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20話


 少し強めのノック音で目が覚める。


 「ふぁぃ」

 「失礼いたします。ご夕食のご用意ができました」

 「ちょっとまって」


 着ている服が乱れているのでちゃんとする。メイドさんも手伝ってくれた。たれ耳の犬っ娘メイドさんやっ!!


 「あの?なにか失礼な点がございましたか?」


 じっと見ていると声をかけられた。


 「あっ、いえ。ふさふさで可愛らしい耳だなと思いまして」

 「まあ、お戯れを」


 「ふふっ」っと少しうれしそうな表情だ。


 「触ってみてもいいです?」

 「お好きなのですね。大きな従者もいらっしゃったご様子ですし」


 デンの事だな。


 こちらが子供だからか親しみやすい感じで接してくれる。「どうぞ」と言って屈んで触らせてくれた。


 「おお~、ふさふさや。この感じ……シーズーだな。尻尾も触っていいですか?」

 「ご夕食に遅れますといけませんので、この辺で」


 残念。デンとはまた違った毛触りだったな。私もメイドさんには犬耳の獣人を採用しよう。






 長いテーブルの上に豪華な食事が並べられていた。すでにジュレップは座っていた。その向かいに知らない若い女性が、その横には俺と同じぐらいの年と思われる二人の子供がいた。


 「ランドルフ君はこっちに。紹介しよう私の妻のモナティアだ」

 「始めまして、ランドルフと申します。ご主人には大変お世話になっております」


 そう言って胸に手を当てお辞儀をする。金髪の長い髪をしていて女性らしい体つきをしている。だが少し子供っぽさもあるようで、愛嬌があって人がよさそうな感じといった様子だ。


 「まあ!!子供なのに立派な挨拶ができるのね。モナティアよ、変わった服を着ているのね?」


 やっぱりみんな服が気になるのか。正装でくればよかったか?でもジュレップはいつもの格好でいいって言ってたし。


 「主人にひどいことされてない?困ったことがあったら私に言うのよ?」

 「ちょっとモナ、いきなりそれはあんまりだよ」

 「いえ、ひどいことなんて………………いつも助けられてばかりです」

 「返答に随分間が空いたね~?」

 「い、いつも感謝しておりますっ!!」

 「こらっ、ジュレップ!!言ってるそばからひどいことしないのっ!!」


 ええ奥さんや。もっと言ってやってくださいっ!!


 「ごめんなさいね。あまり堅苦しくせずに楽に接してくれるとうれしいわ」

 「はい、よろしくお願いします」

 「まだちょっと堅いけど……いいでしょう」


 何、この包まれるような、母性を感じる女性は。なんでこんないい奥さんがジュレップなんかに~!!


 「こっちの二人は私達の子供よ、さっ、ご挨拶して」

 「始めまして、長女のエレインと申します。よしなに」


 綺麗にカーテシーをしてくださるお嬢様。こんな子供が立派な挨拶をしてくれると「マセガキかっ!!」と思ってしまう俺は根性腐ってるな。俺が言えたことではない?知らんな。


 続いて隣の男の子も挨拶をしてくれる。5歳くらいか?長女とは少し離れた年齢のようだ。


 「ち、長男の……ナダンです…。」


 慣れてない様子で、すばやく礼をすると。長女の服を強く握り締め、恥ずかしそうに顔を隠す。「ちょっとナダンッ」と姉も困った様子だ。母親はしょうがない子といった様子でやさしく頭を撫でる。


 う~ん……ものすごい小動物感。ジュレップの息子とは思えないな。







 挨拶を終えたところで、辺境伯がやってきたので椅子に座る。グラスにワインが注がれ、辺境伯が食事をする前の挨拶をする。


 「大地の恵みに感謝を」

 「「「感謝を」」」


 みんなでそう言ってから食事をする。


 その中で俺だけ小さく「いただきます」と言って食べる。うまいっ、久々にちゃんとした肉を食べた気がする。ワインで作ったソースだろうか?ほのかに香る匂いと少し酸味の効いたソースが肉の旨みと食欲を引き立てる。


 静かに料理を堪能していると、モナティア奥様から話しかけられた。


 「ランドルフ君は島でどんな生活をしていたの?」

 「えっと……相棒のデンと一緒に海で魚を獲ったり、山で動物を狩ったりして過ごしてます」

 「随分とたくましいのね?デンって言うのはどなた?」

 「ペット……愛玩動物?ですかね。雷狼と呼ばれる魔物みたいなのですが」

 「まあ!?魔物を使役しているのねっ!!すごいわっ!!」

 「めずらしいです?」

 「そういう人たちがいるというのは知っているけれど。実際に会ったことはないの。紹介してくれる?」

 「ええ、馬小屋にいるはずですので後ほど紹介しましょう。大きくて強いけど大人しい頼れる相棒です」


 「狼って言うくらいだからやっぱりふさふさとした毛皮なのかしら?」とつぶやく奥様。あなたももふもふ好きなんですね?きっと毛皮を剥いでやろうとかじゃないよね?


 「わしも見てみたいな」


 辺境伯が話しに入り込む。


 「はっ、紹介させていただきますっ」

 「食事の席だ、畏まらなくていいぞ」

 「わかりました」


 この太ったおっさんがデンに会いに行く。……食われない様に見張っておかないと心配だ。


 「御爺様。私も見に行ってよろしいでしょうか?」

 「もちろんだともエレイン。一緒に行こう」


 長女の言葉に辺境伯は優しい声で返事をする。


 いきなり好々爺になったぞ。孫には甘いのはどの世界でも一緒か。


 チラリと辺境伯がこちらを見る。


 「可愛らしいお嬢様がいらしてくれるとデンも喜びましょう」


 その言葉に辺境伯はウンウンと頷いている。


 「ちょっとな~に?私が行くって言ったときはそんな事言ってくれなかったのに。私が言っても喜んでくれないの?」


 可愛らしい意地悪な言葉を投げかけてくる奥様。


 「いいえ、そのようなことは。何も言わずとも奥様はお美しいので、逆にデンが緊張してしまうかもしれませんね」

 「まあ!?小生意気なことを言う子供だことっ」


 そう言いつつも表情は少しうれしそうだ。


 「妻を口説くのはやめてくれないかい?」

 「いえ、そのようなつもりは」

 「冗談だよ」

 「もう、ジュレップったらっ!!」


 いや、そのニコニコ笑顔は絶対嘘だろ。黒いオーラがでてるもん。何で子供に嫉妬してるんだこの人?


 そんな調子で楽しい時間を過ごし、食事を食べ終えた後の歓談してデンを紹介することとなった。






 ジュレップは部屋に戻った。

 あたりはすっかり暗くなり、照明を頼りにデンのいる馬小屋へ案内された。

 デンは俺が近づいてくるのがわかると、立ち上がって尻尾を振りだす。


 「デンッ、いい子にしてたかい?馬を怖がらせてない?」

 「うぉふ!!」

 「うわ~、大きい~」


 少し興奮した様子の長女。それに対し、長男も興味があるのか姉の後ろに張り付くようについてきた。心なしか少しおびえている様子だ。


 「ほう、立派な雷狼だな~。ここまで大きいのは見たことがない」

 「お褒めいただき、恐縮です。のびのびと過ごさせているうちに成長しすぎたようで」

 「頼もしいじゃないか。私が欲しいくらいだ」

 「申し訳ありまぬ。いくら辺境伯閣下といえど」

 「わかっている。冗談だ」

 「はっ、失礼いたしました」


 こいつならマジでよこせって言い出しそうな雰囲気があって怖いわ~。長女がくれって言い出したら取り上げられそう……。


 「本当に大きな子ねぇ~。触ってみてもいい?」

 「ええどうぞ奥様。ふさふさで触り心地は保障しますよ」

 「まだ堅苦しさが抜けないわね。まあいいわ。………ほんと、いい手触り~。これで服を作ったらさぞ気持ちよさそうね?」


 えっ?さっきの様子ってやっぱりそういう方向だったの?

 デンも少しビクッとしている。


 「ご冗談を」

 「ふふふっ」


 冗談なのかそうでないのか、妖艶に微笑む奥様。長女も一緒になってデンを触る。長男も恐る恐る触っている。


 やっぱりこの人ジュレップの嫁だわっ!!


 「ねぇ、あたし乗ってみたいっ!!」

 「なに?危ないぞエレインよ」

 「御爺様~。いいでしょ~?」

 「危険だよ!!姉上!!」


 長女のいきなりの発言に辺境伯と長男は戸惑う。


 おい、さっきの立派な挨拶してたときの口調は何処言った長女よっ!!だが、あえて気にしない俺、紳士である。


 「さすがに暗くて危険なので、明るいときならかまいませんが……」


 チラリと奥様を見る。


 「そうね。そのときは私も乗せてもらおうかしら?」


 おまえもかぃ!!


 困った様子の辺境伯だが、孫のおねだりには勝てなかったのか、渋々と許可を出す。長男は乗る気はないようだ。


 「オイッ貴様っ!!わかってるとは思うがエレインに何かあったらどうなるかわかっておろうなっ!!」

 「はっ!!そのときは切腹も辞さぬ覚悟。万全を尽くします!!」

 「せ、せっぷ?まあ、わかってるならよい!!くれぐれも頼んだぞっ!!モナティアもっ!!」

 「わかっております義父様。ねっ?ランドルフ君?」


 結局は俺次第なんだけど……まあ普段どおりにすれば大丈夫だろう。





 辺境伯と別れ、帰りの廊下で奥様に話しかけられる。


 奥様おしゃべり大好きなんだな。ちょっと疲れるぞ。


 「ランドルフ君って魔法の腕もすごいんだって?」

 「えっ!?そうなの!?」


 食いついた長女。


 「エレインも今魔法を勉強しているの。良かったら見てあげてくれない?」

 「しかし、そういうことは家庭教師の方がおられるのでは?」

 「そうなんだけど、いい刺激になるかもしれないじゃない?先生には話をつけておくわっ」


 お世話になってるしそれくらいはいいけど、教えられることなんてあるのだろうか?よくわからずに魔法を使ってるようなものだしな~。俺が教わりたいよ。


 「楽しみにしていますね。ランドルフ様っ!!」


 うおっ、笑顔がまぶしいっ!!


 「はい、よろしくお願いします。それと、ランドルフでいいですよ?年も近そうですし」

 「それでは私の事もエレインとお呼びください」


 そこで猫被るんかよ。今更取り繕っても仕方がないぞっ。


 弟君はジッとこちらを見つめてくる。どこか恨めしそうだ。


 「ナダン様も私の事はランドルフと」


 そう言いかけるとプイッとそっぽ向いてしまった。


 「こらっ、仲良くなさろうとしてくださっているのよ?」

 「いえ、少しさびしいですが、私は気にしてません。馴れ馴れしくしすぎてしまいました、申し訳ありません、ナダン様」

 「………ナダンで……いいです」


 姉に注意されて渋々といった様子のナダン。母親はそれを微笑ましそうに見守っている。


 「ごめんなさいねランドルフ君。この子は人見知りみたいで私とお姉ちゃんにべったりなのよ」

 「きっと姉を取られるとでも思われたのでしょう。健気で可愛らしいと思います」

 「そう?もうちょっと男らしくしてほしいとは思っているのだけれど……。それにしてもあなたは子供だけど子供じゃないときがあるわね?」

 「そうでしょうか?よくわかりませんが……ありがとうございます?」

 「まあいいわ、あまり他の子供と接する機会がないの。仲良くしてあげてね?」

 「はい」


 貴族の子供ともなればそう簡単に市民と触れ合う機会は少ないだろうしな。そこはしょうがない。安全のためでもある。






 部屋に戻りベッドに腰掛ける。


 エレインちゃん可愛かったな~。最初はお嬢様って感じだったけど活発で明るそうな子だ。奥様の子供っぽい部分が拡大した感じかな?悪い気はしない。

 ナダンはシスコンだなあれは。将来大変そうじゃないかな~、ジュレップの息子っぽくない。ちょっと焚きつけてやるか?あのままでは辺境伯は困るだろう。でも余計なお世話か。

 仲良くできればいいけど……。


 とそのとき。


 コンコンコンッ


 「は~い」

 「湯浴みのご用意が整いましたが、いかがなされますか?」

 「はいりま~す」


 こ、これは伝説のメイドさんに体をごしごししてもらえるご奉仕タイム!?


 メイドさんが服を脱がせようとしてきたが、ズボンのジッパーや服の出来の細かさに感心された。


 湯を浴び、メイドさんにゴシゴシと頭から足先まで丁寧に石鹸で洗ってもらう。


 わざわざ大また開きになって仁王立ちだ!!


 だがメイドさんはその姿に気にした様子もなく、ただ淡々と洗いづらそうにしていた。


 すまんかった。


 魔法でお湯を作り出し、頭の上から掛けられて泡を流す。見も心もすっきりだ。

 メイドさんに体を拭いてもらってお礼をいい、いい気持ちでベッドに入りぐっすり眠る。


 翌日ジュレップに「メイドに体洗ってもらったんだってね?島では自分でやってたのに?」と心のうちを見透かされたようなことを朝食の席で言われてしまった。

 奥様も少しじとっとした目でこちらを見る。子供達はいつも洗ってもらっているのかわかってない様子だった。


 ぐぬぬ、罠だったかっ!!しかし男の夢は捨てられなかったんだ!!後悔はしていない!!


 さて今日はデンにエレインと奥様を乗せての散歩と、魔法の勉強をする予定だ。何事もありませんようにっ!!

読んでいただきありがとうございます。


ちなみにランドルフは、正確な年齢はわからないけど自分を12歳だと思っています。アウトですね。

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