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250話 ナダン君怒る

前回のお話:つるつる滑ったらしいよ。 なんだか楽しそうだったって小っちゃな子が思ってたらしい。


 ランドルフは朝一にガラクタを回収して島へと戻り、材料を倉庫に入れて手を加えた後、そのままムングのいる鍛冶屋へと向かった。


 「親方、こっち上がりました」

 「おう、先に組み立てとけ。後で見に行く」

 「へいっ」

 「グッズさん、これなんですけど」

 「……あ~、こりゃダメっすね。ばらして削り直した方が早いっす」

 「やっぱりですか。わかりました、そうします」


 鍛冶屋は随分と賑わっていてムング達は忙しそうである。


 「ムングさん、これ直してくれない?」

 「べこべこにへこんでますね。旦那さんと喧嘩でもしたんですかい?」

 「そうなのよ。うちの馬鹿亭主がガサツでね」

 「だからってお鍋で叩いちゃ駄目ですよ」

 「じゃあ今度から桶で叩いとくわ。で、直りそうかしら?」

 「……」


 タイミングを見計らってムングに声をかける。


 「ちわっすムングさん、例のやつ倉庫に入れて少しだけ加工しときましたよ」

 「お、来やがったな。奥さん、夕方には直しときますんで取りに来てください」

 「よろしくお願いします」

 「……相変わらず忙しそうですね」

 「どっかの馬鹿野郎が面白そうなことばかりやらせるおかげだな」

 「そんなに褒めないでくださいよ」

 「ちったぁ、老骨を労われと何度言わせたらわかるんだっ!」

 「じゃあ温泉でも行ってきてくださいよ。支払いはこっちでいいですし」

 「……まあ、考えておく」


 グッズに全部任せてたまにはそれもいいかなと思ったらしい。


 「なんにせよこれで進められるってもんだな」

 「お待たせいたしました。よろしくお願いします」

 「とりあえず若ぇもんには例の奴を使って溶接の練習させてるがよ、もうちっと調節がきかねぇか? 溶接事体はできてるが、やっぱり表面が汚いからよ、削るとその後の処理が必要になるだろ」

 「考えてはいるんですが、今はアレでやってもらうしかありません。どうせ後処理はしないとだめですしね」


 あれこれで話をしているので周りの人には何のことかさっぱりだろう。だが人前で話すにはこのぐらいでちょうどいいのだ。


 「しゃーねぇか。とりあえずガワからやっていくぞ?」

 「お願いします」

 「もっと例の奴と保護メガネの数をそろえてくれ」

 「また戻ってきたらやっときます」


 アプスが差し入れを置いていき、その場を後にした。







 「相談役、こちらの書類に判子をお願いします」

 「そこに置いといてちょうだい」

 「こちらは嘆願書です」


 屋敷に戻って執務室へ向かうと、渡された書類をぱらぱらとめくって内容をざっと確認しているベネディッタが目に映った。


 「もうちょっと重要そうなものだけ上げてくれないからしら? これくらい裁定官の所で裁いてほしいわね」

 「わかりました」

 「……これはランドルフ君にやらせるわ。以上?」

 「はい」

 「じゃあ頼んだわね」


 ベネディッタも何かと忙しそうである。


 「たでーま」

 「ちょうどいいところに帰ってきた。これ読んでおいて。あとこれ纏めといたから判子お願い」

 「へ~い。アプス、お茶を」

 「はい」


 自分の椅子に座ると書類に目を通して判子を押す。


 「向こうはどう?」

 「今のところ順調ですよ。リントゥス伯爵とは現状のまま取引は済ませられそうです」

 「何なら狩った素材を押し付けて借りを作ってきなさいな」

 「そうですね、何が欲しいか聞いて見るのもありかと思います。……ん? 狩りをして借りを作る……なるほど」

 「はぁ~、くだらないことばかり言って……。で、パンターナ辺境伯の方はどう?」

 「昼から向かう予定ですよ」

 「贈り物は喜んでくれたかしら」

 「ええ、大層喜ばれてました。お祝いは一月後になりそうです」

 「わかった、それで仕事量を調整しとくわ」

 「……」

 「どうかした?」


 黙り込んでいたランドルフはふと気になったことをベネディッタに聞いてみた。


 「この仕事どうです?」

 「急にどうしたの?」


 クスッと笑ったベネディッタが手を止めて、ランドルフの前までやってきて近くにあった椅子に座った。


 「いえ、頼りになるなーと思いまして」

 「そうね……」


 じっと監査するように相手の目を見て口を開いた。


 「学者から転向して私が屋敷に籠りっぱなしの仕事ばかりで辛くないか気になったってところかしら?」

 「……かないませんね」


 誤魔化してみたのだがあっさりと心中を見抜かれてしまい、観念して思ったことを吐露することにした。


 「窮屈じゃないですか?」

 「最初は私にできるかと迷いや不安はあった。けど街が自分の思った通りに発展していくのは面白いわ。もちろん失敗することもあるけど、人を動かしたり育てたり、自分もまだまだ成長できてると実感するとやってよかったって思える。人間関係に気を使わないといけないのは仕方ないけど、自分でも動かないと人はついてこないし、言うだけじゃダメなのよねー」

 「そうですね」

 「その分責任も大きいけど、結構やりがいを感じてるのよ?」

 「もし失敗してもその責任は全部俺に押し付けてください。それが上に立つ者の役目だと思ってますので」

 「押し付けないように頑張るわ」

 「いつもありがとうございます」

 「変なランドルフ君」

 「散々変な人って言われてますからね」

 「そうね」


 またクスッと笑うベネディッタに大人の色気を感じる。


 「でもランドルフ君はそのままでいいと思うわ。そりゃ、突拍子もないことをやったり信じられないことをやってのけたりするけど、全部いい方向に繋がってると思うの」

 「そうでしょうか?」

 「私はそう思ってるわ。って前にも似たような話しなかった?」

 「そうでしたっけ?」

 「失礼します。お茶をお持ちしました」

 「ありがとう」

 「……何話されてたんです?」


 勘のいいアプスが柔らかな空気を感じ取って話に割り込もうとするが、何でもないと言ってごまかしておいた。

 それから少々浮ついた気分で小一時間ほど仕事をしたのち昼食を取ってからパンターナ家へと向かうのだった。






 パンターナ邸にやってくると、庭でジュレップとその息子であるナダンが剣術の訓練を行っていた。


 「ほら、強いと思った一撃が来たら受け止めずに受け流すんだ」

 「ふっ!」

 「足が止まってるぞ」

 「はっ! ……せぃっ!」


 ジュレップの攻撃を必死で受け流したナダンが反撃に出る。だが木剣を回転させるようにして受け流し、そのままナダンの頭に振り下ろされた。


 「ぐぁっ!」


 一撃を受けたナダンがあまりの痛みに剣を落としてうずくまった。


 「ここぞという時まで剣に力を乗せたらだめだよ。もっと強弱をうまく使って相手を翻弄するんだ」

 「いたたたっ」

 「いつまでも痛がってないですぐに立ちなさい。実践では相手は待ってくれないよ」


 傍から見ても実践的で厳しい指導に思える。

 母親のモナティアがその様子を何かをこらえるようにぐっと見つめているのが印象的だった。


 「こんにちは」

 「ランドルフ君、よく来てくれた。おい、エレインを呼んできてくれ」

 「はい、ただいま」


 エレインを呼びにメイドが足早に去ってゆく。


 「少し休憩だ。ナダン、プレイリー子爵に挨拶なさい」

 「こんにちは……プレイリー子爵」


 頭を押さえながらも相変わらずランドルフを睨みつけてくる。


 「ランドルフ君、いらっしゃい。エレインが首を長くして待ってたわよ」

 「それはそれは、今から言い訳を考えておかないと」

 「ランドルフ~!!」

 「遅かったみたいね」


 遠くからエレインの声が聞こえたので、考える時間がなかったとがっくりと肩を落とすと、モナティアがクスクスと笑った。


 「も~! 今日来るって今日のいつ来るのかちゃんと教えてよっ!」

 「そんなに俺に会いたかったの?」

 「っ!?」


 顔が真っ赤になるのが自分でもわかるのか、堪えるようにランドルフを睨みつけて手を挙げた。


 「も~!!」

 「あはは、痛いってば」

 「こらっ、止めなさいっていつも言ってるでしょ! どうして貴女はそう乱暴なのっ!」


 ポカポカとランドルフを叩くエレインが注意を受けるのも毎度のことである。


 「ランドルフが揶揄ってくるから悪いのにー。あ、アプスさんこんにちは」

 「こんにちはエレイン様。相変わらずお元気そうですね」

 「元気で健康なのが一番でしょ?」

 「確かにその通りです」


 他意はないが純粋返し方にアプスがクスッと笑った。


 「ねぇねぇ、また魔法教えてよ。ちょっとわからないことがあってね」

 「もう、エレインったら」

 「相変わらずランドルフ君のことになるとより活発になるねぇ」


 ランドルフの袖を引っ張って屋敷へと連れて行こうとする。

 だがそれを止める男がいた。


 「お待ちください姉上」


 エレインの弟であるナダンである。


 「……なに?」

 「プレイリー子爵、不躾ですが、私と一試合お願いできないでしょうか」

 「ほう」


 そう感嘆したのはランドルフかジュレップか、二人して面白がっている顔をしている。そしてエレインは邪魔をされたことで不機嫌になっていた。


 「どうしたのナダン? 突然そんなことを言ってはランドルフ君に失礼よ」

 「止めてやるなモナ。ナダンも男なんだよ」

 「あなたが何を言ってるのかさっぱりわからないわ」

 「あとでゆっくり語ってあげよう」

 「まあっ!」


 ジュレップがモナティアに邪魔をされないよう、腰を引き寄せて自分の近く来させるとモナティアの顔が赤くなって誤魔化されてしまった。


 「ナダン、止めておきなさい」

 「止めないでください姉上。私にも意地があるんです」

 「何よそれ。醜い嫉妬の間違いじゃないの?」

 「ぐはっ!?」


 姉を盗れまいとする弟の心に痛恨の一撃が刺さった。姉の為を思っての行動だったが的確に急所を突かれて裏切られてしまった。


 「くっ、だが負けられません。プレイリー子爵、この試合で私が勝ったら姉上との婚約をなかったことにしていただきたい」

 「何を言ってるのよ!」

 「わかった」

 「ちょっとっ!?」


 エレインが慌ててランドルフの肩を揺さぶっている。


 「じゃあ婚約は止めて今すぐ結婚することにするよ」

 「あっ……」


 またまた顔が赤くなるエレインだが、すぐにナダンを揶揄っているのだと分かった。


 「そういうことじゃないっ!」


 分かってて言ってるのでランドルフがニヤニヤと笑っている。

 そういうところがあるからナダンはどうにもランドルフに良い印象を抱けないでいる。


 「も、もう、ナダンはすぐに冗談を真に受けるんだから」

 「時が許すならすぐに結婚したいという気持ちは本当だけどね」

 「へあっ!?」


 耳元で囁かれると下を向いて頭から湯気が出そうなほどエレインの顔が赤い。

 そしてその様子をナダンに見せつけるという性格の悪いランドルフだった。


 「旦那様、その辺になさいませんと後ろから刺されますよ?」

 「……その時はお前が守ってくれるんだろ?」


 今度はアプスを引き寄せて耳元で囁く。するとアプスの顔がふにゃふやにふやけてしまった。


 「はにゃ~、もちろんでしゅ~……」

 「おお、お前のそういうところが私は好きになれないっ!」

 「男に好かれてもなぁ~」

 「くっ、ああ言えばこう言うっ!」

 「貴族なら雄弁な弁舌も必要なのさ」

 「どこが雄弁なんだっ!」


 すっかりランドルフのペースに乗せられているナダン。

 ジュレップはまだまだだなと思いつつもさりげなく目配せしてメイドに椅子を用意させていた。


 「とにかく姉上から離れろっ!」

 「ってナダン君が言ってるけど」

 「むっー! ランドルフが勝つんだから止めなさい」

 「姉上……」


 ランドルフの腰にしっかりとしがみつくエレイン。それを見たナダンが哀れみ、そして救い出すといった決意を秘めた目に変わった。


 「勝負しろっ!」

 「まあいいけど、俺が勝ったらどうするの?」

 「……姉上との婚約を認めてやる」

 「その言い方だと結婚の時にはまた試合を申し込まれそうだね」

 「よくわかったな」

 「ふっ、どうやらすでに負ける気でいるようだ」

 「なに? ……ち、違うっ! 私は絶対にお前に勝つ!」


 言葉をやり返せたと思っていたナダンだったが、それすらも罠であり嵌められたと気が付いて慌てて訂正する。だが先ほどまでの決意が少しばかり揺らいでしまった。


 「まだまだナダンはこれからだねぇ。見苦しいかもだけど、せめて負けた時のことを考えるのも将の務め、ぐらい言い返せばいいのに」

 「ナダン、頑張りなさ~い」


 生暖かい目で両親に見つめられているナダンは木剣を構えてランドルフ切っ先を向けた。


 「エレインちゃん、ちょっと離れるね」

 「う、うん」


 どっちの心配をしているのか、エレインは落ち着かない様子である。


 「お前も剣を取れ」

 「あまり剣は得意じゃないので素手でいいよ。魔法も使わない。そっちはご自由にどうぞ」

 「馬鹿にしてるのかっ!」

 「その通りだけど」

 「ふざけやがって!」

 「こら~、ナダンッ! さっきから下品な言葉ばかり使っちゃいけませんよ~!」

 「「………」」


 空気を読まないモナティアの天然なツッコミが飛んできた。


 「……相手の実力を測ろともせず、策をめぐらせるわけでもなく己の実力だけで戦おうとする。若いねぇ」

 「お前だって大して歳は変わらないだろう」

 「若いうちの5、6歳って結構違うと思うけど」

 「同じ子供だと言ってるんだっ!」

 「背丈も体格も違うけど」

 「もういいっ! 素手でいいというならそうしろ。だけど負けて泣きついても許してと言ってもだめだからなっ!」

 「はいはい」

 「馬鹿にしてぇー!!」


 あくまでも見下して返事をするランドルフにナダンが合図を待たずに切りかかった。


 「これくらいでキレてちゃだめだよ」


 腕が未熟なのもあるだろうが怒りに任せて振るわれた剣は愚直であった。

 ランドルフはかわすと同時に足を少しだけ差し出す。差し出されたその足にナダンが引っ掛かり転んでしまった。


 「すぐに立てっ!」


 ジュレップからの声援が入る。それに呼応してナダンがすぐに起き上がった。


 「ランドルフ君の調子に乗せられるなっ! 冷静に相手の動きを見て、先ほどまでの訓練を思いだせっ!」


 ナダンの戦いだがどうしても親心が入ってしまうのかつい口出ししてしまうジュレップ。しかしナダンはそれを受け入れているようだ。


 「ふっ、はっ!」

 「おっ、連続、攻撃ね」


 ジャブを打つように剣を上から振り下ろし、途中で止めて避けられた方向に薙ぎ払う。

 ランドルフはそれをしゃがんでかわす。そしてナダンの足が止まったので靴ひもを引っ張ってやった。


 「なにっ!」


 すぐにバックステップで距離を取るナダンだったが靴の締め付けが甘く気になって仕方がない。だがひもを締めなおし隙を晒すわけにはいかなかった。


 「なんと意地悪な旦那様」

 「……だけど、ナダンのためにやってくれてるのよね?」

 「わかりますか」

 「実践は素人だけど、なんとなくランドルフのやろうとしてることはわかるわ。だってランドルフだったら最初に攻撃されたときに投げ飛ばしてるはずでしょ?」

 「さすがですね」

 「デンとの出会いの話を聞いていたから分かったの。きっとこんな感じだったのかなって」


 エレインの考察力、観察力、そして集中力が素晴らしいとアプスは感じていた。


 「どこまでもふざけた真似をしてくれるっ!」

 「靴ひも結んでいいよ」

 「誰が隙を与えるかっ!」


 にっこりと笑うランドルフに向かってそう言うとナダンは靴を脱ぎ棄ててしまった。


 「へぇ、じゃあこちらから行こうかな」


 ランドルフがゆっくりと歩いてくる。

 ただそれだけなはずなのだが先ほどまでの意気込みはどこへやら、ナダンは相手が大きく手を広げて自分を捕まえようと襲い掛かってくる気がしていた。


 「呑まれてますね」

 「呑まれてるねぇ」

 「「え?」」


 よくわかっていないモナティアとエレイン。

 ランドルフがナダンの間合いに入るが歩みは止めない。ナダンもすでに相手を攻撃できる距離にまで入ってきてくれているにも関わらず汗をかいて動けないでいた。


 「攻撃しないの?」


 歩みを止めたランドルフの胸元に剣先を突き付けている形になっているが、ナダンはこちらが攻撃すれば投げ飛ばされると感じていた。


 「何を恐れてるのかな」

 「わ、私が恐れている……」

 「お姉ちゃんを取り戻すんじゃなかったの?」

 「……」

 「ほら、攻撃しないとお姉ちゃんを攫っちゃうよ~」

 「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!」


 無理やりにでも声を出して体を奮い立たせる。そしてそのまま剣を突いた。


 「ナイスファイト」


 タイミングを合わせて素早く上半身を90度回したランドルフは、ナダンの腕を掴み上げて自分の背中と相手の背中を合わせるようにその場に投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたと理解したナダンは咄嗟に地面に木剣を刺した。だが地面に体がぶつかった衝撃で手が離れてしまい、うつ伏せ状態のまま足から地面を滑って行ってしまった。


 「あ、膝と股間は大丈夫かな」


 投げ飛ばした相手をゆっくりと追いかけた。


 「ナダン、大丈夫かしら」

 「痛いとは思うけど、ランドルフ君は治癒の魔法も一流だから大丈夫だよ」

 「モナティア様、山エルフ特製の回復薬もあるので大丈夫です」

 「そう、なら大丈夫ね」


 モナティアはホッとしているが、どこか気の抜けた感じに思えるのは彼女の性格のせいだろうか。


 「痛いところはない?」


 ランドルフが動けないでいるナダンに手を差し出すが払われてしまった。


 「私の負けでいい」

 「負けでいいって、認めたくないのね」

 「うるさい」

 「 (負けでいいって)―――」

 「小さい声で言えって意味じゃないっ!」

 「ナダン君は的確にツッコミを入れてくれるからいいわ~」

 「よくないっ!」

 「ほらね」

 「……」


 これ以上何を言っても揶揄われるので黙ってしまった。


 「ランドルフ、その辺にしてあげて」

 「あいあい~」

 「姉上……」


 エレインの顔を見たナダンが泣きそうな顔になっている。


 「泣かないの。だから止めときなさいって言ったのに」

 「でも、姉上を取られると思うと悔しくて……」


 目から出た雫が地面にぽたぽたと落ちる。


 「ランドルフが理屈をこねるからまだ結婚はしないけど」

 「大事なことだよ」

 「黙っててっ!」

 「……」


 アプスが空気を読まないランドルフの発言に呆れていた。


 「ナダンにもちゃんと祝福されたいなー。だって、その方が私うれしいもん。ナダンは私を悲しませたいの?」

 「そんなことはありませんっ!」

 「じゃあ祝ってよ。私のために、ねっ?」

 「……はい」


 エレインが手を差し出すと、ナダンはその手を取って立ち上がりランドルフの方を向いた。


 「ぐすっ、私はお前のことが嫌いだ」

 「……」

 「でも姉上が楽しそうだから認めてやることにする」

 「……」

 「悲しませないようにしろ」

 「……」

 「おい、なんとか言えよ」

 「……あ、喋っていいわよ」

 「あいあい~」

 「きぃっ~! やっぱりお前のそういうところが嫌いだっ!」

 「旦那様……」


 アプスと一緒にエレインまでもがため息を吐いていた。


 「まああれだ。ナダン君10歳だよね?」

 「そうだけど」

 「かなりしっかりしてるよねー」

 「な、なんだよ急に」

 「いや、偉いなと思って」


 突然褒められて困惑気味だがちょっと照れているようにも見える。


 「ふんっ、汚れたから風呂入る」

 「だめだ」

 「「「え?」」」


 後ろから聞こえた声に全員が振り返った。


 「怪我はしてなさそうだしこのまま見学しなさい」

 「えっと……?」

 「さてランドルフ君。私とも一試合やろうじゃないか」

 「え?」

 「いやなに、別によくも息子をいじめてくれたなとか、娘を送り出す親の嫉妬心とかではないから安心してくれ」

 「え~……」


 モナティアもやってきて何気に大人げないと思いながらも逃げられそうな雰囲気ではなかった。


 「ちゃんとやりあったことは無かったなと思ってね」

 「はぁ……」

 「ナダン、父さんが敵を取ってやるからな」

 「敵って言いましたねっ!? めっちゃ私怨じゃないですかっ!」

 「父上の勝利を信じております」

 「任せなさい」

 「お父様ったら……」

 「あらあら、もう困った人ねぇ」


 結局、無手対木剣での勝負となり、最初は拮抗したいい勝負をしていたのだが、ジュレップが少しばかり力を抜いていたのか、本気を出し始めると避けるので精一杯になったランドルフが負けてしまった。

 ジュレップはすっきりした気分だったが、ランドルフはお腹を強打されていたい思いをした。

 しかしアプスとエレインが心配してランドルフに付き添ったため、それを見たナダンに怒りの感情が湧き出ていた。


 そんなナダンの様子を見てパンターナ家との付き合いはこれからも色々と大変そうだと息を吐くランドルフだった。

お読みくださいましてありがとうございますっ!

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