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30話


 「ふぁ~あ。眠い。だけど集中して探さねば」


 ランドルフは今、夜の王都の上空から街を見下ろしていた。月明かりも薄く、明るいところは、大通りの街灯がぽつぽつと灯っている程度である。


 「デンのフサフサの毛が俺をまどろみへと誘う~。ナンテワルイコナンダ、デンハ~」


 干された布団のようにデンに跨って、やる気があるのかないのかわからない状態だ。しかし、しっかりを暗視の魔法を発動させて様子を探っている。

 兵士達も巡回しているのがわかる。彼らは明かりを持っていない。隠れてながら移動し、自らそこにいることをアピールしないためなのだが、逆に泥棒も探しにくい。なのでかなりの所々に人数が潜んでいる。


 王様は本当に警戒を強めたんだな。特に貴族街は前よりも人が多い。ならば商業区のほうを探すか。


 姿を消して高度を下げ、ふよふよと浮かびながら上空を巡回する。辛抱強く地道にがんばるしかなさそうだ。








 アプスは王都に着いて、まず商人として薬を売り、工芸品を販売しながら情報を集める。どうやら数日前に盗みが行われてからは大人しくしているようだ。それ以外にも、酒場や組合に行って、住むのによさそうな場所を調べる。


 まずトクルマティアを捕らえて、その功績をもって王様へ謁見する。一族からの謝罪として族長の首で収める。集めた、移住に適した場所の情報を元に、その功績をもって住むための許可を得る。苦しいがそれでもなんとかするしかない。

 だがそれもまずは、トクルマティアを捕らえてからの話だ。


 「どこにいるんだトクルマティア……」


 そろそろ月の隠れる夜だ。暗いときを狙うならそろそろだろう。問題はどこを狙うのか……そもそも王都にいるのかどうかもわからない……。しかし王都にいる予感はする。

 あの時やつらは金を手にはしたが、豪遊などはしていない。食料を買ったときの金の動きでばれそうになったのを警戒しているからだろう。王都では使わないはずだ。

 ならば溜め込むはず。物を運ぶための馬車くらいは買うだろうが、前回盗まれたのは金貨ではないという話だ。次は資金を集めるために盗むだろう。

 王都で盗んだ金を溜め込み、他の場所へ移ってそこで使うはずだ。そのときを狙う。


 アプスは姿を消す魔道具に魔力を込め、屋根の上から異変がないか探すのであった。








 「いいか。次ぎ狙うのもヌケーマ伯爵の所だ。そろそろ間取りも覚えただろ?」

 「へへへっ」「違いねぇな」「楽勝だぜ」


 その言葉に覆面達は笑い出す。


 「警備は見たところ人数が増えたが相変わらず内側はスカスカだ。今までと同じように個人個人で金貨だけを狙え。王国の兵達も潜んでいるがこの魔道具があれば位置がばればれだし今回も楽勝だろう」


 今までと違ってかなりの兵士達が潜んでいる。だが暗視の魔道具によってその位置は丸裸にされている。高台から見張っているやつらも姿を消す魔道具を使えばばれることはない。


 「余計なことはするなよ?物は奪うな。捌くのが面倒だ。そういうのはヌケーマ自身に任せておけばいい。金が減ったことで自分の収集品を売っているらしいからな」


 覆面の一人が「その金を俺たちがまた盗むんですね」と言うと、馬鹿にした笑いが起きる。


 「ああそうだ。だがこれで終わりだ。魔道具があるとはいえ、さすがに警戒する人数が増えてきた。それにそろそろ金を使って遊びたいだろう?」

 「やっとですかぃ」「今まで我慢してきたんだ」「派手に遊びたいぜ」


 覆面たちが騒ぎ出した。


 「盗んだら身を潜めて朝まで待機、街の門が開くのを待ち、金を持って郊外に用意してある馬車に乗り込め。俺はそこで待っている。そのまま移動するから遅れるなよ?」


 皆無言のまま頷いた。


 「月の隠れる明日の夜に決行だ。しっかりやれ」


 そして解散し、ひとり静かになった。


 さて、アプスは釣られて俺を捕らえにくるのか楽しみだな。逆に捕らえてあの体を楽しみたいところだが……危険だし殺すか。あの堅物には散々なめられっぱなしだしな。まともにやれば俺が勝つ!!


 年齢はアプスのほうが上で、姉貴分であり、族長の息子ながらトクルマティアはいつも下につかされ、窮屈であった。知識も経験もアプスのほうが上だが、身体能力はトクルマティアのほうが上である。なのにアプスにはいつも勝てなかった。それが気に入らない。


 「もし来るなら遠慮なく殺す。そして俺は自由を手に入れる」


 一人決意を固めるのであった。









 ん~、結局昨日は現れなかったな~。だとしたら今日か明日か。俺の睡眠時間のためにも早く出てきてくれ~。


 ランドルフは今日も上空から見下ろしていた。雲も出ていて大通り以外は真っ暗闇である。


 前回ヌケーマ伯爵の商会から盗まれたし、また同じ所からって事はないだろう。この辺りはいいかね~。……ん?ん~~??


 外は警備の兵がたくさんいるが、敷地内はぐるぐると巡回している兵士が数人いるだけなのだが。ランドルフはそこではなく窓を見ていた。


 窓が勝手に開いた?んん?


 開けた人は見当たらない。兵士達もそれに気づいていない。じっくり観察することにした。


 窓が勝手に閉まった。なんだ?換気なのか?そういう魔道具があるのか?


 魔道具なら魔力が微弱ながら発生しているはず。しかし感じ取ることはできなかった。


 なに?どういうこと?幽霊か?


 しばらくするとまた窓が勝手に開いた。


 むっ?感じ取りにくいが今度は微かに魔力が……魔力が移動している?何もいない……まさかっ!!


 あわてて降り立つランドルフ。屋敷から外に出てきた魔力の動きに向かって体当たりをした。


 「うっ!?」


 ドサッ


 微かにうめき声が聞こえた。


 幽霊じゃないっ!?


 「散開!!逃げろっ!!」

 「デンッ!!匂いを追って捕まえて!!」

 「ウォフッ!!」


 近くにいたすばやく離れていく他の二つの反応に向かって、追いかけるように命令する。上空へ火の玉を打ち上げて兵士達に場所を知らせた。その間に体当たりを食らって、倒れてると思われる反応に近づく。


 ガキンッ!!


 「「っ!?」」


 ランドルフと隠れている相手から驚くような声が聞こえ、バリアを張っていたため食らうことはなかったが、何か攻撃されたようだ。


 こちらも姿を消しているのに!!闇雲に振り回した攻撃にあたったか!?ならば小範囲に攻撃だっ!!


 電撃を回りに発生させると、パチパチという音と光が発せられる。警備していた兵士が近づいてきた。

 ランドルフは姿を現し、地面にある反応にバリアを張りながら手を伸ばす。


 「おい貴様!!そこで何をしているっ!!」

 「怪しいやつを捕らえました」

 「なんだと!?」


 ランドルフが触った感触は布のようだった。それを手に取ると相手が姿を現した。覆面に仮面を付けた格好をしている人物がしびれて動けない様子だ。


 「自分はパンターナ辺境伯の者です。こいつが犯人の一人のようです」


 袋に入った金貨がばら撒かれている。ぞろぞろと他の兵士達も集まってきた。

 手に取った布を調べてみる。


 これは……布にびっしりと文字が書かれている。ただの文字ではないな。魔法陣でもない。だが原理は同じっぽいな。文字事態に魔力が極々わずかに感じられる。インクに魔力……定番だと魔石の粉末かな?


 「詳しい話をお聞かせ願いたい」


 警戒しながら兵士の一人が話しかけてくる。


 「それよりも相手は姿を消して、複数います。逃げているやつらを追わないと」

 「それは他の兵士に任せてください。貴方の身元も確認しなくてはなりません。ご協力を」


 ちっ、こんなときに。もうちょっとちゃんと協力体制をしておくべきだった。デンも気になるが……。


 「街の門はしまっていますよね?」

 「はい、それは当然です」

 「そうですか、では行きましょうか」


 門が閉まっているなら簡単には逃げられないはず。空を飛ばれたら終わりだが、難しいって言ってたしな……。安心はできないが、倒れているやつから情報を得られればいいか。








 詰め所に案内されると、ジュレップがいた。近衛団長のおっさんもいた。なんでだろ?とりあえず会釈しておく。


 「ジュレップ様、引き続き犯人を追わせてください。まだやつらは王都に潜んでます」

 「落ち着いてランドルフ君。まずは状況を話て。こちらは王都の警備を任されている王国軍のミード子爵」

 「はじめましてランドルフ君。王都セルリアの守備を任されているミードだ。よろしく」

 「はじめまして子爵様。ランドルフと申します」

 「さっそく詳しい状況を教えてくれないかね」


 ランドルフは泥棒を捕まえたときの状況を話した。


 「姿を消すとはやっかいな。あのダークエルフがつけていた仮面の縁にも文字が刻まれていた、なんだかわかるかね?」

 「見せてください」


 目だけを覆う黒い仮面を渡された。その仮面の裏の縁に文字が刻まれていた。


 文字というよりも文様か?細かい装飾も施されているしこれは……小粒の魔石?


 「……文字はよくわかりませんがこれは……推測ですが暗闇でも明るく見える魔道具でしょうか? 目に集中して光を集めるようにできていると思います」


 縁に刻まれている文字が、仮面の目の辺りまで集中して魔力を送るように伸びている。俺の使う暗視とはまた別のタイプだ。


 「ふむ。研究室に調べさせよう」

 「姿を消したり、暗闇でも見えるようになるとかどういう原理なんだ?光というものをランドルフ君は理解しているのか?」

 「詳しくはわかりません。それよりも犯人は複数います。今デンにも追ってもらってますがまだ帰ってきません。行かせてください」

 「大丈夫だ。最悪門は封鎖しておくから。商人たちは怒るだろうがな……」

 「ランドルフ君は魔力でその魔道具を感じ取ったと言ったよね?」

 「はい」

 「……ミード殿。門は開けたほうが良いかもしれません」

 「ジュレップ殿どういうことだ?」


 ん?何で開けるんだ?


 「逃げるつもりなら門を必ず通らなければなりません」

 「しかし門は三つあるぞ?」

 「あからさまですが、ひとつだけ開けましょう。そこを通るやつをランドルフ君に捕まえてもらいます。門が開くまでに探して捕まえられればよし、出て行く反応がなければまだなかにいるということ」

 「ジュレップ様、私が感じ取れたといってもよく注意しての事です。一人でずっと気を張り詰めているのは限界が……」

 「朝が来るまでに他の犯人をできるだけ見つけましょうそれで負担は減ります」

 「そんなむちゃくちゃな~」


 そんなの冗談だろ!?ニヤニヤしてやがるし!!


 「ジュレップ殿。いくら陛下から協力しろとお達しがあったとはいえ、このような子供には酷ではないのか?」


 そうだそうだっ!!もっといってやれっ!!鬼っ!!悪魔っ!!


 「外に手引きしているやつがいるかもしれませんので、それにも注意しなければなりません」

 「ジュレップ殿は泥棒はもう王都では犯行を行う事はないと考えていらっしゃる?」

 「ええ、さすがに警備も厳重になり、今回のようなことが起きました。収まるまで離れるのは自然な考えでしょう」

 「潜伏し続けるという考えは、捕らえたものがいる時点でありえない……か」

 「少なくとも反応は二つありました。ですが他はどうかわかりません」

 「それについては、尋問しているがうまくしゃべれない様子でな」


 ぐぬぬっ、しびれさせすぎたか……。


 「すみません」

 「いや、よくやってくれたよ」


 そのとき遠吠えが聞こえた。


 「デンだっ!!行って良いですか!?」

 「私とクレイブル殿も行こう」

 「私はここで待機している。何かあればすぐ動けるようにしておこう」

 「お願いしますミード殿」

 

 外へ出て火の玉を打ち上げると、返事をするようなタイミングで光が見えた。急いでその方向へ向かう。すでに数人の兵士達が集まっていて、デンは誰も寄せ付けないように、倒れた二人の覆面をとられないようにしながら、ランドルフが来るのをじっと待っていた。


 「デンッ!!大丈夫だったか!?」

 「うぉふ!!」


 尻尾を振って駆け寄ってくる。怪我がないか調べてみたが大丈夫そうだ。


 「よくやったぞデンッ!!」


 頭を撫でると、こちらの顔を舐められた。


 デンが離れると兵士達は覆面達を取り押さえた。ジュレップが覆面をはがして確認する。姿を消す布状の魔道具は焼け焦げていた。仮面ははずしているようだった。


 「こいつらもダークエルフだねぇ~」

 「ダークエルフで構成された一団ということですかね」

 「その線が濃厚って所だね」


 クレイブルはじっとこちらを見守って、何もしゃべらない。


 「後何人いるのか吐かせましょう」

 「では一旦戻ろうか」

 「私は一度、陛下に報告しに戻らせていただく」

 「わかりました」


 クレイブルとはその場で別れ、俺達は詰め所で尋問する為に戻った。


お読みいただきありがとうございます。

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