19話
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辺境伯の屋敷がある街、ロコチョルへ向かうため、コラプッタを出発するランドルフ一行は、関所を抜けた途中にある宿場町で一泊していた。
「ジュレップ様、もうちょっと馬車の振動をどうにかしてください。誰も何とかしようと思わなかったんですか?」
「あることはあるんだが、君が使っている浮遊する魔法の使い手はそんなにいないんだ。そういうのは高くてね~」
「ましにはしましたけど、ずっと乗りっぱなしでまだお尻が痛いです」
「たしか、箱馬車を吊り下げる形にした奴があったとか聞いたけど、別の意味で揺れがひどいから、無くなったとか」
振り子みたいになったとかだろうか?開発はされてはいるのか?
「造る人がいなくて値段が高いのはわかりますけど、量産はしないんですか?」
「そもそも荷馬車は多いけど、人が乗る専用の馬車っていうのはそんなに数はない。金持ちぐらいじゃないかな?」
たしかにそうかもしれない。一般人はわざわざ買い求めたりはしないだろう。
「それに、それだけを作り続ける魔法使いは稀だと思うよ?他にも研究したいこととかあるだろうし、技術を独占もしたいだろうから」
技術の独占か……。活版印刷はあるっぽいし、スクロールを量産できると思うんだけど……。馬車用とかだと木に刻み込まないとだめだろうからな~。インクだと雨にぬれたりしたら消えそうだし、焼きゴテならいけるか?ぐぬぬ、このままではお尻が破裂する。
「魔法じゃなくても、弓みたいな反発する力を利用すれば、だいぶ違いますよ?」
バネは存在するのだが、あまり活用されてる様子はない。技術面か資源の問題か、これも魔法による弊害なのかほとんど普及していない。
「!?た、たしかに。それでも振動を抑えるのは厳しいんじゃない?」
「跳ねたときの振動をそのまま受けるよりは、ぜんぜんましだと思います。」
「開発に成功すれば需要は増えそうだが、そこまで大きくは変わらないと思うな~」
やっぱりか~。
「折角なのでちょっと改造していいですか?このままではお尻がぺちゃんこになります」
「もし失敗して壊れたりしたら困るからやめてね?」
ぐぅ~、だめか、しょうがない、明日はデンに跨ろう。そもそも飛んで行きたい……。
「飛空挺があればあっというまだけど、地形の問題もあって発着所が作れないところが多いんだ。それに高いしね」
「いくらなんですか?」
「完全受注生産みたい。しかも何から何まで一から作らないとだめな特注品。製作時間もかなりかかるし具体的にはわからないよ。研究する費用もかかるだろうし……あれば便利なんだけどね」
「技術は秘匿されているって事ですか」
「もったいないと私は思うけどね。それに運航するには運転技術もいる。墜落してしまう危険もあるからなかなか手を出し辛い」
飛空挺があれば島への輸送とかも楽そうだけど、あんまり飛べないんだっけ?一度乗ってみたいな~。
それからまた宿場町に泊まり、さらにその翌日は砦のような関所で一泊し、魔物に襲われることも盗賊に襲われることもなく、のんびりとした行程でロコチョルの街に着いた。
何もなさ過ぎてつまらないと言うと。ジュレップ曰く「定期的に巡回はしているし、交通の要となる道だからね」とのこと。ちょっと誇らしげだ。
街の入り口に、兵士が居たが、ジュレップが挨拶すると敬礼をされ、その横を通り抜ける。デンの事についても何も触れない。本当に何事もなさ過ぎて退屈だが、街並みはコラプッタとは違った活気があり、思わずキョロキョロとしてしまう。
ごちゃごちゃとした雰囲気はなく、コラプッタでは出店が多かったが、レンガの家が綺麗に並び、こちらはちゃんと建物の中に商品が並んでいる。
何処となく住んでいる人たちも上品そうな感じがする。
お昼も過ぎた頃、色々眺めているうちにいつの間にか辺境伯のお屋敷に到着した。
「「「お帰りなさいませ、ジュレップ様」」」
メイドが並んで出迎えてくれる。左右に分かれて、綺麗で優雅に辞儀をするメイドさん達。一糸乱れぬその姿には、圧倒されるものがある。
マジか、本当にこんなのやるんだな。あっ、猫の獣人のメイドさんだ。犬耳も!?尻尾さわりて~。
「ただいま。やあ、ヘレス。出迎えご苦労様。父上は?」
「お部屋に居られます」
「すぐ会おう。ランドルフ君、この人は家令のヘレス」
「ヘレスにございます。ランドルフ様、よろしくお願いいたします」
白髪のナイスミドルといった感じだろうか。丁寧にお辞儀をされる。こちらもデンから降りて挨拶をする。
「ランドルフです。お世話になります」
そういってこちらもお辞儀する。
「これから貴族になろうとされる方が、気安く頭を下げるのはよろしくありません」
こちらの事は知っている様で、お小言を貰ってしまった。
「まだ貴族じゃありませんので」
拗ねた感じにそう返すと。
「心構えはされておくべきかと」
まぁ~ね~。堅苦しそうな人だな~。
「こういう子なんだよ」
「教育は済んでいるようですが、躾はまだまだのようですね」
「躾って愛玩動物じゃないんだから……」
「貴族になられておられない、躾のなってない子供に、気を使う必要はない様子でしたので」
こういう人嫌いだわ~。絶対冗談とか受け付けない人だろうな。
「まぁまぁ、こう見えて剣歯狐5匹を難なく倒す猛者だよ?先日も馬車について面白い発想をしていたし」
「ジュレップ様、すぐにアクラナス様にお会いになるのでは?」
「おっと、そうだった。行こうか」
デンはいつもどおり馬小屋に入ってもらった。こちらは辺境伯の屋敷に入る。
屋敷は広くて立派で煌びやかだな~。白い壁、赤絨毯、魔道具製のシャンデリア。そしてまた中でもメイドたちが出迎えてくれる。
二階の一室が辺境伯の部屋のようだ。ジュレップがノックをする。
「父上、ジュレップです」
「はいれ」
部屋に入ると一人の男が立ち上がり、「おかえり、よく帰った」と言ってジュレップにハグし、軽く会話を交わす。
この人が辺境伯か。なんかそこらへんに居そうなメタボのおっさんじゃん。
そのメタボなおっさんがこちらを向き、近づいてくる。
「こいつが例の子供か?本当に変わった服を着ているな」
正装の方がいいと思ったんだが、そのままでいいとジュレップに言われたのは、やはり見せるためだったか。だが、興味をしめした様子はないな。
「はい、こちらの少年がランドルフです」
「はじめまして、ランドルフと申します。辺境伯閣下にお会いできて光栄です」
「ほう、礼儀正しそうな子供じゃないか」
おっ?褒めてくれるの?調子乗っちゃうぞ?
「この度は色々と多大なご支援とご配慮を戴きまして、深く感謝しております。何も持たぬ不肖の身ではございますが、お礼と感謝の気持ちをこめまして、今できる精一杯のものをご用意させていただきました。どうぞお納めいただければと存じます」
よく噛まなかった俺っ!!言葉遣いは間違ってないはず……今日はデンをいっぱいモフって癒されよう!!
「そこまでいうなら貰ってやらんでもない」
「ははっ、こちらをどうぞ」
貰ってほしいって言ったけどさ、偉そうだなこのおっさん。実際偉いんだけど。
あらかじめお願いしていた兵士の方に持ってきた貰った。
「こ、これは剣歯狐か!?なんと立派な毛皮かっ!!そしてこの大きさっ!!おおっ~!!」
メタボのおっさんが喜んでる姿見てもうれしくない。ジュレップは土産の内容は伝えてなかったようだな。
大層な事を言ったが俺にしたら全然精一杯でもない。スプモーニにも同じものを送ってるし、感謝はしてるけど、してるのはジュレップでお前じゃないっつーの。
辺境伯は毛皮を広げて色んな角度から見ている。
「牙もこんなに大きな。牙は何かに加工したいな。毛皮は早速飾ろう!!自慢できるぞっ!!」
「お気に召したようで何よりでございます」
「ランドルフと言ったか。貴様の事は覚えておこう。何でも寄り子になりたいとかと言う話であったな歓迎するぞ」
えっ、暫定だけど決まってた話じゃなかったの?今決めちゃった雰囲気だけど……なにこの茶番劇みたいな会話は。
上機嫌な辺境伯は、家令となにやら話をし始めたので、ジュレップと一緒に部屋を辞した。
ジュレップの部屋に連れられて今後の話をする。
「どうだった?うちの父は」
「ジュレップ様を前にして言うのはどうかと思いますが、普通のおっさんですね」
失礼な返答だが、二人きりなので気軽に話す。
「仮にも辺境伯なんだけど……なかなか言うね~。君はたまに変に度胸あるよね」
「そんなつもりは……。うまくいえないですけど、威圧感というか、雰囲気というか、そういうのが人の上に立つ割りにはこう……、凄味がない気がするんですよね~」
「まっ、ほとんど領内の事は家令のヘレスがやってるからね。ちなみに私は武の方を任されてる。というか、やらざるをえない」
「他国と接している国防の要と言える場所ですから、それはわかります。ジュレップ様は威圧感がすごいですからね」
「ほう?どういう意味かね?」
あ~はぃ、いつものニコニコね。
「今まさにそういうところがですって」
「まあいい、王都に着いたら王都の別邸に行って、陛下のご予定に合わせて謁見をする。父は行かない、私と行く。陛下に手紙は出している」
「えっ、一番上がいかないっていいんですか?」
「この領地を守る方が優先ってことで、理由はいくらでも作れるしね。3日後に出発するからそのつもりで」
「わかりました」
「こっちのことを私も少し処理しておかないといけないしね。その間街を探索してきなよ」
「でしたら、馬車の改造許可をください。王都に着くまであれはもういやです」
「そのことだが、陛下が飛空挺をご用意してくださった。よほど早く会いたいらしい、島で時間を掛けすぎたかな?」
これは何のニコニコだ?読めない。島でわざと時間をかけたような言い方だな。
「良かったね。君が望んでたとおり飛空挺に乗れるよ?お尻も大丈夫そうだ」
「飛空挺に乗れて、馬車に乗らなくていいのはうれしいですが、飛空挺ってこの国に6台しかないとか言ってませんでした?なんでこんな子供の為に?」
「君に君の魔法の腕前について散々話しただろうけど。そのことで早く家臣にして確保したかったんじゃないかな?」
「……もしかして、何か手紙に余計なことを書いたりしました?パティスさんがもう王都に着いたからか?」
「気づいた?たぶんそんなところじゃないかな~」
そんなに早く手紙って届くものだろうか?
「ふふっ」っと自分は何も知らないといった様子を見せるジュレップ。
やっぱりこいつ何かしやがったなっ!!きっと興味を惹くようなことを言ってハードルあげたに違いない!!
「じゃ、予定はそういう感じでお願いね」
呼び鈴をジュレップが鳴らすとメイドが現れて、俺の宿泊する部屋に案内される。
ベッドに寝転がるとそのふかふか具合に驚く。
さすがにいい家具がそろってるわ~。絹じゃないのか?欲しいなこれ。
さて、これからどうなるか、ジュレップが余計なことを言ったのは間違いない。国王の前で何かやらされるんだろうか?魔法使いは何人か見たことあるし、使ってる魔法も見たことはあるけど。すごい魔法使いってのはみたことがない。
もしかして宮廷魔法士と戦わされたりするとかだったら嫌だな~。やべっ、フラグ立てたか!?はぁ……一人だとネガティブなことばかり考える。夕食まで一眠りするか。
お読みいただきましてありがとうございます。




