28話
お時間をいただき、ありがとうございます。
ふんふふ~ん♪ふふふ~ん♪
ランドルフは王都にある、パンターナ辺境伯のお屋敷で穏やかな日々をすごしていた。
ロコチョルで買った、風を起こす棒状の魔道具でデンをブラッシングしていた。使い方は間違ってる気がするが気にしない。
デンは伏せて目を細めながら、毛を逆なでにされて気持ちよさそうな顔で、今にも眠ってしまいそうだ。
王様に会い、ヌケーマ伯爵に難癖をつけられてからは特に何も騒動は起きていない。泥棒を捕まえようと思い、屋根の上から遠見で探っていたが。ヌケーマ伯爵に会ったその日に、ヌケーマ伯爵の運営する商会に盗みに入られたらしいとジュレップから噂を聞いた。何でも今回は金貨ではなく物が盗まれたらしい。模倣犯なのか実行犯が変わったのか、謎は深まるばかりである。それから数日。泥棒は何の動きも見せていない。
「平和が一番。何もなくのんびり過ごせる方がいいよね~」
ジュレップは今日も王城に行って、ランドルフの今後についてアドバイスをしている。当の本人は屋敷の庭でのんびりとしているが……。
「よしっ、俺も昼寝しようっ!!」
デンに寄り添って芝生に寝転ぶランドルフ。泥棒を捕まえるために夜遅くまで探っているので、育ち盛り(?)には辛いため、睡眠が必要なのだ。
紙の製作実験も泥棒優先の為に行っていない。
楽に探るために一度だけ空間把握をしたが、頭の中に入ってくる情報量が多すぎて、頭痛がひどく眩暈がした。それに他の家のプライベートな事まで入ってきて雑念がひどくなる。何せ夜なのだ。深い意味は無い。
それからというもの、遠見の魔法や暗視などを頼りに探る方向に切り替えた。それを毎日である。
今日から屋根の上からではなく、王都上空に飛んで、真上から見下ろして探す方法にする。その為にも今はたっぷりと睡眠をとり、英気を養うのである。
仕方ない、これも泥棒を捕まえるためなのだ。スヤー。
お昼も過ぎ、小腹が空いてきた頃、戻ってきたジュレップに声を掛けられた。
「ランドルフ君起きてくれ」
「んぁ?なんでしょうかジュレップ様」
「急な事で申し訳ないんだが、陛下の都合がちょうどいいのでね。郊外でカナンカ様に会うことはできないかな?人との感覚と違うとはいえ、そろそろ待たせすぎるとお怒りになられるかもしれない」
「待たせとけばいいんじゃないですか?一月二月待たせたとしても、ドラゴンにとっては一瞬の出来事ですよきっと」
半分寝ぼけてるランドルフは、どうでもいいと言わんばかりに適当に返事をする。
「そうかもしれないけど、会えるときに会っておいたほうがいいかと思ってね。こちらの都合でお越しいただくのは忍びないのだが……。君も顔を見せて約束を守るという意思を再確認させたほうがいいと思う。そういう感じでうまく伝えてみてくれないかい?」
貴方の事を気にかけてますよアピールってことかな?
「たぶん気を使うほど、そういう細かい事は考えてないと思いますが……。わかりました。よっと!!」
ランドルフは起き上がり、意識を集中させる。
前に感じたカナンカの魔力を思い出し、どこに居るかはわからないが、その魔力に向けて想いをぶつけるつもりで、電波をイメージして魔力を上空に打ち上げる。
『カナンカ、聞こえたら返事をして。カナンカ~』
『ん?ランドルフか?ちと声が大きい、音量を下げてくれ』
『一発で通じたか。……こんな感じ?どお?』
『ちょうどいい具合になった。して、連絡をくれたということはもう行くのかの?』
『ちょっと事情があってさ、こっちにきてくれない?顔も見たいし。王都の郊外にってわかるかな?』
『顔が見たいとなっ!?我の事を気にかけてくれていたのか!?霊峰から見下ろせる位置にあるからすぐいけるぞっ!!』
うれしそうだな。ドラゴンでもやはりこういう付き合いみたいなのは必要ってことなのか……。ジュレップ様さすがだ。
王都から西側にある山脈が、カナンカの住む霊峰ジャスタである。その霊峰の頂上に住んで、見守っているとされているが故に『守護竜』と呼ばれているのだが。本人は住み心地が良かったから住んでいただけで、別に守っているつもりなどはなかった。
『来る時姿を消してきてくれない?騒ぎになったらまずいしさ』
『何故我がコソコソと隠れるようなまねをせねばならんのだ?』
予想通りの返答がきたよ。めんどくさいし適当にごまかそう。
『カナンカって銀色でかっこよくて綺麗だしさ。そんなドラゴンがいきなりきたら、みんな群がってきちゃうよ?』
『かっこいい?我は綺麗なのか?』
『うん、きらきら光ってて綺麗だしさ。目立っちゃうんだよね』
『そ、そうか。我は綺麗か。ならば篤と我の姿を見るがいい!!』
どこかうれしそうな、照れているような声で返される。
そうなっちゃいます?だめだっていってるじゃん。
『だから、人が群がってきたら邪魔でしょ?綺麗な姿は俺とか親しい人だけに見せてよ』
『なに?それは我を独占したいということか!?』
何故そういう考えになったのか。
『もうそれでいいから。とにかく姿を隠して来てほしいんだ』
『し、しょうがないな。うむ。だが、姿を隠してといわれても、我は姿を消したことなど一度もない。なので隠し方がわからぬのだ』
『ん~……。わかった俺が迎えに行くよ』
『む、迎えに来てくれるのか!?』
なぜか興奮気味の銀色ドラゴン。
『え?前会った時、自分でそういってたじゃん?』
『そうであったな!!では、待っておるぞっ!!』
いきなりプツっと通信が切れてしまった。
「そんなわけで迎えに行ってきます」
「ん?カナンカ様をお出迎えするんだね?では私は陛下にお伝えして、郊外にお出になってもらうよ。一時間後でかまわないかな?」
「わかりました。では早速行ってきます」
デンに跨って山頂付近に着いた。
「寒い。空気が薄い。もうちょっと結界内の環境を整えられるように練習しよう。高山病も怖いしな」
今まで飛んできた場所とはまた違った環境だ。島の北にある大きな山は、ここまで寒くなかったし、高さもなかった。飛んでいる最中は、常に結界を張っているので気にしてはいなかったが、降りてみると環境の違いに驚く。
そりゃ前にベネディッタさんが怒ったのもわかるわ。こんな格好じゃ、魔法がないと無理だ。デンは割りと平気そうだな。
カナンカを探し、あたりを見渡すランドルフ。
「雪がたくさん残っているな。それにとても静かだ。ここが住みやすいって絶対嘘だろ」
カナンカの銀色の体と、山肌の色や雪の色がいい具合に保護色になっているのか、なかなか見つからない。
『お~ぃ、どこにいるんだ?着いたんだけど』
『もう着いたのか?む?この短時間で魔力を悟られないようにするのがうまくなったの~。……どれ、起きるとするか』
雪の中から太陽に照らされて反射する、綺麗な銀色をした体が姿を現す。雪崩が発生してしまったようだ。
『隠れんぼじゃないんだから……なんで埋まってるの』
『おぬしに初めて会った時から待っておったら、いつの間にか寝ておったわ。ちょっと寝足りぬが、よい昼寝だったわ』
くぅ~っといった感じで伸びをするカナンカ。
初めて会ったのって半月くらい前じゃなかったか?それを昼寝って……ドラゴンの感覚はよくわからん。
『カナンカってどれくらいここに住んでるの?』
『さぁな。覚えておらぬ。少なくともおぬしが王都と呼んでいる場所が無かった事は確かじゃ』
建国前だとすると、1000年以上前というのは確定だな。
『でもさ、こんな静かで寒い場所に住まなくても……』
『我が寝る前はこれほど寒くはなかった。穏やかで暖かく……そういえばずいぶんと山が高くなった気がするの~』
山が高くなったってなにそれ。寝ている間に地殻変動でも起こったことかよ。
『そもそもなんで守護竜なんて呼ばれてるの?』
こいつに関する御伽噺なんて知らないからな。ちょっとした疑問だ。
『我にもわからんのだがな。おそらくじゃが……、元々ここを寝床としておったのだ。この山の麓も昔は森だったのだが、あるとき突如、地凱竜がうるさく荒らしに来よってな。その森はなくなってしもうた』
んん?ん~、森?もしかしてパブチスコ王国の南の熱帯雨林がこのあたりまであったのか?いやいや、そんなに広い森がなくなるなんてそんな……。だとしたら今と環境が違いすぎるじゃない?きっと別の森のことだろう。
『地面をぼこぼこぐらぐら動かしたり、あまりにもうるさいので吹き飛ばして懲らしめてやったのだが、そのときに人間がいたような気がせんでもないの~』
『たぶんそれじゃないかな~。森だったって事はそのとき村とかはなかったんでしょ?』
『うむ。しかしその後、追い返しても何度かしつこくやってきおってな。しょうがないので喰らってやったわ』
地凱竜を喰らうとな……。きっと感謝した人たちがそこに住み始めたとかじゃないだろうか?実際はどうなのかわからないので推測に過ぎないが……。
『それから他に何もこないか様子を見ておったら、いつのまにか村ができたんじゃったかの?』
『それからずっとここで寝てたの?』
『うむ。問題ないようなので寝ておった。しばらくして寒くなってたきたのじゃが、多少は我慢しておったのだ。だがいい加減目が醒めてしまっての。そのときに我と同じような魔力を持つもの。つまりおぬしの事だな。近くを通る反応があったので見に行った次第』
どれだけ眠ってたんだよこいつ……。薄着で魔法で守ってるとはいえ、この寒さを多少って……。ドラゴン恐るべし。爬虫類みたいに変温動物じゃないのか。
『ドラゴンがすごいということがわかりました』
『ドラゴンがすごいのではない。我がすごいのだっ!!』
『お、おぅ』
きっと人間だったなら、それは良いどや顔だったであろう。
『反応があったって言ったけど、近くといってもそれなりに離れてたと思うんだけど、魔力をうまく探るコツってあるの?』
『生物から発せられる魔力の波を、薄く広く、じゃが密度は濃く、洩れないように空気になじませて、自然に溶け込ませる事を常に心がけることじゃな』
『日ごろの訓練の賜物か。要するに慣れってこと?』
『簡単に言うとそういうことじゃな』
『それにしても敏感すぎやしない?』
『伊達に長生きはしとらんということじゃろう。寝ているときにもそれができたら一人前じゃな』
カナンカは自慢げに話し、軽快に笑った。
『いくら我が最強だからといって、警戒を怠ってはいかん。世の中にはおぬしみたいな奴もおるしの。油断すればいつか痛い目にあう。それが自然界で生き抜くコツじゃ』
『まあそうなんだろうけど。俺はむやみに攻撃したりはしないよ』
『おぬしはそうかもしれんが、そうでない輩もおる』
弱肉強食の世界か。
『それで、そろそろ行かなくてもよいのか?』
『そろそろ一時間くらいたったかな?んじゃ行きますか~。せっかくだし背中乗せてってよ。姿消す魔法も使うし』
『簡単に背中に乗せるか、と言いたいところじゃが特別じゃぞ?感謝せい』
特別といいながら、うれしそうな反応をするカナンカ。その背に乗って王都へ向かうのであった。
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