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21話


 翌日の朝、約束通りデンを乗せて庭を駆ける事になった。ジュレップも見に来ている。辺境伯は朝早く出かけた。


 「えっと、それでは私が前で、エレインちゃんが真ん中、その後ろに奥様が乗る形でよろしいでしょうか?」

 「かまわないけど、そんなに乗って大丈夫かしら?」

 「デン?大丈夫だよな?」

 「うぉふ!!」

 「わ~、デンってすごいのねっ!!」


 奥様の心配をよそに、デンを褒めるエレイン。デンがしゃがみこみ、三人はゆっくりと跨る。


 「庭を軽く一周する感じでお願いね、ゆっくりでいいから」

 「うぉっふ!!」

 「二人とも落ちないようにしっかり掴まっててください。ほらエレインちゃん腰掴んで、デンの毛も掴んで大丈夫だから」


 立ち上がり、歩き出すデン。乗っている三人が速さに慣れてきた頃に徐々に駆け出す。


 「はやいはや~い!!」

 「馬に乗るのとはまた違った気持ちよさだわ~」


 デンもうれしそうに駆け回る。奥様に提案されたので、ジュレップに了承を得て、庭だけでなく屋敷の周りを回ることになった。


 「いつも歩いてる道だけど、違った景色に見えるわね~」

 「早くて楽しい~!!いけーデ~ン!!」






 10分ほどしただろうか。楽しい時間は終わり、屋敷へと戻ってきた。


 「え~、お父様もっと乗りたいです」

 「わがまま言わないで、そろそろお勉強の準備をしないとね。先生がこられるよ?」

 「は~ぃ。また乗せてね、デンッ!!」

 「うぉふ!!」

 「ランドルフもありがとう!!」


 お淑やかなお嬢様の雰囲気はすっかりなくなっており、元気で明るい女の子がそこにいた。やはりこちらが本来の性格なのだろう。


 「私は何も、楽しんでいただけてよかったです」

 「ありがとうね、ランドルフ君。久々に童心に帰った気持ちになれたわ」

 「デンも楽しんでいましたし、こちらこそお礼を申し上げたい」

 「また堅苦しくなってるわ」

 「すみません」


 「ふふふっ」と笑う奥様。ジュレップもそんな奥様を見てうれしそうだ。いや、ニコニコ笑顔はいつもの事か。


 「さっ、中に入ろうか。私は仕事の続きをするよ」

 「私はお茶でも飲もうかしら。少しはしゃぎすぎたわ、用意してちょうだいな」

 「はい、奥様」

 「私はこのまま庭でデンと組み手をします」


 そういって土魔法で棒を作り出して、軽く振り回す。


 「うわ~、ランドルフって本当に魔法が上手なんだ~」

 「エレインちゃん、信じてなかったのね」

 「本当にすごいわっ。杖もなく無詠唱だなんて……これはいい刺激どころではないわね」


 奥様は何かを考え、企てようとしているのだろうか。何処となく不安を感じる。


 「先生が来るまでちょっと見ててい~い?」

 「見せるほどの物でもないと思いますけど……」

 「なら外でお茶しましょう。天気もいいし私も見たいわ」

 

 軽く否定したが無視されて見世物みたいになってしまった。テーブルが並べられ、メイドがお茶を用意する。なんと手際のよいことで。








 デンと向かい合い、距離をとる。軽い準備運動をして、棒を構える。

 デンを見た、目が合った、その瞬間デンはこちらが棒を構えているのもお構いなしに突進してきた。

 だがただの突進ではないことを俺は知っている。近くでかわそうとしても、電気を纏ったその体は十分に危険だ。なので棒でいなそうと突き出す。


 デンもこちらの動きを読んでいるのか、一気に間合いをつめると、猫パンチみたく軽いジャブで、棒を叩き落とそうとしてきた。


 急に停止したデンに身構えてはいたものの、何をするのか考えてしまった一瞬のスキに、攻撃されて棒を落としてしまいそうになる。

 棒の下の部分を左手で、小指に力を入れるように持っていたので叩き落されることはなかった。

 その叩かれた力を利用して、左手を軸にして手首をやわらかく、棒をぐるりと一回転させて突きをお見舞いし反撃する。


 その突きをデンは半歩右にステップで避けてかわし、再びジャブが飛んでくる。が、今度はそれだけでなく、同時に角からの雷撃が放たれた。


 「うおっ、っとっと」


 手にばかり意識がいって雷撃を読みきれず、慌てて距離を離す。体勢を崩してしまいながらだったので、それを見たデンはジャンプして圧し掛かってくる。

 負けじと棒を地面に突き刺し、支えながら足を空に突き上げるように蹴りだす。


 だがデンはビーチフラッグよろしく、足を払いのけ、支えにしていた棒を奪い取るようにして咥えこみ、ランドルフを踏みつけた。


 「むぎゅ、まいった~」

 

 さすがに全体重の乗った圧し掛かりではランドルフが死んでしまうので、そこは加減して踏みつけているデンであった。


 「実戦なら内臓を潰されて圧死だな」

 「うぉふ~ん!!」


 俺が一番と言わんばかりの雄たけびをあげ、ランドルフの顔をぺろぺろと舐めまわした。


 「ちょっと、デンッ!!こらっ、やめてっ!!!」


 仕方ね~な~といった様子で渋々上から離れるデン。


 「い、いつもそんな感じでやっているの?」


 ポカンとした様子の奥様。ランドルフは顔を拭いながら起き上がり、土を払う。


 「今のは負けてしまいましたがいつもは勝ってるんですよ」

 「ぐるる~わぅ!!」


 嘘は良くないとデンは抗議する。最近はデンが勝つ事のほうが多い。


 「いえ、そうではなくて……随分と本格的なのね?」

 「すごいっ!!すごいよ二人ともっ!!!すっご~い!!」


 興奮した様子のエレイン。周りのメイドは呆気にとられている。


 「これくらいの訓練は何処でもやっていると思いますけど?」

 「……短かったけど、素人には早すぎてわからない攻防というか……ランドルフ君が大きなデンに襲われている様にしか見えなかったわ……」

 「ぐっ、確かにそれは……そうかもしれません……」


 実際にそうであったのだが、ランドルフとデンの事を知らない人が見たら、デンは確実に悪者だろう。

 一般人には雷狼に飛び掛られた子供が、棒を振り回して抵抗したが、成す術なく押さえ込まれたと見えるだろう。

 実戦ならその後はガブリとやられる光景が容易に想像できる。そんな光景を見せ付けられたモナティアが驚くのも無理はないだろう。


 「でも、実際にはこれ位しておかないと、今のでも本当なら私は死んでいたかもしれません」

 「それはそうかもしれないわ。……けれどこれじゃただの暴力よ!!」

 「……えっ?」

 「ランドルフ君は子供なんだからこんな無茶してはいけませんっ!!」


 信じられないといった様子の奥様。それほど一方的に見えたのだろうか。


 「ちょ、ちょっと待ってください。これはあくまでも訓練であって」

 「ダメですっ!!もっと体を大事にしてっ!!」

 「え~、デンと遊んで面白そうだったけどな~」


 あさってなことを言うエレイン。なかなかのものである。

 なぜか怯えてヒステリックになっている奥様を、メイドさんの協力もあってなんとか落ち着かせた。


 「お互い気をつけてやっていますし、私は魔法を使ってはいません。デンだって爪や牙は使用していませんし」

 「それでも危険よ」

 「いえ、そうじゃないと訓練になりませんて」


 う~ん、辺境伯領だから屈強な兵士がいて、強そうなイメージなんだけど……。奥様は兵士の訓練って見たことないのかな~?ただ単に子供だからダメっていうことなのか?


 そうしているうちにエレインの家庭教師が着いて、エレインは「え~、もっと見たい!!」と言い出したが部屋に連れて行かれてしまった。


 「ランドルフ君ごめんね。ちょっと取り乱してしまったわ」

 「気にしてませんよ」


 落ち着きを取り戻した奥様が話しかけてくる。

 

 「子供がひどい目にあっているのを見るとね、エレインやナダンもいるから他人事とは思えなくてね」

 「気持ちはお察しします。ですが辺境伯領ですので、そういった心持ちもしておかなければならないと思うのですが」


 貴族になるというのに自覚がない俺が言うのはためらわれるが……。


 「わかってはいるのよ、でも嫌なことは嫌じゃない。あの人もナダンも酷い事になってほしくないわ」

 「そうならないために鍛えるのです。やられないためにやらないといけません」


 やさしそうな人だし、わかっていても堪えるんだろうな~。ちょっとインパクト強すぎたんだなきっと。


 「ええそうね、ナダンも強くなってもらわなきゃね」


 何とか元気になってもらったご婦人であった。





 昼食をとり、午後になると、今度は魔法を教えている家庭教師の先生が来た。

 何故か俺も一緒に参加することになった。

 奥様も、先ほどの事で少し心配事が抜けないのか、見に着ておられる様子。

 二人は座学は一通り終えているのか、魔法の使い方を教えてもらっている。

 庭での訓練なので、奥様は先ほどと同じようにテーブルでお茶を嗜んでおられる。俺も一緒に座ってお茶を飲む。

 家庭教師の先生は、若干見られてやりにくそうに思えたが、気にせず淡々と指導している。 


 「そうです、教えた通りに……そう、胸から指先を意識して~……お二人とも良い感じですよ~」


 ふ~む。この先生はまずは魔法の通り道を意識させて、魔力を流す方法なのか。


 二人とも心臓の辺りから一直線に、前に突き出した腕、そして指先に魔力がゆっくりと流れ込む様子を感じ取れる。


 「はい、今の感覚を忘れないようにしてください。深呼吸して~……はい、もう一度やってみましょう」


 ああやって意識させて魔力の通る量を徐々に増やしていくんだな~。


 「どお?エレインの練習している姿は」

 「なかなかの集中力だと思います。活性して徐々に魔力の通る量が増えていってますね、さすがです」

 「ふっふ~ん。そうでしょ~?自慢の娘よ~」


 午前中の取り乱した様子は完全に消え去り、いつもの調子に戻った様子の奥様。すっかり親ばかになられてしまった。

 そして奥様はわざわざエレインと指定して言った意味に気づかず、普通に返答してしまったランドルフ。どっちにしても娘を褒められたので奥様はそれでいいようだ。


 「二人とも素直に言われていることを理解して、実践なさっているご様子です。なかなか簡単にはできないことです」


 少し持ち上げておこう。


 「特にナダンはエレインちゃんより年は下なのに同じことをやっておられます。素晴らしい才能ですね」


 奥様はニコニコと上機嫌だ。うれしそうにしてお茶を一口飲む。


 「はい、少し休憩しましょうか」

 「ふぅ、集中するとなかなかにしんどいのよね~」

 「どお?エレインちゃん。難しい?」

 「いいえ、お母様。これはまだ基本的な練習ですので、難しいと言ってはいられません」

 「奥様、お二人ともなかなかの集中力と、魔力量をお持ちです。この分ですとすぐに魔法を発動できるかと」

 「まあっ!!聞いた?エレインちゃん、ナダン、その調子よ!!」

 「うん、がんばる」

 「はい、お母様。でもランドルフみたいにパパッと魔法を出せるようになるのか不安です」


 おっと?ここで俺に来る?ここで攻撃対象にされちゃう~?


 「今はまだ無理かもしれない。けれど、練習をがんばって続けていればできるようになるわ」

 「はい、お母様」


 にこやかな笑顔で答えるエレイン。何とかランドルフに無茶振りが行くのは回避されたようだ。


 「お母様、僕は?」

 「ナダンもきっとできるようになるわ。そしてランドルフ君を超えるのよっ!!」

 「うん、負けないっ!!」


 キッとこちらを睨みつける長男。


 何で焚きつけたんだ奥様ェ……。むしろそっちが狙いだったか。ならば乗ってやろう。


 「ふっ、ナダンには負けることはないな。ほらほら~、こんなことできる~?」


 地面からぽんぽんと柱を生やしながら、突然悪がき口調でうざったく安い挑発をする。


 「ランドルフすご~い!!」

 「……キッ」


 姉がランドルフを褒めたことでさらに不機嫌になった。もぐらたたきのように、柱を出しては引っ込めて出しては引っ込めて挑発してみる。


 「ほ~れほれ~。悔しかったらこれくらいやってみなよ~」

 「今はできない、けど絶対負けないっ!!先生教えてっ」


 ナダンはそういうが、先生はランドルフの魔法を見てポカンとしている。


 素直なのはいいけど単純すぎていかんな。まだ子供だとこんなもんか。


 「ねぇねぇ、どうやったの?教えて?」

 「先生に教えてもらってよ」

 「でも先生に見せてもらった魔法より、ランドルフの魔法のほうがすごいよ?すぐに魔法出てこないもん」


 あっ、それ言ったらあかんやつや!!子供の無邪気さが怖いっ!!


 恐る恐る先生のほうを見ると、あまり気にしてない様子だった。


 「大丈夫です。ランドルフ君といいましたか。私より魔法の扱いがうまいのは確かなようです。杖もなく無詠唱、そして離れた場所へ地中から発動する。なかなかできることではありません。ですがっ!!私は私の上に優れている人がたくさんいるのを知っていますので、別に、気にしては、いません……」


 いや、気にしてるし。思いっきりへこんでるじゃないですかっ!!


 「ほ、ほら、ナダンは私より先生に教わりたいようです。しっかりしてください!!」


 先ほどからこちらを目の敵にしておられるご様子。姉の教えてアピールが火に油を注いでいる。


 「奥様どうしましょう?」


 ずっとニコニコしながらこちらを楽しんでみておられる。微笑ましい光景に見えたのだろう。こっちはそんな雰囲気ではないが。


 「さすがに先生に悪いから、ちゃんと先生に教わってね。基本ができて先生の合格をいただけたら、ランドルフ君に教わるといいわ~」

 「私、王都に行くんで、明後日にはここを去りますよ」

 「え~、いっちゃやだ~」


 そういってくれるのはうれいしけど、こちらもやることがあるんでな。ふっ、すまんなお嬢ちゃん。


 「そのうちまた会うこともありますから。それより今は魔法の練習がんばって」

 「絶対だよ?約束だからね?」

 「っ!!先生、早く魔法教えて、負けられないっ」


 ナダンもがんばってくれ。自分で言うのもなんだが、俺を超えられるなら将来は安心できる。主に俺が楽を出来るしな。


 それから復活した先生に指導の続きを夕食前までやっていただき、へとへとになった二人は、夕食を勢いよく平らげ、湯浴みをしたあと布団にもぐってすぐに寝た。

 その様子を二人の両親はやさしくにこやかに見守っていた。



お読みいただきありがとうございます。

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