか分からないので遠慮する。


 「ランドルフ様は話したくないとおっしゃっている。お引取り願おう」

 「あなた邪魔」

 「護衛ですので。危険な方を旦那様に近づけるわけには参りません」


 旦那様?


 「危険じゃない。ランドルフとは接吻をした仲」

 「なっ!?」


 やはりあれはキスだったと。アプスさんこっちを睨まないでくれます?敵は目の前ですよ?


 「どういうことですか旦那様!!そういうのは私に言っていただければいつでも受け入れてますのに!!」


 違う、そうじゃない。そこじゃないよアプス。


 「旦那様って何?」

 「そんなことは今はいいのです!!あの危険な女と接吻をなされたことについて詳しくお聞かせ願いたい!!」


 フッ、と勝ち誇った顔をするパトリーム。どういうことかとランドルフの肩を掴んで前後に揺するアプス。


 「接吻してあなたの体を調べるとかいって強引に唇を奪われたんだよ」

 「な、なんてこと!!」


 パトリームをギロリと睨んで敵意をむき出しにするアプス。


 「嘘はよくない。私を押し倒して顔を目の前に近づけていた」

 「旦那様!?」

 「嘘をついてるのはお前だ!!こいつ自分で心臓止めたから助けないといけないと思って助けただけだ!!俺からしたわけじゃない!!」

 「目が覚めた時、唇に感触が残っていた」


 なんて都合のいい記憶なんだ。だがそこはあながち嘘だと言えない。ざわざわと騒ぎを聞きつけて、人が集まってきた。


 「肺に直接空気を送って息を吹き返させたんだ!!人命救助だよ!!いかがわしい発想をするな!!」

 「だ、旦那様はやはり唇を……?」

 「何を聞いてたんだ……。人命救助だよ。そういう目的は一切無いっての」

 「ほっ、つまり事故なのですね?事故でも問題ですが……、この女が嘘をついているということはわかりました」

 「ひどい、あんなに激しく接吻を交わしたのに」


 途中から話を聞いていた人は、ランドルフに向かって侮蔑の視線を投げる。


 「蘇生して起こしたときにお前が強引に奪ったんだろうがっ!!」

 「なっ!?」

 「目の前に顔があったのでつい」

 「つい、っじゃねぇわ!!ってか認めたな!!初めての接吻だったのに!!」

 「なななっ!!?」


 この女……。さすがにイラッと来るな。


 アプスはわなわなと拳を握り、怒りで体が振るえている。


 「とにかくそんなことばかりいうので私はお話したくないのです」

 「よく分かりました旦那様。さっさと離れましょう」

 「だめ、逃がさない」


 おい、こんなところで魔法を打つつもりか!?


 パトリームが杖を取り出し、ブツブツと静かに呟くとパトリームの周りに水が現れる。


 「上等です。旦那様の唇を奪った事、後悔させてやりますっ!!」


 アプスは魔法を打たせまいと攻撃に出たが、突風に押されて近づくことができない。


 「「「おお~!」」」


 ギャラリーが二つの魔法を同時に操っていることに驚きの声を出す。


 ダブルキャスティングってやつか。さすがハイエルフで第二席。歳は伊達に食ってない。


 風で押されているアプスの足に、水玉が当たる。すると風が止み、水玉によるダメージがないのか、すぐさま飛び掛ろうとしたが、足が動かなかった。


 「くっ、何だこれは!!」

 「粘性を高めた水」

 「とりもちかよ!!」

 「殺さないだけマシ」

 「旦那様だけでも早く逃げてくださいっ!!」


 命の危険はないだろうが、こんなくだらないことでアプスを見捨てていくわけにも行かない。仕方がないので少しお仕置きしようかと考えたとき、人ごみを割って杖をついた一人の老人が現れた。


 「ホッホッホ。若い者は元気があってよろしいの~」


 宮廷魔法士第一席のフラロッスだ。


 「ジジイ邪魔」

 「まぁまぁパトリーム。話は聞かせてもらったがおぬしが悪いぞ?」

 「……」


 少しは悪いと思っているのか、黙り込むパトリーム。


 「じゃから普段から研究所にこもってないで人と話をしなさいと言うておる」

 「めんどくさい」

 「そんなことを言って人と会話をしなかったからこうして嫌われることになったのじゃろう。どう話していいか分からないからといって強引に迫ってはならぬ」

 「……」


 いや、コミュ症ってレベルじゃねぇよ!!


 「さっ、わかったら彼女の拘束を解いて差し上げなさい」

 「……わかった」


 パトリームがぼそぼそつぶやくと、アプスの足にまとわりついていた水がただの水になり、地面を濡らした。


 「お嬢さん、ランドルフ君すまんの~。彼女は人と話すのが苦手での~。つい思ったことをそのまま話してしまうのじゃ。許してやってくれ」

 「はぁ……」


 ランドルフはあっさりとアプスの拘束が解けたので気が抜けたが、アプスはパトリームを睨みながら警戒を緩めない。


 「パトリームも謝りなさい」

 「……話がしたかっただけ。そこの女が邪魔したから」

 「じゃからといって守護竜様をお迎えする祭典で騒動を起こすのは褒められたものじゃない。ましてや宮廷魔法士第二席じゃろう?」

 「……」

 「さっ、謝って大人しくいているのじゃ」


 パトリームは謝りもせずダッとその場を走って去っていった。


 「あっ、おい!!」

 「放っておきなさい。一人で考えさせるのもよい薬じゃ」


 追いかけようとしたが、フラロッスに止めらられた。


 「すまんの~二人とも。彼女に代わって謝罪する」


 いきなり頭を下げようとするフラロッスを慌てて止める。


 「いえ、フラロッス様が謝るのはおかしいです」

 「そうです。あの女が謝るべきです」

 「しかしの、彼女の面倒を見てきたものとして謝罪をせねばの」

 「……せめて人の少ないところに行きましょう」


 公衆の面前で偉い人に謝罪をさせるべきではない。城へ場所を移して話を聞いた。


 なんでもパトリームはエルフの王族だったらしい。だが幼い頃から魔法や植物に興味を持ち、研究ばかりしてきたと言う。周りの言うことにも耳を貸さず、研究ばかり行って、王族の責務を果たそうとしなかった彼女は、やがて王位継承権を剥奪され国を追い出されたと言う。


 そのとき引き取ったのが、たまたまエルフの国に勉強に来ていた若きフラロッスだった。彼女は研究ができるならとレスタイト王国へやってきた。腐ってもハイエルフ、実力は十分備わっていたので、そのまま今までの身分を捨てて宮廷魔法士の座へとついたのである。回復薬や病気に効く薬を主に研究していて、水と風魔法が得意で土魔法は魔力が通りにくいから苦手だとか。


 「だからといってランドルフ様に行った仕打ちは許されません!!」


 いつの間にか名前呼びに戻ったアプスは、それでも許さないと叫ぶ。


 「場所も悪かったしの。彼女には謹慎を言い渡すとしよう。大好きな研究ができないとなれば彼女も少しは堪えるだろう」


 どれだけ研究大好きなんだよ。


 「私は別に謝罪してくれればとやかくはいいません」

 「うむ、寛大な心に感謝する」

 「ランドルフ様がそうおっしゃるのであれば……」


 不機嫌そうなアプスだが、渋々と納得する。


 「よければ彼女と仲良くしてやってくれ。あれほど人と話をしたがるなど今までなかったことじゃからの~」

 「私の何がよかったのか分かりませんが、態度を改めてくれるならかまいません」

 「ちゃんと伝えておこう」

 「ランドルフ様はすばらしいお人なのですから、たまにはそういう輩が現れるのも仕方ありません。私も今後の護衛に身が引き締まる思いです」


 ニッコリと笑顔を浮かべるフラロッス。


 すばらしくないから。そうそうあんな人がいてたまるかっての!!


 「ホッホッホ。長々と話をしてすまんの~。では式典に戻るとするかの」


 フラロッスと分かれて、王様のいる場所に戻った。






 王様に呼ばれると家族を紹介された。なんでも大変名誉なことだと言う。


 「ランドルフ、紹介しよう。私の妻のシャンタルだ」

 「お久しぶりねランドルフ君」

 「お久しぶりでございます王妃様。相変わらずお美しい」

 「お上手ね」


 柔和な笑みを浮かべる王妃。


 「なんだ知っておるのか」

 「以前廊下でお会いしまして。あの時は王妃様とは知らずご無礼を」

 「あの時いいって言ったでしょ?蒸し返すのは失礼よ?」

 「申し訳ありません」

 「シャンタルも気に入った様子で何よりだな。時間も迫っているのでさっさと続ける。次は息子のスペロテス」


 見た感じ二十歳にもなってないであろう純粋そうな青年だ。きっと時期国王になる人だろう。


 「よろしく、ランドルフ子爵」

 「お会いできて光栄です殿下」

 「長女のアマービレと次女のリアファーレだ」

 「「お見知りおきを、ランドルフ子爵様」」

 「こちらこそ、花のように美しいお二人にお会いできたことに心がときめいております」

 「こらランドルフ。娘を口説くな」

 「これは失礼を」


 二人の娘は言われなれているのか、ニコニコした笑顔のままで「ありがとうございます」と一言でさらっと流した。


 「もう一人次男がいるのだが、今は国外で勉強中だ。では早速だがお迎えを頼むぞ。ちゃんとお背中に乗って現れるのだ」

 「ん~。やっぱりそれだと私が飼いならしているとか勘違いされません?」

 「それならそれでいい。守護竜様は特に反対はされておらんのだろう?」

 「ええ、まぁ……」

 「こういっては失礼だが、利用させてもらおう」

 「少し心配なのですが、快く思わない人がプレイリー子爵は反逆するかもしれないとか、この国を乗っ取ろうとしているとか騒ぎませんかね?」

 「なんだ?乗っ取るのか?」

 「いえいえ!!そんな面倒臭いことしませんって!!」

 「クックック。なら言わせておけばいいだろう」

 「なんでそんなに私を信用してくれるんです?」


 これはずっと前から疑問に思っていたことだ。ジュレップが手紙で大丈夫だと伝えたとしても、強大な力を手に入れたとわかればどうなるかわからない。


 「会って話してからの印象だな。本人を前にして言うのも申し訳ないが、お前は野心がない。向上心はまぁ……あるかもしれないが。忠誠と言うよりも平穏に過ごせるなら別に何でもいいといった感じだろう?」

 「そんなところですね」


 だいぶ失礼なことを認めてしまった気がする。忠誠はどうでもいいと認めてしまったのだ。


 「クックック。お前はきっとこちらが害さない限り自分から乗っ取ろうなどと言わないだろう。さっき自分で言ってたじゃないか『面倒臭い』ってな」

 「本当に面倒臭いんですもの。今でさえ島でのんびりすごせたらいいと思っているのに、管理しないといけないなんて出来ればやりたくないです。人には会いたかったですけど……」

 「管理してくれないのは困るがな。私にしてみればお前は扱いやすいのだ。力もあるし知識もある、言ったことにも素直に従ってくれるし便利なのだ」

 「酷い言いようですね」


 クスッと笑ったランドルフ。正直に答えてくれたことに少しうれしさを覚える。悪い気はしない、信用してくれているのだ。


 「頼りにしているとも言うな」

 「先にそれを言ったほうがよかったですね」

 「クックック。今は守護竜様の事、頼んだぞ」

 「はい」








 ランドルフはジャスタ山に向かって飛んで行った。


 「父上。ランドルフ子爵は面白い方ですね。領地や権力を手に入れたのに面倒臭いとは。確かにそうかもしれませんが、自分の思い通り好きに出来ると言うのに」

 「ああ、抜けてはいるが頼りになるぞ?お前も仲良くしておけ」

 「はい」

 「ランドルフ君可愛いものね~。あなた、今度お話してもいいかしら?」

 「別にかまわないが、周りの目には注意しろよ?」

 「わかってるわ」

 「お前達はどう思った?」


 二人の娘にシュタルクは問いかける。


 「のほほ~んとしてすごい方だとは思えません」

 「私も同じ意見です」

 「クックック。まぁそうかもしれんな」


 ランドルフが飛んでいった方向を見ながら守護竜様の到着を待つのであった。

祭典の話を広げるつもりだったのにパトリームの話になってしもうた。


カナンカ:「解せぬ」


お時間いただきましてありがとうございます。

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